第百二十一話:情報革命の火種! 聖域のスマートフォンが、世界各地の『常識』を書き換える!
聖域から放たれた「情報革命」の火種は、瞬く間に世界各国へと飛び火した。
エリュシオン王国、アヴァロン王国、そして辺境のギルドまで、商人たちの手によって運び込まれた新型スマートフォンは、人々の生活と常識を根底から揺るがし始めている。
しかし、それは同時に、富める者と持たざる者を明確に分かつ「格差の証明」でもあった。娯楽を求める勇者一行と、生存を求める商人たち。同じ端末を見つめながら、彼らの抱く感想はあまりにも対照的であり、世界は今、二つの異なる時間軸の上で動いている。
第百二十一話、情報革命の火種! 聖域のスマートフォンが、世界各地の『常識』を書き換える!
発売開始の翌日から、世界各地の主要な都市にある魔導具店は、かつてない熱気に包まれた。
しかし、その熱狂はどこか冷ややかで、同時に切実なものだった。エリュシオン王国からやってきた行商人たちは、俺の館の倉庫で溜息交じりに現状を報告してくれた。
「奏多さん、正直に申し上げて、大量生産といっても1ヶ月で500台が限界です。ドワーフの鍛冶技術とデーモンの魔石加工、その両方が揃わないとこの繊細な魔導回路は焼き付けられない……。まさに職人芸の極みですよ」
当然の結果だった。使用されている素材は、大陸各地で争奪戦が繰り広げられるレベルの希少鉱石ばかり。これら全てを吸い上げている帝国が、どれだけ資源を掠奪し、周辺国家を疲弊させてきたのかを如実に物語っている。
今のスマートフォンは、ドワーフとデーモンがアレンジを加え、帝国の設計図をベースにしつつも、耐久性と魔力変換効率を極限まで引き上げた「聖域カスタムモデル」だ。
販売店には、ある警告文がデカデカと掲げられている。
『注意:本機は強力な魔力回路を搭載しています。魔力の適正がない者が無理に使用し続ければ、肉体が魔力枯渇(魔力酔い)を起こし、命に関わる可能性があります』
事実、この世界のスマートフォンは、現世のような手軽な娯楽品ではない。
俺の館の倉庫は、世界へ輸出されるための「スマートフォン専用の備蓄基地」と化した。俺とアイギスは、門番として、そしてこの貴重な「未来」の守護者として、在庫の管理を徹底することにした。
その頃、エルフ族が統治するシルヴァリンド王国の繁華街。
勇者一行は、豪華な店舗に並べられたスマートフォンを前に、鼻で笑っていた。
「これが噂のスマホか……ってか、全部たっけーな!?」
佐藤蓮は、値札を見て目を丸くした。その価格は、職人がこだわって鍛え上げた「最強クラスの武器」一本分に匹敵する。
「しかも、見た感じ俺たちが知ってるようなアプリすら全くねえじゃん。カメラと地図と、あとは文字が送れるだけの通信機……娯楽が一つもない。まるで年寄りか子供向けかよ」
高橋凛が肩をすくめて同意する。
「ホントね。これじゃ自慢のSNSも、動画視聴もできないわ。今の私たちが持つ価値があるものとは思えないわね」
佐藤蓮は自信満々に結論づけた。
「まあ、実用がメインってことだろ。俺たちの知るゲームやSNSがないってことは、まだそこまで技術開発が進んでねえってことだよ。今の俺たちは旅費や食費、宿代、武器や防具のメンテナンスで手一杯だし、余裕ができたらその時みんなで買おうぜ」
「さんせーい!!」
クラスメイトたちが口々に賛同する中、帝国の工作員として紛れ込んでいる「新入りたち」だけは、そのスマートフォンの持つ本質的な危険性と、世界の情報の流れが変わる予兆を感じ取り、冷や汗を流しながら俯いていた。
【解説:この世界の経済的重圧】
現世におけるスマートフォンは、エントリーモデルなら1〜3万円台、ハイエンドでも10〜20万円と、社会人であれば分割払いで手にできる「生活必需品」だ。
だが、この世界でのスマートフォンは別格である。
職人が数日をかけて焼き上げる「魔導回路」は、命のやり取りをする冒険者が持つ最強武器と同等の価値がある。月々の通信費という概念もなければ、魔力そのものが通貨と同等の価値を持つこの世界では、端末の維持は富裕層か、国から支給されるエリート冒険者にしか許されない贅沢なのだ。
この格差が、今後世界にどのような歪みを生むのか。
帝国は、この「情報の特権」を握るために、さらなる非道な資源確保に走るだろう。
一方で、俺たちの館の倉庫には、次なる出荷を待つ500台の端末が、静かに光を放っていた。
勇者たちは「娯楽がない」と一笑に付したが、商人たちはその端末で世界各地の相場を掌握し、騎士団は戦術をリアルタイムで修正し、各国は帝国の進軍ルートを予測する。
情報の「価値」を知る者と、娯楽の「消費」しか知らない者。
分断された世界を救うのは、勇者の剣か、それともこの聖域で生まれた「情報の絆」なのか。革命の歯車は、着実に音を立てて回り始めている。
第百二十一話、いかがでしたでしょうか。
「娯楽がない」と切り捨てる勇者一行と、喉から手が出るほど欲しいと願う商人の対比。
技術革命は常に「理解されない場所」から始まり、やがて世界を覆いつくす。
さて、次回は少し休憩! 聖域の住人たちが織りなす、のんびりとした休日をお届けします!
次回:
「聖域の休日! 巨大パンダ・ササマルと行く、森のピクニック!」
お楽しみに!




