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それからの俺たちは王女さまたちが来ない小さな街や、地図にも載っていないような僻地に行って、困ってる人を助けながら、魔王討伐の資金と力を蓄えた。
ある日、アニーたちが気まずげに言い出した。「このまま魔物を倒していても、その間に他の場所で命を落とす人が出るから、早く魔王のところへ行こう」と。
その頃の俺は一人前の冒険者になっていたが、まだ魔王を倒せる実力まではついていなかったから、躊躇した。しかし、ぺコリーヌが言った。「ワシは魔王の城までの秘密のルートも魔王の弱点も知っておる。それにワットなら魔王を倒せる」と。
自分の実力が足りないばかりに助けることのできなかった人々の姿を見てきた俺は、ぺコリーヌの言葉を信じ、魔物に人間を襲わせている魔王の城に行った。
そして、人間の国々の王城を訪れることになった。魔族と人間が共存するための使者として。その第一歩が人間の国々で魔族と協力して魔物を倒す体制を受け入れてもらうことだ。
というのも、魔王は人間との争いを望んでいないし、魔族じゃない魔物を魔王がなんとかすることなどできなかったからだ。
つまり、ドラゴンや魔物はイノシシ同様、野生生物にすぎないってことだ。それが大発生して、勇者のお告げが神殿で出たらしい。
・・・。
で、魔族にしても、吸血鬼や夢魔は人間を傷付ける必要もないし、グールは刑死した死体や病死した死体でいいし、獣人は食べるものは人間と同じものでいいからと、敵対する理由がなくなってしまった。
おかげで俺は今日も各国の王さまたちを説得することになる。
「お待ちなさい!」
説得を終えて城を出たところで、ゴージャスな金髪縦ロールの王女さま?とストレート赤毛の聖女さまと黒髪巻き毛の聖女さま、緩い金髪の聖女さま、それにどこかで見たイケメンが立っていた。
同じイケメンでも俺の連れとは月とスッポンくらい違う。まあ、俺の連れと比べたら可哀想だよな。
マジで俺の連れ、顔面偏差値100超えてるし。それでいて、俺の護衛してくれるほど強い。はっきり言って、世界最強。
「まだ勝手に勇者を名乗っているだけでなく、魔族との友好とは、何を考えていますの?!」
「俺が勇者なのは王女さまたちが決めることじゃないし、何をしようが勝手だろ!」
「そうはいきませんわ! 勇者はフィルですわ!」
「そうよ!」
「フィルよ!」
「フィルに決まっているじゃない!」
王女さまたちは口々にフィリップが勇者だと言う。
「勇者失格だったお前が、魔王の手先になってもまだ勇者を名乗っていることをおかしいと思わないのか!」
ついでにそのフィリップもその気だった。王女さまたちだけだと思ったのに、本人もそう思い込んでいたなんて・・・。
俺の認識がおかしくなったのか?
勇者って、神殿や神官が認定するもんだよな?
今だって、神殿は俺のことを勇者認定してるし、取り消しなんかしてないと思っていたけど、つい最近、認定取り消しになったとか?
取り消されたのなら、取り消されたでいいじゃないか。
俺が勇者だっていうのが元々おかしかったんだよ。
勇者だろうが、なんだろうが、俺は俺が正しいと思うことをするんだ。
「俺が勇者でどこがおかしい? 魔王を倒すのだって、魔王が魔物を操って人里を襲わせているからだろ? 魔王が魔物を操っていないなら、魔王を倒す理由なんてないじゃないか。それよりも、魔物の特徴や弱点を各国に広めたり、魔族に冒険者になってもらって魔物退治を手伝ってもらったほうがいいじゃないか」
「何を言っても無駄ね。せっかく、穏便にすませてあげようと思ったのに、残念だわ」
「魔王に洗脳されているんだわ!」
「こんな人に勇者なんか任せていられないわ、フィル!」
「フィル! 誰が本物の勇者か見せてあげましょう!」
「いや、あんたら人の話、聞けよ!!」
「行くぞ、偽勇者!」
「いや、俺、本物だし!!」
切りかかってきたフィリップの剣は俺に当たる前に粉々に砕けた。
「なっ?! アダマンタイト製の剣が砕けた、だと?!」
「うそ?!」
「フィルの剣が?!」
「?!」
「アダマンタイト製だって?!」
マジかよ?!
めっちゃ高くて、おっさんたちも欲しいって言ってた剣じゃねーか。
買いやがったのか?
ホントに買いやがったのか?
どっからその金用意したんだよ?!
