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縁を結う、即ちーーーー


 フランチェスコを目掛け、参道にかかる数多の鳥居が如く、木柱が二列に分かれ降ってくる。やがてそれが彼女の近くに行くと、今度は囲うように円を描いていった。

 よく見れば、木柱もただのものではない。その上先端部分に胎児の遺骸がくくり付けられており、それが絶えず泣き喚いている。それを聞いていると、嫌悪感と恐怖心が同時に押し寄せてくるようだ。



 「因果応報、自分の愚行に苦しめババア。」


 言葉の後に、降りかかる激痛。吐き気、頭痛、関節の痛み、心の臓を何十人の人に直接掴まれるような感覚。まるで何十人も背におぶっているかのように体は重くなり、下腹部が焼けるように痛い。耐えきれなくなったフランチェスコは、片膝をついて顔を歪ませる。


 「(!?私に届いた!?ありえないわ!!どんな攻撃であろうと、あの次元、あの空間で行われればそれはそこだけで完結する。次元や世界の壁を越えてくるほどの大技ならその限りではないけれど、少なくともあれはそんな術ではないはずよ!)」


 「こいつはお前が殺して弄んだ子達の妄執、その果て。お前さんに付いてる子らに呼びかけてんだ、次元や空間の差なんて関係ねぇ。何せお前にくっついてるやつがやってることだからなぁ。泣いて悔いろ。」


 「そう来たのね。まぁ、いいわ。かなりきついけれど、耐えられないほどじゃないもの。それに、どう見ても一度使えばそれで終わり。まだ私の優位性は失われてはいない!」


 だが、その言葉を聞いても響は口元を歪ませて答えるのみ。


 「どうやら、そうでもないみたいだぜ?なぁパイフェン。」


 「『諦聴(たいちょう)』!」


 背後から、パイフェンの掌底が突き刺さり魔女の体を吹き飛ばす。吹き飛んだ先で上がった白煙の中、フランチェスコはなぜ当たったのかと困惑しているが、そんなことを考えている暇はない。


 「鵲の 渡せる橋に 置く霜の 白きを見れば 夜ぞ更けにける」


 歌とともにあたりには冷気が漂い、一瞬にして氷塊の中に閉じ込められる。即魔術によってそれを砕き、脱出するものの、手足の末端が冷えて痛み、感覚が薄くなっていた。


 「(こっちに戻されてる?この忌まわしいガキ共のせいね。でも、大丈夫。もう一度戻ればいいだけだもの。 )」


 そう思い、即座に自分の身体を別次元へと避難させ、襲いかかる人形の群れをやり過ごし、続いて向かう一閃の光矢を苦なくあしらうつもりでいた。

 が、


 「!?ひっぱら・・・。」


 またも、元の次元まで戻される。お前だけ置いていくものかと、一人だけ良い思いをさせてなるものかと、赤子達が引き摺り込むのだ。きっとそこまで思考が動くほど成長できなかったろうに、ただ魂が覚えている恨み辛みがそうさせているのだ。

 白赤の矢が腹部を貫き、鮮血を垂らす。彼女からすればこの程度さしたる負傷ではない。しかし、ここまでくると、さすがにやばいと感じ始めたようだ。


 「(少しみくびっていたわ。ともかく、行けることは行けるのだからちゃんと使うタイミングさえ間違わなければ問題ないはずよ。)」


 「護身の剣、将軍の剣、二振りの霊剣よ、我が名の下に怨敵滅せ、急々如律令!」


 舞う二振りの霊剣。かつて天皇に献上されたとされる晴明の鍛えた破魔の剣が、フランチェスコ目掛け飛んで行く。

 だが、それは標的に当たる直前の空間で姿形を丸々無くしてしまう。


 「!あーあー、そういうことすんのかよお前。まぁ、自分自身ができるんだから当たり前かそりゃ。攻撃を別空間に飛ばすとか冗談きついぞクソ!」


 「できるのだからするのは当たり前でしょう?それに、こんなことだってできるのよ?」


 「!?おん くろだ のう うんじゃく そわか!!」


 攻撃の動作を察知し急ぎ、衝撃を転回する。だが、そんなものは何も意味をなさず、護っていたはずの響の肉体ごと二つに裂かれる。幸い、直前で感じた嫌な予感によって身体を逃して、左腕が飛んだだけで致命傷には至っていない。


