崖を下り、壁を破る
日が落ちた。あちらこちらから夕食の支度の良い匂いが鼻をついてダイレクトに腹へとダメージを与えてくる。軽く食事は済ませてきたが、それが余計に聞いたのか、まるで空きっ腹のような感覚に陥る。
だが、今から腹ごしらえをしに行く暇はないし、途中で体調を悪くする可能性があるので我慢するしかない。
場所は街の南東、王城に隣接した小高い丘の上に十四人の姿はあった。城の真後ろが断崖絶壁で間三十センチもないここらには警備の姿はなく、それは丘上も同じだった。
「さすがに崖の上からの侵入者なんて向こうも予想してないだろうな。いい不意打ちなんじゃないか?」
「そ、それにしたって警備ゼロって・・・い、いくらなんでも無用心じゃない・・・。」
「まったくだーね。やる気あんのかここの警備兵共は。ま、お陰でこうやって易々と進入できる訳だし?こちらとしてはひっじょーに有難いけども。いっそ警備兵ゼロみたいな愚行起こしてねーかなぁ。」
「ゼロというわけではないですが、中の警備自体もそこまで多いわけではありませんよ。最も私の知る限りですが。基本的に入れないことに力を置いてるようですし。」
「その割にここには誰もいないというのは、本末転倒な気もしますね。」
「さすがに正面突破するバカもいなと思うけどなぁ。そっちの警備が大事なのはわかるけども。」
「きっと攻め込まれるだなんて夢にも思っていないんですわ。全く、おめでたい連中ですこと。」
呆れ果てたリコリスのことばに、その場にいた全員がうなずく。
こんな、潜入するのに好都合でしかない場所を教えてくれたのはベロニカだった。
この間の話から、彼女がこの国の王妃、つまりソロモンを消そうとしている今回のターゲットに良い印象を持っていなく、かつこの城内の構造や警備状況にも明るいと、まさに響達にとってとても都合のよい人物だった。
なのでとある提案とともに案内役を頼み、彼女も了承したのだ。
「それで、『王妃の真意がわかる』というのはなんなのですか?ちゃんと最後まで付き合うので早く教えて欲しいのですが。」
「さぁ?何企んでるかはしらねぇさ。ま、ただ、何かよからぬことを企んでることは間違いねぇだろ。十中八九なんかある。」
「それは私もそう思う。じゃなかったらこの指輪にそこまで執着する意味がわからないもの。」
「でもそれってすごい力が込められてるんでしょ?」
「だからだよ。この前聞いた魔術実験のことといい、才能や力に貪欲だから疑ってんだ。そんなに色々揃えて何をする気だってな。」
「色々ときな臭いところが目立ちますからね。霧村くんの言う通り、裏でとんでもないことが起こってそうです。」
それが良いことか悪いことか、世界を震撼させるほどの大事なのか、わかりはしないが嫌な予感がするんpだ。そもそも本当にあるかはわからないけれど、響の感が何かあると先程からそう言っているのだ。
「それ特に何もなければ私にメリットがないですよね?」
「・・・気に食わない奴なんだろ?一発ぶん殴っとけ。」
「無責任な人ですね。・・・まぁそれはそれで良いけれど。」
『いいんだ。まぁ殴る殴らないは置いといても、ちゃんと話をする機会はあってもいいんじゃない?』
「それで、どうすんだい?人数も人数だし何か策でも?」
「いや、この間霧村と話し合ったんだがもうそういうのなしで突っ込もうと思う。」
そう答えた章太郎に、『え?嘘だろ?』みたいな顔が多数向けられる。きっと数部隊に分かれて隠密作業をするのかと思っていた者がほとんどだったから、混乱しているのだ。
「俺も最初はバレないようにって思ってたんだけどな。よくよく考えたらどうせ後々バレるだろうしいいかって。一応ここの最高権力者に会いに行くわけだしな。」
「この人数じゃどうわけたってどっかで誰か見つかるさ。まぁ仮に誰も誰にも見つからずに行けたとて、話し合いか殴り合いかの途中に人呼ばれる可能性だってあるわけだ。だったらめんどくさいこと考えずに突撃した方がいいだろ。後は終わった時考える。」
言う通り、この人数で隠密と言うのは難しいだろう。そう考えるといっそ本当に突撃した方がいいのかもしれない。それに、今回メインで立ち回るのは章太郎達だから、あまり難しいこともできないだろう。
「ええんとちゃいます?その方が手っ取り早いしなぁ、変に考えてもしょがあらへんやろ。ほな、行きましょか。」
「おう、馬はねぇが洋国の桶狭間ってな!景気良く殴り込もうぜ!」
♢
「敵襲ぅ〜!!敵襲ぅ〜!!出会え出会え!!」
王城内に、警戒声が響き渡る。それに呼応するように各所から警備兵が集まってき、さらに騒がしくなっていった。
理由はつい先ほど起きた轟音と、壁の崩壊。そしてそこから飛び出すように入り込んできた14の人影であった。
派手に殴り込んできたそれらは近くにいた兵達を片っ端から吹き飛ばしていき、今もその進行を止めることなく追手や肉壁を薙ぎ払っている。
