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煌々と落ちよ、雷光


 動きはない。その場に立ち尽くしたかも王妃と、様子を伺う少年少女ら。その中で章太郎は一人、その感情を悟られぬように歯痒さを噛み締めていた。


 「(・・・本当、嫌になる。俺が持ってきて、巻き込んで、一番前に出なきゃいけないのに、それなのに一番の役立たずだ。みんな役割があって、自分の長所を生かしてるのに、俺だけ何もない。なんだよ『幸運』って、ただ運がいいだけとかそんな博打みたいで後はほとんど他力本願になるような能力。こう言ったところじゃ何の役にも立たないじゃないか。)」


 少年は、本当は先陣を切って行きたかった。けれど、彼にはその技量がなかった。いくら修行を見てもらったとはいえ所詮は付け焼き刃。元々戦闘に不向きな能力なせいでそこを任せていたことが悔やまれる。もっと前から前線に混じっていれば、もっと先頭において絶対的な能力でっあったら。響のような力があればと、己の無力さをただ嘆いている。


 そして、それは彼一人だけではなかった。章太郎よりも、もっと大元の原因。本来なら関係なんてこれっぽちもなかったのに、危険を犯してまでもついてきてくれた皆んな。本当なら自分の問題で、解決しなきゃいけないのは自分なのに、ソロモンという少女にはその願いを叶えられるほどの力はない。

 初めて章太郎とあった時あの時も、そして今も結局は守られてるだけ。せめて何かできることが有れば良かったのだけれど、特別な能力もない彼女は、この戦いには手を出さないとずっと傍観している二人の少女の近くで見守ることしかできなかった。それが悔しいんだと、心の奥底で涙を流す。


 「(ったく、あいつどうせ俺は情けねぇみたいなこと考えてんだろうなぁ。気にしなくていいのに。人には得手不得手があって、それでできることにも差ができるんだから、今は俺らに任せてくれれば充分だ。それに、誰も今のこの状況を迷惑だなんて思っちゃいねぇよ。だって章太郎のおかげでここまで来れたって言っても過言じゃねーからな。)」


 腐れ縁で幼なじみの連太郎には章太郎が悩んでいることなどお見通しで、その上であえて思っていることを口にはしなかった。これは人から諭されることじゃなくて、自分で気づいて自分で見つけなきゃいけないことだから。ならば、せめて友に対してすべき事は何か。


 「(親友で、幼なじみだ、俺はちゃんとあいつに花を持たせてやらなきゃいけねぇ。惚れた相手の手前、カッコいいところ見せてぇよなぁ、章太郎。)」


 「おい、蓮!どうした!?」


 「ん、あぁ悪い!気にしないでくれ!!」


 そう言って構え直す。一方先程一撃を加えられて、傷口から拭った血を見てずっと止まったままのリパビアンカ。その異様な状態からようやく口を開き言葉を発する。


 「血?血?血ぃ?誰の?誰の?誰の?誰のぉ?私?私?私のぉ!?誰が?誰が?誰が誰が誰がぁ?キヒヒヒヒヒヒ。」


 不気味で、不吉で悍しく耳につくような甲高い笑い声が、広い王間にこだまする。

 突如発狂したかのように笑い続ける王妃に、章太郎たちは戸惑い、若干の恐怖心を覚えていた。明らかに異質な状態に誰もついていけない。


 「な、なんだあのおばさん。いきなりどうしたんだよ。」


 「や、やばい感じぷんぷんしてるよ。大丈夫かな!?」


 「キヒヒヒヒヒヒ、ヒ、やったのは、お前たち、ね。殺すぅ。」


 空気が変わったと、肌が感じ取った。何か、大きな何かが同じ空有感に存在しているような、そういった感覚。垂れる冷や汗が、否応に感覚を尖らせてゆく。


 「これは・・・アレが行ったのですか。ただの嫁入りの年増にどうしそこまでの力があるのやら。」


 「何をしたかに心当たりは?もしくは見当は付きますか?」


 「残念ながら何も。ただ闇雲に攻撃はしないほうがいいでしょうね。無駄に体力を減らすだけになるでしょうし。」


 首を横に振って、アリスの問いに答える。だが見立てとしては厄介なものらしい。先ほどの障壁のことを考えるとこちらに害をなすものでは無さそうだがそれも憶測の域を出ない。


