12話 「力強く頷いた」
魔導研究所は昨日と同じく、すごい数の人だ。
昼前の食事に向かう人が出入り口に殺到して混雑もするのだろうが、相変わらず人口密度が酷い。
俺は記憶していたケティとアイクのいた露店のあたりまで歩いていく。
すぐに見覚えある人物を見つけた。アイクだ。
俺がアイクを見つけたのと同じタイミングで、向こうもこちらに気付いたようだ。うさんくさい笑顔を浮かべて、手を振っている。すると、となりからにゅっとケティが生えた。露店の棚で死角になっていたところにしゃがんでいたらしい。
二人とも揃っているようだ。
「やぁデニー。考えてくれたかな?」
にっこりとさわやかなイケメンフェイスを披露してくれるアイク。俺は曖昧な笑みを浮かべながら、小さく首を振った。
「アイクにケティ。すまんが、仲間にはなれない」
「……理由を聞いても?」
「冒険者なんだろう? だけど俺は依頼を受けて魔物と戦う必要はないし、これまで通りの旅で十分なんだ。2人には悪いが、冒険者なんて危ない仕事は出来ない」
「へぇ……なるほどね」
これが俺が一晩ぼんやり考えた内容だ。冒険者そのものを否定する。いくらなんでも、いいえ冒険者は危険ではありません、などとは言えないだろう。彼らは命をかけて仕事をしているはずだ。そのプライドを曲げるようなことは出来ないはず。
アイクは一瞬だけ悔しげに眉を顰めたが、すぐに気のいい好青年の笑みを浮かべた。隣ではケティが、なにやら驚いたような顔をしていた。
「……いや、なんとなくだけど。私、デニーはチームに入ってくれると思ったんだよね……勘が外れちまって、びっくりしたんだ」
「すまん。ただ、冒険者を嫌っているわけじゃないんだ。誤解しないでほしい」
「いいのよ。縁がなかったのは残念だけどね」
ケティがさらっと流してくれた。
「それじゃ、そういうわけで。また縁があったら会おう」
「ああ、またな」
「またね」
……よし。ちょっともったいない気もしたけど、これで良かった。
実のところ、俺は冒険者になることそのものは全然構わない。というより、俺はそう遠くないうちに冒険者になるつもりだ。けどそれはあくまで時間つぶしに、ソロで活動するつもりだ。パーティを作って一緒に行動するより、ひとりで自由気ままに活動するほうがいろいろと面倒がない。どの魔法は使っていいとか、どの魔法は使っちゃダメとか、そういうの考えなくて済むしな。
唯一、知らない魔物に奇襲される、みたいな可能性があるのが怖いけど……要勉強だ。あ、奇襲されないように遠距離爆撃で――って、バジリスクみたいな潜伏系の魔物がいるからだめか。察知系の魔法探さないといけないな。
考えをまとめながら、俺は素材を売っている露店から離れた。
次に向かったのは魔術具の中でも花形、魔法の力が込められた杖や防具、剣などだ。
俺は最初、疑問に思った。それって、付与魔法を使った武具と何が違うのかと。
答えは単純だ。魔術具の効果は永続的、付与魔法は短時間で魔法が切れる。一番相性のいい金属ですら、長くて二日が限界だ。
十分長い、と思うかも知れないが、仮にここから北のダンジョンまでの距離を考えると、休み無しで行動して、現地についてから数時間しか効果が続かない。もちろん、不眠不休で魔物と戦えばどうなるかなんてことは新人冒険者でもわかるため、もはや机上の空論でしかない。
付与魔法を使える魔法使いを連れていけば解決するが、パーティ全員に付与魔法をしつつ、自分も魔法で戦闘に参加するとなると、魔法使いには魔力の総量的に、かなり厳しい。
マナポーションというそのまんまな回復アイテムを使えば問題はないが、それは単価が恐ろしく高い上に貴重品であまり出回らないため、現実的ではないだろう。
