嗤う悪虐の魔女
「ハッ!まさかとは思ったがこんなところで見つかるとはなぁ!運がいい。」
その姿を見せ、嗤う四人目の存在に、響はそう吐き捨てる。実際、どこか怪しいという疑問は持っていたが、よもや本当に出てくるとは思いもしなかった。言葉通り、本当に運が良い。
「あら?私に用事でも?馬鹿馬鹿しいまでに愚かね貴方達。私を誰かわかって言っていて?」
「(用・・・?霧村達が言ってたのってこの女に会うことだったのか!?でもなんの理由があって?)」
章太郎は、響達がいつか言っていた用件という言葉を思い出す。結局何一つ詳しいことは知らされなかったが、今目の前にいる女がそうだというのかとだとすれば一体なぜかと首を捻る。だが、これからその理由を己の目で見て答えを得るとは思ってもいない様子だ。
「さーな、あんたがどこの誰かさんなのかはしらねぇが、どう言った存在なのかは知ってるぜ?」
「私以外と会ったのか・・・。愚かしいわ愚かしいわ愚かしいわ!私に剣を向けるというのね?」
「チッ、一々尺に触る喋り方してんじゃねーよクソアマが。歳考えろや。」
挑発ついでに悪態をつく響。だが、眉を軽くひくつかせた程度で向かってくる様子はない。
さて、これで響とリコリスの二人は四度目になる。今までは戦力のためという目的自体はアレど、どこか半ば何となくで戦っていた。だが、今は違う。倒さなければ勝てないと言われたのだ、勝てなければ帰れないと言われたのだ。今までとは掲げる思いが違う。
今一度気を引き締め、アレを発動させようと構え響は、後ろから二に腕をチョンチョンと突く感覚に振り返った。
「どしたルールー?」
『アレって誰なの?いつもならここで解説入るよね?』
「あー、見てくれから多分魔女関連だとは思うんだけどなぁ。悪い、その辺りは管轄外なんだ。辿はわかるか?」
妲己、崇徳院、ウリエル。今まではわかりやすかったり、出会うまでや答えを出す前までの所々にヒントがあったりした。しかし、今回はこれといった特徴もなく、さしたる情報もなかった。おまけに響自身があまり明るく無い方面も相まって分からずじまいだ。
「ウチも同じやなぁ。ジャンヌとかマリ・ド・サンスみたいな有名どころぐらいしかわからへんわぁ。あ、あと名前は忘れたんけどバフォメットとにゃんにゃんしたって言うとったんは知っとるわ。」
「俺もそんなもんだ。ただ確かマリ・ド・サンスって・・・」
「魔女じゃなくて殺人鬼ですね。子供ばかりを狙って殺害を繰り返し、そのあまりの惨たらしさから魔女として処刑されています。ただサバトに行っていたみたいな事実は無いらしいです。」
「ほぉ、詳しいのか清水。(セリフ取られた・・・。)」
響の言葉を遮って答えたのはアリスだった。そして、そのまま解説を続ける。
「はい、父の書斎に中世から近代にかけての欧州に関する書物が多くあったので。それと、最後に言っていたのはマリ・ダスクルクエットですね。7歳から魔女だったと言われてます。」
「おぉすげぇ、よく覚えてんな。」
「(いや、お前も大概だろ。)」
結局は興味や趣味の差で、それは誰にだって言える。今回はたまたまアリスが詳しかっただけで、相手によってはW太郎のどっちかやいおりなんかがこの役目でもおかしくは無いのだ。ただ今回それがアリスだっただけ。
「それで・・・私たちの世界の人物でいいのですか?」
「あぁ。正確にはそのまま本人とかパラレル的なやつとかでも無いが、俺らの世界にもきっといたやつだ。」
「それでしたら心当たりがあります。」
「あら?ほんとですの?適材適所ですわ、教えてもらっても?」
「はい。・・・マンテウッチァ・ディ・フランチェスコ、おそらくこれで間違い無いと思います。」
「・・・名前は聞いたことあるな。異様に言いにくい名前だと思ったのは覚えてるわ。」
「リパビアンカの魔女、生まれた村からそう呼ばれていたそうです。さっき戦った王妃さまの名前を初めて聞いた時、偶然かなと思ったのですが、違ったみたいですね。」
「な、なんか拍子抜けするくらい単純・・・。そ、そういえばさっき自分のアバターとかいってたし、そ、そういうこと?」
