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第百十二話:帝国の意外な弱点? 商人ヴァルが語る、平和すぎる重大ニュース!

「帝国の内情」という言葉から奏多が想像したのは、さらなる侵攻の恐怖か、あるいは壊滅的な攻撃の予告であった。

しかし、デーモン族の商人ヴァル・ガザールがもたらしたのは、軍事的な脅威とは真逆の、滑稽ですらある情報の数々だった。

帝国を揺るがす全滅の報と、突如出現した謎の技術……「スマートフォン」。

異世界に突如として現れた現代文明の結晶が、聖域の運命を、そして世界をどのように変えていくのか。

「結論から申し上げますと……帝国は今、魔王軍との戦いに備えて魔界への大規模侵攻を開始したのですが……見事に全滅したとのことです!」

ヴァルの報告に、俺たちは呆気にとられた。あの傲慢で科学技術を過信する鋼鉄の帝国が、魔王軍相手に全滅?

「報告によれば、帝国の皇帝は激怒。指揮をとった幹部達全員を、帝国内で即座に公開処刑にしたそうです。帝国が掲げる『軍事的実力社会主義』……つまり、敗北や弱さを『無能』として粛清する主義が、皮肉にも自国の軍事基盤を自ら破壊する結果となりました。現在、帝国は新たな兵力を確保するために国内を大掃除しており、しばらくの間は対外的に身動きがとれません」

ヴァルは眼鏡を中指でくいと上げ、冷徹な計算が宿る瞳で続けた。

「そして、魔王を倒すための方策として、勇者の力を利用しようと躍起になっています。各国に多数のスパイを放ち、勇者候補を探し回っているようです。我々にとって、これほど都合のいい空白期間はありません」

「……つまり、帝国が動けない今が、俺たちにとっての唯一のチャンスってことか」

「その通りです。そして、もう一つ重大なニュースがございます。実は何者かによって、帝国が誇る最新の通信魔導具の情報が外へ流出しました。帝国国内は大騒ぎで、誰が裏切ったのか血眼になって揉めております。そして、その情報をもとに世界各地で再現が試みられているのです。その名は……『スマートフォン』というそうです」

「は……はいッ!?」

俺は耳を疑った。スマートフォン。現世で誰しもが手に持っていた、あの黒い板だ。なぜそんなものがこの剣と魔法の異世界に?

……いや、待てよ。帝国はあの戦闘機すら作り上げている。技術的な蓄積は、俺の想像以上に「現代に近い」のかもしれない。

俺が召喚したオウギワシのオウギや、レイ率いるカラスの軍勢、ヘラクレスが蹂躙したあの戦闘機。あれは確かに高度な機械だった。あれが今、エリュシオン王国のガルス騎士団の手によって解析され、より良い形へと昇華されているのだ。

ヴァルは鞄から、重厚な革で装飾された「それ」を取り出した。

形は確かにスマートフォンだ。しかし、画面は魔石の光で淡く輝き、筐体には微細な魔力回路がびっしりと刻まれている。

「魔力さえあれば、無限に使い続けられる通信装置。まさに帝国の科学と魔術の結晶です。そこで本題なのですが……この端末の販売ルートを確保したいのです。アルカディア王国が帝国に滅ぼされた今、中立的かつ信頼のおける取引拠点を探しておりました。この館をハブにして、エリュシオン王国、アヴァロン王国、そしてガルドランディア王国のドワーフ達へ卸したいのです!」

ヴァルは切実に頭を下げた。

「我が国は魔術の扱いは得意ですが、物作りの精度ではドワーフに劣ります。ですが、この通信魔導具を広めれば、供給網が分断された世界を再び繋ぎ直すことができます。その代わりとして、貴館で生産される素晴らしいコーヒーや、アヴァロン、エリュシオン、ドワーフの特産品を我々が買い取り、流通させたいのです!」

なるほど、ただの商売の話じゃない。これは情報のネットワークと、資源の再分配を狙った「平和のためのビジネス」だ。

「……商売の話か。だが、タイミングとしては悪くないかもな」

その時、エリスがふと思い出したように口を開いた。

「そういえば、今日はアヴァロン王国のゼノ達商人が、例のコーヒーの引き取りに来る予定だったな。……全員、荷車を引きながら徒歩でね」

ゼノたちは、俺たちが作ったコーヒーを愛してくれている。徒歩で何日もかけてここへ来るほどの情熱。彼らなら、この「スマートフォン」という未知の技術に対しても、偏見を持たずに耳を傾けてくれるはずだ。

「よし、ヴァル。話は分かった。その商人たちが来るのを待とう。彼らと協力できれば、この世界の物流も通信も、帝国に頼ることなく構築できるはずだ」

俺たちは庭にテーブルを広げ、ゼノたちを待つことにした。

空にはレイたちが優雅に舞い、庭には魔法の力で元気に育つ野菜が揺れている。

帝国という強大な脅威の足元で、俺たちは静かに、しかし確実に「新しい世界」の礎を築き始めているのだ。

第百十二話、いかがでしたでしょうか。

デーモン族の商人ヴァルが持ち込んだのは、異世界を激変させる「スマートフォン」という名の技術革新!

商人ゼノたちの到着を待つ中、聖域はさらに大きな変革の予感に包まれます。

帝国の監視をくぐり抜け、世界を繋ぐ通信網は成功するのか!?

次回:

「商人の絆! ゼノたちとの再会、そしてスマートフォン通信網の開幕へ!」

お楽しみに!

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