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13話 「俺なら絶対しない」

 昨日、ケティと話していた時に露店を回っていた時に、精霊石の話題があったことを覚えているだろうか。なんでも、精霊が作ることの出来るマナの結晶体で、非常に高価で取引されるのだとか。

 そして俺は大精霊。精霊の王様。

 すでに、精霊石を神の知識で思い出して、作るのに問題はなさそうだということは調査済み。作り方も極めて簡単、体内のマナを凝固させるだけ。

 気をつけることと言えば、これは精霊独自の技術のため、作る姿を見られてはいけないことだろう。グレゴリウスにも知られる訳にはいかない。

 魔導研究所内は人が多すぎてダメ。

 夜の間に、神殿で作るべきだろうか――などと悩んでいる俺の横を、なんだか裕福そうなおっさんが通り過ぎていった。そして、件の透明ローブの前で、熱心に店主と話をし始めた。

 ちらり、と店主が俺の方に視線を送る。

 俺は、必死の思いで首を横に振った。

 しかし、店主は残念そうに眉を下げてみせた。それから、笑顔でおっさんに向き直る。


「あっ」


 俺が短く声を上げる中、おっさんがなにやら重そうな小袋を手渡し、店主が中身を慎重にカウンターに広げる。ジャラリと銀貨の輝きが広がり、枚数を確認した店主がうなずいた。

 俺が見守る中で、背後のローブを売ってしまった。

 な、なんということだ……。

 結構欲しかったのに……。あれを被って、夜の帝都を駆け抜けてみたかった。なんなら怪盗ごっこみたいな感じで、屋根から屋根に飛び移ってみたかった……。うっすらと夜の闇に揺らめく謎の怪盗、しかしてその正体は――みたいな妄想まで思い浮かべていたというのに。

 なんだよ……せめて俺が見つける前に売れてくれればショックも少なく住んだのになぁ。

 俺はすっごいがっかりして、魔術具の露天スペースを後にした。


 魔導研究所を出て、俺は適当に通りを歩く。と、なんだか廃屋っぽい雰囲気の建物を見つけた。ここなら人目もなさそうだし、精霊石を作ることもできるだろう。

 ……もう、作っても意味ないのだけれど。


「あーあ。やんなっちゃうなー」


 とは言え、ほかにすることもないから廃屋に入っていく。せっかくだから作るだけ作ってみようと思ったのだ。

 廃屋――具体的には、木造の建築物だ。周囲の建物の多くが石造りであることを思えば、木製というのは珍しいだろう。とはいえ、朽ちた壁や天井が目立ち、珍しかろうがなんだろうがここに建物としての価値はない。

 しかし、どことなく人の気配がする。

 床に散乱している木材が、ちょうど人ひとりが通れるくらいのスペースだけ片付けられているところとか、これだけボロボロなのに家の敷地内には雑草が生えていないところとか。

 人が来るような場所ではないけれど、誰も来ない場所ではない。

 周囲の不良のたまり場になっていそうだ。不良というのは冗談にしても、似たような感じで誰かが使っているのかも知れない。

 とはいえ、今は誰もいない。

 俺は廃屋の隅、もともとは風呂場だったであろう場所を見つけ、ここで作業することに決めた。ここだけは、壁に穴が空いておらず、外から見えないのだ。


「さてさて――ではやりますか」


 穴の空いた桶のようなモノをひっくり返して即席の椅子にして座り、俺は両手を前に突き出してうんうん念じた。

 傍から見たら便秘で苦しんでいる人に見えそうだが、精霊石を作る作業はかなり簡単で、特別何かの魔法を使うわけでもなければ、技術も必要ない。

 必要なのは、ちょっとの勇気だ。


「よいしょーっ!」


 気合を入れると、ポロリ、と俺の指が落ちた。五指全部。


 はっきり言おう。衝撃的な光景である。

 しかし、次の瞬間手から光が溢れ、俺の指は数秒で元通りに復活した。

 当然だ。俺の身体は魔力を固めてこねただけの霊体。乱暴な表現をすれば、俺そのものが精霊石の塊みたいなものである。

 そこらにいる精霊は、自分を構成するマナを削って、精霊石を生み出しているのだ。それには大変な苦痛が生じるため、精霊は相当仲が良い相手にしか、精霊石を生み出すことはしない。

 理由を知れば納得である。精霊はどいつもこいつも変態だと思った。


 どんなに仲が良くても、俺なら絶対しない。


 だが、俺は普通の精霊ではないので問題ない。おそらく、構成されているマナの総量が圧倒的に違うからだろう。

 ちょっと説明が難しいが、俺は俺の身体を構成しているマナよりも、多くのマナを持っている。イメージとしては、俺のマナの一部を使って、この身体を構成しているという感覚だ。

