第百二十九話:ドワーフの王国! 鉄の門を叩く、禁断のフルーツビール!
スマートフォンが世界を駆け巡り、情報の嵐が大陸を席巻する今、聖域という閉ざされた箱庭は、皮肉にもその「平穏」ゆえに注目を集め始めていた。
帝国が支配を広げ、かつての王国が次々と歴史の頁から消えていく中、森の深淵に隠されたこの聖域は、迷い込んだ者にとっての最後の安息地――あるいは、命がけの迷宮となる。
今回訪れたのは、帝国の支配地を通るという無謀なルートを選択した、遠き島国から来た一人の行商人。彼の背負う荷物の中には、この世界の経済を揺るがすかもしれない「驚くべき依頼」が隠されていた。
前代未聞の「レンタル契約」による護衛任務。聖域の動物たちと、異邦の商人の旅が今、幕を開ける。
数時間の激走の末、視界が開けた先に壮大な石造りの城門が姿を現した。
岩盤を削り出して作られた巨大な城門は、まるで山の口そのものだ。周囲には溶鉱炉から立ち昇る煙がたなびき、硬質な石畳の上では、仕事終わりに一杯を求めるドワーフたちが大勢行き交っていた。
「おい、アレを見ろよ! 門の向こうから何かが来るぞ!」
門番のドワーフが太い声を上げると、周囲の職人たちが一斉に足を止めた。
彼らの視線は、エリスが駆る馬のクロ、そしてその背後で威圧感を放つ巨大なトラのキング、空を監視するオウギワシのオウギに釘付けになった。
「おい、アレを見ろ! ケルピーみたいな魔獣に乗ってるが、大丈夫なのか!? あの脚の筋肉……並の魔獣じゃねぇぞ!」
「いや、待てよ。大人しくしているように見えるぞ。騎士の女と、その後ろの商人に付き従っているようだが……」
「ヌエのような縞模様を持つ魔獣に、どこかの怪鳥に似た姿をした魔物がいるが……暴れる様子がねぇ。なんという訓練度だ……すげぇ……」
ドワーフたちは技術を極めることには誰よりも厳しいが、それゆえに「真に鍛え抜かれた力」を見る目も肥えていた。彼らは動物たちが放つ、魔獣特有の荒々しさと、それとは対照的な「知性」と「従順さ」に圧倒されていた。
エリスは静かに溜息をつき、クロの手綱を優しく引いた。
「注目されてしまったか。仕方ない、ここまで来たのだから堂々と振る舞うしかないな」
アルトはクロを下りながら、感慨深げにその光景を見渡した。
「でも、みんな恐怖よりも感心している様子ですよ! 僕も正直、大人しく人のために力を貸してくれるなんて、そんな魔物は初めて見ました。奏多さんの教育の賜物でしょうか」
ガルドスは緊張で背中の鱗が逆立っていたが、巨大な紋章が掲げられた建物が見えた瞬間に歓喜の声を上げた。
「おっ!? 見えたぞ!! あれがドワーフの王国が誇る『商人ギルド』だ!!」
そこは、大陸全土から希少金属や武具の受注が舞い込む、ガルドランディア経済の中心地だった。
一行が商人ギルドの入り口まで辿り着くと、エリスは立ち止まった。
「さて、ガルドス。後は貴殿の目的であろう。我々は宿を取って、そこで待つことにする。この動物たちを連れて商人ギルドに入るのは、流石に騒ぎが大きすぎるからな」
ガルドスは大きく頷いた。
「感謝する! この商談さえ成功すれば、スマートフォンを介した物流システムの第一歩が踏み出せるんだ。必ず成功させてくる!」
アルトが隣で小さく手を挙げた。
「僕たちは、この近くの工房へ行こうと思います。勇者としての旅を続けるため、自分たちの装備を強化していただく必要があるので」
「おっと、そちらも武運を祈るよ。アルトさん」
ガルドスは背負った木箱を抱え直し、鉄の扉の前で深呼吸をした。
その中には、聖域の魔力で育った果実をふんだんに使用した、極上のフルーツビールが眠っている。
ドワーフの頑固な職人たちを唸らせ、スマートフォンという「未来」をこの王国に根付かせることができるのか。
商人ガルドスの勝負の時が、今始まろうとしていた。
第百二十九話、いかがでしたでしょうか。
ついに到着したガルドランディア王国! ドワーフたちとの交渉の行方やいかに。
アルト一行の装備強化も気になるところですが、ガルドスの持参した「禁断の酒」が、王国を揺るがす騒動の火種になる……かもしれません!
次回:
「酒と職人とスマートフォン! ドワーフの頑固親父を口説き落とせ!」
お楽しみに!




