エピローグ・最後に手を叩くのは
かつて悪道を歩んだ魔女の成れの果てが、白面の大地に落ちる。全身は黒々と焼け焦げ、最早動けるだけの力は残ってはいないばかりか、どうあがいても修復不可能性なまでの負傷だった。
死合は終わった。響達の勝ちで、フランチェスコ敗北という結果をとって、終わったのだ。
皆、自ずとその残骸に集まる。正確には隣に降りてきた響とリコリスを迎えるためだが、結果としてそれにも集まっているのだから問題ないだろう。それよりも、だ。
「う、嘘よ、嘘・・・私がこんな・・・。」
全身致命傷のみの満身創痍とはいえ、流石と言うべきか、まだ息も意識も残っていたようだ。とはいえ、何をせずとも身体中に激痛が走り続けているこの状況、それが良いとは思えないが。死にたくても死ねないと言うのはどんな拷問にも勝る責め苦だと、たった五分でも悠久の地獄に感じるだろう。
「うぉ!?ま、まだ生きてるのかこいつ!!」
「当たり前ですわ。態々即死しないように調整しましたもの。全く、お陰で余計な神経を使いましたわ。」
「文句いてるくせにしっかりやってんじゃねぇか。別に俺の言葉無視して殺し切っても良かったんじゃねぇのか?」
愚痴を零すリコリスに、腰を突いて足を投げ出している響が問いかける。
「・・・まぁ、気持ちは分かりますもの。」
「ん、そうか。」
「・・・霧村君の指示なのですか?これまたいったいどうして態々そんなことを?」
アリスが口にした問いに、響は無言で目を閉じ、少し時間を置いてから自分の獲物を放り投げる。それはそれぞれソロモンとベロニカの前に突き刺さり、さぁ柄を取れといっているようだった。
「これは・・・。」
「えっとつまり・・・。」
「止めはお前らが刺せ。まずその権利と理由があるのはお前らだ。だから、お前らがやるんだ。やらなきゃいけない。」
「・・・それは。」
「・・・。」
「早くしてくれ。消耗激しすぎてこれ維持すんのキツいんだよ。」
額を抑えながら、本当に辛そうに催促する響。二人を促すための嘘とかではなく真面目に辛いらしい。まぁ、二つ同時に使ったようなものなのだ、無理もないだろう。それにこの中で一番の重症なのだから余計辛いか。
二人もここに来て躊躇っているだとか、覚悟ができていないだとかそういった話ではない。彼女に挑み、結果勝利してここまで追い詰めたのは響達だ。だから、こんな横取りみたいな真似をして良いのかと思うっているのだ。
「まぁ、このまま生き地獄を味合わせるってのも悪かねぇが、どうあがいても後数分で死ぬよこいつは。だからさっさと殺しちまえ。」
「良いのですか?私達は何もしていないのに・・・。」
「戦ったのは皆でしょ?それなのに。」
『大丈夫、二人とも、ううん、8人ともちゃんと頑張った。私はそれをちゃんと知ってる。』
「せやな。皆さんようやりはってましたしなぁ。ちゃんと自分の役目を果たしたんや。胸貼ってええのよ。」
「わかりました。やりましょう、やらなければいけないと言うなら、私が。」
「・・・私は。」
ベロニカは決めたようだが、ソロモンはまだ決めかねていた。頑張ったといっても自分は傷一つつけていない。そのことが未だ彼女を止めているのだ。実際はソロモンがいなければ全滅すらしていたかもしれない、貢献だけ見れば彼女が一番なのだが本人がそう思えないのでは何も言えはしない。
「・・・そうですね。章太郎さん、ソロモンさんを手伝ってあげてはどうでしょうか?」
「え?お、俺?」
突如呼ばれた章太郎が驚いたように自分を指差した。そしてそれを見た響は笑みを浮かべて肯定する。
「お、いいなそれ。良いアイディアだパイフェン。やってやれよ深山、寄り添ってやれ。それならソロモンも殺りやすいだろ?」
「・・・そうだな、ソロモンやろう。」
「章太郎・・・。」
「じゃ、じゃぁ、わ、私からも一つ。自分でやらないと、いつか絶対後悔するわよ。」
普段の吃るような喋り方からは想像もつかないほど、重くしっかりとした言葉。心底からそう思い、またそれを口にしたのがソフィアだ。他の誰よりも、言葉の重みが違う。
だから、だからこそ思い気持ちも動いたのかもしれない。実際は時間の問題だったのかもしれないかもしれないが、ただその言葉が届いたこと自体は確かな事実だった。
「・・・わかった。やる。」
「あぁ、それで良い。」
満足したような笑みで、響が返す。
そして、それぞれベロニカが『宴』を、章太郎とソロモンが『讌』を手にしてフランチェスコの元へと歩み寄っていく。
すでに虫の息を通り越え微かに呻き声が聞こえるのみ。これが、この魔女の最期。マンテウッチァ・ディ・フランチェスコその人の終わりの終幕。
今、掲げられた二つの霊刀が、振り下ろされた。




