第百三十五話:餌やりから始まる信頼! アルト、聖域での修行を開始す!
聖域の朝は、いつもと少し違う騒がしさで始まった。
昨日、アルトから弟子入りの志願を受けた俺は、一つの決断を下した。勇者としての力を誇示するのではなく、生き物と心を通わせる「根気」と「優しさ」を学ぶこと。それが彼にとって、何よりも必要な修行になると考えたからだ。
召喚枠の残り8枠。これらを使い切り、個性豊かな新しい家族を呼び寄せることにした。アルトにとっては、初めて触れる未知の生き物たち。果たして、彼は彼らと「絆」を結ぶことができるのか。
「よし、全員集合だ。今日から、このアルトの修行に付き合ってもらう」
俺が召喚陣に魔力を流し込むと、まばゆい光とともに8種の新たな命が聖域の地に降り立った。
「モーちゃん」:のんびり屋のホルスタイン牛。
「コッコ&ケッコ」:仲睦まじいレグホーンのカップル。
「パオ&パオ子」:温厚で賢いアジアゾウの夫婦。
「スネーク」:実は寂しがり屋のアミメニシキヘビ。
「キンキン&コキン」:愛らしい表情のキンシコウのカップル。
「ミャオ」:気品あふれるシャム猫。
「チョコ」:人懐っこいミニチュアダックスフンド。
「ハナコ」:擬態が得意な可憐なハナカマキリ。
これで俺が召喚した動物は計40種類。聖域の賑やかさは最高潮に達していた。
「ええっ!? この子たちが全員、風間さんが呼んだ魔獣なんですか!?」
アルトと共に手伝いを申し出た二人の少女が目を丸くする。
魔法使いの少女は**「リナ」、僧侶の少女は「ミア」**。二人はアルトと同じく、佐藤蓮たちの傲慢さに辟易していた若き勇者たちだ。
「よろしく頼む。アルト、まずはこの8種類の世話を任せる。力ずくで従わせるんじゃない。彼らが何を求めているか、その声なき声を聞くんだ」
「は、はい! ……頑張ります!」
しかし、修行は開始早々難航した。
パオとパオ子の巨体に圧倒されて腰を抜かすアルト。キンキンの機敏な動きについていけず、木の枝にぶら下げられるリナ。そして、スネークの鱗の感触に悲鳴を上げるミア。
「うわあああっ! パオ、そっちは野菜畑だ! 違う、そこじゃない!」
「リナさん、キンキンが屋根に登っちゃった! どうしよう!」
「ひいっ! スネークが……スネークが勝手に腕に巻き付いてきて離れませんっ!」
俺はテラスの椅子に座り、コーヒーを啜りながらその光景を眺めていた。
ふと、子供の頃に初めて犬の散歩へ連れて行き、リードに振り回されて近所の公園を全力疾走した記憶が蘇る。あの頃は大変だったが、今思えばあれも一つのコミュニケーションだったな。
「……力じゃない。相手の歩幅に合わせるんだ、アルト」
俺の声に、アルトはハッとして動きを止めた。
彼は大きく深呼吸し、暴れ回っていたキンキンと向き合った。そして、無理に捕まえるのではなく、優しく手のひらを見せて、餌のナッツを差し出した。
「キンキン……怖がらせてごめん。僕は君を傷つけたいわけじゃないんだ」
そのアルトの必死な言葉と、真摯な眼差しが届いたのか。キンキンはゆっくりとアルトの肩に飛び乗り、大人しくナッツを受け取った。
ミアの腕にいたスネークも、温もりを感じたのか、ミアの首元で小さく頭を揺らした。パオとパオ子も、アルトが持ってきた大量の草を、鼻を器用に使って静かに受け取っている。
「……できた。心を通わせることが、できたんだ」
アルトが感極まったように呟く。
遠くでその光景を見ていたエリスが、満足げに微笑んでいた。
「ふふ、管理人の弟子入り志願、最初は無謀だと思ったけど……案外、筋がいいのかもしれないわね」
聖域に訪れた新たな絆の芽吹き。佐藤蓮たちの力による支配とは真逆の、地道な信頼構築が、今まさにここから始まろうとしていた。
第百三十五話、いかがでしたでしょうか。
8種の新しい家族と、アルトたちの奮闘。最初はバラバラだった彼らが、少しずつ心を通わせる過程は見ていて温かいですね。
次回予告:
「芽生える友情! アルト、魔物たちの気持ちを理解する!?」
お楽しみに!




