増える
「イエーイ!久しぶりに帰ってきたぜ我が家!!」
「一ヶ月程度しかいませんでしたけどね。これってわざわざ建てた意味ありますの?ほとんど家にいないじゃありませんの。」
「俺はちょいちょい転移して戻ってきてたけどな。たまにこっちでも寝てた。」
「自分だけなところがさすがとしか言えませんわ。というかその手がありましたわね。今度から私もそうしようかしら。」
「え、何お前転移できんの?」
「この前転移系の魔法は大方出来上がりましたわ。」
「おぉう、俺のアイデンティティがさらっと減りやがった。」
魔法だからの一言でなんでも済ませるのはいかがなものかと思うが、実際洗脳と言いどんどんリコリスの有能性が増してきている。そのうちできないことなど無くなっていてもおかしくなさそうだ。一つ世界を作り出しても不思議じゃない。というか今聞いても「あら?できますわよ。」とか肯定してきそうなのが空恐ろしい。
と、話の流れからわかると思うが、一行は今、帝国にあるマイハウスへと戻っていた。なんだかんだ一ヶ月以上ほったらかされていたが、埃がかぶっている様子はない。先ほど、響が時折帰ってきてたと言っていたが、その時に掃除も済ませていたのである。こういう変なところでマメなやつで、お陰で帰ってきて早々家中の掃除だなんて疲れる真似をしなくて済んでいるわけだ。
「・・・さらっと家を買うって普通じゃねぇなこれ。」
「もしかして霧村くんはここに永住する気なのですか?かなり立派な家ですけど・・・」
「ちげーよんなわけあるかバリバリ帰る気だっての。精神的に帰る家があったほうが安まるから買ったの。アンダースタン?」
「まぁ、なんだかんだ宿ってどこか疲れが残るもんな。」
「でも、仮屋にしては広くない?豪邸って言ってもおかしくないと思うんだけど。」
いうのを忘れていたが、章太郎たちも一緒についてきていた。特段行くところもないし、稽古をつけてもらえるしで、いっそ響たちに最後までついて行くことにしたのである。
また、ソロモンやベロニカも同じように一緒に来ていた。
フランチェスコの一件の後、生きていた騎士団長のアギリアスを筆頭に国の再建が図られていた。響もなんだかんだで、あの部隊のほとんどを殺してはいなかったのである。曰く、「あいつも俺を殺す気まではなかったし、それならこっちもそこまでムキになる必要はねぇからな。それに後のこと考えてもこれが最適解だっただけだ。」と、語っている。再建の筆頭は団長自身が望んでやったことなのだが、そこまで見通して響は生かしておいたのかも知れない。
閑話休題、それでこの騒動結末なのだが、女王は死に、すでにソロモンの実父である国王は他界しており、二人の間に子供もいなかったため王位継承権があるのがまさかソロモン一人だったというオチがついた。まさか一夜にして一国を納める羽目になるとは本人も思っていなかったらしく、そもそも今はそんな気はないとのことで隙を見計らって脱出。そのまま休遼を終えて帰るところだった一同についてきたという次第である。
ベロニカの方はもっと単純な話だ。というかソロモンだって色々知ってしまったわけだしもうついてこいお前ら、となったわけである。それに加えて今更ソロモンを爪弾くほど響も非道でもないし、ベロニカには物作りの才まである。抱えておいてプラスしかないのだから響が渋る理由もなかった。
一方ベロニカの方も不満もなく、むしろ自分から興味深々でついてきたぐらいだ。かつてエーヴィルが夢見て足を踏み入れた冒険というものを知りたかった、ただそんなちっぽけな理由だけれど、それが彼女の大切なものであるからこそ、こうして今一緒にいるのだ。
「まぁ適当な部屋使え。一応最低限のものは用意してあるからそこは心配しなくていいぞ。要望があったら言ってくれ、次帰ってくるまでにはできてるだろうから。」
「また働かせますのね、あの・・・なんでしたっけ名前。」
「・・・あー、ほらえっとあれだよあれ。・・・あれあれ。」
二人してすっかり忘れてしまったらしい。多分このままでは一生出てこないだろうと悟ったのか、パイフェンが答えを口にする。
「・・・ダニアン・ドワイフさんですね。ついさっきあったばかりなのですが・・・。」
「まぁおっさんとしか呼んでなかったししゃーないしゃーない。」
しゃーないで片付けるのもいかがなものかね。といってもさほど重要な人物でもないしわざわざ脳の容量を減らしてまで覚えるようなことでもないか。いや、やはりかなり世話になっているのだからちゃんと覚えておくべきだろう。世話になっているというより世話をかけているという事実はあまり声を大きくして言えないことだが。
