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連れの気が短かったおかげで、王女さまたちから逃げることができた。
俺の王城行脚はまだまだ続く――って、また王女さまたちだよ! それも一人だ。連れが嫌がっていたけど、しつこい。
連れの目付きが悪くなってる。
うわー・・・。
「ワット! お待ちなさい!!」
はひ?! 名前呼んできたよ?!
初めて名前呼んできた。
何が起きたんだ?!
いや、何が起こったんだ?!
「あなたの崇高なおこない、わたくし感激いたしましたわ。前まではただの民草にすぎないからと自分に言い聞かせてきましたが、もはや抗うのには疲れました」
驚き戸惑っている間に王女さまが何やら告白してきた。
「・・・」
民草って、フィリップだって貴族じゃなかったし、何が言いたいのかわからない。
「急だとは存じております。ですが――」
「五月蝿い」
王女さまが止まった。文字通り止まった。
よく見たら何か表面がキラキラしている。
「何したんだ?」
俺はこれをやった張本人に聞いた。
「身動きがとれない程度に凍らせてやっただけだ。溶ける前に行くぞ」
連れは取り付く島もない。
まあな。身内が馬鹿にされたら嫌だよな
「わかった。あとで教えろよ」
「うむ」
氷漬けの王女さまを無視して王城を囲む街を歩きながら、連れは「周りを見てみろ」と言った。
「?」
どこも変わらない街だ。
「わからないか?」
そう言われても、変わったところはない。
「お前のおかげで魔物の被害が少なくなったおかげで、交易が盛んになっている」
「! 俺の・・・?」
「ああ。お前は高い評価を受けている。この国ではまだだが、いくつもの国がお前の提案に乗ってきたのがその証拠だ。あの女も魔物を狩るだけの勇者よりも、人間と仲の良くない妖精種にも気に入られ、魔族と友交を結び、魔物の駆除で評価されているお前のほうが利があると悟ったのであろう。わたしの目から見れば、比べる必要すらないのだがな」
「そんな・・・。俺のことを買いかぶりすぎだ」
「身内の欲目ではないぞ。――おや、前にあの女と一緒にいた女たちがやってきたぞ」
「姿が見えないようにしてくれ、キーファー」
「あの女と同じようにお前に言い寄ってくる気かも知れぬぞ。それでも嫌か?」
「悪いが、俺はアニーたちで手一杯なんだ。あんたがそうしたんだからわかるだろ?」
「うむ。幸せか、勇者?」
「あんたはどうなんだ、魔王?」
「わたしは幸せだぞ」
「なら、俺も幸せだと言っておく」
「早くキャシーのもとに戻れるなら更に幸せだ」
「キャシーの兄だから言えることだけどさ、妹のどこが良かったんだよ? 俺と同じ平凡な顔だろ?」
ついでに俺とキャシーの髪も目も平凡だ。こんなイケメンがベタ惚れする理由がまったくわからない。
相手は魔王だぞ! 魔王!
それがどうして、平凡な俺の平凡な妹に惚れるんだ?!
そりゃあ、身内から見てキャシーはいい奴だ。
だけど、それは友達としていい奴で、魔王が惚れる要素なんかどこにあるのかわからない。
「どこもかしこもだ。一目で恋に落ちたぞ」
マジか?!
目、大丈夫か?!
