燃えろ俺の小◯宙!!
この国に来てから、二週間の時が過ぎた。そして昨日、ようやく頼んでいた品ができたとの知らせを受け、それを受け取りに来たのである。
来たのは依頼主である響とルールー、ついでできた野次馬二人。そしてこれだけだと非常に不安だからと着いてきた少年二人の計六人だ。
依頼主の女錬金術師の家の扉を叩くと数分遅れで扉が開き、おそらく寝起きであろうと思われる彼女の姿が現れた。実は完成の知らせは夜中過ぎに来ており、そこから今まで寝ていたのだろう。まったく、夜中に連絡をする馬鹿がいるか。しかもやけに煩い魔法で知らせてきたせいで本人達どころか周辺近所にまで迷惑がかかる始末だ。本人は寝ているだろうからとりわけ大きな音で知らせてやろうと思ったのだが、夜中寝てるんだからそのまま寝かせろや、常識を省くなバカやろうと今日の響は機嫌が悪い。
「何時だと思っているんですか?人が寝てる時に迷惑な人ですね。」
「オメェが言うんじゃねーよ!あ゛?だいたいもう昼間だっつーの、夜中にあんなもん送りつけてきたことと言いわざとやってんだなそうなんだな舐めんじゃねーぞクソアマ。」
「口が悪いですね貴方。年上に対する敬意というものがまったく感じられませんよ。」
「じゃぁ尊敬されるような行いをしてみろやボケ。その対極のことしてるから言ってんねん。」
「?なんのことを言っているのかよくわからないのですが?もっとわかりやすく説明をなさい。あまりにも抽象的過ぎますよ。」
「殴っていいか?殴っていいよなこれ。」
「やめとけ阿呆。お前が殴ったら大変なことになるだろうが。」
連太郎の静止で渋々握った拳を下ろす響。そうしてようやく家の中に入って席に着く。出されたお茶を啜りながら例のブツを取りに行ったベロニカを待っていると、2、3分もしないうちに二つの箱を左手に積み、右手に握ったアイリスの模様のマグカップを啜りながら歩いてくる彼女の姿が奥の方から出てきた。
「む、まだ熱いわね・・・。」
「・・・なんだ朝飯かそれ。いやもうそんな時間じゃねーけど。」
「悪いですか?寝起きは食欲がないので。」
「誰も悪いとは言ってねーよ。早とちりでキレんなめんどくせぇ。つかどーでもいいわそんなこと。それよか早くブツ出せブツ。」
「自分で聞いておきながらずいぶんとな物言いなことで。はぁ、その箱を開けてください。」
言われた通り目の前に置かれた小箱の蓋を開ける響とルールー。御丁寧にクッション生地の台座に置かれたそれは二個一対のリングとの縦横の長さが真逆のロザリオである。
「まず指輪の方から。その中には極細の鋼糸が仕込んであります。取り出すときは念じれば出てき、自由自在思うがままに操ることが可能。そして、糸からは人の致死量の約9000倍の水銀を分泌することができます。液体としてはもちろん、気化した状態にすることも造作はありません。」
「おぉ、無駄なもんのない普通にいい性能してやがる。確率で標縄に変わるみたいなことでもいうのかと思ったが杞憂だったわ。」
「変な云々の前にどんな性能してるんだよそれ。流石にこの人でもそんなことしないだろ。」
「当たり前です。私をなんだと思っているのですか貴方。」
「・・・アレを見せられた後だとそう思ってもしょうがないのでは?かくいう私もまだ半信半疑ですし・・・。」
さっきまで流石にそれはないだろと半目で見ていた章太郎や連太郎も、アリスが言った初めて会った時に見せられたゴミクズみたいな極めて時計に酷似した何かのことを思い出して口を紡ぎそっと目線を外した。それだけアレがひどいものだったということだが、そのことをつくった本人だけはどうも気付いていないらしい。
「でも地味やなぁ。ウチとしてはもっとおかしなもん期待しとったのに。」
「おい、それで迷惑被るの俺だからな?最悪命の危険あるんだかんな?そこんところわっかっとるんかお前。」
「いややなぁ、冗談に決まってますやないの。」
『2、3割くらいは本気な気がするけど。』
「何でそんなウチに対する信頼低いん?そんなんばっかりやと泣きますえ。」
「そりゃ日ごろの行いってやつだろきっと。」
と、自分のことはたかい高い棚に上げておいてそんなことを言う響に全員が「すくなくともお前がいうんじゃねーよ。」的な目を向ける。
だがこの男がそんなことを気にするはずもなくベロニカに作らせたルールー用のブツの説明を求めた。
「ではコチラですね。私は一通りの説明を受けたとき、彼女の無駄になっている能力に目をつけました。そのは常時ダダ漏れになっているその能力をエネルギーとして溜めておく機能が備わっています。そして、この十字架部分を一定のリズムで叩くことによりーーー」
そう言って箱から取り出し手に取ったそれを人差し指を使い独特なリズムで三度叩く。するとーーー
