第百三十四話:管理人の指導! 勇者アルト、弟子入り志願と新たな従魔契約の予感!?
聖域の夜は、静寂と穏やかな魔力に包まれる。
昼間の平和な空気とは裏腹に、館のテラスでは「勇者」としての在り方を問い直す、切実な対話が始まっていた。
世界最強の魔獣を従えながら、その絆を結ぶ術を知らない勇者アルト。そして、動物たちとの絶対的な信頼関係を築き上げた管理人、風間奏多。二人の夜の語らいは、単なる弟子入り志願を超え、この世界における「従魔契約」の概念を根底から覆すような、熱い議論へと発展していく。
星明かりがテラスを照らす中、アルトは意を決したように俺の前に跪いた。
「風間さん、お願いがあります! ……僕を、あなたの弟子にしてください!」
「弟子入り? いきなり何を言い出すんだ」
アルトは真剣そのものの瞳で俺を見つめる。
「僕は勇者として旅をしていますが、ある魔物との従魔契約を維持するのに精一杯なんです。……僕が召喚しているのは、エンペラーグリフォンです。ですが、制御が全く効かない。あいつはその圧倒的な強さゆえに、僕の命令など聞く耳を持たず、ピンチの時しか姿を現してくれないんです。あなたの動物たちを見ていると、驚くほど自然に、まるで心を通わせているように動いている。どうやって、あんな信頼関係を築いているのか、教えてほしいんです!」
「……なるほど。制御できないエンペラーグリフォンか」
俺が呟くと、後ろで聞いていたヴィオラが、飲んでいたお茶を吹き出しそうになって叫んだ。
「エンペラーグリフォン!? アルト、あんた正気なの!? それは超絶ヤバい魔獣じゃない! バハムートと互角に渡り合ったという、太古から存在するこの世界最強のグリフォンよ! 伝説の獣じゃないの!」
歌姫エーリエも目を丸くする。
「すごいです……! そんな魔物と契約していたなんて、勇者様はやっぱり特別な方なんですね!」
同じく歌姫のリリアが、深刻な顔で首を振った。
「でも、エンペラーグリフォンは基本的に人間の言葉を介さないし、過去に契約を試みた召喚士や大魔術師は、例外なく一瞬で喰い殺されているわ。どうやって契約を維持しているの?」
アルトは苦々しく言った。
「僕も……実は、力ずくで押さえつけているようなものです。あいつを召喚するだけで、僕の魔力は枯渇し、命がけなんです」
その時、テラスの端でくつろいでいたドラゴンのハルが、ふと顔を上げた。
「ガオオッ!」
ハルの巨大な翼がバサリと翻り、その圧倒的な存在感が空気を震わせる。アルトは息を呑んだ。
「アレは……もしかして伝説のバハムート!? まさか、この館にいるの!?」
俺は笑ってハルの頭を撫でた。
「こいつはハル。動物たちとはまた違う、俺と『絆』という契約を結んだドラゴンだ。まだ若い個体だけどな」
ハルはアルトの気配を察し、興味深そうに鼻を鳴らした。アルトは震えながらも、その瞳には羨望が混じっていた。
「……信じられない。僕のエンペラーグリフォンは、僕を殺そうとすることさえあるのに、どうしてこれほど穏やかでいられるんですか?」
「答えは簡単だ、アルト。お前はあいつを『道具』として見ているだろう? 召喚して命令し、使役する。それではあいつらのような知性ある魔獣とは、一生分かり合えない」
俺はハルの鱗の隙間を優しく掻く。
「俺がやったのは、ただ一つ。あいつが子供だった頃から、飯を食わせ、寝る場所を共有し、同じ夢を見て、ただの『家族』として接してきただけだ。恐怖で従わせるんじゃなく、隣にいるのが当たり前だと思わせる。お前とエンペラーグリフォンの間に、そんな時間はあるか?」
アルトは沈黙した。彼が求めていたのは「力」だったが、俺が示したのは「共に生きる」という至極単純な現実だった。
「……絆、ですか」
「弟子入りなんて大袈裟なものはいらない。明日から、うちの動物たちの世話をしてみろ。力任せではなく、あいつらが何を考え、何を求めているのか。それを理解できれば、お前のグリフォンも変わるかもしれないぞ」
アルトの表情に、かすかな希望の光が宿った。
聖域の夜はまだ長い。帝国の工作員たちが蠢く外の世界とは対照的に、この館では今、勇者と管理人の奇妙な師弟関係が始まろうとしていた。
第百三十四話、いかがでしたでしょうか。
エンペラーグリフォンとの関係に悩むアルトと、奏多の「飼育論」。
次話では、アルトが実際に動物たちと触れ合い、変化の兆しを見せる……かもしれません!
次回予告:
「餌やりから始まる信頼! アルト、聖域での修行を開始す!」
お楽しみに!




