王妃様との決戦
「申し訳ありません」
私は膝をつき、深く頭を下げた。
「申し訳ありません!!」
私の言葉に続き、幾つもの、いいえ、幾百もの謝罪の声がホールに響いた。
軽く片膝をつく私に比べ、背後に控える爵位ある貴族、そう、クラウスを筆頭に、左右に並ぶ召使い達が土下座をしている。
鬼気迫る異様な空気が否応でも漂う。
「私の配慮不足と経験不足の為、このような事態になり大変申し訳なく思っております」
「な・・・何故・・・何を・・・?」
狼狽え、意味がわからないと、御前に立つ王妃様と比べ、その横に立つ陛下は平然とした表情が、私の気持ちをより高鳴らせた。
「スティング殿、理由を聞こう」
「はい、陛下」
頭を上げ、慎重に言葉を選びながらも、陛下の気持ちはこちらにある、と確信する。
陛下の言葉の中に隠れる真意が、
想いが、
今、
ようやく芽吹いている。
微笑み、と言う蓋で無理に沈め、諦めという蓋でさらに重ねた秘めた想いを、
私が、
叶えてみせます!
すっと、立ち上がり悲痛な面持ちで前に立つ陛下と王妃様を見つめた。
「私の通う学園での失態を痛感しながら、昨日の非礼を起こしていまい至極不本意極まりなく思っております。その為このような場を設けさせて頂きました」
やっと私の行動の意味を理解したようで、王妃様の顔色が変わったが、もう遅い。
「学園での、帝国皇子、皇女様に対する無礼を目の当たりにしながら、昨日の王宮での、帝国皇子、皇女様への、無作法者の対応にお2人は大変ご立腹され、私の屋敷に帰るや否や私は多大なる説教を受けました」
嘘だけどね。
まず、フィーとカレンの顔をまともに知っている召使いは然程いないと知っているから、あえて、私から少し離れて歩くように頼んだ。
王妃派は私に挨拶をしない上に、侮蔑の顔で笑ってくる。
その態度の中、私の後から歩く2人に同じ対応をしてくれた。
おもうつぼだ。
そして、公爵派は私の顔を見るや否や、たとえ遠くとも私が目前を通るまで、ずっと頭を下げていた。
そのあまりにも対応の違いに、怒っていたには間違いはない。
悪いけど、使える物はなんでも使う。
そこまで私達の立場は、差し迫っている。
高等部を卒業した時点で、私は、本当の意味で殿下の婚約者となる。
その時、私の立ち位置で、全てが決まる。
勿論最終的に私は、正式な婚約披露の前に殿下の傍を離れるが、今離れるのはあまりに危険だ。
そうなれば、私は、ただの貴族令嬢となり、王宮に出入りも出来なくなる。
そうなれば、王妃派に潰され、公爵、と言う爵位の意味も瓦解してしまう。
そんな事があってはならない。
王妃派が、存在しても構わない。
それは公爵派、あってこそ。
立場の違う者達が切磋琢磨する事で成り立つ国の繁栄を、一角だけになっては独裁国家となり、滅び行くだけだ。
わかっておられますか、王妃様?
あなたは今、その危うい国を、作ろうとしているのです。
それは、
絶対に、
叶えてはいけない。
「たとえ王妃様の慈深く、お優しい心があり、全てお許しになりたいと切に願っても」
あえて言葉を切り、王妃様を見ると、ぎっと睨んできた。
あなたが誰かに流させた、ご自分の印象です。
噂の言葉、ですよ。
私は間違った事は言ってないわ。
「私は、ヴェンツェル公爵家の娘であり、殿下の婚約者であります。その私が帝国皇子様、皇女様を王宮に招き、このような結果になり大変重く受け止めております。責は全て私が負います!このスティング・ヴェンツェルが、陛下、王妃様の、ご慈悲を頂き、この者たちを処罰致します!!」
響く私の言葉と裏腹に、一気に吹き出すように土下座する誰もが王妃様への懇願言葉がひしめき合った。
目線も、思いも全て、王妃様。
助けて欲しい、
と、
泣き喚く。
さて、王妃様?
あなたが私を貶める為に使った人達を、
助けれるかしら?
ホールに響く阿鼻叫喚の間をぬってゆっくり歩く。
誰もが王妃様にしがみつくように集まり、それを必死に剥がす醜い姿の王妃様。
それを冷静に見つめる陛下。
ある意味この方が一番の被害者かもしれない。
愛する者と結ばれる事を夢見た筈が、
立場の為それを無くし、
国の犠牲となった、
石楚。
その結果が、これだ。
最善を尽くした、
その時が、
たとえ結果が良かったとしても、
人の気持ちは、
変えられない。
涙が出そうになったのを、ぐっと我慢した。
まだ、よ。
まだ、終わっていない。
そう、
まだ、よ!
この真夏の中轟轟と燃える暖炉へと足を勧め、
その熱さが、
私の気持ちを、落ち着かせた。




