第百四十三話:旅立ちの朝に響く凶兆! アルト、魔王軍幹部の強襲を迎え撃て!
世界の均衡が静かに、しかし決定的な速度で崩れ去ろうとしていた。
帝国という巨大な権力の中心で、勇者・佐藤蓮が魔神との禁断の契約を交わした同じ頃、遠く魔界の深淵でも、暗い野望が動き出そうとしていた。魔王が下した「勇者狩り」の勅命。それは、この世界に生きる100人の勇者たちへの死の宣告である。
旅立ちの朝。アルトたちが聖域の門をくぐろうとしたその瞬間、穏やかな聖域の空気が、凍りつくような殺気によって塗り替えられる。聖域を守る動物たちの咆哮が響き渡る中、ついに魔王軍の牙がその姿を現した。
魔界の中心、禍々しき城『深淵の魔王城』。
深淵を思わせる暗黒の玉座に鎮座する魔王は、漆黒の瞳で、遠き地上界を見下ろしていた。その眼下には、精鋭なる無数の幹部たちが沈黙を守りながら整列している。
「勇者狩りを行う。わしの野望を妨げる一切の障害、なかんずく勇者という名の害虫を徹底的に排除するのだ」
魔王の声は静かだが、その場にいる幹部たちの心臓を直接締め上げるような重圧を放っている。
「誰の仕業か知らぬが、既に『骸の侵食者』ヴォルグ・ザード、そして『魔将』ゼノス・カルナ……わしにとっての優秀な幹部二人が既に倒された。しかも、鋼鉄の帝国を自称する浅はかな人間どもも軍の強化を急いでいるようだ。そうなる前に、世界に散らばる100人の勇者を根絶やしにせよ。もし返り討ちに遭い死したならば、それは名誉ある死として認めよう。逆に、勇者を仕留めた者には相応の褒美を与えようぞ」
「「「ハッ!!」」」
幹部たちが一斉に門へと走る中、玉座の影から一人の少女が、まるでお人形のように静かに姿を現した。
「……父上」
魔王の険しい眼差しから冷徹な色が消え、一瞬だけ慈悲のような光が灯る。
「娘よ。お前はいつも通り、大人しくしておれ。わしにとって唯一無二の、大切な娘だ。いつも通り、部屋で魔導の勉強に励むがいい」
少女は何かを言いたげに唇を噛んだが、結局何も告げずに暗い影へと消えた。
魔王は玉座で、薄く、しかし邪悪な笑みを浮かべる。
「さて……幹部たちよ。この世界に真の絶望の宴を広げてやれ」
翌日。聖域。
爽やかな風が吹き抜ける、旅立ちの朝だった。アルト、リナ、ミアの三人は、俺や聖域の仲間たちに見送られながら、館の門の前に立っていた。
「風間さん、いろいろとありがとうございました。ここで学んだことは、僕たちにとって一生の宝物です。必ずや、この世界を……守ってみせます」
アルトの表情は、一ヶ月前とは別人のように凛々しく、揺るがない意志が宿っている。
しかし、その穏やかな時間は、唐突な轟音と共に崩れ去った。
「侵入者確認! 防衛ラインに敵性反応あり! かなりの強敵です!」
ゴーレムのアイギスが警告を発すると同時に、聖域を守るための結界が悲鳴を上げて軋んだ。
森の深奥から、ルナ率いるオオカミの群れが、警告の遠吠えをあげる。
「ウオオオォォォォォーーーーンッ!!!」
パオとパオ子の巨体が地響きを立てて前線へと走り、ゴング率いるゴリラたちが怒り狂って、森が揺れるほどのドラミングを開始した。
「ウホウホッ!! ポコポコッ!!」
犬のレオとチョコも、普段の愛らしさを消して、門の向こう側に向けて低い唸り声をあげる。
「何が起きた……!?」
俺が館から飛び出すと、門の向こう側から、禍々しい黒炎を纏った男がゆっくりと歩み出てきた。男が足を一歩踏み出すたびに、大地が枯れ、聖域の草花が黒く変色していく。
「勇者アルトよ!! お前と戦う日が来るのを待っていたぞ!!」
男はニヤリと下卑た笑みを浮かべ、アルトを指さした。
「今日からは勇者狩りの時期だ。悪いが、俺の気晴らしの相手になってもらおうか!?」
アルトは即座に剣を抜き、殺気に満ちた眼差しで男を睨みつけた。
「誰だ……! お前は一体何者だ!」
魔王軍幹部が一人、その侵攻は今、聖域の日常を終わらせようとしていた。アルトたちの旅立ちは、戦いという名の試練を迎えようとしている。
第百四十三話、いかがでしたでしょうか。
魔王の勅命と、聖域を襲う魔王軍幹部の影。旅立ちの日に訪れた最大の危機。アルトは無事にこの強襲を乗り切り、旅立つことができるのか!?
次回予告:
「聖域防衛戦! アルト、仲間と共に魔王軍幹部を打ち倒せ!」
お楽しみに!