「ていうか私たちもこの家使っていいのか?」
「今更だろ。部屋は腐るほどあるし減ったら地下でもぶち抜いて作らせるから好きに使えばいいさ。」
「えー、ならうちは響はんの部屋にでも・・・。」
「やめろ気持ち悪りぃ、来たら30回はくびり殺す。」
「・・・冗談で言うたんにそない本気で拒絶せぇへんでもええんやないの?うちかて傷つくんよ?」
「知らん、なら馬鹿なことを言うな。」
目にしたこっちが驚くぐらい嫌そうな顔で拒絶する響。それを受けて辿は珍しく真面目に凹んでいるようだった。まぁ、普段の息の合いようからはまるで考えられない仕打ちなので、凹みもするか。
「ったく、まぁ休暇っていっても一週間しかねぇししっかり休めよ。」
『次は日出国だっけ?』
ルールーが、次の目的地を書き出す。ウリエルの情報が正しければそこに次なる目的が潜んんでいるようだ。
話に聞くところによるとほぼほぼ日本のようだが、その情報のおかげで皆妙に浮き足立っていた。やはり若干のホームシックになっているのだろう。日本人であれば誰でも多少なりとも気になる筈だきっと。
「あぁ、行けるところまでは俺の転移を使うけどぶっちゃけ結構遠いからなぁ、流石にめんどくせぇ。」
「ば、馬車でも借りればいいんじゃないの?」
「嫌じゃ、あれに何日も乗ってるとか地獄だわ。」
「なら霧村くんだけ先に全力で行って後から私たちを運ぶのは?」
「余波で途中にある一切合切を灰塵にしていいならそれでもいいが?」
「うん、やめよう。」
下手すれば目的地すら木っ端微塵に吹き飛ぶ可能性すらある。現実的に、いや倫理的に考えてやめるべきだろう。被害がでかいとかのレベルじゃない。
「!それならベロニカさんに車でも作って貰えばいいんじゃね?」
「乗り物の問題じゃなくて道の問題なんだよなぁ。それにんなもんで行ったら明らかに目立つし捕縛れるぞ。」
「そもそも私の仕事をこれ以上増やさないでください。ただでさえ武器関連で馬鹿みたいに注文受けてるんですから。」
彼女はこれからリコリス、パイフェン、ルールー、響の四人以外の武器をオーダーメイドで作成しなくてはならないのだ。すでに製作に取りかかってるとはいえ数は多い、この一週間、休みが休みでない彼女にこれ以上の負担を背負わせるのは可哀想というものである。
「まぁ、地道に行くしかねぇよ、めんどくせーけど。とりあえず俺もやることすませますかねっと。」
「なんかあんのか?」
「ビヨンのところへ行って情報収集したり図書館行って資料借りてきたり久しぶりにライオットたちの顔見てきたり、巨乳をからかいにいたっりとやること目白押しだ。」
「最後何する気だお前。」
「というかライオットさんたちのことは覚えてますのね。」
まぁ、あっちはハゲたおっさんだから覚えるきがないんだろう。気持ちはよくわかるが、散々こき使われて挙句名前すらまともに覚えてもらえないとは、ドワイフがいたく哀れに思えて仕方ない。良心の呵責というものがないのだろうかこの男には。どうせないといい笑顔で言われるに違いないが。
「まぁなんだ、とりあえず体ちゃんと休めとけよ。一週間後にゃ歩き詰めの日々が待っているからな。」
「私は休めませんがね。」
「いやそれには頭が上がらないからあれなんだが、話の腰を折るのやめてくんね?」
♢
それから約一ヶ月の月日が経った。
一行は日出国への入国を済ませており、都である宇京の入り口まで後少しというところまで来ていた。
「はぁ、長かった。しかもめっちゃ疲れたわ・・・。」
「まぁ、色々あったもんな・・・。休暇も休暇じゃなかったし。」
「巻き込まれすぎっていうか、なんていうか・・・。うん。」
「喋るレアチーズケーキ、ティアラちゃん事件から始まり、アンミリテッド豆腐ワークス、ボロボロの発泡スチロール殺人事件、極め付けはあの事変・・・あれはまじでやばかった。ほんっとやばかった。」
体をぶるぶる震わせ青ざめながら言う響の言葉に、皆同じように体を震わせながらしきりに頷いている。どうやらその件の事変は相当やばい案件だったらしい。あの響ですら恐怖に身を震わせるとは、一体なにがあったの非常に気になるところだが、またどこかで話すこともあるかもしれない。
「て、帝国から出てここにくるまでも厄介ごとばっかりだったし・・・。」
