終演の幕は落ち、ただ獣は嘯くのみ
二振りの黒刀を握り、光速に至速度でフランチェスコに肉薄する。そうしてそのまま左手に握った『宴』を魔女へと振り下ろした。
その斬撃は、彼女の能力によって別次元に逃れたために虚しく空を切るが、しかしこの刀はそれだけではない。『肴』と呼ばれる二刀を繋ぐ糸に繋がれた灰刀共が、『宴』が通った後をなぞって同じ動きをする。最初の一、二刀はまだ届かないが、連続して同じ動きをすることにより、最後の数本に至る頃には、フランチェスコは赤児の霊に引き戻され、その胸元に傷を作ることとなった。
胸元に痛みを感じ、急ぎ響から離れようとするフランチェスコだったが、彼がそんな暇を許すはずはない。
遠ざかる彼女に向け、弧を描くように『讌』を投げる。それは魔女の頭上を通り過ぎ、そして囲うようにうねりながら主の元へ戻ってきた。
「『カゴメ籠女の蛍袋』」
手の中へと帰ってきた『讌』と、『宴』を最後に引き寄せ、囲いを縮小させ、数百に増えた灰刀が全方向から突き刺さる。追い討ちをかけるように締め上げては刃を深く深く突き刺せてゆく。だが、手応えはない。魔女の姿はすでに離れた場所にあり、次の準備を始めていた。
「ッチ、逃げたか。」
「ただ捉えるだけじゃ無駄よ、お馬鹿さん。」
天から落ちる極光と地から上がる極光。ともに十度程角度の付いたそれが数をまし、迫るように空間を物量的に支配していく。
隙間があるのであれば避けること自体はそう難しいことではない。防ぐという手だってある。だがしかし、そうすると章太郎達がまともに喰らうことになるのが問題だった。流石にこの広範囲攻撃をソフィア一人で処理するには荷が重い。
故に、跡形もなく吹き飛ばすことがこの場の最適解だ。
「『蒲牢』」
迫りくる極光の境付近まで出て、パイフェンがその握った拳を突き出す。世界が揺れ動き、一拍の静寂ののち、轟音と激しい衝撃とともに、極光の群れは総じて消し飛んでいった。ただの力技のみで相手の一手を封じたパイフェンは、そのままフランチェスコの眼前まで移動し、ついにその爪を見せる。
「『Lost Fantasma 』、『九嬰』」
彼女の攻撃の前に、魔女は防御壁を貼る。最初の一撃は完全に防がれた。二つ目も、少しばかりか揺らす程度。だが、三つ四つとその揺れを増やしていき、5回目にはついにヒビが入る。その後はたった一度の拳で砕けちり、最後の7、8、9と顔面、鳩尾。左胸部を思い切り叩く。吹き飛んだフランチェスコの殴られた後を見ると、そこは一部やけようにただれ、赤ではなくドス黒い明らかに普通ではない異形の様子となっていた。挙句、そこは常に火傷跡に塩と山椒を混ぜたそれを、常に練り込まれているんじゃないかと思えるほどの激痛が走ってくるようだった。
「(傷が・・・、あの娘、攻撃一つ一つが呪いを付与する媒介になっているのね。最悪だわ。ただの傷ならすぐに治るけれど、呪いは後を引いて残るもの。だから極東の術は嫌いなのよ。)」
体勢を立て直し、フランチェスコは己が周囲に6つの魔法陣を展開させ、それぞれから追尾式の光芒が発射され響達に襲いかかる。速度は光速以上、当たれば軽い怪我では済まず、その上際限なく追いかけ回して来る厄介モノだ。
皆、避け、いなし、防ぎ弾き飛ばしながら気を伺い無力化を図る。響は縛り上げたのち粉塵レベルまで切り刻み、リコリスは術式を読み解いて解体。力技で押しのけたパイフェンと対応できる唄をぶつけた辿は問題無く、ソフィアに関しては皆を守りながら処理を完遂していた。
次手を打たれぬよう、急ぎフランチェスコの懐へと向かう響。手にした二刀を交差させ振りかざすが、空間の隔てりによって阻まれる。互いにその顔を寄せて睨み合うなか、一旦距離を置いて再度接近。しかし、フランチェスコはそれを読んでいたのか、そうなるように仕向けていたのか否か、配置式の罠を仕掛けており、無様にも響はそれに引っかかってしまった。