 「そりゃ攻撃にも転じられるよなそりゃ・・・。あぁ、くそ痛ッ。」


 急いで回復薬を口に流し込み、損失部分をもとに戻す。二、三度手を握り関節を動かして調子を確認する。どうやら特別何か云われや呪いがかかっている様子もなく、動きは至ってまともだ。


 「(連続して使ってこねぇな、いや使えねぇのか。元々、てわけじゃねよなきっと。多分『無祝水蛭子(なきはふりのみずこ)』が効いてんだろうな・・・。ならまだマシだ。ノンストップでやられちゃたまったもんじゃ無い。最悪ウルティムム使う羽目になってたわ。)」


 確かに終結の炎なら空間や次元を超えて攻撃はできる。だが、あの大技は非常に扱いにくいのだ。少しでも加減を間違えれば大惨事になる。せめてもっと集中してできる状態じゃなければいけない。

 

 ともかく、インターバルがあるのであれば如何様にもなる。ようは絶え間なく嵐のように攻撃を仕掛け続ければいいだけのこと。総動員で殴りかかる。

 43の人型の群れが飛び交い、拳、脚の衝撃で世界は震える。光矢は飛び交い、洗浄に歌は響く。だが、その全ては空間断絶や、異次元への吹き飛ばし、そして的確なまでの魔法の行使でフランチェスコその人に届きことはない。響も呪詛の類を用いて魔女を捕らえようとするものの、どれも成果を上げることはなかった。

 そればかりか、相手の攻撃によって体のあちらこちらにけして軽くはない傷が刻まれていく。やはり、世界の敵。そう易々と堕ちるほど脆弱ではない。


 「・・・なんだよこれ・・・ほんとにアイツら人間なのか・・・。」


 「それもそうですけど、あの霧村くん達が押されているなんて・・・。」


 「はは、次元が違う、か。全く持ってそのとうりじゃねぇかよ。」


 目の前で行なわれている人智を超えた戦模様に、残され観戦していた翔太郎達が感嘆の声を零す。強い強いとは思ってはいたがここまでかと、俺らじゃ足元にすら、同じ舞台にすら立っていないんだと、悔しさやそれよりも、ただただひたすらに納得する他なかった。


 「・・・!ねぇ?」


 「あ?なんだババア。」


 「さっきから致命傷を避けてるのは純粋に褒めてあげるわ。でも・・・」


 「!」


 「こういうのはどうかしら?『使い捨ての量産人形(エフェメラナンバーカードヅ)』」


 固まっている章太郎達のいる真下に、魔法陣が現れ、全員を囲うようにまたもトランプ兵が現れる。ただし、それはあきらかに先ほどのよりも強く、彼らでは相手にならないであろうことは一目でわかった。

 このままでは皆この兵隊に蹂躙されてしまう。早速、その内一体が手に持った剣を掲げ、振り下ろさんとしていた。だが、その体は振り下ろされた白銀槍によって裂かれ消滅の結果に至る。

 

 「も、問題無い。私がいるから、あなたの思うようにはいかない。」


 それを行なったのは、件の白銀槍を構えて若干吃りながらそう言い放ったソフィアだった。そして、言葉通り次々とトランプ兵を切り裂き藻屑と消していく。


 「あ、ありがとう・・・。でも、あっちに行かなくていいのか?きっとその方がアイツラだって楽になるだろ?」


 「だ、大丈夫。私の持ち場はこの位置だから。」


 「?」


 「た、確かに接近戦もできる。で、でも私の役目はそれだけじゃ無い。最前線から一歩引いたところに出て、戦況を把握し、皆んなに指示を出したり、補助を行い、ここぞってところで出て行くのが私の仕事。ま、まだ前線には出れない。」