「ほんとなんであんな色々巻き込まれるかね。」
「お前がいうかお前が!あれの半分以上お前が余計なことやらかしたり、無闇に好奇心で首を突っ込んでいったせいだろうが!」
「なんだよ人をトラブルメーカーみたいに言いやがって。」
「まごうことなくお前はトラブメーカーだろうがっ!!お前をそう言わないんだったらこの世トトラブルメーカーなんて誰一人存在しなくなるわ!!」
「待て待て、トラブルメーカーってのは意図せずなにかやらかす者のことを言うんだぞ。どっかのサバゲー部の顧問みたいに。俺は違う。」
「は?・・・つまり確信犯じゃねぇかテメェェェエエエ!!」
「はっはっは、そう騒ぐな煩わしい。カルシウム足りてねぇんじゃねぇの?小魚食え小魚。」
「足りてねぇのはお前の常識だ!!」
連太郎の叫び声が周囲にこだまするが、当の本人である響はなんら気に留めた様子はない。いつものことだが、なにを言っても無駄そうだ。
そんなことよりも響は周りの景色の方に関心があるようで、あたりをキョロキョロと見回していた。
「なんかあれだな。妙に見慣れたというか知らんこともない雰囲気になってきたなここいら。」
「そうですね。建物が茅葺屋根なので古臭い気もしますが、それはそれで懐かしいというか・・・。」
「そりゃ日出国やからなぁ。予想はできたんやないの?思うとったよりもまんまやけどなぁ。」
こっちに来た組が、響の言葉に賛同している。確かに、広がる田畑やそれを耕す百姓のような格好をした農夫。アリスが口にしていた茅葺き屋根の小屋。実際に見たことはないが、流れている日本人の血が、昔の故郷に似ているとざわついているのだ。
「はぁ、私達にはよくわかりませんが、それよりもさっさと行きませんこと?流石にもう疲れましたわ。」
「一応お昼ごろには着く予定なので、後少しですね。なんとか昼食は取れそうです。」
『なに食べる?というかなにがあるの?多分おんなじなんでしょ?』
「鰻食いてぇなぁ。後は天ぷら、舞茸のやつがあるとベスト。」
「いやここは寿司だろ。せっかくなんだし豪勢に行こうぜ?」
「天ぷらって聞くとうどんや蕎麦もいいよな。それか丼ものとか。」
「・・・ラーメンねぇの?」
「「「「ねぇだろ」」」
「すき焼きとかどうだ?私は魚より肉派だな。」
「鍋物もいいですね。気温的に少し時期外れな気もしますが種類も色々ありますし。」
「私は甘味も欲しいかな?桜餅とか。」
「ちなみに俺らが桜餅って言ってるあれ正確には道明寺で、どら焼きの生地みたいなので餡巻いたやつの方が桜餅な。」
「・・・霧村君変なところで細かいよね。」
「うちはなんでもえぇなぁ。あじないもんやなかったらなんでも。」
と、それぞれ今日の昼餉をなににするかで盛り上がっていた。久しぶりの日本食ということもあってテンションが上がっているようだ。
「まとまりませんね。まぁ、それならついてから考えましょうか。出てきたのが全部あるとは限りませんし。」
「まぁ、そりゃそうだな。さっさと行きますか。」
♢
そんなこんなで、正午過ぎ。響達はようやく目的地の宇京の入り口である門の前まで来ていた。紅く彩られたそれは立派な八脚門で、まるで芥川龍之介の羅生門を思わせるようだった。また、都自体は正方形に白壁で囲われているようで、というかぶっちゃけまんま平安京だった。
「はえー、立派な門だなおい。あれか、この感じからして平安チックなのかねこりゃ。いや、いいじゃん。めっちゃいいじゃん。」
「テンション高いですね霧村君。こういうのお好きなんですか?」
「おう、大好きだわ。めっちゃ好きだわ。」
「うちはあれやなぁ。なんや地元と変わらん気がしてつまらんなぁ。」
「まぁ、京都だもんね。嫌いなの?ああいう街並み。」
「嫌いってわけではないんやけどなぁ、何年も住んでるとなんやあきてきはりますのよ。」
「お前京都様に向かってなんてこと言いやがる。」
「京都様って、あんさんどんだけ好きなん?」
「つーかそもそもお前学校に半幽閉されてんじゃねぇか。飽きるもクソもそこまでであるかねぇだろ。」
「あ、バレた?」
どうやらいつも通り彼女の戯言だったようで、悪びれた様子もなく笑っている。
とりあえず相手するのが面倒作なったのか無視して入都の手続きを済ませる響。
今まではわざわざ密入国じみたことをしていたが、ぶっちゃけどこもそこまで厳密にしていないし、そもそも今回はお尋ねものもいないし、一々そんなことに労力をかけるのが無駄、別にもういいかとやめたようだ。