 「それならもう一度私が行くよ。私だったらどんな壁でも関係ないし。」


 「うん、なら私も一緒に行こう。私の能力なら何がきても問題ない。ほぼ処理できると言っていいからな!」


 「わかった。それなら日輪と鷺沼をメインに、他はサポートだ。清水は万が一の時のために準備しておいてくれ。」


 「了解です。ではご武運を。」


 まず、二人を前へ行かせるために男三人が前に出る。

 対してリパビアンカは小さく何かを唱え、魔術を行使。そうして最後に投げたトランプが、そのまま大きくなり手足をつけて兵隊となって動き出す。だがその色はドス黒の血色で、童話に出てくる可愛らしさなど微塵も見受けられなかった。


 「うっわ、気色悪!?って思ったよりも早いぞこいつら!」


 数は十かそこらと少数だが、その一個体自体の性能が高いと、うち一体からの攻撃を防いで応戦している章太郎が声を上げる。その後、なんとか持ち直すが、単純なスペックだけでいうと一人でせいぜい二体押さえるのがやっとだろう。

 だから、絡め手で行く。


 「あーえっと兵士、兵士、兵・・・『塀』か?」

 

 連想とは若干違う気もするが、連太郎がその能力を使って塀を作り出し兵士たちの動きを足止めする。たぶんどちらかというと誤変換や同音異字と言った方が正しいだろう。


 「で、『塀』・・・といえばやっぱ刑務所、『牢屋』だなぁ。」


 その場にいた全てのトランプ兵が、突如として現れた牢屋の中にぎゅうぎゅうに押し込められる。全員がそこから出ようと磨き暴れるため、鉄格子が軋み、壁が少しずつだが崩れてきていた。きっと長くは持たないだろう。だからすぐに仕留める必要がある。


 「よし、任せろ!!」


 そう言って十勝が牢屋の壁にむかって勢いよく手に持った長剣を振りかざす。そうすると、切っ先コンクリートの壁に触れた途端、中にいた兵士どもはもちろんのこと、同じように拘留していた牢屋諸共跡形もなく消え去っていた。

 彼の能力はある一定の範囲内のものを原子レベルの塵にまで分解する事。

 ただし、その範囲内に、ある一定以上の質量の物体が二つ以上存在していなければならず、また、わざわざそのどちらかに自信が持っている武器で攻撃をしなければいけないというめんどくさい制約はある。


 「よし、行け二人とも!!」


 「うん!」


 「了解!!」


 十勝のおかげで開いた道を全速力で駆け抜けるいおりと瞳。肉薄したリパビアンカの心臓部分に、その包丁を突き刺すのだが・・・


 「え、空振り!?」


 防御不可能なその一撃は、なぜか心の臓どころか薄皮一枚切り裂く事なく、虚しく宙をからぶるのみ。

 確かにあの位置からだと当たっていた筈、避けた形跡もなければ、避けられるような状態ではない。当たっていれば必ず仕留められていたのだから、そもそも当たっていなかったのか。


 「はぁああああ!!(さっきの、何が起きていたんだ・・・。とりあえず、この先の行動を・・、!?待って、どれも全部同じ可能性しかない!!どれも全部避けられる!)」


 能力が見せた通り、その後のいおりの攻撃は瞳と同じように全て霞を切るような感覚。


 「おい、くるぞ気をつけろ!!」


 「「!!」」


 間に合わない。二人とも完全にバランスを崩しているため、回避行動が思うように取れない。


 「大丈夫です!任せてくだっ!?(嘘!?穴が繋がらない!どうして!?これでは・・・)」


 リパビアンカが展開した魔法陣から、数多の光弾が降り注ぎ、無防備な二人と、後ろの男三人衆もろとも吹き飛ばす。幸い致命傷になるような威力でもなかったが、それでもあちこちに小さな傷や血の滲みが目立つ。


 「ほーん、あの包丁て、因果律とかまで無視するアイテムやろ?そない代物なんにきかんてどんなカラクリやろなぁ。ルルたんならどないするん?」


 『ルルたんって何?気持ち悪いからやめて。』


 「そう言われるとやめたくなくなるんよなぁ。」


 『天邪鬼は帰れ。・・・とりあえず全範囲攻撃かな。攻撃があたってないってことは幻とか蜃気楼、催眠術って可能性もあるからまずはそれを潰す。それでもダメなら様子見。さすがにあの一瞬だけじゃわかんない。』


 「ま、そうやろなぁ。でも、それもウチらなら簡単やけどあの子たちやとなぁ。」


 『あの子って、同い年でしょ。』


 この部屋に入ってきてから手を出さずに傍観者に徹していた二人が、さっきの現象について互いに議論を交わしていた。

 結局、アレだけじゃ情報不足だと落ち着いたが、辿の言葉通り、情報収集を安定してできるほど章太郎たちの実力はない。いや、正確にいうと実力そのものがないのではなく、相手との差がない、もしくは差をつけられているのだ。