以上のことから、基本的に付与魔法使いは重宝されるが、必須というほどではない。むしろパーティに加えるなら、攻撃魔法に長けた人間のほうが良いとされる。
……あれ。そうするとなんで付与魔法が使える俺をアイクたちは誘ったのだろう。地味な疑問は残るが、それはさておき。
話は脱線したが、そんな理由で、永続的、かつ魔力の少ないものでも扱うことの出来る魔術具は中堅冒険者がちらほら持ち始めるような代物で、ぶっちゃけお値段が高い。非常に高い。
性能が良いものになると、それこそ金貨が必要な金額だ。
故に、露店に並んでいるものはほかの店のように、客が自由に触れられるようなスタイルではなく、店主の背後に並べられている。客は店主の前でその商品の説明を聞き、購入するかどうか検討するスタイルだ。
その関係上、露店を真剣に見て回っているのはどれもそれなりの雰囲気をもつ者、つまり実力者になる。俺のようにお気楽に眺めているものは、冷やかしの類だ。ショーウィンドウに張り付く子供に等しい。
暇そうな店なら、説明を求めればそれなりに丁寧に説明してくれる。まぁ、たまにしっしと手で払われてしまうこともあるが、ただの冷やかしなのだからそのときは素直に立ち去ればいい。
もっとも、俺の場合は神の知識――ではなく、『看破』の魔法をちょこっと使えば、込められた魔法がある程度判明するため、嫌な思いをすることも殆ど無い。
『看破』は基本魔法の『探知』の上位魔法だ。どちらも魔法的な力を発見する魔法だが、探知は魔法が込められているかどうかまでしか分からない。看破は込められた魔法が何なのか、という部分まで分かる。
魔術具を調べる時は、この看破の魔法が最適だ。神の知識で無理やり思い出そうとすると、余分な情報が凄く多い。これを作ったのは誰ソレで……みたいな、どうでもいい内容だ。
俺は露店を見て回りながら、看破の魔法を連続で使用していた。ちなみに無詠唱だ。こっそり使おうと思ったら出来たので、偶然だけど嬉しい発見だ。
ちなみに、面白かったのは『隠蔽』の効果が込められたローブだ。隠蔽の魔法は、周りから見えにくくするという単純な魔法で、嗅覚や聴覚が発達した魔物にはあまり効果がない。しかし、対人なら話は別だ。
込められた隠蔽魔法そのものがあまり良くないのか仕様なのかわからないが、普通に半透明に見える。
だが、店主の男は実に堂々としたものだった。俺がローブを眺めていると、夜闇に紛れれば使えないこともないぞとこっそり耳打ちしてきた。
俺は力強く頷いた。
値段を見てみると、銀貨70枚だった。……ちょっと欲しい。
なんでかってそりゃ……ねぇ? 男子の夢なんだ。この他にビームサーベルとかドラゴンとかあるけど、透明ローブも負けないくらい人気だと俺は思う。
俺も作れないかな。
神の知識――ほお。
どうやらこの魔術具は錬金術で作られるものだそうだ。
この錬金術とはどこかの金髪国家錬金術師のあれじゃなくて、もっと古めかしい、棒を片手に壺の前でくるくるするような、そっちのイメージに近い。いうなればアトリエ的な。
ただこの世界のアトリエは魔法というよりも、科学に近い。長くなるので詳細は省くが、分量の調整とか込められた魔法の力に対する魔法触媒の量とか質が毎回変わり、しかもその日のマナの流れなんていう微妙な変化にも影響されるという、かなり臨機応変な作業が求められるそうだ。その複雑な工程から、同じ製品は二度と作れないと言われているらしい。
どれもこれも一品物ってわけだ。もはや職人芸。
俺には……ちょっと難しそうだ。
でも欲しいなぁ。70枚かぁ。
グレゴリウスに……いや、さすがに無理か。
すると……あれだ。
やっちゃう? 精霊石。