 「司令塔も兼ねてるのか・・・。」


 「そ、そんな大層なものじゃ、無いから。」


 特に、ルールーの攻撃のタイミングは前線に出る響やパイフェンはわかりにくい。ルールー自身が調整することもできるが、気にせずブッパできる方が良いに決まっている。それだけでも重要な仕事だ。それに、こうしてついででおもり役ができるのも利点だ。


 「小癪な・・・!娘一人がなんだっていうの!?」


 そうして今度はソフィアの目の前に特大の魔法陣が現れ、そこから竜種と同程度の大きさの獣が顎門を向いて顕現する。その勢いのままソフィアを噛み砕き食らおうとする、が。


 「ふん!!」


 いつのまにか手にしていた自身の身の丈より一回りほど大きい鎖に繋がれた十字架を振りかざし、獣の頭部をぐしゃりと嫌な音を立てて圧砕する。その一撃を食らったその瞬間に絶命したのか、獣はそれきり小さな痙攣を残して動く気配がない。


 「だ、だから言った。あなたの思い通りにはならないって。」


 「ッチ。生意気な」


 彼女がいる限り、響達の猛攻を掻い潜り章太郎達を攻撃することはできない。空間能力は防御に使わなければ途端に守りを崩されて食らってしまうからだ。特にリコリスの人形の攻撃はやばい。魔法にも魂そのものを傷つける効果はあるが、それは即死するような程では無い。ただ攻撃にその能力が付いただけで、その威力を超えた傷はつけられないからだ。だが、彼女が操る猟奇少女は皆武器を持っている流石のフランチェスコだってそれで心臓をえぐられたり真っ二つにされればただでは済まないのである。だから、章太郎達を狙うのは諦めるしか無い。


 「・・・てかその二つってベロニカさんが?」


 「いえ、私はそんな依頼受けてませんが。」


 十勝の疑問に、ベロニカは首を横に振って比定する。じゃあその武器は一体どこからと持ち主のソフィアの方を見やる。彼女が使うのだから、きっと普通な物ではないはずだ。


 「や、槍は、教会からパクってきた。十字架を作ったのはひ、響。だから大したものじゃ無い。強化はしてあるけど・・・。」


 彼女がこの間までいた教会から勝手に黙って拝借した槍は『罪と罰(フェアブレッヒェン・シュトラーフェ)』。当たることが前提だが、全ての障害を無視して必ず対象に傷を与え、また使用者を一種のトランス状態にして強引に能力を一段階上に押し上げる効果を持つ、封印指定された魔槍である。それを盗んできたわけだが、どうせ気づかないだろうと模造品を代わりに置いてきて今のところバレてはいない様子。余程の馬鹿しかいないのかと、呆れの表情しか浮かばない。きっと最後まで気付くことはないのだろう。


 「なんで霧村は一緒に作ってもらわなかたんだ?金がないからって言っても最初っから二つしか提案してなかったし。」


 「な、なんでも最初っから性能のいい武器だけ使ってると、どうしても武器に頼りがちな戦い方になるから、さ、最初はこれくらいがいいって・・・。」


 「な、成る程?わかるようなわからないような?」


 瞳を含めて数人が首を傾げているが、それで本人が納得しているのならいいのだろう。実際それでも今のところは問題はなさそうだ。流石に次はソフィア自身も成長し、そういかないだろうが、ともかく今はこれでいい。



 閑話休題、前線の方に話を戻す。今仕掛けるのは響。その懐から呪符を十枚ほど取り出し、小さく小さく千切り、そしてその紙片を空にぱっとばら撒いた。口元に結んだ手印を持って来て、命ずるように唱える。