「しまっ・・・!!」
体をひねらせて逃れようとするが、その肩と膝、腰及び左下腹部を貫通生の極光に射抜かれ、そして超重量を纏った広範囲の極光によって地面へと叩き落とされる。
落ちた先で起き上がろうとするが、関節に穴が開いているために再起には多少時間がかかる様子だった。
続いてパイフェンが背後から拳を叩きつける。響一人に気を取られていたフランチェスコはそれをくらいノックバックを起こすが、しかし大したダメージはない。
だが、飛ばされた先で待ち受けるのは、鋭く狙いを定め打たれた一閃の矢。間一髪別次元へと逃げ切るが、戻ってくるタイミングを見計らったかのように首筋に冷たい感触が走る。
それは二つの刃を交差させものを断ち切るための道具。すなわち断ち鋏。本来の大きさとは比べものにはならない、まるで人体を切るためだけに作られたようなそれを手に持って構えるは人造の人型。
状況だけ見ればあきらかに万事休す。だが、幸いなことに人形自体の動きは遅く、須臾の時だが逃げ出すことは出来そうだった。しかし・・・
「!!、糸?!」
「お一人さま確保完了ってな。」
まだ足は動けるようにはなっていないが、それでも指一本動けば問題ないと、魔女の体を拘束して不敵に笑う響の姿がそこにはあった。
動けない。逃げる隙を奪われたどころか、力を込めてもそう簡単に拘束が溶けることはなさそうだった。
動く人形の腕。閉まる二枚の刃。それに比例して皮は裂け、肉は別れ骨は砕かれるはずだった。はずだったのだ。
「身体強化ですわね・・・往生際の悪い。」
砕けたのは骨でも、ましてや首ではなく己が役目を果たそうとしていた鋏の刃の方だった。
土壇場でフランチェスコは、避けるのではなく真っ向から耐え切ることへとシフトチェンジしたのだ。魔法を使い首その一点を極限まで硬くすることにより逆に鋏の方を壊すに至ったのである。
その後インターバルを終えて拘束を抜けるために再び身体を隠すが、明らかに先程よりもいられる時間が少ない。そればかりか、どうも体の動きが悪いのだ。
「動きが鈍いなぁクソババア。流石に呪われてる現状じゃぁ致死量の九千倍如きでも効果はあると、良い判断材料だ。」
「・・・毒ね。」
「水銀だ馬鹿野郎。ま、たいして変わりはねぇがな。」
結局人体に害があるものなのだから変わらないと、無駄に話を伸ばしてみる。だが、話を伸ばして時間をかけるというのは意味ある行為でもあった。
今、フランチェスコの体は呪詛と水銀によって蝕まれている。そしてその両方とも時間が経つに連れて全身に廻りその悪影響を強く出していくのだ。だからこそ今こうして僅かでも悪化させるために無駄話をしているというわけだ。
「(不味いわ・・・。あっちに行ってもほとんど同時に戻されちゃ、もう使わない方がいいかもしれないわね。なら、早く決めに行くのがいいのかしら・・・。そう、本気で。)」
世界が、世界が一転して模様変わる。白黒の墨風景から、嫌にカラフルな影絵が動く奇怪な風景へと変わり果てる。
嗤う道化師、狂ったように踊る少女、気味の悪い森の中や不可解な小屋。人、モノ、自然に情景、幾つもの決して表に出ることのなかった歴史の断片を、ちぐはぐに繋いで作られた世界。それを目にして、何かに感づいたのか、響は叫びながら観客席の方へと走り出した。
「!?まずっ!!ソフィア!!」
「!?」
「『誰も語らない夜の物語達』」
影絵はまるで砕かれたステンドグラスのように欠片となって降り注ぐ。注ぐ硝子の雨は一瞬時を止めたが如く宙で静止し、そしてその一拍ののち、真黒に浸食を始める。色とりどりの影絵の残骸も、それに反射して煌めく風景も、そして響達そこにいたフランチェスコ以外の全てのものが、暗く溟い漆黒の闇に飲み込まれていった。
「やっぱり、あなたならそうすると思ったわ。」
やがて暗黒が晴れる。避けられない無差別な全範囲攻撃の後にまず初めに目についたのはこれまた真黒いドーム状の物体だった。
