たまには・・・
今度相手するのは先程の迷惑極まりない個人客とは異なりグループでの団体客である。20前後そこらの女性四人の集まりで数的にも響たちと同じなのでグッドだ。まぁ、あのバカが何かやらかさなければ何事もなく終わるだろう。そんなことが起きるのかは甚だ疑問を持って然るべきところだが。
「へー、全員今日入ったばっかの新人なんだー。結構この店好みでくるけど見慣れない顔だなーって指名したの。なるほどそういうことねー。」
「あー、すいません。それに俺らこれが初めての水仕事だし結構ドジやらかすと思うんで・・・」
「いいのよ、新人なんだし仕方ないわ。それと、男はもっとシャキッと堂々としてなきゃダーメ。特にここではね?」
どうやらあたりの客らしい。おそらく年齢的にはそこまで金銭を持ってはいないだろうが、接しやすくまた寛大。さっきの害悪ババアは爪の垢どころかため息レベルまで煎じて血液に直接注入してほしいものだ。
また、話から察するに結構な常連さんらしく、他のホストたちとも軽い挨拶程度に会話をしている。本来新人ならこういった客を相手取るはずだろうに、なぜ一番最初があんな集めたゴミをごちゃ混ぜにした挙句腐敗させて撒き散らかす収集車みたいなのが相手だったのか、おそらく誰も受けたがらなくそのしわ寄せが下っ端に流れ着いた、そんな感じだ。気持ちはわかる。
まぁ結局金だけいただいて早々に撤退できたのだから結果オーライだと思うことにしよう。
「あ、あの・・・。」
今相手している四人のうち、三人はメイクも髪のセットもバッチリで夜遊び慣れしているのがよくわかるし、実際常連さんなのだが、残りの一人はどうも様子が違っていた。明らか初めてきたと素人の響たちにもわかる挙動、みるもの珍しくキョロキョロと見回す様、なにをしたらいいのかわからずオロオロと忙しなく、自分がここにいていいのかという場違い感に苛まれて不安に襲われる姿。そもそも元の良さからこの場に違和感なくあるが化粧の薄さ(ほぼナチュラルメイク)、髪も手入れは行き渡っているが特にセットした様子もない。
ぶっちゃけホストに来ることも、そもあの三人と一緒にいること自体が不思議だ。
「お、なんだなんだ、お前さんはこう言うとこ初めてなのか?」
というわけで早速面白がって響が声をかける。
「は、はい。お恥ずかしながら。」
「別に恥ずかしがるこたぁねぇだろ。誰だってそら最初は・・・いやいいや。別に受け取る側は相手が初めてだからとか気にしてないから大体は。店員だってよっしゃ売上!かめんどいからはよ帰れクソッタレども殺すぞ、ぐらいにしか思ってねぇからさ。」
「殺意を向けられてるのですか!?」
「あー、まぁ集客と給料が直結しないバイトとかはな。要はなに気にしようがそこまで見ちゃいねぇってことだ。」
「なるほど・・・。」
「まぁ、確かにアンタはこういうとこ来る様なふんいきじゃねーな。あ、失礼雰囲気ね。どちらかってっと社交パーティーとか夜会とかにいるタイプっぽいが。」
「あはは、たしかに私の家系はよく招待されますね。あの三人とは学生の頃からの友人なのですよ。」
曰く、微妙に馴染めていなかった自分に声をかけて色々と連れ回してくれたらしい。おかげさまで中々に愉快な学生生活になったとかなんとか。
ちなみにこの世界の学校は二種類あり、裕福層がただ勉学のために通う普通学校と、よくある魔法を学ぶためのあれだ。だいたい皆が想像している通りのものなのでここでは語らないでおく。というかどうせこの先も気が向かない限り出てこないワードだから忘れてもらって構わない。
ともかく、それから卒業しても交流があるということは随分仲のいい関係まで発展したのだろう。それで、今日は三人の世界の方へ足を踏み入れてみた、という感じか。
「ただ、やはりなれませんね。せっかく連れてきてもらったのに・・・。」
「だーから最初っから慣れようとせんでええわ。なに慣れたいのこういうのに。」
「いえ・・・、こんなところでいう話ではないのですが私はどう生きていったら良いのかなって。」
「話いきなり重くなってて草。ほんとこんなところでする話じゃねーな。まぁどこでするのがいいとかの類でもねぇが。」
「こうして、知らない世界に足を踏み入れるのってすごく楽しいんです。だから、もっといろんなものを見たいんです。ですが・・・。」
「家が許してくれない的な?」
「いえ・・・きっと許してはくれるのです。ですが一人娘の私が自由奔放に生きて仕舞えば家系は・・・。」
「はーくっだらねぇ。家系樹なんざどうせいつかは終わるんだぞ。そもそも守ることにすら意味ねーし。」
本当に取るに足らなそうに、若干の苛立ちを含めてそう吐き捨てる。余程くだらないと呆れているのだろう。顔がそう物語っている。