 「ノウマクサマンダバサラダンカン!!」


 舞う紙片の一つ一つが光針へと変容し、一成に、一目散にフランチェスコ一点目掛けて飛んでゆく。鋭く光る針先が、その肢体を貫かんと空を駆ける。

 もちろんそれは全て空間を操作され何処かへと消えて行くが、それで良い。これでその能力は封じたのだから、最初からそれが目的なのだから。


 「お願いします、リコリスさん!」

 

 「問題ありませんわ、行きますわよ!!」


 突如として現れる満天の星空。その星々の一つが一層光り輝いたかと思うと、そこから光線が放たれ、フランチェスコの貼った魔法を貫通して彼女に当たる。そして、それと同時に、肉薄したパイフェンがその肢体を蹴り抜き、吹き飛ばし、その跡には魔法陣が一つ残る。そして二つ目の星が輝き、三つ目の星が輝き、そうしてまた同じことが二度三度幾度と繰り返される。やがて何十何百と繰り返されて、最後に魔女が下へと殴り落ちたところで、星々の煌めきはやむ。

 パイフェンは、堕ちるフランチェスコを追い抜き、その真下へと移動。また、跡に残った幾百の魔法陣は全てが光の線で繋がれ、また新たな大魔法陣を形成してゆく。

 そこから落ちてくるのは半径十数キロにも及ぶ超巨大隕石。そんな大災害が光速で落ちてき、魔女の体を挟んでパイフェンの振り抜いた踵と、今ぶつかり合う。


 「「『星を産み、星を喰らう山海の妖』!!」」


 周囲一帯が、粉塵に塗れる。あまりの衝撃に隕石は砕け散り、世界の果てにまでその衝撃が届いていた。これをまともに喰らったフランチェスコも、流石にただでは済まなく、鮮血を垂らし、腹を抱えている。どうやら内臓のいくつかが潰れているようだ。口元から垂れる赤色が生々しい。


 だが、それでもまだ致命傷にはなり得ない。フランチェスコを葬り去るには、まだ、もっと強い一撃がなければ決め手とはなり得ないのだ。世界の敵を撃つには、それ相応の力がいる。今までもそうだったように、だ。


 「(くそ、俺もfamiliarを使うか?いやダメだ。fantasmaを解けば『無祝水蛭子(なきはふりのみずこ)』の呪いが溶けちまう。だったら、切り札を、『百面少彦(ヒャクメンスクナ)』を?だがこんなぶっつけ本番であれを制御できる自信が・・・。)」


 『ふむ、ならば合わせば良い。朕の本質はそう言ったものだ。』


 不意の、聞こえるはずのない者の声が聞こえた気がした。実際ただの気のせいなのかもしれない。しかし、それは確かに響の心に届いたのだ。


 「合わせ・・・、なるほど、そういうことか。本当に、消えてもお節介な爺様だ。ありがたい。」


 『良い、存分に暴れよ。』


 「オーケー、大暴れだ。いくぞ、『缘結(えんむすび)』familiar fantasmaーーーー。」


 familiarに、fantasma を合わせ、新たなものへと変容させる。

 13あるロストシリーズは、それぞれ先頭に特化した前衛と変化に特化した後衛に分かれており、後衛は前衛に重ねる、つまり合体させることができるのだ。それが『缘結(えんむすび)』。本来二つ以上同時に使えないロストシリーズを複数使う唯一の方法。


 「『千寿白拍子(せんじゅしらびょうし)』」


 出立は変わり、familiarと同じ黒の外套を羽織った姿。しかし手にする獲物は違う。二振りの黒刀を両手に持ち、互いの柄頭は糸で繋がっている。十本あまりのやや短い灰色の刀が繋がれて、扇状に停空する様は華があった。また、その糸は自在に伸び、それに合わせて灰刀も増えていく、いわばこれは連鎖刀。

 『盃』という名から変わり、『(うたげ)』と『(さかもり)』の名を与えられたそれを持って、今敵を撃つ。


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