よく見ればそれは無数の刀が折り重なったものであり、衝撃を防いだのか所々日々の入っているものもあった。半球状を維持していた刃の群れは少しずつ崩れていき、中からおもり役のソフィアを含め観戦状態の章太郎達が顔を見せる。
その姿に変わりはなく、先程の攻撃のダメージは受けていない様子だった。
その中に入っていなかったリコリス達はそれぞれ自分自身で防御行為をとっていて、無事とは言い難いが重症とまででもない。
ただし、響だけは別だった。章太郎達を守るために手持を使った故、もろに受けて損傷が酷い。間に合えば彼自身も入るはずだったが、気づいた時にはすでに遅くソフィアの貼った防壁の上から重ね掛けすることしかできなかったのだ。
「見捨ててしまえばいいのに、わざわざ助けるなんて。あら?でもよかったのかしらね、今度は間に合って。それとも彼女じゃないからそこまで満たされもしないのかしら?」
「・・・・・・二度目、だ。殺す。俺がこの手で、必ずその首を掻っ切る。気安くあいつに触れるんじゃねぇ・・・!!」
また、響の身体中から激情なる憤怒が燃え盛る。また最初と同じように、怒りが彼を支配しようとしている。たとえわかりやすい挑発とはいえ、触れられれば乗らずにはいられない様な大切な何かは誰にだってある。二度逆鱗に触れた相手を自身の手で仕留めようと強く思うのは、道理。
「術式1、2、3、72から83、91、92、。134から177、333から666まで規則展開『万華鏡』」
落ちる光帯の群勢。あたりは先程とは真逆の真白に染まる。おそらくこれでやられはしないだろう。しかし、牽制と時間確保も兼ねた一撃だ。十二分に役割は果たした。
そしてできたこの時間の間に、全員に作戦を伝える。
「『蜥蜴と花火』で行くぞ。」
「!いいんですの?『蛙の足跡』じゃなくて?」
「勝率を見れば最適解はこれだ。ただ、最後にはしないでくれ。」
「・・・理由を聞いてもええ?」
「このままだと最適解でも、最良じゃねぇからだよ。理屈じゃねぇ。」
「そういうことでしたら、わかりました。ではあたりが晴れてからで?」
「いや、アレが口を開いた瞬間だ。そこが一番油断してる。」
皆首を縦に振って肯定の意を唱える。といっても光の中にいるため見えはしないが、それでも見えずともその挙動は良く理解できた。
やがて光の群れは霧散し始める。ようやく周囲のものが判別できるようになった頃、何気なく声を出そうと女の口が開いた刹那、響とパイフェンの前衛二人が同時にフランチェスコ目掛けて駆け出した。そして、それと同時に洗浄に凛と冴え渡る唄の声。
「『東の野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ』」
魔女の周りで煌く銀灰色の輝き。それは戦場に不釣り合いなほど美しく、たった一瞬でも目を奪われて、それゆえに囚われてしまう。輝きの群れは前触れもなく、その姿を月そのものへと変容させる。質量、重力規模、性質その全てが空に浮かぶそれと同じ星。魔女をその核としてできた地上の月はただそこにその名の示すあり方のまま存在していた。
ただ外部から砕くのとはわけが違う。身体隙間なく埋まっているため動かすことはままならず、押し寄せる圧力がさらに拍車をかけているのだ。そもそも術がメインの魔女にそこまでの腕力も脚力もない。
だから、フランチェスコは己の莫大な魔力を爆発的に放出させることによって月を内部から砕いた。相応の魔力を使ってしまったが、仕方ないと割り切るしかないだろう。それよりも今彼女が対処すべきは目前まで迫った響パイフェンの二人だ。
足止めされた分、優位性は彼らに傾いている。だが、まだ取り返しがつかないほどではない、すぐに取り戻せる程度だ。まずは後退して距離を取り、大きなのをぶつければ良い。
「『渇望まみれた家来』」
