第百二十話:通信革命の嵐! 世界へ放たれた情報網と、帝国の焦燥!
通信革命の幕開けから一週間。
聖域の地下から産声を上げた新型スマートフォンは、各国の科学ギルドや商人たちの手によって、今まさに「歴史の転換点」として世界中に送り出されようとしていた。
アヴァロン、エリュシオン、そして技術の根幹を支えるアズラク・ガウルとガルドランディア。それらの国々が手を取り合い、聖域を拠点として築き上げた絆のネットワークは、ついに一般普及という実証実験の段階へと足を踏み入れる。
しかし、その輝きは同時に、支配者・帝国にとっての「終わりの始まり」を意味していた。
新型スマートフォンの完成から一週間が過ぎた、ある日の朝のことだ。
俺が館の縁側で朝の風を楽しんでいると、懐に入れていたスマートフォンが微かに、しかし確かなリズムで震えた。それは、かつて俺がこの世界に来る前に慣れ親しんだ、あの懐かしい着信音だった。
「はい、奏多です」
通話に応じると、向こう側からはアヴァロン王国へ戻った直後のゼノの、興奮を隠しきれない声が聞こえてきた。
『奏多さん、聞こえますか! いやはや、驚きましたよ! 以前の試作品よりもさらに性能が洗練されていますね。彼ら――ドワーフやデーモンの職人たちも、鼻高々に『再現し、さらに凌駕した』と豪語していましたよ!』
「ああ、使ってみて実感しているよ。この反応速度、そして魔力の安定性は別次元だ。これなら、本格的に流通させても問題ないな」
ゼノの声が一段と明るくなる。
『ええ、まったく同感です! あ、隣に今、我が国の科学ギルドマスターのエドリック様もいらっしゃいますよ』
『奏多さん、お久しぶりです』
電話越しに、エドリックの声が重なる。
『素晴らしいですね。ドワーフ族の工匠的な精密さと、デーモン族の魔術的回路の融合……それがこの小さな箱一つに収まっているとは。ヴァル殿に伝えてください。アヴァロン王国として、このスマートフォンの一般販売、および流通網の構築を正式に許可すると!』
さらにその直後、回線が自動で割り込まれたのか、今度はエリュシオン王国の技術顧問、セオドアから通信が入った。
『こちらエリュシオン王国の科学ギルドです! 奏多さん、昨日こちらにも完成品が届きました! 使い心地は……言葉を失うほどです。ヴァルさんに販売許可を伝えるとともに、我々も積極的に導入することを陛下に報告します! ああ、ただし一言だけ……技術の普及は歓迎しますが、我々はこれらを有償の『特許製品』として、高額かつ戦略的な価格設定で取引させていただきますよ!』
世界が一気に加速しようとしている。俺はすぐに、聖域の通信室にいるヴァルへと連絡を入れた。
この世界のスマートフォンは、現世の端末のように電話番号やアドレスを使うのではない。「持ち主の名前をフルネームで入力する」ことで、魔力的に対象を捕捉する仕組みになっているのだ。
通信が繋がると、アズラク・ガウル王国の商人ギルドにいたヴァルが、声を震わせて答えた。
『……本当ですか!? ありがとうございます! あなたがいなければ、この種族を超えた技術の統合など夢のまた夢でした! では、早速これより販売手続きに入ります。奏多殿、今回開発したその新型スマートフォンは、あなたへの感謝の印として差し上げたものです!』
ヴァルによれば、ガルドランディアとアズラク・ガウル両国は、この成功をきっかけにスマートフォンを専門的に製造する「共同工場」を設立するそうだ。そしてそのすべての取引の拠点を、この俺の館に置くと決めたという。
『これからも、聖域を情報の中心地として……よろしくお願いします!』
その頃、帝国の玉座にて。
報告を受けた独裁皇帝は、深いため息を吐いた後、冷ややかな視線を玉座の下の空間に投げかけた。
「……はぁ。何度も言わせるな。世界の戯言など、どうでもいいと」
皇帝の周囲に漂う殺気は、以前よりも一層濃くなっている。
「だが、まさかこれほどまでとはな……。どうやら我々は、彼ら『世界全体の技術力』を少しばかり見くびっていたようだ。所詮は古いゴミだと思っていたが、奴らは我々の技術を土台に、それを超える回路を構築した」
皇帝は玉座から立ち上がり、窓の外、軍事パレードを行う帝国兵たちを眺める。
「まあ良い。世界征服は我が道だ。我が国も、誰にも真似できないように極秘で新型へと進化すれば良いだけのこと。言っておくが、流出の元となったあの森や拠点には、引き続き関与するな。流出の犯人捜しに時間を割く必要もない」
皇帝の目は、確かな狂気を宿していた。
「全体の強化、魔王討伐の準備、そして勇者たちの完全なる掌握。その三点だけに集中せよ。それ以外の小さな『通信革命』など、我らが大陸を蹂躙する足音にかき消されるだろう。分かったな?」
「ハッ!!」
皇帝の号令一下、帝国は再び不気味な沈黙と準備へと戻る。
しかし、世界中へと放たれた情報網は、もう誰にも止められない。霧の中でうごめく帝国の焦燥をよそに、俺たちの「情報の絆」は着実に、しかし確実に世界を覆い始めていた。
第百二十話、いかがでしたでしょうか。
アヴァロン、エリュシオン両王国による販売許可。そして、聖域を拠点とした新たな流通体制の確立!
帝国は相変わらず傲慢ですが、世界は着実に変わり始めています。
次回、いよいよスマートフォンが世界中の冒険者や商人の手に渡り、思わぬ「影響」が出始めます!
次回:
「情報革命の火種! 聖域のスマートフォンが、世界各地の『常識』を書き換える!」
お楽しみに!