「はあ?! あの顔に?!」
「あの顔とはなんだ、あの顔とは?! キャシーは見惚れてしまうくらい可愛いではないか! いくら、キャシーの兄でも言っていいことと悪いことがあるぞ!」
「あんたの目がおかしいことはわかった」
「何を言うか。これは運命なのだ。お前が勇者に選ばれ、わたしがそれを見に行き、キャシーと恋に落ちる。お前がわたしの城までたどり着き、魔族と人間の和解交渉をするようになる。その結果、人間が魔物に苦しめられなくなる。すべてはお前が勇者に選ばれたことから始まったのだ」
「カッコよくない! めっちゃカッコよくない! すごい能力の一つでも欲しいわ!」
「あるではないか。キャシーの兄というすごい力が」
「それ、能力じゃないし! 血縁だし!」
「下手に能力があると手加減できぬから、これでよかったのではないか? 父上殿の時は反撃して殺さないように努力せねばならなかったのだぞ」
「あんたまで俺のことをそんなふうに言うのか?!」
「逆がよかったのか? わたしとキャシーが幸せになる為に兄であるお前が勇者に選ばれたのだ、と」
「更にひどくなった!!」
真実を知る人物から見れば喜劇でしかないが、これが世界を平和にした平凡な能力の平凡な勇者の物語である。
尚、勇者の妹は魔族との和解の証として魔王の妻になったと伝えられており、勇者本人は魔族を複数、妻にする為に人間と妹を売ってまで結婚したかったのか、と言われているやらいないやら。
さて、ワットを勇者のパーティから追い出した人々はどうだったかというと――――
快適な宿のある街を離れて冒険者生活のできなかった王女と聖女たちはノースリーフの兵たちをワットたちがいた時と同じように使おうとした。
しかし、彼らだけの人数ではそれまでの生活が維持できなかった。
ワットを追い出して一か月も経たないうちに金策の目処の立たなくなった彼女らは各地の神殿や王侯貴族(貴族と言っても、高級宿並みの屋敷を維持できる金持ちの高位貴族だ)を頼って金銭を援助してもらい、勇者の不在を問われれば人助けが好きなワットとは別行動をとっていると言い張った。
ワットを勇者とは認めていない聖女たちも、フィリップが勇者だと認められないことには気付いていたのだ。
そこにノースリーフ王の使者が帰国するようにとの王の怒りの書状を持ってきた。王女の護衛だったノースリーフの兵たちがワットがパーティを追い出されたことを母国に連絡していたのだ。
王女は本物の勇者はここにいると言い張り、帰国しようとしなかった。
ノースリーフの兵たちは王の指示に従って王の使者と共に帰国してしまい、勇者のパーティは王女と聖女たち、それに彼女らが勇者と認めたフィリップの五人だけになってしまった。
だが、そんな彼女らのところに、ワットが魔族との和平交渉の使者をしているとの話が飛び込んでくる。
自分たちの嘘が暴かれるのを恐れた彼女たちは、ワットの行動を止めようとした。
王女は父王にワットにした仕打ちを知られて勘当同然の身。今までの交友関係や伝手を活かして他国の王侯貴族にたかっていたのだ。ワットと行動を共にしていない本当の理由がバレるとその援助がなくなると慌てた。
聖女たちもそれを神殿に知られれば、王女と同じように困ったことになると慌てた。
各地を魔法で移動するワットを何とか見つけたものの、彼は和平交渉を辞める気がない。
魔物を操る魔王さえ倒すことができれば誰が勇者でもわからないだろうという目算が外れ、彼女たちは窮地に陥っていった。
このままでは自分たちの嘘がバレるとワットに取り入ろうとするも、ワットの連れによって阻まれ、話すことも許されない。
王女の生活レベルに慣れてしまって贅沢になった聖女たちが普通の冒険者だけでやっていけるはずもなく、王侯貴族や神殿を頼れなくなった勇者のパーティは落ちぶれていった。
王女は仕方なく、母国に魔法で戻り、父王に勇者をとり逃したことを責められ、勇者と共に旅立ったものの、実力不足で恥ずかしくて帰国できなかったことにされた。所詮、王女様だからと魔法の評価も甘かったのだろうと謂れのないことも受け入れさせられた。
どちらも噴飯ものだったが、勇者を勇者のパーティから追い出したことを口にするよりはマシだ。
受け入れざるを得なかった。
聖女たちも神殿に戻ったが、聖女の失格のお告げが降り、引退した神官たちと同じ生き方を進められた。神殿奥深くで大切に育てられた彼女らが一般人扱いに慣れるはずもなく、若さと容姿を活かして金持ちや貴族やらの妻におさまった。
更に追い打ちをかけるように、ワットを見捨てなかった三人娘が聖女たちと同じ色の髪をしていた為に、彼女らが聖女だと民衆は思い込んでいて、使用人たちには「うちの奥様は聖女様と同じ色の髪だからって、自分のことを聖女だって言い張っている」と思われ、陰で嫌がらせをされることとなった。
フィリップは冒険者に戻って、今までのようにモテモテ生活を続けて、イチャついている現場を女性の夫に見つかって刺された。