 これがこの二人なら軽子こなせるし、いっそゴリ押しで無理やり倒せるかもだが、あり得ない可能性の話をしてもしかたあるまいか。


 「おい、どうすんだあれ。攻撃があたってないってそんなの聞いてないぞ。」


 「それだけじゃありません。私の能力もうまく機能しないみたいです。すいません肝心なところで。」


 「いや、それは気にしなくていいさ。私だって全く役に立たなかったんだ。」


 「それを言うなら私だって・・・。」


 「だぁー!!ネガティブになんのヤメ!!そんなこと言ったって何も変わんないんだし、どうやって攻略するかの方を考えるぞ!!」


 章太郎の喝で皆気持ちを切り替えるが、厳しいことに状況はさっきよりも悪化していた。つい先ほど片をつけたはずのトランプ兵たちは、この間に復活しており、早くはないが少しづつその数を増やしていっている。このままでは最悪人海戦術の元数の暴力に押されて敗北まであり得る。

 判断を誤ったわけではないが、いかんせんアレは予想外すぎたのだ。


 そして、もう一人悩み続けている少女が、この危機的状況に胸を痛め、己の無力さに打ちひしがれながらも、せめてもできることを模索している。


 「(・・・せめて、せめてあのカラクリだけでも暴けたら。戦闘じゃ私は何の役にも立たないけど、ならこう言ったところで力にならなきゃ、本当におんぶに抱っこの、最低な人になるから・・・!)」


 その思いに、その願いに、それは静かに、だが強く反応する。

 熱い。何かが強く熱を放っている。その感覚を辿り、手にすると、それは自身の父から贈られた指輪の一つ。淡く白く光り、熱量を放つそれを見つめていると、まるで自分を嵌めろと、そう言っている気がしてならない。そして、指輪に導かれるように、ゆっくりと右手の中指にはめてみる。


 「っ!?な、何?」


 指の付け根まで入れた途端、突如として脳内に流れ込んでくる情報の山々。それがようやく落ち着いた時、ソロモンは冷静にも自信に満ちた声でこう言い放った。


 「みんな、聞いて。あの女のやったことのカラクリがわかった。それに攻略法も。」


 「!?本当かソロモン!でも一体どうやって・・・?」


 「うん、この指輪が教えてくれたの。」


 そう、指にはめた銀色のリングに優しく触れながら答えた。

 彼女が受け継いだ指輪にはそれぞれ特殊な効果があり、今つけている銀色の指輪には見た対象の弱点を見つけ出し、攻略の手順を理解させると言うものだった。彼女の悲痛な願いが届くように指輪が答えた結果、その機能を取り戻したのだ。


 「そ、それで一体どうすれば良いのですか?」


 「まず、どうして攻撃が通らなかったか。アレは、超膨大な魔力を放出して、空間を歪ませ、そこにできた亀裂のようなところに入っているの。だから、この世界から攻撃をしたところで時空の間にいる彼女に攻撃は通らないの。」


 「成る程・・・。空間が歪んでいるから空間をつなぐ清水の能力もちゃんと働かなかったのか。それで、攻略法は?」


 「同等以上の魔力をぶつけて亀裂の位置をずらしてこっちの世界に戻らせる。そしてその後出てきた本体を叩く。でも直ぐにやらないとまた逃げちゃうからどれだけ素早くことをなせるかも重要なの。」


