第百二十六話:護衛任務! 森の暗闇から現れた、最悪の捕食者たち!
聖域を背に、エリスを先頭にガルドスと動物たちの護衛隊は深い森の道を行く。
目指すはドワーフの王国、ガルドランディア。山岳地帯に築かれたその鉄の城塞は、ミスリルの輝きと、何よりも彼らが愛してやまない「至高の酒」の香りに満ちている。
しかし、目的地に近づくほどに、森の空気は重く沈んでいく。そこは、帝国の諜報網すらも忌避する、凶悪な魔獣たちの縄張りだった。
商人としての打算と、騎士としての矜持、そして動物たちの野生。交差する目的を乗せて、一行は影の潜む森の深淵へと足を踏み入れる。
「いいか、ガルドス? 貴殿もわかってるとは思うが、ガルドランディア王国はあそこに見える山脈の中だ。元々は希少金属ミスリルを採掘するためにドワーフたちが移住し、それが発展して国として今に至る」
エリスはクロの背に跨り、堂々とした姿勢で前方を指差した。その凛々しい立ち振る舞いは、商人の緊張を幾分か和らげているようだった。
「ドワーフは武器や防具の制作において大陸随一の技術を誇る。魔物と戦う冒険者たちにとって、彼らの作る武具は命の恩人にも等しい。まあ、世界各地にドワーフの王国はあるが、あそこの職人気質は別格だ」
エリスは言葉を切ると、少し声を潜めて続けた。
「だが、ドワーフたちは酒好きとしても知られている。今回のスマートフォンの取引……一台につき、職人が魂を込めて鍛え上げたSランク最強の剣一本分だ。言いたいことはわかるな?」
ガルドスは背負った大きな木箱を背負い直し、ニヤリと笑った。
「あぁ! オイラたちもバカじゃねえ。ドワーフたちとの交渉を有利にするために、特別に仕入れたフルーツビールの最新作を持ってきているんだ。これさえあれば、きっと歓迎してくれるはずさ!」
エリスはクロの手綱を操りながら、呆れたように眉をひそめた。
「……いくら酒好きでも、奴らには派閥というものがある。ワイン派、ビール派、カクテル派、ウィスキー派、清酒派……と、いつもドワーフ同士で酒の優劣を巡っての言い争いが絶えない。お前の持ってきたフルーツビールが、果たして彼らの舌に合うか……受け入れてくれるかは未知数だぞ」
ガルドスはゴクリと喉を鳴らした。
「酒を巡る戦争……聞いたことがある。過去にドワーフの王国同士で、銘柄の意地を懸けて血で血を洗う争いをした歴史があるってな……。失敗すれば、門前払いどころか追い出されるかもしれないのか」
彼らがそんな世間話をしている最中だった。
バキッ――!!
森の奥から、木々がへし折れる不穏な音が響き渡る。
それまで先導していたトラのキングが、突然足を止めて毛を逆立てた。空を旋回していたオウギワシのオウギが、鋭い警報音と共に急降下してくる。
「何だ……? 妙な気配だ」
エリスがクロから降り、剣に手をかけた。その瞬間、暗闇の中から、青白く光る巨大な眼球がいくつも浮かび上がった。
現れたのは、巨大な四肢を持つ「影喰い(シャドウ・ストーカー)」の群れだった。本来、この森の奥深くにしか生息しないはずの、最悪の捕食者たちだ。彼らは強靭な爪を持ち、獲物の肉だけでなく「魔力」そのものを食らい尽くす。
「ヒィィッ!? な、なんだあいつら! 魔物の群れか!?」
ガルドスが絶叫する。
影喰いたちは、商人の持つ「スマートフォン」から漏れ出るかすかな魔力反応を感知していたのだ。彼らにとって、それは極上の食事に他ならない。
「キング、オウギ! 奴らをガルドスに近づけるな!」
エリスが短く指示を下すと、トラのキングが地響きを立てて咆哮した。
その声は森を震わせ、影喰いたちの動きが一瞬止まる。しかし、腹を空かせた捕食者たちは、なおも群れを成して襲いかかってくる。
「くっ、数が多いな……!」
エリスが聖騎士の剣を抜き放ち、クロの守りを固める。
だが、聖域最強の盾と牙を前に、彼らが無傷で済むはずもなかった。キングの強靭な前足が先頭の影喰いの頭蓋を粉砕し、オウギが空から鉤爪で奴らの視界を切り裂く。
森の静寂は完全に終わりを告げ、血と魔力の混じり合う混沌とした戦場へと変貌を遂げた。ガルドスを守る護衛任務は、初日から最大の危機を迎えていた――。
第百二十六話、いかがでしたでしょうか。
突然現れた最悪の捕食者「影喰い」。圧倒的な武力を誇るキングとオウギが、ガルドスとエリスを死地から救い出せるのか!?
次回、緊迫の防衛戦はさらに過熱します!
次回:
「激突! 虎と鷲と馬の猛攻、そして現れた意外な助っ人!」
お楽しみに!




