第百三十話:酒と職人とスマートフォン! ドワーフの頑固親父を口説き落とせ!
鉄の匂いと酒の香りが混ざり合う、ドワーフの王国ガルドランディア。
商人ギルドの奥座敷では、ガルドスの運命を賭けた交渉が佳境を迎えていた。一方で、王国の工房では、佐藤蓮一派という「嵐」が通り過ぎた後の余波が、純粋なる勇者アルトたちの耳に届く。
ドランゴの頑固な心を解きほぐしたのは、聖域の果実から生まれた至高の酒。しかし、その甘美な香りの裏で、帝国の影が静かに、そして確実に勇者たちのパーティーへ忍び寄ろうとしていた。
商人ギルドの重厚な扉が開き、一人の大柄なドワーフが仁王立ちしていた。その身体からは、長年炉を囲んできた者特有の熱気と、鉄を屈服させる職人の圧が滲み出ている。
「商人ギルドのギルドマスター、ドランゴだ! テメー、どこのどいつだ! なぜ俺の仕事場にずけずけと入ってくる!」
ガルドスは姿勢を正し、商人としての矜持を込めて深々と一礼した。
「ギルドマスター、お初にお目にかかります! オイラははるばる遠くの熱帯島国ドラコニアより参りました、商人ギルドのマスター、ガルドスと申します。世界で今噂の『スマートフォン』の評判を聞きつけ、是非ともこの王国と強固な取引をさせていただきたく参上しました!」
ドランゴは豪快に髭を揺らして笑った。
「ほう? 俺たちが精魂込めて作り上げたスマートフォンを、テメーらが買ってくれるってのか? 帝国が独占し、闇で高値で売りつけていたはずのシロモノを、わざわざ遠くから買いに来たってわけだ」
「正確には、我が国で流行らせたいのですよ! あんな素晴らしい魔導具を帝国が隠し持っていたなんて言語道断! 流出を機にあちらこちらで生産が始まったと聞きました。是非ともうちに売ってくれないか! その代わりに……これを見てください!」
ガルドスは自信満々に、木箱から冷えた小瓶を取り出した。
「フルーツビール! レプティリアン特製の至極の一本ですぞ!」
ドランゴの目が爛々と輝いた。
「……わかっているよな? 俺たちは酒好きのドワーフだぜ。どうして欲しい商品のために酒を餌にする商人は腐るほどいるが……それ相応に美味いだろうなぁ? 不味かったら……取引は中止だ! ……おい、コップとツマミを持ってこい!」
部下が慌てて琥珀色の液体を注ぐ。ドランゴが一口、含んだ。
静寂が走る。喉が鳴り、ドランゴの顔が朱色に染まっていく。
「……これは! フルーツの酸味と麦の苦味が、絶妙なバランスで……ッ!! 悪くない、いや、最高だ!!」
その頃、王国の一角にある広大な工房では、アルトたちが職人と対峙していた。
熟練の鍛冶職人は、ふと作業の手を止め、アルトを鋭い目つきで観察した。
「……兄さん、勇者なんだって?」
「……だ、だめでしょうか? その……」
アルトが戸惑うと、職人は作業台を力強く叩いた。
「……あのバカの仲間ではないんだな?」
エリスが怪訝そうに聞き返す。
「あのバカ? 何の話だ?」
職人は憤慨した様子で吐き捨てた。
「この前、生意気なクソガキどもが3人来てな。『俺たちのために30人分の防具を最強クラスに作れ、今日中に完成させろ』だとさ! 金だけドカンと置いて、あとは『冒険者ギルドで時間を潰す』とか抜かしてやがった。佐藤蓮一派だ!」
アルトは言葉を失った。
「佐藤蓮……あいつら、そんなことまで」
職人は鼻を鳴らす。
「まぁ、アイツらも相応の罰を受けているさ。デンジャラスフォレストの警告を無視して突っ込んだ結果、ボコボコにされて泣きべそかいて帰ってきたのさ。ギルドマスターにめちゃくちゃ怒られてたぞ」
職人は小声で、さらに衝撃的な噂を口にした。
「ここからが面白い話だ。アイツら気づいてねぇんだが、新入りとして入ってきた10人……あれ、ただの新入りじゃねぇ。帝国が送り込んだスパイの可能性が高い。佐藤蓮一派の傲慢さを利用して、自分たちの傀儡にしようとしてるんだよ」
アルトは戦慄した。
「帝国が勇者を……!」
「まぁ、プライドの高いアイツらがそんなことに気づくはずもねぇ。思惑通りに踊らされているよ。お前さんは運が良かった。佐藤蓮一派のせいで、真面目な勇者まで色眼鏡で見られる不運な時代だが、その純粋さを貫き通しな」
アルトは強く頷いた。
「ありがとうございます。……僕たちは、あいつらとは違う。必ず、真の英雄になってみせます」
鉄を叩く音が、王国の空に響き渡る。
酒を酌み交わす商人と、鉄を鍛える職人。そして陰謀の渦中で光を求める若き勇者。ガルドランディアでの日々が、彼らの運命を大きく動かそうとしていた。
第百三十話、いかがでしたでしょうか。
ドランゴの心を開いたフルーツビールと、佐藤蓮一派の裏で蠢く帝国の影。
アルトたちは、知らぬ間に帝国のスパイが潜入した「偽りの勇者パーティー」と対峙することになるのか?
次回:
「交渉成立! 酔いどれマスターと、深まる霧の中の謀略!」
お楽しみに!