 「つまり、まずはその高威力の魔法か何かを発動できる奴が必要ってことか・・・。でも・・・。」


 残念ながら、六人の中にそれほどの威力と攻撃範囲を持った者はいない。それぞれ一対一の戦闘に特化しすぎなのだ。まぁ多めに見て十勝がギリギリというのが悲しい現実だ。


 攻略法が分かってそうそう新しい壁に打ち当たり、皆のテンションが低くなる。が、ここで一人、ゆっくりと自ら手をあげて、緑髪の少女が名乗りを上げた。


 「私が、その役目を受けても?」


 「え、いいのか?」


 「それはもちろん。私だってアレとの因縁はあるんです。それを忘れていたのですか?だいたい今更何を。」


 「い、いやそんなことないぞ。そうだよなうん。」


 嘘だ。実際は自分たちのことで精一杯で、頭の中から抜けていたのだが、ともかく戦力として非常にこころづよい。


 「ただし、私はそれに全魔力を使うつもりですし、詠唱も強力な分長くなります。」


 「そこは任せてくれ。それまでの時間稼ぎは死ぬ気でやってやるつもりさ。」


 「それともう一つ、打った後は相当視界が悪くなると思います。それを加味して止め役を決めなさい。」


 「あー、まぁ、そうだよな。デカイの一発ドカンといくんだから辺りもすげぇことになるよなうん。んでじゃぁそーなると最後のとどめ役、こいつしかいないよなぁ。」


 そう言って連太郎は、章太郎の背中を景気良く叩いた。その言葉に、ほかの五人もそろって首を縦に振る。


 「!?なんでだよ!確実に倒すなら日輪とかの方がいいだろ!?」


 「ううん、当たらなっきゃ意味がないもの。私じゃ無理だよ。」


 「なら鷺沼!お前なら未来見てどこに当てればいいかわかるだろ!?」


 「どれだけの候補があると思っているんだ。私の脳がキャパオーバー起こして潰れるぞ。」


 「クッ・・・でもなんで俺なんだよ!俺だって見えねーし!」


 「お前なら適当に突っ込んでいっても当たるだろきっと。」


 「運任せかよ・・・。確かにそれで今までやってきたけどさ。」


 「ま、それだけじゃねーよな。最後にとどめさすのは章太郎がいいんだ。というか、お前が決めないでどうすんだ。」


 「十勝・・・。」


 前線で兵士の足止めを引き受けていた十勝の言葉に、思う。


 「(・・・だよな。俺がやるべきなんだ。じゃなきゃ、きっと俺自身が納得しやしない。)わかった。でも、成功するかわかんないぞ。」


 「大丈夫だって。お前の能力をちゃんと信じろ。俺らだってお前に決めて欲しいんだ。」


 親友の言葉に、小さくうなずく。不安はたくさん残っているけれど、ここまで言ってくれる人がいるなら答えねばならない。


 「じゃぁ、始めます。ですが準備に時間かかるのでその間、よろしく頼みますよ?」


 「了解!じゃぁ、俺らは時間稼ぎしつつ章太郎を前へ運ぶ。オーケー?」


 「「「「「了解」」」オーケー!!」」」


 了承の言葉と共に、それぞれが動き出す。ここを正念場として、力の限りを尽くす。兵士自体は未だゆっくりと増え続けているが、獅子奮迅の勢いで敵対する一同によって増数より減数の方が上回ってきていた。


 そして、一人ベロニカは己が最大の一撃を放つ為に詠唱を番う。


 「『お前は害するものか、お前は仇なすものか、なればその七魄(しちはく)を捧げよ、ならばその三魂(さんこん)を捧げよ』」


 天井部分に、金色の魔法陣が一つ展開される。否、ここからでは見えぬが、それは建物を超えて帳の星空に五重の魔法陣。


 「『烏滸(おこ)の沙汰、雷童の蔦、そして掲げるは勝利の御旗』」


 重圧があたりを支配し、空間が震えているのがわかる。魔法陣を中心として稲妻が迸り、星空は淀灰の雷雲によって姿を隠す。


 「『怖気を震わせ(ほぞ)()むお前に先はなく、ただ幽明境分つ今を恐れよ、その愚かさを反芻(はんすう)せよ

 火雷(からい)の鬼、鹿島の御技、黄泉の()天翔(あまかける)聳孤(しょうこ)、鳴神の創槍(そうそう)を持って(たが)ね、これを落日の一撃とす』」


 その肥大化する変化は室内にいてもわかるほどにまで膨れ上がり、六人はその先を読んだいおりの指示で安全と思しきところまで下がる。

 そしてーーー


 「穿てーーー『天ノ鳴矛(アマノナルホコ)!!』」


 天の怒号が轟く。落とされた雷槍はあらゆるものを貫き、地にその矛先を突き立てる。空気が震え、大地が震え、そして空間が歪む。城はすでに半壊状態であり、大きなクレーターがその威力を物語っている。

 

 「(ま、まじかよ・・・!鍛えた俺らだって、俺らと同じくらい鍛えた二宮たちだってこんなことできないだろうに、どうなってんだこの人!?)」


 これが天才、至高の域に最も近いと言われた者の実力。勇者や、ドーピングなんてものをただ生まれ持った才能を持って覆すまごうことなき天賦の才だ。


 「(!いや、そんなこと考えてる暇はない!!今は仕留めることだけ考えろ!!)」


 ただがむしゃらに、走り抜ける。時折り残電が迸る地を蹴って、砂煙によって視界が閉ざされた中を駆け抜ける。ただ一途に惚れた女の為に。

 五里霧中を進むその折、真夜中の山中で行った修行のことを不意に思い出した。視界が悪くて、足場もままならない。そんな中、自身の五感を研ぎ余して四方八方から襲いかかる敵を避け続ける。殺気を、攻撃の気配を、敵の気配を、自分以外の気配を感じたあの日々。