「このように弓の形をとります。そして弓を引くことによって溜めてあったエネルギーが矢となって出現、後は撃ち放つだけです。最後に元のに戻すには先程と逆のリズムで叩く。」
そう言って展開した弓を元のに戻して小箱の中に戻してどうだすごいだろと言ったふうにドヤ顔で締める。
「いやそんなドヤ顔かまされてもまだ使ってもねぇから感想何てねぇぞ。」
『個人的にはこの仕様は嬉しいな。ずっと殺気を出し続けるのって疲れるし、使い道が出来たってのがすごく大きい。』
確かに今まで応急処置じみた方法で対応していた事柄が完全に心配しなくて済むというのは喜ばしいことだ。それでいて無駄でもなくなったというのは良いものを作ってくれたと大手を振って言える。後は響の言う通り本格的に使ってみてからだろう。
「あ、私としたことが大切なことを忘れてたわ。まだその名前を伝えていませんね。そちらのワイヤーが『アラクーーー」
「うわありふれた名前。」
「ノフォビア』です。」
「!?予想の斜め上!?何で『アラクネ』で止めなかったんだよ。そしたら平々凡々だがまぁ変な名前じゃなかったのにどうして恐怖症をつけた!」
「私の趣味ですが?そっちの方がかっこいいですし。」
「おぉう、センスが・・・。」
「ま、まぁセンスなんて人それぞれだし、な!あんまり人がどうこう言うようなことじゃないだろ。」
「だーから使用者俺なんですけど。」
なら付け直せばいいのにそれをしないのは制作者への敬意か、もしくは単にめんどくさいのか。
「ちなみにの弓矢のほうはーーーーーー失礼。」
話の途中、誰かが戸を叩く音が聞こえた。家主であるベロニカは響達に一言断りを入れて軽く様子を見に行き、覗き窓に目をやる。
「あー、・・・少し待ってて貰っても?」
「おー、了解。」
そうして彼女が開けた扉から出てきたのは甲冑に身を包んだ見た目三十代前半といったところの一人の男だった。
「突然すまないね、お邪魔するよ。」
「まったくです。しかもなぜわざわざ今日なのか小一時間ほど問い詰めたいぐらいですね。」
「・・・君にお客さんとは珍しいな。」
「珍しいとは失敬な。大事な顧客を待たせたくはないので手短にお願いします。」
男が引きつった顔をして後ろの方を見ているが、それよりも何よりもこの男を出来るだけ早く帰らせたいという気持ちが強いのか全く気にした様子はない。だから男が小さく漏らした「なるほど類友か・・・。」なんて言葉もスルーする。
「要件といってもいつものだよ。王妃様がお呼びだ。」
「・・・はぁ、だから私に行く気は毛頭ないとさんざんいっているのですが。」
「わかっているとも。俺個人としても行かない方がいいと思うさ。でも一応これでも公務の者だからね。言われれば伝えに来なきゃい気ない。」
「まぁ、下手に貴方以外がこられてもそれはそれで困るのでそこは感謝していますが・・・。だいたいあの女はどうしてこう私に執着するのかてんでわかりませんね。巷では私、ゴミ生産機と有名らしいですよ?」
「それは君がふざけているからだろう?それに、だとしても君の才能はそれを補ってなお余るほど魅力的だって言うことだ。」
正確には、わざとゴミみたいなものを作っているのだ。エーヴィルから教わったことを実践しているのもそうだが、わざと変なものを作ることで『ベロニカに物を作らすと変なものしかできない。』という風潮を作り出して身を守っている。
「・・・ともかく私はあんな女の姿なんてみたくもないし、ましてや言いなりになる気なんて毛頭ありませんから。」
「・・・わかった、適当に理由をつけておくよ。ただ、そんなことを他の騎士の前で言うのはご法度だ。処刑されてもおかしくない物言いだからね。じゃぁこれで、邪魔したね。」
「・・・毎度すいません。彼女がさっさと諦めればいいのですが。」
「気にしなくていいさ、仕事だからね。」
そう言って、男は扉から出て行った。ベロニカの方もだいぶ疲れたのか大きなため息を漏らして、響達の方へ戻るために後ろを振り向くのだが。
「かつてはア◯ナの◯闘士でありながら、生きることのみに執着し、その挙句、ハーデ◯に忠誠を誓いアテ◯のお命を狙いに来るとは・・・。」
「く、」
「汚れきった魂のお前たち二人などこの白羊宮に入れてなるものか。このム◯自ら引導を渡してくれる。」
「くらえ◯ゥ、積尸◯冥界波ぁ!」
「心臓を貫いてやる。ブラ◯ディ・ロー◯!!」
「舞い戻るがいい、死の国へ。スタ◯ライト・エ◯スティンクション!!」
「何ぃ〜」
響と辿、二人して何かやっていやがった。しかもわざわざ一人二役してまで。
「は?」
その光景を見て出てくるのはそんな声しかなかった。みれば他の皆も大方頭を抱えている。そして、聞いた絶対に疲れることになるからききたくはないのだが、聞きたくはないのだが、でも聞かなきゃいけないところなのでどうしようもなく渋々と、章太郎が口を開く。
「・・・一応聞くぞ。何をやってるんだ?」