「そこはちょっとわからないですね。話を戻しますが、彼女はサバトへの参加、媚薬や赤子の血から作った軟膏の販売などの行為で、1428年に裁判、処刑されています。それと、初めて空を飛んだ魔女としても有名です。」
「成る程、ではあれは・・・。」
アリスの説明で、何か思い当たる節があるのか、パイフェン一人で納得していた。それが気になってか、響がどうかしたのかと聞いてみる。
「なんだ?地下で何か見たのか?」
「はい、水溶液に入った胎児や生まれて1日も立たない様な赤ちゃんが沢山並んでいました。数は30では足りず、中には奇形児の姿も。」
最後の台詞で、おそらく親が売った者も多かったのだろうと察しがついてしまった。それに胎児とは、堕した子なのか、もしくは腹を捌いて引き摺り出したのか、どれをとっても胸糞悪いことをしていたのに変わりはなかった。
目的はなんであれ、いや、きっと目的もロクでもない最低のものだったのだろう。
「ッチ、虫唾が走るわクソッタレ。タダの屑のくせしてでかい顔してんじゃねぇよ。一々小物臭さが滲み出れんぞオラ。」
「っ!言うわね貴方。どうせ今までだってまぐれで倒したくせに・・・。あら?あらあらあらあらあら。これは面白いわ。」
「?あ゛何いってんだテメ・・・」
「死んだ人間をそこまで思えるなんて、いっそ狂ってるっていってもいいんじゃないかしら。面白いわぁ。」
「!!」
纏う空気が、変わる。相変わらずフランチェスコを睨みつけていること自体は変わらないが、それは侮蔑から怒りへと移り、あきらかに眉間に寄せられたシワが増え険しくなっている。全身に憤怒を纏わせ、瞳孔は見開き、赫怒を隠すことなくそこに立っている。
今までも彼が激昂することはあったが、それとは明らかに違う。逆鱗に触れられた、いや切り取られて目の前で見せびらかされているような、その様子にリコリスやパイフェンたちは驚き、中にはあまりの剣幕に恐怖を感じて震えるものまでいた。
普段は絶対に見せることのない、本当の怒り。
「でも、惜しいわねその子。そんな家に生まれなけれーーーー。」
言葉の最中、フランチェスコの体が突如として消え、そも遙か後方で衝突音と共に爆煙が上がった。そして先ほどまで彼女がいた所には、拳を突き出した響の姿が見える。
「・・・・・・じゃねぇよ。」
「・・・響、さん?」
「テメェがあいつのこと語んじゃねぇよ!!!!!!」
得物を持つことなく、ただ怒りに任せて突っ込む。フランチェスコが起き上がると同時に肉薄し、その顎に蹴りをたたき込む。休む間を与えることなく、地面にむかって殴りつけその土手っ腹に思い切りかかとを蹴り込む。
そのまままるでゴミを払うように蹴り飛ばし、先回りして殴る、殴る、殴る。
頭を、顔を、腹を、片っ端から目指しも決めずにただただただただ無作為に乱暴に、怒りを乗せて殴りつづける。
このまま勝負がつくかに思われたが、さすがは世界を敵に回すだけはある。フランチェスコ自身は実のところ大したダメージを受けるでもなく、密かに何かを発動しようとしている。響は怒りで周りなぞ見えておらずそれに全く気付く様子もない。
「!危ない!!」
至近距離でおそらく魔法と思われる攻撃を受ける直前、間一髪でアリスが皆のところまで引き戻し、ことなきを得る。
が、それでもこれでも怒りが止まないのかまた突っ込んでいきそうな響をパイフェンが羽交い締めにし、前からソフィアが押さえつけるという二人がかりでなんとか止める。それでもいつ解かれるかわからないのが恐ろしい所だ。
「落ち着いてください響さん!闇雲に向かっていっては勝つことはできません!!ともかくここは一端の心をおさやかにして!!」
どうにか止まって欲しいとパイフェンが呼びかけるが、しかし無意味。言葉を聞く気配はまるでありはしない。
と、ここで、リコリスがソフィアにどくようにいい、響の真ん前にでる。そしてーーーー
「ふんっ!!!」
思いっきり、頭突きをかました。それはもう力の限り。やられた響は痛みに頭を抑えているが、やった彼女にだって同じ痛みがあるはずだ。だと言うのに、全く気にすることもなくただまっすぐに響を見つめていた。
