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みまえばそれは怨恨に塗れて。


 響とパイフェン二人と分かれて一行はさらに奥へと向かっていた。警備兵の姿が消えること自体はなかったが、それでも気になるような数ではなかった。


 「後どんくらいでつきはりますのベロニカはん。このお城かてそない大きくはないやろ?」


 「何もなければ十分程度、と言ったところですかね。何もなければですが。」


 「えー、十分もあるん?暇やなぁ。誰か面白い話とかないの?つまらんわぁ。」


 「ほんと身勝手で落ち着きがありませんわねあなた。響さんも一緒に持ってってくれればよかったですのに。」


 「ほ、ほんとそれ。これの処理を私たちに押し付けたのは許さない。」


 「・・・そない言われるほどなん?」


 流石の辿でもここまでボロクソ言われると傷つくらしい。眉を下げて口を尖らせている。普段ブーブーいうことが多い彼女だが、実際はただの寂しがりやなだけなのかもしれない。


 「(そうい霧村って、政宮さんと何があったてくらいに仲良いのに、こういうところだと冷たいってかどこか信頼が足りてないような・・・。)」


 ふと思いついたのか章太郎がそんなことを考えていた。確かに響と辿の中は非常に良い。けれ、響が一番信頼を置いているのは誰かと言われれば、リコリスかパイフェンの二人だと思われる。逆に辿は低い方である可能性が大だ。


 「(あ!そうか、あれだ。ふざけ方の差だ。両方共すぐにふざけるしボケるけど、霧村は本当に大切な時にはそういうことしない。しても場を和ませるためにとか、そういうとこはちゃんと空気読むし、あえて読まなかったりするんだ。その点、この人はそこがちょっとずれてる。別にいつも空気が読めないってほどじゃないが、たまにずれる。多分面白さを優先させすぎなんだ。なんか、無理やりそうしてるって感じてることが、時折ある。きっとそこなんだろうな、霧村も感づいてるから、大切なところは任せないんだ。)」


 違和感の正体は、別の違和感だった。しかし、それ以上を考えてみようと思うも、章太郎は政宮辿という人物のことを知らない。知っているのは表面上のことだけ。政宮辿という名前で、17歳で、烏山女学院の生徒で、オタク趣味があって、ボケ役というそう言ったものだけ。それ以上のことは知らないし、それ以外は点で知り得ない。きっとそれは響もそうだろう。だからこれ以上は無理か、と今考えていたことを適当な引き出しにでも放り込んでおいて思考を切り替える。今はそれよりもソロモンのことが先決だ。


 ちなみに、章太郎がアレこれ考えている間も、三人の言い争いは続いていた。


 「ひどいなぁ、二人していたいけな美少女せめて。バチ当たっても知らへんよ?そいや、最近あんさんら仲良いなぁ。なんやいいことでもあったん?」


 「「あなた達のせいよ!!」ですわ!!」


 きれいにハモっていた。さすが被害者の会は結束力が違う。


 「はぁ、あの人といいどうしてこう悩みの種が次から次へ・・・(・・・ッ殺気!)」


 「な、こやつ、今の攻撃を防いだだと!?(しかも刃物を特に防具もない、布一枚の手首でか!?血の一滴

すら出ていないとは何者なんだ。)


 話の途中、どこからともかく現れた黒づくめのアサシンが放った一太刀を、リコリスが腕を軽く上げてその手首で受け止めた。刃は当たっているが、血は愚か傷がつくはずもない。


 「暗殺者の真似事をするんでしたら、刃に殺気をのせないことですわね。いくら気配を消してもそんなんじゃ、乳飲み子も殺せませんわよ。」


 そういうと同時に相手の得物を下に払い、そのまま掌で顎に一撃。続けて頭を掴んで向かいの壁へサッと放る。その間一歩も動かず、体幹もぶれることなく流れるような美しい一連の動きだった。

 一方投げられた男は崩れた壁のに埋まっており、舌を思い切り噛まされた痛みからも失神して動かないでいた。


 「はぁ、雑魚ですわね。他のも出てらっしゃい。一々一人一人出てこられても時間の無駄ですわ。」


 リコリスの挑戦的な言葉に、先ほどまでは特に何も見えていなかったところに十人ほどの同じような人影が現れ、即座に一同を取り囲むように移動した。さらに、今まで進んできた道の方から似たような輩がわらわらと湧いて出てきてウザったい。


 「虫みたいですわね貴方達。しょうがありませんわ、ちょっと遊んでいきますから先に行きなさい。」


 「わ、私も一応残る。(あっちいると辿にいじられるし疲れるもん。)」


 『じゃぁ、二人ともよろしく。お守りは任せといて。』


 今度はリコリスとソフィアが請け負う版だった。そして、誰一人としてなんの心配もなく任せてリコリスが開けた円陣を抜けて先に進む。


 「この数をお前ら二人で相手するつもりか。」


 「べ、別に一人でもいいし、目を瞑っていても手を縛られてもよ、余裕よ。」


 「よほどのバカが乗り込んだようだな。我ら王妃直属暗殺部隊を敵にして生きて帰ったものなどいないのだ。無論、それはお前らも同じ。あの少女を抹殺する仕事もあるのだ、容赦はせんぞ女ども。」


