第百十七話:聖域の叡智! 帝国を凌駕する魔導回路の開発、スタート!
聖域の地下深く、かつて誰も足を踏み入れなかった洞穴が、今や世界を変える最新鋭の「技術開発特区」へと変貌を遂げていた。
デーモン族の鋭利な魔術工学、ドワーフ族の強固な物理構造、そしてエリュシオンとアヴァロンが誇る最先端の科学力。これら全ての叡智が、帝国から流出した設計図を基に、より高次な「新型魔導回路」の創造へと収束していく。
これは単なる道具の製作ではない。帝国が独占していた「未来」という名の力そのものを、世界へ解き放つための革命の狼煙である。
数日間にわたる激論と設計図の照らし合わせ、そして幾度もの試作失敗を経て、我々は一つの結論に達した。館内での共同開発は、あまりに規模が大きすぎ、かつ聖域の平穏を脅かす危険があった。我々は館からかなりの距離を置いた森の奥深く、地中深くに隠された未発見の巨大洞穴を、新たな「技術開発拠点」――地下工場へと改造することにした。
この深さならば、もし帝国軍や魔物たちが襲撃を仕掛けてきても、アイギスが構築した多重障壁と警備体制で完璧に遮断できる。
「……ふう。これでようやく、周囲を気にせず全力を注ぎ込めるな」
私は一息つき、ヴァルに返却した試作スマートフォンを眺めた。デーモン族の技術長バルバスと、ドワーフ族の班長モルガンが語る「新型スマートフォン」は、単なる通信手段の枠を超えようとしている。
「ある意味、これは産業革命ってやつか?」
私の問いに、ヴィオラが標本瓶を片手にニヤリと笑った。
「そうみたいね。でも、スマートフォンが世界各地へ広まったら、魔王軍も帝国軍の支配も、情報の力で無力化できるわ。情報を制する者は世界を制する。しかも今回は、物理的な破壊力ではなく、利便性と繋がりという、誰も拒めない『正義』でね!」
エリスも満足げに腕を組む。
「団長様も、これの効率の良さに舌を巻いていた。噂によれば、当面の間は王族や貴族、そして最前線の騎士団の中枢組織への導入が優先されるようだ。情報の伝達速度は、そのまま国境の防衛力に直結するからな。帝国が遮断していた回路を、我々が繋ぎ直すということだ」
ルミナは慎重に言葉を継いだ。
「ええ。流石に大量生産が実現しても、魔力をある程度保持している者でなければ駆動すら難しいでしょう。ですが、少なくとも情報格差による無益な争いは減らせるはずです」
シルヴィアは窓の外、かつて帝国が侵攻に使った戦闘機の残骸が、今や各国の技術者たちの手によって「平和利用のための機体」として解体・再構成されている光景を指差した。
「帝国の武器だった戦闘機も、今やエリュシオンとアヴァロンの技術によって、平和利用のために再編されつつあるわ。各国も帝国に抵抗するために必死で研究を始めている。もはや帝国独り勝ちの時代は終わりよ」
リリアとエーリエも、希望に満ちた表情で頷き合った。
「帝国による、侵略と侵攻のための技術ではなく……」
「皆が笑顔で暮らすための、平和のために使われる技術ですね!」
その頃、帝国の帝座では、独裁皇帝が冷徹な決断を下していた。
「……報告します。各地で通信魔導具の再現が進行しております! 半月前に撃墜された戦闘機の残骸を参考に、エリュシオンとアヴァロンが再現に成功したとの報告が!」
皇帝は玉座で鼻を鳴らす。
「放っておけ。我が軍は全力で強化中だ。連中が再現できたのは、所詮は我が軍の『古いゴミ』だ。帝国は機械と化学を、より高次元で極めているのだからな。魔王排除のための準備と、勇者への接近……それ以外は、瑣末な雑音だ。世界にいちいち耳を傾けるな。分かったな?」
「ハッ!」
皇帝は満足げに、別の報告者に向き直った。
「で、勇者どもの状況は?」
「現在、10人の工作員を送り込み、徹底的に演じさせております。勇者たちは、新入りたちの言葉を信じ、彼らを『雑用係』としてこき使っております」
皇帝の口元が歪む。
「……大賢は愚なるが如し、か。それで良い。徹底的に信頼を得させるのだ。準備ができ次第、役者を派遣して接近させ、魔王を倒させるように仕向ける。全ては我が帝国が、その死体を踏み越えて支配権を握るために」
その間も、帝国の監視から逃れた外の世界では、スマートフォンという名の「噂」が爆発的に広まっていた。
勇者一行の集団にも、その噂は当然のように届いている。
「なんでも、帝国が隠していた通信用の魔導具が流出したみたいですね……世界各地で再現を試みているそうで……確か、『スマートフォン』でしたっけ?」
工作員の一人が、あえて勇者たちに聞かせるように呟く。勇者・佐藤蓮が眉をひそめる。
「スマートフォン? スマホのことか?」
新入りの工作員が演技で首をかしげる。
「スマホ……? お初に聞く言葉ですが、何か故郷にあるものと似ているのですか?」
高橋凛が自信満々に笑った。
「私達の故郷でもあったものよ! 略してスマホ! 勇者様たちの故郷では常識よ!」
「さすが勇者様! 詳しいですね!」
工作員たちは内心の嘲笑を隠し、勇者一行にへりくだり続ける。その周囲では、他のクラスメイトたちがピラミッド状のダンジョンを見つけて歓声を上げていた。
「おい新入り! さっさと荷物を運べよ! 雑用係のくせに口をきくな!」
「は、はいっ!」
蓮たちは、帝国の魔の手がすぐ背後にまで伸びていることにも気づかず、雑用係として工作員たちを支配しているという優越感に浸りながら、次なる欲望のダンジョンへと突き進んでいく。
その事実を、俺たちはまだ知らない。
館は今日も、次なる技術革新の熱気に包まれながら、穏やかな平和を謳歌していた。
第百十七話、いかがでしたでしょうか。
地下工場の建設、そして帝国の冷酷な勇者利用計画。
聖域の技術者たちが「平和のための回路」を焼いている間、勇者たちは帝国の手のひらの上で踊らされています。
果たして、聖域の技術は勇者たちがダンジョンを攻略する前に世界を変えることができるのか?
次回、開発はついに「次世代魔導回路」の核心へ!
次回:
「聖域の叡智! 帝国を凌駕する、新型魔導回路の設計図!」
お楽しみに!