今までのとは明らかに込められた魔力が違った。ただ量の増加だけでなく、魔力の質そのものが異質さに包まれている。数億本のナイフの群れ、それが合わさり一つの巨大な寸鉄を形成し、響たちに牙を剥く。集合したそれは魔力によって超加速が施されており、当たればまず間違いなく命はないだろう。
ならば響達はどうするか?もちろん避けるスペースはない。そう、そういう時は真っ向から力で吹き飛ばすのが吉だ。
「ま、任せて!わ、私が吹き飛ばす!!『疑・春風が誘う貴婦人の集い』」
持ち帰ることにより、パルチザンからランスに変形した『罪と罰』を、ソフィアはその用法通り力の限り投げつけた。雷轟のような畝り声を上げ、二つの獲物は激突する。最初はどちらとも一行に引く様子はなかったが、数秒ののちその均衡は覆された。
とはいえ、破った『罪と罰』の方もそれで力を使い果たしたらしく、フランチェスコに届く前に勢いを失い、落下していった。だが、前衛二人が無駄な力を消費しなくて済んだのは大きい。
『隙は与えない。そして、逃げる場所も与えない。』
続いてルールーが、空に向かって同時に矢を7本射出する。それはそれぞれ穂先に魔法陣を展開させ、そこを潜るとその数を7つづつに増やしていく。そして、最初の矢の七つを一つのグループとし、グループごとにまた魔法陣を作っては数を増やし、また作って数を増やしてていった。やがて矢は空を大ほどに増え、その全てが弧を描くように急降下してゆく。
『『柳は須臾に育つ』』
「ダメよ、それじゃぁ足りないわ。『嘆きの女王』!!」
現れた黒く悍しくのびた無数の腕のようなものが、フランチェスコを守るように次々と重なり合って囲う。ルールーが放った矢の雨は防がれ、そして際限なく出てくる腕のようなものは響たちを捉えようと君悪く、そして文字通り読んで字の如く腕を伸ばしてきた。
『なら、もう一つ!『午前3時の旅人』。』
今度は自由自在に曲がり動き回る、一直線に飛んでゆく矢という縛りを解いた光が腕その全てを貫いていく。その全てはものの見事に手の平の全く同じところを貫いており、貫かれた腕は全て例外なく消滅してやがて全てが消えて無くなる。
そして、先に辿り着いたのはパイフェンだった。自身の最も得意とする間合いに入り、標的の命取らんと拳を握る手に力が入る。
「捉えました。ここはもう、私の間合いです。」
「たかが潜り込まれた程度で、私が諦めて首を差し出すとでも思ったのかしら?だとしたら随分とおめでたい頭をしているのね!」
「『渾沌』!!!」
「『全ての財を我が王冠へ』!!!!」
魔女がために起こった光の剣は、因果律をねじ曲げて必勝を発動者にもたらす王の剣。そしてそれがなくとも、単なる威力だけで星の十や二十は砕け滅ぶもはや魔法と呼ぶことすらばかばかしいふざけた代物。人の身がうけるには明らかに不相応な魔法。
だが、そんな理不尽を覆して見せるのがパイフェンという少女である。両方の腕を左に持ってきて構えた彼女は、一息、深呼吸を挟んで全身に力を入れる、そして同時に二つの掌底を繰り出す。
『渾沌』は、無理を通して道理を引っ込ませる技。つまり、あらゆる相手の効果をないことにして攻撃できる純粋な力比べに強引に持ってくるもの。つまり今、その剣には必勝の光は宿っていないということだ。そして、単純な破壊力であれば、パイフェンの方が二回り以上も上。
今、必勝の剣は初めてその刀身を真二つに折られた。必勝は、もう二度とその言葉を使えなくなった過去の栄光と化す。
そして、その爆発的な衝撃を掻い潜り、最後に魔女の元へたどり着いた魔女退治の男は、己の武器に命令する。
「縛り上げろ『アラクノフォビア』」
フランチェスコの体を、強靭な鋼糸が拘束する。これで彼女は逃げられず、そして手足も自由に動かせない。
「終わりだクソババア。死ね、死んでアイツに詫びろ外道。『童遊・花一匁』」
灰刀が、世を覆う。絶えず動く繋がれた刃の列が縦横布を織るように展開していき、全てを囲い込んだ。