 「さっきの見てなおそんことが言えるだなんて、全くおめでたい連中ですこと。全くいっそ感心いたしますわ。(先ほどまでのただの兵士はソロモンさんのことを見ても何もなかった。彼女のことを知っていて殺しに来ているのは、王妃直属の部隊だけ?そういえばあの時の連中も似たような格好してた気がしないでもないですわね。さて、そこらのことはこいつらにでも吐かせましょうか。)」



 「どうやら本当に状況を理解していないようだな愚者どもめが。数は抗えぬ力だ。いかに貴様らが優れていようが無駄だと知れ。」


 「あ、貴方達がいくら集まろうと烏合の衆。かすり傷でも与えられたら褒めて上げる。」


 「あら、褒めるだなんて随分優しいですわね。私なら気にせずボロ雑巾のように潰してしまいますわ。」


            ♢


 城の最奥、その一室の大扉が激しく叩き開けられる。行ったのは、その後すぐになだれ込んできた十人の男女共。奥の玉座にてその様子を見守っていたリパビアンカは、その中に二人、見知った顔を見つけて眉を上げる。


 「私のところまで侵入を許すとは、ここの警備は一度見直すべきかしら。」


 「こっちは規格外な奴らが味方してくれてるからな。ここの兵のせいじゃないだろ。」


 「まぁいいわ。それより、久方ぶりねベロニカ。といってもちゃんと顔を合わせたのは一度だけだったかしら?」


 「さぁ?覚えていませんね。貴方なんかに興味ないので。」


 嘘だ。この間話したときにしっかりと一度だけといっていた。ただ、この場合は素直に答えたくなかったのだろう。相手が相手だ、関係性の悪さを考えればよくわかる。


 「あら、ひねくれちゃって。まぁいいわ、それよりも・・・。」


 「・・・!あ゛っ。」


 「わざわざこれを届けてくれるだなんてとてもいい人たちなのねあなたたち。とても嬉しいわ。」


 なんの前触れもなかった。ただ彼女が指を上に上げる動作をすると、それと連動する様にソロモンの体だけが浮き上がり、同時に首を絞められているようだった。おそらくは何かの魔術、もしくは見えない何かでもいるのかも知れない。ともかく危険な状態だ。


 無論、何も対策していなければの話だが。


 「あってよかった身代わり人形。」


 そう若干ふざけた感じで、きっと知らないだろうけれどどこか懐かしい様なコマーシャルを再現するかの様にベロニカが口にした途端、先ほどまで浮いていたソロモンの体が消え、代わりに三歳児のおもちゃの様な布のぬいぐるみが現れ、彼女自身は元の位置にもどって平然としていた。


 「私製の特別品です。いいものでしょう?」


 正確にはベロニカとリコリスの、だ。響の「出会い頭に変なことしてきてもいい様になんか対策したほうが良いだろ。」という言葉からできた品である。一応全員一つは持っているが、特に狙われるであろうソロモンとベロニカは十体近くは仕込んである。


 「・・・流石『双樹』の最高傑作なだけはあるわね。いいわ、いいわ。そうでなくては意味がないもの!!」


 「いきなり支離滅裂なことを口にして気持ち悪い。あ、キモいのは前からでしたね。」


 「!・・・まぁいいわ。人格なんて必要ないからその才能の真偽だけわかれば充分よ。」


 何をするかは知り得ないが、今の言葉から見過ごせるような事柄でないことはよくわかった。やはり目の前にいる女は対峙すべき敵だ。その真意は未だ定かにあらずとも、やらねばならぬことは一つ。


 「最後に聞いておく、お前の目的はなんなんだ?ここまでする意味はどこにある?」


 「わざわざ口を開くとでも?身をまきまえなさい愚弄。誰に口を聞いているかわかってるの?」


 「随分と偉そうだなあんた。ま、その方がやり易くて俺らは有難いけどな。」


 「とりあえず、話が通じないなら実力行使あるのみ、ですね。話はそのあと聞くということで!」


 「(アリスちゃん、絶対霧村君の影響受けてるよ・・・。いや、前から結構変わった子だったけど。)」


 「・・・先手必勝だ!」


 意識が逸れている時の背後からの一撃。十勝の行った不意打だったその行動は、リパビアンカの寸前で見えないナニカに阻まれる。


 「やべ、マズっ!!」


 「!開いて!!」


 止められた不意打ちにより完全に無防備になった十勝のその体を、魔法陣の光が不吉に照らしだした。出現から発動まで1秒にも満たない短い瞬間、間一髪アリスの『うさぎの穴』によってことなきを得る。