「ッてぇ・・・何しやがるテメェこのクソ女!!頭蓋割れてたらどうしやがるテメェこの・・・。」
「落ち着きましたわね。」
「!・・・・・・あぁ、悪かったな皆。」
痛みによってか、はたまたいきなり頭突きを喰らわされた別の怒りによるものか、さっきまでの憤慨は収まり、いつも通りの響きに戻った。
「よ、よかったです。あんな響さん見たこともなかったので。」
『もう感情に任せて一人で突っ込んだりしないでよ。』
「もう大丈夫だ。ただ、お前らも気をつけろよ。あいつ過去・・・いや、人の記憶を見れる。」
「そ、それは・・・わ、私たちにとって・・・。」
とても有効な手立てとなる。ここにいるのは皆何かしらトラウマを抱えたものばかり。それを勝手に見られて穿り返されるのは、とても耐え難いことなのだ。響のように、こみ上げるものが怒り、であれば良いが、恐怖やそれに類似したものだったとしたら、もうそこで戦えなくなってしまう。非常にやっかいだ。
だが、良いことにその事実をフランチェスコは知らない。
「(あら、ちょっと失敗かしら。あんな風に我を忘れて突っ込んでこられると何をしでかすかわからないから危険でやりにくいのよね。記憶を見るのって結構労力いるし、やめたほうがよさそうだわ。)」
知らなければ、こういった風に上手い具合に都合よくことが進むこともある。おかげで一番の厄介ごとが封じられたのはとても大きい。
「ほら、さっさといきますわよお馬鹿さん、『 Lost Familiar』。」
「ふぅーーー、よし。仕切り直しだババア。Descend(降りろ)ーーーー『Lost Fantasma(死セル亡霊ノ呪イ)』」
世界が、暗転する。それは儚き幻想の霊廟。真白の世界に、墨を垂らしたかのような数々の存在がここを霊廟たらしめている。
そしてその中、墨染の狩衣を纏った響の姿が確認できた。静かに、目を閉じたまま宮の中央まで浮かんでいる姿は、己がここの主だと言外に語っているよう。
手印を結び口に近づけ、唱える。
「南無大天狗小天狗十二天狗有摩那天狗数万騎天狗ーーーー」
唱えたるは天狗経の真言か。そしてともに現れるは数百の烏の群れ。ただしそれは生きた生身の鳥獣ではなく、呪詛のかかった紙でできた紛い物。
「先づ大天狗には、愛宕山太郎坊、妙義山日光坊、比良山次郎坊、常陸筑波法印、鞍馬山僧正坊、英彦山豊前坊、比叡山法性坊、大原住吉剣坊、横川覚海坊、越中立山縄乗坊、富士山陀羅尼坊、天岩船檀特坊、日光山東光坊、奈良大久杉坂坊、羽黒山金光坊、熊野大峰菊丈坊、吉野皆杉小桜坊、天満山三尺坊、那智滝本前鬼坊、厳島三鬼坊、高野山高林坊、白髪山高積坊、新田山佐徳坊、秋葉山三尺坊、鬼界ヶ島伽藍坊、高雄内供奉、板遠山頓鈍坊、飯綱三郎、宰府高桓高森坊、上野妙義坊、長門普明鬼宿坊、肥後阿闍梨、都度沖普賢坊、葛城高天坊、黒眷属金比羅坊、白峰相模坊、日向尾股新蔵坊、高良山筑後坊、医王島光徳坊、象頭山金剛坊、紫尾山利久坊、笠置山大僧正、伯耆大山清光坊、妙高山足立坊、石鎚山法起坊、御嶽山六石坊、如意ヶ岳薬師坊、浅間ヶ岳金平坊ーーーー。」
白紙の烏は空を覆い尽くし蠢く。数はいくつか数えられるようなものでもなく、それらはただ静かに響の言葉が終わるのを待っていた。
「ーーーー総じて十二万五千五百、所々の天狗来臨影向、悪魔退散諸願成就、悉地円満随念擁護、怨敵降伏一切成就の加持、をんあろまや、てんぐすまんきそわか、をんひらひらけん、ひらけんのうそわか。」
白の大群が、一斉にフランチェスコへと向かって襲いかかっていく。そしてそれを彼女も魔術を持って迎えてうつが、圧倒的物量には敵わずその姿は一周のうちに白波に飲み込まれ見えなくなった。
『Lot Fantasma』、崇徳院から譲り受けたこの力の能力は、古今東西の呪詛呪術の使用、呪具の顕現、魔を調伏するためのあらゆる術の行使、それら全ての創造。それが主なものとなり、そしてあらゆる物理攻撃を無効にすると言う特徴を霊魂だった崇徳院から受けついでいる。
「・・・きいちゃいねぇか。」
