第百三十三話:聖域に忍び寄る毒! 新入り10人の正体と、館の守護者たち!
聖域の平穏は、外界の騒乱とは無縁の場所にある。
しかし、その結界の揺らぎを察知するのは、言葉を持たぬ者たち――館の守護者たちだ。空を駆けるポポ率いるハトの群れが、森の異常を告げる映像を持ち帰ったとき、聖域の境界線は「侵入者排除」のモードへと静かに切り替わった。
世界を盤上の駒としか見ぬ独裁皇帝の謀略。佐藤蓮という名の傲慢な虚像に紛れ込んだ、帝国の毒。聖域という「真実の地」に足を踏み入れた者たちは、この館が単なる避難所ではないことを、身をもって知ることになる。
テラスで談笑していたその時だった。空から優雅に舞い降りた一羽のハトが、俺の肩に着地した。それは館の守護者であり、森の監視役であるポポだ。
「……ん? ポポか? 何か異常でもあったのか?」
アルトが不思議そうにそのハトを見つめる。
「ハト……? この森に住む鳥系魔物ですか。初めて見ましたが、ずいぶんと訓練されているのですね」
俺はポポの首元に取り付けられた小型の魔導具――カメラ機能付きの記録媒体を取り外し、その映像をスマートフォンへ転送した。高精細な映像が画面に映し出される。そこには、聖域の境界線を強行突破しようとし、館の守護者たちに返り討ちにされた「五人の影」が鮮明に写っていた。
ホッキョクグマのシロが氷のような冷徹な視線を向け、カワウソのコツメやアシカのケータがその退路を完全に断っている。さらに、バチ率いるオオスズメバチの群れとシオヤアブのシオヤが、逃げ惑う侵入者を執拗に追撃していた。
「……泥棒にしては動きが軍隊じみているな。侵入者の訓練度が高すぎる。ただの冒険者や盗賊の類じゃない」
聖域から遠く離れた森の闇の中。ボロボロになった侵入者の一人が、震える手で魔導具を起動し、帝国の上層部へ通信を送っていた。
「……こちら工作員。また新たな勇者アルトのパーティーを追跡し、聖域への接近を試みましたが……館の守護獣たちに見つかり、壊滅です。何一つ成果を得られませんでした」
通信機の向こうから冷酷な叱責が響く。侵入者は必死に弁解した。
「で、ですが……勇者は世界全体で100人しかいません! 彼らを全員、帝国の駒にできる可能性があるのですよ!」
しかし、返ってきた答えは慈悲なき切り捨てだった。
『帰還せよ。上層部は、佐藤蓮と高橋凛率いる勇者一派以外、利用価値なしと判断した。全員、直ちに帝国へ戻れ。他の勇者などどうでもいい』
帝国、帝都の中心にそびえる漆黒の玉座の間。
独裁皇帝が冷笑を浮かべ、幹部たちを見下ろしていた。
「他の勇者なぞ不要だ。放置しろ。佐藤蓮とその仲間たちの実力だけで十分だ」
幹部が困惑して進言する。
「しかし、勇者の総数は限られております。佐藤蓮たちだけで魔王排除の戦力として十分なのでしょうか?」
「……知っているとは思うが、スマートフォンが国外へ流出してしまったことで、佐藤蓮たちの醜聞が世間に広まっている。だが、それでも我々は彼らを利用する。あの傲慢な連中は、我々が用意した『新入り10人』の正体――帝国の工作員たちが、ただの従順な腰巾着だと信じ込んでいるからな。奴らはプライドに溺れ、自分たちの足元に毒が回っていることすら気づいていない」
皇帝は不敵に笑う。
「他の勇者は無視だ。佐藤蓮と高橋凛率いる勇者一派の実力は、他の勇者より圧倒的に高い。……よって、他の勇者への接近を禁ずる。我々は今、軍の強化期間中だ。余計な火種を拾うな」
そんな帝国の謀略を知る由もなく、聖域では奇妙なほど平和な時間が流れていた。
「か、可愛い魔獣さんたち……!」
魔法使いの少女と僧侶の少女が、館の庭でウサギのラビ、ハムスターのハム、カエルのゲコ太に取り囲まれ、目を輝かせている。
一方、館の庭に設置された天然のプールでは、アルトが肩まで水に浸かり、セラ率いるドクターフィッシュたちに身体を預け、至福の表情を浮かべていた。
「みんな人懐っこいですね……! これが奏多さんの飼育する動物たちですか。彼らには人を傷つけようとする敵意が微塵もありません。……なんだか、僕たちの旅にもこういう安らぎが必要だったのかもしれません」
アルトのその言葉は、何よりも真実だった。
外の世界で「毒」のように工作員たちが暗躍する中、聖域の守護者たちは今日も何気ない日常を守り抜いている。
しかし、帝国という巨大な毒牙は、静かに、そして確実に、聖域のすぐ外側まで迫りつつあった。
第百三十三話、いかがでしたでしょうか。
帝国の冷酷な判断と、佐藤蓮一派に紛れ込んだ10人のスパイ。
一方、聖域では平和な時間が流れていますが、この対比が物語の緊迫感を高めます!
次回予告:
「管理人の指導! 勇者アルト、弟子入り志願と新たな従魔契約の予感!?」
お楽しみに!




