第百二十四話:聖域の珍客! 迷い込んだ商人の、驚くべき依頼とは!?
スマートフォンが世界を駆け巡り、情報の嵐が大陸を席巻する今、聖域という閉ざされた箱庭は、皮肉にもその「平穏」ゆえに注目を集め始めていた。
帝国が支配を広げ、かつての王国が次々と歴史の頁から消えていく中、森の深淵に隠されたこの聖域は、迷い込んだ者にとっての最後の安息地――あるいは、命がけの迷宮となる。
今回訪れたのは、帝国の支配地を通るという無謀なルートを選択した、遠き島国から来た一人の行商人。彼の背負う荷物の中には、この世界の経済を揺るがすかもしれない「驚くべき依頼」が隠されていた。
第百二十四話、聖域の珍客! 迷い込んだ商人の、驚くべき依頼とは!?
聖域のすぐ外、魔境と呼ばれる深い森の奥深く。
そこに、青ざめた顔をして震える一つの影があった。全身を細かな鱗で覆ったレプティリアン族の行商人だ。
「ここが噂の『デンジャラスフォレスト』かよ!? 最悪だ……オイラはたまたま滅びた元アルカディア王国の跡地を通って近道しようとしただけなのに、なんでこんな場所に迷い込むんだ! 帝国兵の監視を避けるために選んだルートがこれかよ!」
彼は帝国の監視網を避けるべく、誰も立ち入らない森へと逃げ込んだ。だが、それは神の領域とも言える聖域の門を叩く行為に等しかった。
「仕方ない……目的地はここから真っ直ぐ先にある、ドワーフのガルドランディア王国だ。そこへたどり着かないと、オイラの商売はすべてパーだ! ヒイィッ!? 何だ今の物音は!?」
ガサッ!!
茂みが大きく揺れ、その中からぬっと姿を現したのは、銀色の毛並みを誇る巨体、ゴング率いるゴリラたちだった。
「ウホッ?」
「あぁぁぁぁーーーーっ!!! ビッグフッドか!? いや、それとも新種の魔獣か!? 見たこともねぇ巨大さだ……絶対に勝てるわけねぇ!!!」
レプティリアンは腰を抜かし、その場にへたり込んだ。パニックのあまり周囲を確認する余裕もなく、彼は恐怖に目を瞑った。
バフッ!!!
彼の背後から、さらに重厚な気配が迫る。
恐る恐る目を開けた商人の視界には、神々しいまでの白銀の毛皮を纏ったホッキョクグマのシロと、その足元で仕留めたばかりの魔物を誇らしげに咥える、沼の主のごとき威容を放つワニのクロコが鎮座していた。
「ああああぁぁぁぁーーーーーっ!!!! 伝説の氷結の獣王ククウェアクか!? ってか、足少なくね!? そこに沼地の支配者シパクトリ!? どっちも似てるけど、見たことねー!? やばい……オイラ終わった!!!」
あまりの威圧感と理解を超えた存在たちの集結に、行商人は真っ白な白目を剥いて、その場で気絶してしまった。
だが、魔物狩りを終えて帰還の途についていた動物たちは、彼を襲う気など毛頭ない。「また何か変なのが落ちてるぞ」とでも言いたげな目で彼を見下ろし、結局、気を失った商人を丁重に担ぎ上げ、館へと運ぶことにしたのだった。
夕暮れ時。館の客用ベッドで、レプティリアン族の行商人は目を覚ました。
「……こ、ここは!?」
「やっと起きたか!」
俺はベッドサイドで、彼が持ち込んだ荷物の安全を確認していた。ルミナが温かいハーブティーを持って、彼の肩を支える。
「大丈夫ですか? あなた、森の中で気絶していましたよ?」
「……助かったのか、オイラ……」
「ああ。ゴングたちが運んできてくれたんだ。ご丁寧にベッドまで寝かせてくれてさ」
行商人は信じられないものを見る目で周囲を見回し、やがて俺の方へ視線を戻した。俺は穏やかな笑みを浮かべ、彼を安心させるように問いかける。
「落ち着いてくれ。まず、お前は誰なんだ? 俺はこの館の管理人の風間奏多だ」
レプティリアンはゴクリと喉を鳴らし、少し落ち着きを取り戻して答えた。
「オイラは……遠くの島国、レプティリアン族の熱帯王国『ドラコニア』から来た、商人ギルドのギルドマスター、ガルドスと申します。世界で今流行している『スマートフォン』の評判を聞きつけ、ドワーフの国へ行って買い付けようとしたんだが……。奏多さん、あんたに護衛の依頼を頼む! この森、もう二度と通りたくないんだ!」
俺は申し訳なさそうに肩をすくめた。
「護衛か。悪いが俺、館の契約の関係で、ここから敷地外へ出たくても出られないんだよ」
「そんな……それじゃあ、オイラはどうやって帰ればいいんだ!」
ルミナが優しく口を挟んだ。
「でしたら、奏多様の代わりに動物たちに行かせるのはどうですか?」
「……ドウブツ? なんだそれ? 聞いたことねーぞ?」
「えっとですね……」
ルミナは、この館に住むものたちが、世界で言う「魔物」とは全く異なる、俺が召喚した「動物」という存在であることを丁寧に説明した。
「なるほど……た、確かにどうりで魔物に似た姿をした、見たことのない奴らだとは思っていたが……魔物特有の悪意を感じなかったのはそういうことか」
ガルドスは安堵の息を吐きつつも、まだ半信半疑の様子だった。
「その動物たちにお願いできるのか? 帝国軍の残党も近辺をうろついているという噂だぞ」
俺はニヤリと笑った。
「うちの連中は、帝国軍どころか、この世界のどんな魔物よりも強いぞ。ガルドス、お前の護衛、引き受けよう。ただし、俺たちは外には出られない。この敷地の境界線まで、だ」
こうして、異国から来た商人ガルドスと、聖域の魔獣たちによる、奇妙な道中記が始まろうとしていた。
第百二十四話、いかがでしたでしょうか。
レプティリアン族の商人ガルドス登場!
聖域の動物たちを「護衛」として連れ出すという、かつてない展開に。
次回、ガルドスの抱える「驚くべき依頼」が、ついに明らかになります!
次回:
「護衛任務開始! 聖域の動物たち、商人を守り抜け!」
お楽しみに!




