第十九話:結界への侵入者! 冒険者と館の管理者、初めての接触
結界に触れた金髪の冒険者アレン。
アイギスによる排除をギリギリで食い止めた奏多は、彼がギルドのクエストで迷い込んだだけの普通の冒険者であることを知る。
人間不信の奏多だが、相棒のレオがアレンに懐いたことで、少しだけ警戒を解くことに。
館の秘密を背負う管理者と、外の世界から来た冒険者。二人の出会いが、館の運命を動かす!
森の静寂を切り裂くような、重厚な機械音が響き渡った。
「ゴゴゴゴゴッ……!」
突如として目の前に現れた鋼鉄の巨躯――アイギスを見上げ、金髪の青年は腰を抜かさんばかりに後ずさりした。
「ご、ゴーレム!? いや、こんな見たことのない型……属性は!? 弱点は何だ!?」
青年は慌てて腰の剣に手をかけたが、その手は目に見えて震えていた。アイギスの琥珀色の瞳が彼をスキャンし、機械的な声音が冷徹に響く。
「侵入者……排除する」
「待て待て待て! 待ってくれ!! 話し合おう!? 俺はただ、迷い込んでこの館を見ただけなんだぞ!? 頼む!! せめてこの家の主を呼んでくれ!!」
その叫び声は、館の中にいた俺たちの耳にも届いた。
俺はルミナと顔を見合わせ、すぐさま玄関の扉を開け放つ。アイギスが青年の喉元に巨大な拳を突きつけていた。
「アイギス、待て」
俺の声に、アイギスはピタリと動きを止めた。俺はアイギスの背後から現れ、ルミナと共に青年を見下ろす。青年は俺たちと同年代に見える、どこか憎めない顔立ちをしていた。
「……何者だ。こんな森の奥まで、何の用で来た?」
俺はできる限り冷淡に、しかし警戒を露わにして問いかけた。現世でのトラウマが、俺の背筋を強張らせる。人間は、裏切る。人間は、自分と違うものを排除する。
青年は荒い息を整え、必死の形相で腰のポーチから古びた羊皮紙を取り出した。
「お、俺は冒険者の『アレン』だ……! ギルドからフォレストゴブリンの集落討伐クエストを受けていたんだ。でも、森の中で道を見失って……気づいたら、この館の結界の中に迷い込んでいたんだよ!」
アレンと名乗った青年は、震える手で討伐依頼書を差し出した。確かに、そこにはギルドの印章が押されている。嘘をついている様子はない。
「ゴブリンの討伐……か」
俺は複雑な心境だった。人間不信の俺には、こうして突然現れた闖入者を信じることなど到底できない。かといって、魔物が跋扈するこの危険な森で、何も知らない彼を追い出すのは、死に追いやるのと同じことだ。
「奏多様……」
ルミナがそっと俺の袖を引いた。彼女の瞳には、アレンに対する哀れみと、対話への希望が宿っている。
「彼はゴブリンを追っていただけです。悪意があるようには見えません。まずは、一度話を聞いてあげてはどうでしょうか」
「……ルミナがそこまで言うなら」
俺は短く溜息をつき、警戒を解くことはないまでも、敵対の姿勢を少しだけ緩めた。その時だ。
「ワンッ!」
軽快な足音が響き、レオが俺たちの足元をすり抜けてアレンの方へと駆けていった。
「えっ、あ……うわっ!」
アレンは目を丸くして身構えたが、レオは彼を襲うどころか、その大きな尻尾をブンブンと左右に振りながら、アレンの手に鼻先を押し付けて甘えた。レオにとって、俺以外の人間と接触するのは初めてのことだ。
「なんだこいつ……? 見たこともない魔獣だ……。でも、すごく懐いてる……?」
アレンは恐る恐るレオの頭に手を乗せた。レオは気持ちよさそうに目を細め、アレンの頬をペロリと舐める。
その光景を見て、俺の胸の中で冷たく固まっていた何かが、少しだけ溶けたような気がした。レオは人間を嗅ぎ分ける。そのレオが、アレンに対して警戒心を見せていない。
「……レオが懐いているなら、悪い奴じゃないのかもな」
俺は自分でも驚くほど、素直な言葉を口にしていた。
アレンはレオの温もりを感じて少しだけ安堵したのか、肩の力を抜いた。
「俺はただの冒険者だ。魔物を倒して稼いで、いつか一人前になりたいだけなんだ。……お願いだ、一晩だけでいい。この森を抜けるまでの宿を貸してくれないか?」
初めての、人間との接触。
この館は、俺だけの理想郷であるはずだった。だが、この出会いが、俺たちの閉ざされた日常をどう変えていくのか。
俺はレオの頭を撫でながら、アレンを館の中へと招き入れる決断を下した。
第十九話、いかがでしたでしょうか。
ついに物語に「外の人」であるアレンが登場しました!
奏多の人間不信と、それを包み込むようなルミナの優しさ、そしてレオの直感が物語を動かしていきます。果たしてアレンは館の秘密を知ってしまうのか、それとも……?
次回:
「招かれざる客? 冒険者アレンと過ごす、奇妙で騒がしい夜」
お楽しみに!