 「あ、あっぶなぁ。助かったわ清水。」


 「気にしなくていいですよ。それよりあの感じ、バリアか結界の類でしょうか。まずはあれをどうにかしないと始まらないみたいですね。」


 「それなら私だった行けると思う。だからアリスちゃん、お願い。あの人の近くまで送って。」


 「だな、日輪の能力ならあれだってどうにかできるはずだ。そしたら俺らはうまく気を引いて成功率を上げればいい。」


 「ですね。いくら私が送れるといっても、そこから気付かれて避けられたら悲惨ですものね。」


 日輪瞳の能力は、包丁を作り出すことだ。一度に出せる量は一つまでだし彼女本人でなければ使えないが、その刃はあらゆる干渉を断ち切って相手へと至り切り裂く防御負荷の絶対攻撃。それはそこにある物体はもちろんのこと、目に見えない力や概念そのものに至るまで例外はなく全てを断ち切る。

 これならばあの防壁も分けないが、性質上真正面から突っ込んんでいくのは愚策で、アリスと合わせることによってその真価を発揮するのだ。そして、成功率を上げるためには対象の注意を逸らすことが望ましい。


 「『白銀の剣々(ヴァイスアストシュヴェールト)』」


 「皆んな下がれ!!私が引き受ける!」


 いつまでも話し合ってる暇などはなかった。すでに火蓋を切っているのだから、相手が待ってくれる道理はない。

 無数で不規則な動きをした光剣、によって放たれた魔法が一行に牙を向く。

 それにいち早く気づいたいおりが最初の一つを獲物の長剣で砕き、そのまま対処へとあたった。相手の攻撃は先の読めない出鱈目で自在な動きをしているが、いおりはその全てに対応し、処理仕切っている。

 『一寸先は灯』、5秒後の未来が見える、もっと簡単に言えば未来予知、そんな能力。それはただ一つの未来だけでなく、望めばあらゆる未来の可能性すら示唆してくれる。戦闘に置いて、こと最強クラスの能力であり、そのアドバンテージは多大なものになる。


 「(右、その2秒後には斜め前三十度に二歩半。その場所、タイミングなら三つ同時に処理できる。いや、まずい、八手目が、どうしても間に合わない!)」


 だが、この能力にも弱点がある。いくら先が見えようとも、対応できなければ意味がない。そしてその対応の幅は本人の技量によって決まるということだ。いくらこの一週間ほどで大幅にパワーアップしたとはいえ、それでも限度がある。


 「『黒杭(エスカトロジー)』。」


 だが、ようは一人で無理なら、それをフォローする人間がいればいいだけの話だ。ベロニカが指の間に挟んだ黒い棒状のものを宙へと放り投げる。するとその中からマトリョーシカ方式で二つ同じものが飛び出て、互いの間に高圧電流を伝わせながら三位一体で動き出した。そしてその杭が流れている電流を使い防壁を張り、そしていおりが取りこぼした光剣を防いでいく。

 残り10の隙が埋まり、ほぼ百%の守りとなった防衛網を見て、リパビアンカは次の魔法を準備する。何が起きてふせがれているのかはよくわからないが、であればそこは防げないような高威力で押せば良いと結論をだし、三重魔法陣を自身の目の前に作り出し、詠唱を始める。


 つまり隙だらけ、完全に意識はいおりとベロニカの二人に向かっているわけだ。


 「もらった!!」


 「・・・ッ!!」


 『うさぎの穴』つたって運ばれてきた瞳が、背後からリパビアンカに御命頂戴と力を込めて斬りかかる。何の抵抗もできずにあっさりと破られる防御壁。そして手に感じるはいつまで経っても慣れない不快な肉を切り裂く感触。飛び散った鮮血。

 ここで触れておかなければいけないのが瞳の能力の欠点だ。この能力、いくら防御不可の攻撃とはいえそれを行う獲物は所詮包丁。刃渡りは二十も有ればいい方で、一般人相手ならいざ知らず、そうで無ければ致命傷を与えるのが難しいと言ったことだ。元々人を切るものではなくて料理に使うものなのだからしょうがないが。

 そしてそれは相手の王妃様もそう、切られ血も出たが、致命傷にはなっておらず、ある程度のダメージを残しただけにとどまる。


 「ごめんなさい。失敗しちゃった。」


 もう一度『うさぎの穴』を伝って戻ってきた瞳が、頭を下げて謝る。だが誰もそれをとがめる事はない。


 「バカいえ、あれでも十分だって。だいたいただの王妃があんな力持ってる方がおかしいんだって。」



 「それはわかるけど、それを私たちがなんでか考えてもしょうがないし、関係ないだろ?」


 「そうだな、どんだけ考えてもわかりそうにないし、結局やる事自体はかわらないしな。ともかく今は畳み掛けるぞ!!」



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