第二十一話:駆ける大地! 召喚された愛馬と、フォレストゴブリンの集落
奏多の提案した前代未聞の「レンタル契約」。
疑心暗鬼のアレンだったが、奏多の言葉を信じ、レオと新たに召喚された愛馬「クロ」と共にフォレストゴブリンの集落を目指す!
異世界にない「乗馬」という概念に翻弄されながらも、二頭の頼もしい相棒を得たアレンは集落へ突撃する!
翌朝、館を包む深い霧が晴れ、朝日が庭の緑を鮮やかに染め上げる頃、アレンは装備を点検し、出発の準備をしていた。俺はそんな彼の背中に向かって、静かに歩み寄り、声をかけた。
「アレン、ちょっと待ってくれ。……お前に提案があるんだ」
俺は昨夜考え抜いた「レンタル契約」の話を切り出した。もちろん、この世界の常識では到底信じられない話だ。魔獣を他人に貸し出すなど、狂気の沙汰と思われるに違いない。
「えっ? レンタル? 魔獣を貸すって、どういうことだ?」
アレンは目を丸くし、呆然と俺を見つめた。無理もない。従魔契約が絶対的なこの世界で、魔獣の貸し借りが成立するなど、夢物語か、あるいは俺が正気を失ったとしか思えないだろう。
俺は落ち着いて、その契約が友情と信頼に基づいていること、そして「大切に守ること」「期間終了後の絶対返却」が唯一無二の条件であることを丁寧に説明した。
アレンはしばし考え込み、複雑な表情で頭をかいた。疑念の表情を浮かべながらも、俺の真剣な眼差しを直視する。
「……信じられない話だ。だが、お前からは悪意を感じないし、何よりあのレオという魔獣を信じられる気がする。……分かった。その『レンタル契約』とやら、受けてみるよ」
アレンが承諾した瞬間、俺の魔力がレオとアレンの間に虹色の光の糸となって結ばれた。契約は成立した。期間終了――つまり集落の攻略を終えてアレンがレオを館へ連れ戻した瞬間、この繋がりは跡形もなく消滅する仕組みのようだ。
「よし。集落の場所はレオが嗅ぎ当ててくれる。そして、お前の移動手段として――これを貸す」
俺は魔力を練り上げ、空中に魔法陣を展開した。
光の中から姿を現したのは、しなやかな筋肉と、流れるような漆黒の毛並みを持つ一頭の馬だった。現世で父が育てていた愛馬を彷彿とさせる、気高くも優しい瞳を持つ馬だ。
「名は『クロ』。こいつを頼む」
俺がそう告げると、なぜか召喚の余波で、馬の背には革製の頑丈なサドルと手綱がセットで付随していた。どうやら館の魔力が、俺の「乗馬」という記憶を完璧に再現してくれたらしい。
しかし、アレンの反応は予想外のものだった。
「ひ、ひえぇ!? こ、こいつに乗るのか? いや、そもそも魔物に乗るなんて……そんな文化、この世界にはないぞ! 足で歩くのが冒険者の基本だ!」
「乗るんだよ、アレン。やってみれば分かる。森の奥は険しいぞ」
俺が押し出すように促すと、アレンはへっぴり腰でクロの背に跨った。案の定、初めての乗馬にバランスを崩して右往左往する。魔物との戦いには慣れていても、この生物との調和には苦戦しているようだ。
「うわっ、待て、揺れる! おい、落ち着いてくれよクロ!」
クロは鼻を鳴らして前足で地面を掻き、アレンの不慣れな指示を面白がるように小さく嘶いた。
その横でレオが「ワンッ!」と短く吠え、森の奥へと走り出す。それに呼応するように、クロもまた、アレンの戸惑いをよそに力強い足取りで走り出した。
「お、おい! 待ってくれレオ! クロ、そんなに飛ばすな!」
アレンの悲鳴にも似た叫び声を背に、彼らは一気に森の木々を縫うように加速していった。レオが嗅覚を頼りに地響きを立てて道なき道を開拓し、クロがその背で風を切る。
――フォレストゴブリンの集落。
そこは、悪臭と暴力が支配する、森の汚点だ。
レオの鼻が、ついに獲物の気配を捉えた。集落を囲む粗末な木柵の向こう側から、ゴブリンたちの耳障りな笑い声が響いてくる。
アレンはクロの手綱を強く引き、馬を止めた。クロは荒い息を吐きながらも、闘志を秘めた瞳で柵を見つめている。
「……見つけた」
アレンの眼差しが変わった。先ほどまでの「迷える冒険者」ではなく、獲物を狙う狩人の瞳だ。クロがアレンの気合に応えるように低く嘶く。
レオが柵の影から牙を剥き、次の合図を待っている。
アレンは剣を抜き放ち、決意を口にした。
「行くぞクロ! レオ! ゴブリンどもを掃除して、さっさと帰ってやる!」
戦いの幕が上がった。
伝説の馬と、未知の魔獣。二つの信頼が、ゴブリンたちの集落を蹂躙する時が来たのだ。
第二十一話、いかがでしたでしょうか。
アレンが愛馬「クロ」と共に本格的な冒険を開始しました!
「魔物に乗る」という概念がない世界で、二人がどんな戦果を挙げるのか……そして、フォレストゴブリンたちはレオとクロのコンビの前に成す術があるのでしょうか!?
次回:
「駆けるクロ、咆哮するレオ! フォレストゴブリン集落の陥落」
お楽しみに!