響の言葉通り、紙烏の群れはその中央から青く燃え上がり、一瞬にしてほぼ全て滅び去る。そこには無傷のフランチェスコ姿があり、ダメージなどなど見受けられない。
「残念ねぇ。でも、このくらいの攻撃しかできない貴方にも問題があるのよ。ひひひ。」
「なら、こう言うのはどうですの?『規定一つの星川の光(Alone stars Milky Way)』」
響の攻撃が全く効いてないのを受けて、次は自分の番だと、リコリスがその眼帯を外し左眼球を外気に触れさし、その瞳を怪しく光らせる。
現れた三重の魔法陣が極光と共にフランチェスコを包み、その身を焼き焦がさんと輝きを増す。が、そんな中でも女は不敵な笑みを浮かべ、余裕綽々と響達を眺めていた。極光の輝きが収まっても、その体には傷一つ付いていない。
「ッ!!魂そのものを傷つける攻撃がまるで効いていない!?そんな馬鹿な!あり得ませんわ!!」
「とてもいい表情ね貴方。ちょっとゾクゾクくるわ。その血肉は・・・人が喋ってる時に蹴り込んでくるだなんて、無粋な子ね貴方。」
「!?すり抜けた!?」
フランチェスコが調子に乗って悠長に話している間に、距離を詰めたパイフェンが背後から不意打ち気味にそのこめかみを蹴り抜こうとした。しかし、届いたであろう右足には何一つの感触はあらず、まるで陽炎を払うかのように、フランチェスコの体は揺れて戻る。
『(さっきと同じだったら、一度空間を歪ませてから打てば良いだけ。簡単よ。)』
弓を引く。今まで出来なかった思いっきり引くという行為を、新しく自分の元へと来たパートナーで行う。ゆっくりと弦を引き、獲物を定めて、手を離す。
光速を超える速度で発射された矢は標的に到達するとともに爆破。その衝撃は先程の雷槍の一撃が児戯と呼べる程に凄まじく、章太郎達はその爆風に飛ばされまいと必死に地面へしがみつく。
無論、それがフランチェスコを傷つけることはないが、しかし本命はその後コンマ数秒の差で放たれた第二矢。一度目で空間を歪ませ、間髪入れずに第二撃をたたみ込む。それで殺せはせずともある程度ダメージは通るだろうし、そこから畳み掛ければ良いと考えたのだ。その赤白い光矢は尾を帯びて貫かんとする。しかし、目論見は大きく外れて矢はその体を過ぎ去り、虚空へと消えさってしまった。
『(届いてない!?あの王妃状態とは違う・・・のね。)さっきあの王妃は魔力で空間を歪ませて、そこに出来た隙間に隠れてたの。だからこっちも高威力で歪ませて追撃でダメージを与えればよかったんだけど、
こっちは違うみたい。』
「ふむ、空間の歪みか・・・。」
ルールーから聞かされた情報をもとに、少し頭を働かせる響。しかし、変わったといっても、本人とアバターという関係からしてそこまでの違いはないだろう。だからか、結論自体はすぐに出た。
「まぁ、めんどくさいことなしに、別の空間、もしくは別の次元かその両方にでも逃れてるんだろ。だからいくら攻撃してもあたらねぇんだ。多分。」
「そないならどないします?黄金回転エネルギーでもつかいましょか?出来たら、の話やけど。」
「いや、種さえあかせりゃやりようはいくらでもあるさ。」
そういって、再度手印を結ぶ響。一方のフランチェスコは、まるで自分から動こうとはしない。彼女の性質上、自身の能力に甘え、まるで歯が立たず響達が絶対するまで待ちいたぶるつもりなのだろう。
だが、その絶対優位性を覆す術を、響は知っている。
「悔やむんだったらお前自身の行いを悔やむんだなクソババア。『無祝水蛭子』」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あな麗しき傾国の君 妲己
縁魔、不条理なる禍殃故に 崇徳院
堕ちた天上の赤き徒花 ウリエル
嗤う悪虐の魔女 マンテウッチァ・ディ・フランチェスコ
□□刻□□鬼 ◯姫
□□を汚□□愚者 ユ◯◯
死□調□を□□□世 ◯◯ヴォ◯・◯ー◯◯ー
□殺□□□め□34□ H・◯・ホ◯◯◯
□□□る□斧 ◯◯シュ◯◯◯
□□る鈍□□録 ◯◯の◯◯
□初□□ち□久□□辜 カ◯◯
□王 ◯ッ◯◯◯
□□□□□愛□箱□ ◯◯◯◯