刀しかない世界が出来上がった時、響は『宴』と『讌』を強く引いて繋がれた『肴』の灰刀共を立たせる。するとそれに呼応する様に全てを覆っていた八百万の刀も同じく刀身を翻す。
ふるう二振りの霊刀。そしてと同様の動きを一つ一つの繊維と化していたもの共も行う。しかし、規則的に重なっているため、結果として不規則な畝りと化して襲いかかってくるのだ。
響からの最初の一撃は、展開された障壁によって防がれる。だが、そのすぐ後には三方向からの動きがあり、それを超えたとしてもさらに五方向と際限なく読むことのできない攻撃が続いていくのだ。そして、この攻撃の最中、絶対に一度も触れてはいけない。くらえば一つづつ持っていかれる。一度当たれば指を一つ持っていかれ、十一当たれば腕や目を。感情や思考、五感に至るまで、かすり傷であろうとくらえば持っていかれ、最後には全て囚われてなくなってしまう、相談すら何もない一方的な花一匁。無論、奪われたら最後、何をしても戻ることはなく、響にすら誰が取ってどこに行くのかすらわからない。
避け続けることは不可能。堪えることは無意味。全力が出せれば凌げただろうが、数々の呪いや毒素に侵された今のフランチェスコには不可能なはず、だった。
歪む。魔女の唇は裂けるように半月状を描く。
「キヒヒヒヒヒヒ、えぇ!えぇ!!えぇ!!!読めていたわ!!あなたはきっとその手で私を殺しにくると!!あれだけ怒り燃えていたのだからわかりやすいもの!!だからまってたの!この時を、あえてあなたたちに付き合ってあげて!!切り札は先に切るなんて愚かしいわ!!『嘘つき者がいる幸せ』」
一瞬だった。一瞬のうちに刀は全て消え去り世界は元の白黒の霊廟へと戻る。
『嘘つき者がいる幸せ』、それは事象をなかったことにする、フランチェスコの切り札。その凶悪さゆえ、生きている生命をなかったことにはできないなどの幾つもの制約があるが、それでも最凶といって差し支えない魔法だろう。
「残念!あなたの奥の手は破れたわ!!そしてもう力も何も残っていない!!私の勝ちよ!!」
後は体に巻きついた鬱陶しい拘束を解いて殺せば良いだけ。すでに力を出し尽くしているのだから、それは容易いことだろう。そう思ってフランチェスコは笑みを浮かべる。
だが、どうしたことか響もまた、その顔に不敵な笑みを浮かべているではないか。
「・・・いいや、俺らの勝ちだ。」
「何?」
いやな予感がして、フランチェスコは、首を回す。きっとただの見得だと思いたくて、そうでありだろうと確認するために振り向いた。
だが、期待を裏切るように、そこに、それはいた。
いつもの黒装束ではなく、純白のドレスに身を包み、巻いた髪を左で纏めた魔女を狩る少女が、その腕を天に掲げてそこに存在していた。灼熱の魔力を纏い、その余波で空気が赤く赤く燃えている。火は、世界を焼いている。
あぁ、全てはこのための時間稼ぎ。響は、自分の感情さえも押し殺しそして逆手にとって利用し、ただ彼女の絶対的な一撃のための時間稼ぎを、なし得たのだ。それが最適解だと割り切って、相棒の少女を信じて。
「やりすぎんなよ、リコリス。」
「まっtーーーーーー」
「Lost gloryーーーー『星霜に眠る王獣はありて、六合は燃ゆる」
顎門は開かれる、世界に響くは轟音たる咆哮。灼熱大劫火の大獅子が、紅き獣の王者は、その燃え盛り熱量を纏い焔々と燃えたぎる極温の顎門を向いて悪虐の魔女を、マンテウッチァ・ディ・フランチェスコという存在を喰らう。
獅子の口内、否体内で彼女は終結の炎に焼かれ、耳をつんざめく断末魔をこの地に響き渡らせ、そしてその美しかった恵体は元の影もなく、ただ無残にただ悉く黒々と燃え、焼け焦げていった。そうしてただ残ったのは真っ黒な炭の塊。最早その肢体全てに込める力はなく、そして哀れに無様に地へと落ちて、落ちていった。