名前を書くだけという簡単な手続きを終え(一応偽名を使ったようだ。)、門を潜って街中へと足を踏み入れる。
中は活気に溢れており、茶屋や飯処、染め物屋から畳を扱う専門店まで様々な店が揃っており、少し派手目な色の着物を纏った娘達が他に負けてなるものかと声を大きくして客引きをしている。
「平安ってか・・・江戸?」
「だな。」
「江戸やな。」
「江戸ですね。」
「うん、江戸だね。」
「見たことはねぇけど、江戸の方があってそうだな。」
「昔江戸村ってのにいったことあるけど、こんな感じだった気がする。」
「まーじかー。いやまぁこれはこれで嫌いじゃねぇけど。」
皆口々に溢すように、確かに江戸の街並みと言われた方が合っている。
ただ、遠くに見える寝殿造の屋敷を鑑みるに、どちらも混ざっているような感覚で、それは街中を優雅に走る牛車にも現れていた。
「牛車か・・・、どうも平安と江戸あたりのハイブリッドみたいだな。」
「あー、確かに時代劇とかでも牛車ってみないな。」
「完全になかったってわけじゃねーが。確か四代将軍らへんでの大火事騒ぎの時に作り出された大八車が主流になってな。小回りが効いてわざわざ牛を使わんくていい大八車の方がそりゃ流行るわ。」
「そもそもあないえらい豪華な屋形、貴族様しか使わへんとちゃいます?」
言葉の通り、屋形の外装には金銀朱色の細工が施されており、少なくとも一般の平民が乗れるような代物ではなかった。
「確か・・・この国も貴族制で、トップは帝というとビヨンさんは言っていましたね。それに色々と面倒な法も多いとか。」
「どうせみんな大好き墾田永年私財法だとみた。まぁ、とりあえず飯処探そうぜ」
そういうが早いが、響はそそくさと人混みの中へと足を踏み入れていってしまう。慌てて皆その後に続く。
「ヤベェ、ヤベェぞここマジヤベェ。」
「ヤベェしか言ってねぇじゃねぇか。ここの雰囲気が気に入ったのはわかるがもう少し落ち着け。」
「いやー、ヤバイはここ。いっそ永住したくなるわしねぇけど。」
「テンション上がりすぎておかすなことになってますわねこれ。うざったいことこの上ありませんわね。」
「テンション上がってキター!!!」
「今の会話のどこにテンション上がる様子があった!?」
「テンション上がってキター!!」
「またかよ!?お前のテンションのギア何段階あんだよ!?」
「テンション・・・」
「もういいわ!」
と、いつもの馬鹿みたいなやりとりをしつつ、歩くことかれこれ十分ほど。
偶然目に止まった飯処が、専門店ではなく萬揃いの食堂らしき店だったので、ここでいいかと入ることにしたようだ。
早速暖簾を潜って中に入ってみると、なかなかに繁盛している様子。とはいえ少し遅めの時間の昼食なので、なんとか全員が座れるだけの席は確保できそうだった。
とりあえず、席に座ってメニュー版を眺めていたのだが、妙に騒がしい。
「まったく、僕のどこに不満があるというんだい?他の有象無象ならいざ知らず、この僕だよ?」
「はい、ぶっちゃけるとお客様のそういうところが気持ち悪いからですね。後、毎日毎日しつこいです。」
「そもそもなんでそんな訳の分からない理由でいけると思ったのでしょうか?」
何やら男性客の一人が配膳係の娘二人をナンパしているようだった。しかも話の内容から察するに、これが初めてではなく何度も来ている様子。顔自体は非常に整っており美少年といって間違い無いのだが、極度のナルシストらしくそれがたかってか全く相手にされていない。
というかこの男、何やら見覚えがないでもない。
「そうだ、そうだった。この国にはお前らが来てるんだった。俺らのクラスで一番の問題児、自由人というか身勝手というかなんというか深く関わるのがめんどくさいやつ。」
「ん?あぁ、あいつか。ウチで一番キャラの濃い。」
「・・・何やってんだよ、千葉。」
男の名前は千葉蘭丸。響や章太郎たちと同じ興英高校2年B組のクラスメイト。歌舞伎座に名を連ねる家系の長髪の美少年。要は顔見知りだ。
「ん?なんだ君たちか。君たちもここに来た・・・美しい。」
「は?」
「ここまで美しい女性には出会ったことがないよ・・・。」
そういうが早いがつかつかと響たちの方へ向かい、迷うことなくリコリスの前へ出てその手を取って片膝をつく。
「ぜひ僕と契りを交わしてくれないか。いや、そうするべきだよ。」
「おい待て、普通ここは俺がいることに驚くべきだろ!?なんでそっち行ってんだよ俺を無視するんじゃねぇ!!」