「「聖闘◯星矢ごっこ。」」
「小学生かおまえらは!!いい歳してそんなことしてんなよ!!やめろや!!」
「やだよ。ただでさえ二人だけで人数足りないってのに。」
「別にあんさんらに迷惑はかけておりまへんのに。」
「そういう話じゃねーよ!!だいたいベロニカさんの用事も済んだの!もう待たなくていいの!だからやめろっていってんだの!!」
「えー、うちのライト◯ングプラズマは?天舞◯輪かて残ってはりますのに。」
「俺だってまだ大本命のギャラクシ◯ンエクスプロージョ◯やってないんだぞ!」
「しらねぇよ!!駄々こねるとか本格的にガキかおあんたら!!」
「「ぶー」」
ひどい茶番を見た。確かに誰にも迷惑はかけていないが、暇つぶしをするならもっと他にあっただろうに。まぁ、この二人相手に普通などというものを求めることは無駄でしかないか、いつものことだけれど。
「まーいいか。それよか話の続きだ。えーと、どこまで話してたか覚えてねぇなぁ。」
「・・・聞かないのですか?」
『聞いてほしいなら聞くけど、どうする?』
「・・・まぁ、隠すようなことでもありませんし。」
聞いて欲しかったらしい。そうして彼女はまず初めに自分の身の上話を、そしてかつて起きたあの事件を語り始めた。
自身が普通の人間ではないこと、かつて被験体として扱われていた実験計画のこと。その代償に起きた悪鬼の存在、そして何より優しくて強かった一人の老人のことを。
そんな過去の一つ一つを聞く響の表情は普段のおちゃらけモードではなく、真剣そのもので、また何か思うことがあったのか眉間にシワを寄せている。
「力が暴走しはって化け物になるなぁ、なんやアレ思い出しますなぁ。」
「『新世◯より』か。まぁ俺も頭よぎったわ。」
「どっちかゆうよりはどっちも、みたいな感じやけどなぁ。」
「能力に飲み込まれてってのと手当たり次第に破壊と殺戮を行うってダブルパンチだもんな。似てるようで違うってか。」
「うん、わかんねぇ。『新世◯より』ってのはどっかで見たことある気がするんだが・・、。」
「書店だろ。(そりゃどうでもいいんだが、王妃が発起って言ってたよな確か。んでその王妃様とやらがソロモンを殺そうとしてるってわけだ。うむ、何かあるのか?)」
何か引っかかることがある、そんなふうに顎に手を当て、頭を回す響。それが何かわからない、というよりはどこかの何かと繋がりそうな気がしてならないのだ。色々と考えを巡らせながらも、何か情報はないかとベロニカの話にも耳を傾ける。
「王妃のお気に入り、というのは当たってましたね。私は処分されることなく、今このように生きてます。しかもめんどくさいことに度々呼び出される始末です。全て適当に理由をつけて断っていますが。」
「何でだ?別に行ってもよかったんじゃ。」
「事件の後、私だけ数日間王城に避難させられ、その時初めて謁見したのですが、はっきり言ってえもいわれぬような嫌悪感しか出てきませんでした。それからは一度も顔を見ていませんね。」
「王妃のお気に入りだったんですよね?面識がなかったのですか?」
「向こうが一方的にマジックミラーの向こう側から私を見て気に入っただけです。そもそも、彼女があの企画をやれと言わなければ爺様は死ぬことはありませんでしたし、あんな辛い思いもしなくて済んだのです。」
『そんな相手の役に立つだなんて、したくもないし死んでもゴメンって訳ね。気持ちはわかる。』
会い見えた時に感じた感覚もさることながら、関係上にて憎みこそすれ、恨みこそすれ、嫌うことこそあれど、決して好くような相手でもない。これで謝罪の言葉の一つでもあれば、見せる涙の一つでもあればそれはもう少し違ったのかもしれないが、なかったものをねだったところで意味はない。
「というか今更ながら十年近くも良く断れてんなおい。王妃様ってやつのおつむはずいぶんと弱いらしいみたいだが。」
「まぁ、そこはさっき訪ねてきたアレ、元騎士団長が上手くやってるみたいですよ。なんて言ってるかまでは良くわかりませんが。」
「味方してくれてんのにアレ呼ばわりされてるとかかわいそうだな。まぁ、いいか。よくわかんねぇしそいつのこと。・・・うん、これでいいや。」
最後の脈絡も何もないいきなりで唐突な言葉に皆首を傾げた。その中で響一人だけがそこそこ満足したような顔で笑っている。何か考えでもあるらしい。
「どないしましたん?」
「いや妙案?てほどでもねぇか。てか話的に気付くだろ。」
「・・・!成る程、そういうことですね。確かにそれなら早そうです。」
「え?あー。そういやそこどうすんのか決めてなかったな。」
『結局他力本願?』
「おい、言葉を選べ。すげえダセェじゃねーかそれだと。」
だいたいの者が響が何を言ってるのか理解したようだが、ベロニカ一人だけは最後まで何のことかわからず、終始疑問符と仲良くやっていた。