「はっ、西洋造りの城だってのに呼びかけが江戸とかどういう感性してんだよおい!一周回っておもしれぇじゃねぇか!」
「おい、頼むからて手加減してくれよ。ここの人たちもそうだけど城が崩れたら俺らだって生き埋めなんだからな?」
「わーてるって。俺だって殺人鬼でもねぇし、バカでもねぇからそんなことしねーての。こっちが突っ込んでってるのに一方的に殺すとかそんな理不尽の極みみたいなことしねぇから。」
「すごい、言ってることはすごいまともなのに、全然信用できない。うん、逆にまともだからかな?」
「日輪、お前あとで屋上な。」
「!?ごめんなさい冗談です!!」
響に脅されて即座に謝り倒す瞳。仕方がない、同じ状況なら誰だってそうする。単にそうなったら洒落にならないのもそうだが、この男がいうと冗談でも、1割弱くらいの確率で実行しそうな雰囲気があるのが厄介だった。厄介なのはいつものことだけれども。
「い、いたいけな女の子を脅して楽しい?趣味悪・・・」
「・・・おい、辿。あれって今持ってるか?」
「残念。今は宿やなぁ。せやかてこないなところでするよりも、昼間の街全体に聴こえるようにした方がええんとちゃいます?」
「おぉ、それもそうだ。じゃぁ『ドキッ!メンヘラ聖職者のポエムぅ朗読会』の知らせを伝えるポスターでも帰ったら作っとくか。」
「ちょ、なんでしってるのよぉ!!!!!!」
「煩っ!普段籠もるくせにいきなり大声上げんなよ気持ち悪い。」
「ま、また、またあんたね辿!!この!この!!」
「ふふ、あたらんあたらん。それに呪うんやったら生まれの不幸を呪うんやな。ぷふっ、ほんまネタの宝庫やなぁ。突けばぎょーさん出てきはるもの。」
「(あ、あくまだ。霧村も大概だけどこの人も相当だぞ・・・。)」
一応、敵陣のど真ん中なのだがどこか緊張感に欠ける会話が聞こえて来る。まぁ、今のところ章太郎達だけで対処できてるし、響達はたまに撃ち漏らしたやつを処理する程度なので、それほど余裕があるということか。
「おぉ!道を開けろ!!アギリアス騎士団長様が到着したぞ!!」
「よし、これはありがたい!!様がいてくれればもう問題はない。観念しろ侵入者共め!!」
上がる兵達の声。どうやら上のものが来たらしい。
「・・・へぇ、騎士団長ってことはあの男か。」
そう言って数秒考えた後、少し前に出て前線で戦っていた章太郎達を押し除け目の前に溜まっている有象無象を文字通り一蹴して吹き飛ばす。
「先行ってろ。雑魚しかいねぇが、そのくせ頭数多いから思ったより進んでねぇ。」
「あ、あぁ。じゃぁ頼んだ。・・・先を急ごう。」
「あ、そないならうちも残り・・・・。」
「いらん。」
「えー、ぶぅ〜。」
自分も自分もと便乗しようとした辿が、秒で否定され、頬を膨らませてふてくされている。それを見て響は若干呆れるも特に気に留めた様子もなく、この中で一番信用できるパイフェンに頼を伝えた。
「ガキかオメーは。必要ねーだろ二人も。・・・パイフェン、下だ。多分なんかある。」
「了解です。では私も失礼しますね。」
話を聞き、そういうと一人壁を足場に使い3次元的な移動法で雑兵を飛び越えていく。残った十二人も響の指示通り開けた道の先を急いで進む。
角に差し掛かり、最後尾の姿がようやく見えなくなった頃、まるで気を見計らったかのような御都合タイミングで、遠目に見た男が響の前に出てきた。
「・・・!君は確かあの時ベロニカの家にいた・・・。」
「へぇ、たいした時間でもないし、ましてや遠目だったのに覚えてるのか。驚きだ。」
「あの家にお客ってのが珍しかったし、ずいぶんと個性的だったからね。・・・そうか、攻めてきた場所もそうだけど、君がいるってことは彼女もいるのか。」
「話聞いたときもそうだったが、お前さんずいぶんとアイツに肩入れしてんなぁ。」
特に肯定の言葉はないが、文脈からそれを肯定と捉えて複雑な顔を見せる。やはり特別な何かがあるのだろうか。その疑問は彼自身の言葉ですぐに解決された。
「個人的にエーヴィルさんにお世話になったてのもある。だが・・・。」
「だが?」
「彼女の過去を知っていて、行動することはダメなのかい?知った間の相手を心配するのの何が悪い。」
その言葉に、一瞬驚いたような表情の後、口元が軽く綻ぶ。
「悪いとは言ってねぇさ。しっかし過保護だねぇ。アイツだって自分の意思で動いてんだ。心配ばかりしててもうざったいだけだぜ?」
「・・・そうか、そうだよな。彼女ももう立派な大人だ。自分だけ大人な気分で少し浸っていたのかもしれない。なら・・・、騎士団長として、その責務を果たさせてもらう。君に恨みもないし、できることなら交わすのは剣じゃなく酒でありたかったけれど、俺にも誇りというものがあるんでね。・・・押し通る!!」
「ハッ!上等!!この先道はねぇから帰ってクソして寝てな。それでも進むってんなら・・・。」
アギリアスの足に力が入る。迎えるように響が構え、指を動かす。そしてーーーー
「「力づくで行く!!」来やがれ!!」