 仮に突然隕石が落ちてきて、この体が吹き飛んでばらばらになっても、次の瞬間には復活できる。いちいち例えがグロくてすまんが、つまりはという大精霊のマナを一度に散らすレベルの攻撃を受けない限り、俺は何度でも復活できるというわけだ。

 これが普通の精霊になると、霊体を維持している大部分のマナが彼らの保有マナになるため、霊体が破壊されると精霊として維持するマナが足りず、大気を漂うマナの中に溶けて消えるだろう。

 だが、俺はちょっと比較にならないくらいマナが多いので、例えば俺の全身を精霊石に変換してしまっても、次の瞬間横に身体を再構築できるという寸法。

 もっとも、純粋な霊体化には時間がかかるから、また一からぴかぴかしなくてはならず、いうほど一瞬で復活できるわけではないのだが……。


 ま、そんなことにはどうせならないので問題ない。


 ちなみに、俺の身体を構成したまま、もうひとつ別に霊体を作り出すことは可能かというと、可能だ。しかしそれは本当にただの肉体であって、俺という意志は存在しない。あくまで、俺という意志は一つでしかないらしい。


 ながなが説明になってしまったが、そんな理由で俺は精霊石生み出し放題、売り放題というわけだ。

 これからはなにか欲しいものがあっても、すぐに買える。きっと。ぜったい。


「……」


 俺はなんとなく、精霊石(若干細長い)を半分、つまり片手ぶんの五個ほど、風呂場の地面に埋めた。床の木材はところどころ剥がれて地面が見えているのだ。

 お宝だ。

 きっとこれを見つけたやつは、ひと財産になるぞ。大丈夫、指には見えないから。なんか細くてまるっこい石だから。

 俺からのおすそわけってやつだ。


「なんか良いことすると、気分がいいなぁ」


 俺はちょっと満足しながら、廃屋を後にした。




 話は飛ぶが、それから三日ほど、魔導研究所の中をうろついていた。

 もちろん夜は神殿に帰って読書をしている。その間、一度も寝ていない。まったく眠気がないのだからしかたない。

 夜が長いことを、一体どれほどの生物が認識しているのだろうか。

 ここには面白いゲームもアニメもない。小説もなければ漫画もない。


「あたまがおかしくなりそうだ」


 聖イリア王国で目覚めて、5日目。

 することもなく外をぶらついていた俺は、早くも限界に達していた。

 暇で暇で、やることが何もなくて、死にそう。

 不眠不休でも何の問題もない生物って、一体何のために生きてるんだろ。

 俺は早くも心が折れかけていた。自分の存在意義を考えつつ、もうその辺の一般人適当に捕まえて「はい、あなたは今日から勇者です」で良いような気がしてきた。適当だと思うか? そんなの知るか……。もともとは神様の仕事だし、そこまで俺が気にする必要あるのかよ、って思考に傾いている。

 結局祭壇にベッドは持ち運ばれなかったし、ウィンドウショッピングはもの珍しかったけどだんだん飽きてきたし、本だって気になるのは読み終わったしで、もはや興味を惹かれることはない。


「死因が……暇……」


 何故だ。

 異世界転生とか、小説とかアニメで見てる分には心が踊った。

 面白そうだと思った。

 しかし実際なってみると、なんだか目覚めていきなり軽い神だし、寝れば千年経つし、誤解されてるし、祀られてるし、人類滅びそうだしで――不意に首を傾げた。


「あれ? ……でも、暇なのって俺だけじゃね?」


 そうだ、人類滅亡の危機だったわ、今。

 『快楽』の魔王とかいうやつが、北の方で暴れてるんだっけか。んで、それをどうにかするために、今グレゴリウスに頼んで勇者候補を集めてこいって、そういう流れだったんだよな。

 なんでかグレゴリウスがいろんなところに告知しようとして、招集までに一ヶ月もかかるって話になったんだ。

 俺の中に、ふといい案が浮かぶ。

 そうだ。俺が勝手に見つけて、それっぽく勇者にしてしまっても良いんだ。


 だって、結局は志願者の中からひとり選ぶだけだろ?

 なら、勇者になりたいなって思ってそうなやつを引っ張ってきても問題ないじゃないか!

 大義名分我にあり!

 いざゆかん、冒険者組合へ!

だらだらと申し訳ありません。この後に別視点を一つ挟んで、そこから展開が早まります。

3/26 作った精霊石の数と埋めた精霊石の数が書かれていなかったため、追記しました。

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