 ーーーー見つけた。


 「そこだぁぁぁああああああ!!!!!!!」



 肉を裂き、骨を断つ感触。広がる鉄の匂い。頬や服を濡らす血の感覚。

 不意に吹いた気まぐれな風が、砂塵を割ってその姿が垣間見える。

 頭から腹の中腹まで避けるように切られたリパビアンカの姿、そして返り血に濡れながらも己の握った剣を振り抜いた章太郎の姿。

 ゆっくりとその死に体は倒れてゆく。


 「・・・や、やった!やりました!!」

 

 アリスがこぼした歓喜の言葉に、皆安堵のため息をこぼし、手放しに喜んでいた。抱き合い、拳をぶつけ激闘の傷を癒すように笑い合う。


 「しょ、章太郎!」


 駆け寄ってきたソロモンが、勢いそのまま思いっきり抱きついて、涙を流す。やっと終わったという安堵感、彼が無事だったというその事実その他様々なものが入り混じった涙が、あふれるように目頭から垂れてやまない。そしてそんな彼女を愛おしそうに章太郎も抱きしめ返して背中をポンポンしている。実に仲睦まじい様子。


 「結局、知りたいことはほとんどわからなかったですが・・・これはこれで良い終わッ!?」


 束の間の安堵。先程までには感じなかった激重圧が体を震わす。

 咄嗟に倒れて裂けているリパビアンカの方を見るが、息があるようにも見えない。ならば、いったい何が・・・。


 「ヒ、ひひひひひひひひひひひひひひ。あぁ、とても感動的で素晴らしいわね。でも、いったい何に喜んでいるというのかしら?」


 「な、何!?」

 

 聞こえた声は、かのものと同じだった。しかし、微妙な違和感がる。色で例えるならRGB5ずつ程の差だ。言われなければ気づかないが、それでも違うように感じ取れる。そして、その声の主を探そうにも姿形それらしきものは見当たらない。


 不意に、どこかが動いた。数秒後、もう一度蠢く。最初は見つけることはできなかったが、二度目は皆同じ場所を見つめている。

 死体にできた影。それが、まるで中に何かいるように畝りたぎる。


 やがて、その時がきた。突如として爆発霧散した影、その一瞬驚きや咄嗟の自己防衛反応で、全員の視界が外れる。


 そこにいたのは漆黒のドレスに身を包んだ妙齢の女性。見てくれは非常に美しいのだが、まるで死んでいるかのように肌は青白く、不気味で不吉な印象しか受けない。


 「私のアバターが殺されるなんて、そうそうないと思っていたのだったけれど奢りだったかしら?ちょっと弱く作りすぎたかもねぇ。」


 次元が違う。そこにいるだけで立ち上がれないまでの威圧が押し寄せてくる。胃の中のものを吐き出して気を失いそうな程のプレッシャーが肌に刺さる。つんざめくような耳鳴りが、鼓膜に纏わり付いて離れない。


 そして何より、本能が否応に叫んでいる。アレは何をしても届かないと。今まで見てきた敵は決して少なくはない。その中には規格外に強い奴らだっていた。竜、神話の怪物。自身が対峙したわけではないものもいるが、その出立、空気というものは感じれたし、立てなくなるほどではなかった。

 だからこそ、目の前の女の異質さが際立つ。

 誰も勝てない。逃げることすら出来ないだろう。そも勝負にすらなりはしない。できることといえば、死を覚悟するくらいか。否、


 「ーーーー大丈夫だ。お前らは充分よくやった。後は任せろ。」


 不意に響く複数人の足音。そして頭を軽く叩く感触。激励の言葉とともに、ヤツらが前に出る。闘気を高め、目の前の女に臆することなく威風堂々と見据える影が六つ。


 「・・・お前、絶対タイミング見計らってただろ。」


 言葉とは裏腹に、章太郎の口角は上に上がっている。響はその問いに後ろ向きから手を振るだけで実際のとこはわかりはしないが、そんなこともう関係ない。


 「さぁ、選手交代だ。」


 少年よ、不倶戴天の頂に挑めーーーー。

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