連れの仕業だと知ってる俺はアダマンタイト製の剣を心の中でツッコんだあと、一人すました顔で立っている連れに目をやる。目の色が人間に見せるために変えている黒じゃなくなっている。
うわー・・・。お怒りになっておられる・・・。
キャシー。兄ちゃんは今日、死ぬかも・・・。
「偽勇者! お前、何をした?!」
「いや、俺、何もしていないし」
「じゃあ、誰がやったんだ?!」
「隣にいるだろ?」
「隣って、そいつはお前の連れなのか?! お前の実力じゃ、ありえないだろ?」
「そうよ! あんたはおっさんたちがお似合いなのよ! こんなに顔がいいのがあんたの仲間のはずがないじゃない!」
「ちょっと待て! 顔で仲間が決まるのかよ!」
「あたり前ですわ! 顔と能力は比例するものですもの。秀でた者は秀でた者と引き合うのですわ。わたくしたちとフィルのように」
「はあ・・・?」
「そうだわ。あなた、わたくしたちと一緒に行きませんこと? 偽の勇者と組んでいても、いいことはありませんわよ」
「考慮する余地もない」
「そうですわよね。考慮する必要もありませんものね。お名前はなんとおっしゃるの?」
「ワットを悪く言う人間に名乗る名はない」
「・・・あら、わたくしの聞き間違いかしら?」
「頭どころか耳まで悪いのか?」
連れは呆れて溜め息を吐くと、粉々になったアダマンタイトに手を伸ばす。そしたら、アダマンタイトがその手の中に吸い込まれるように消えていった。
「俺のアダマンタイトがー!!!」
「このアダマンタイトでワットに剣を作ってやろう。ドワーフに頼めば素晴らしいものができるだろう」
連れはフィリップをスルーして好き勝手なことを言っている。
「あ。剣、作ってくれるの? それもドワーフに頼んで?! うわ。うっそ。滅茶苦茶、嬉しい」
ドワーフが作った武器防具はすごいって言うけど、アダマンタイトで作った剣だなんてすごいじゃん。伝説級の剣じゃん。
勇者に選ばれたけど、勇者専用の剣なんかなかったから、ノースリーフの城の宝物庫の剣を与えられていた。
ま。それも、勇者パーティから追い出された時に宿に置いて行かされたけどな。
アニーとぺコリーヌが持ってきてくれなかったら、俺、武器なしで追い出されるとこだった。野垂れ死ねって、言われてるもんじゃん。
それが、ドワーフの作った剣?!
それも、アダマンタイト製?!
ドワーフの作った物自体が人間の国に出回ることが少ない。だって、ドワーフは妖精種だから。
人間と妖精種は仲が良くないので、妖精種たちは魔族の街に棲んでいる。
昔は種族ごとに村を作って暮らしていたこともあったらしいが、妖精種たちは人間に奴隷として狙われたらしい。そこで妖精種たちは騙して奴隷にする人間を厭い、魔族の一員になってしまったそうだ。
初めて魔族の街に行った時、俺も驚いた。妖精種は人間を嫌って、身を隠してしまったと聞いたからだ。
そんな彼らの住む魔族の街には人間も行けるし、移住することも簡単にできる。
どうしてそんなことができるかというと、魔族の街には厳格な掟があって、その街では正当な理由のない犯罪を人間が犯した場合は出身地にまで罪が及ぶ。奴隷にしようと騙したり、攫った時点で、実行犯だけでなく、その家族が住んでいる街諸共消すからだ。
勿論、魔族や妖精種を買った相手もちゃんとその責任をとらされる。責任をとらなくてもいい場合は彼らを保護して、魔族の街に戻した者だけ。
そんなリスクまで負って犯罪を起こす気がある奴は最近少ないそうだ。
それもそうだろう。魔族たちの住む地域と人間の住む地域の境を抜けるには一週間かかるが、その間にある廃村や焼け焦げて崩れ落ちた街の痕跡はその報復の結果だ。
「あんた、俺の剣を――!!」
フィリップが叫んでいるが連れは完全にスルーだ。
「行くか、ワット。街中で魔法は使うなと言うが、これ以上、この者たちに関わっているのは不快だ」
「ちょっ――」
話の途中で転移魔法を使う連れは自由人だ。
魔王討伐が盛んだった時期もありましたが、ワットの時代はエルフやドワーフ、獣人が魔族の一員になって人間と敵対しているため、魔王討伐用の神聖武器や道具、魔法は人間側には残されていません。
実は魔物から助けてもらった村々ではワットは大人気。密かなモテ期が来ていましたが、ほぼ村娘ばかりで、一緒に旅に出る実力もなく、例の三人娘からの牽制でワットとはお近付きになれませんでした。
女冒険者も例の三人娘に追い払われています。