だが、逆に自身の悩みをそうむげに見られた方はいい気はしない。返しの言葉も少しばかり棘が立っている。
「意味が、ないですか?」
「家系なんぞその当事者にしか意義はねぇよ。結局そんだけの小さな世界だ、大衆から見りゃさしたる変化でもない。そもそもその大衆だってどうなろうがこの星の歴史は続いていくし、たとえこの星が砕けようがそれは星々の単位での話で宇宙規模で見りゃさしたる現象でもない。まず、世界が始まるその前が何もない無だったことを鑑みるなら世界が存在してることにだって意味はないさ。元を辿ればどうせ無、なんだから意味なんぞ考えるだけ無駄無駄。だから、自分がやりたいことやりゃいいんだよ。そもそもたかが百年弱しかない人生を耐え忍ぶ意味がてんでわかんねぇ。」
「たった百年・・・ですか。」
「目に見える範囲の世界をを大切にしろ、そこがお前の生きてく世界だ。その中で楽しくやれればいい、知らないどこかのことまで考えるな。そこまでどうにかすることは人には不可能だ。だから自分がやりたくて大切にしたいものだけ生きていけば、最後は笑って終われるだろうさ。人の一生なんて、そのくらいが丁度いい。」
そう言って目を閉じ一呼吸、置いてしっかりとした口ぶりで続ける。
「高望みをすれば、今抱えてるものも、これから抱えられるものまですり抜けてくぞ。そうなってから嘆いたところで、溢れた雫は掌に帰ってきちゃこない。」
「それなら・・・私はなにをすれば良いのでしょうか。」
「あ゛?軽々しく人に聞くな。人に問うなんざ乳飲子だろうができんだよ。少しは考える努力をしろ。そうやってすぐに他人を頼るのは、今までそうやって生きてきた証拠だぞ。」
思い当たる節がなければ、言葉を詰まらせることはない。きっと今まで彼女は己自身で決断したことがないのだろう。いや、させて貰えなかった故の弊害か。
誤解のない様に言っておくが、彼女の両親は決して彼女に対して何かを強要していたわけではない。だが、育った環境状、誰かが何かをしてくれる、ということがほとんどであり、自分から何かしなければいけないということがなかった。故に自己決定力が著しく低い。今日なにを食べるみたいな些細な事は問題ないが、もっと漠然としたものになると点でダメになる。きっとそれを責めることは酷なことなのだろう。環境に恵まれなかった、いや環境に恵まれ過ぎたこの女子にはそれを成し得るだけの経験が足りないのだ。
彼女の両親は良き親である。尊重すべきは娘の意であり、それはほかの家族も同じである。
そして親だ。娘の欠点ぐらいとっくの昔に気づいていないわけがない。しかし、そのことを家族の口から言ってしまえば、深い傷になるやもしれぬ。できるなら自分で、もしくはせめて誰か第三者からの指摘で気づいてくれることをいたく願っていた。
すでに、周りの準備はできている。あとは彼女自身が一つ足を前に運ぶだけ。
「私の意思・・・。」
「んなもん本来は誰かからじゃなくて自分で気付かなきゃいけねぇことだからな。一つペケだと反省しておけ。俺から言わせりゃ百点満点の人生なんざありゃしねぇがな。」
「(やりたいこと・・・、もっと色んな世界が見たい。もっと色んな価値観に触れてみたい。きっとそれは無意識に自分のやりたいことを探していたんですね。だとしたら、私が今したいことは一つ。)」
「ねぇ、一緒におはなししてくれませんか?色々なこと、とても些細なことでも構わないのです。」
「仰せの通りに。それが仕事だからな。」
そう言って舌上々に言の葉を紡ぐ。語り出したのは些細な日常のこと。こちらに来る前のことやきた後のこと。バレない様にうまく誤魔化ししかし巧妙に物語を口ずさんで行く。もちろん日常だけではなくその中で起きた小さな事件から聞く耳をさらに傾かせる様なおおごとまで。その様々を詩を編む様に聞かせてゆく。
話出してから半刻が過ぎた頃かどうやら新たな団体客が来た様で、なにやらその皆見目麗しい者達であるらしく、入り口付近が騒がしい。しかしその奇天烈な物物語に耳を奪われた女子と、語る楽しさを見出した響。それに思いのほか話が盛り上がっている章太郎と女性客たちは特にその新しい客らを気にするでもなかったが、まさかまさかのその少女たちが近づいて来ていた。というかよく見れば知った顔だ。
「・・・うわ、本当にやってますわ。」
「・・・、・・・?・・・!馬子にも衣装。」
顎に手を当てたり目を瞑ったり眉間に皺を寄せたりと三変幻ののち、手をポンと叩き豆電球を浮かばせて一言。
嫌味ったらしく声をかけたのだから嫌味で返されるのは当たり前だろうに、その言葉を聞いて血管を浮かばせるもの二人ほどありけり。その頰を引きつらせ目つきを悪くしたり。
「だ、誰のこと言ってますの貴方?普段から節穴だ節穴だと思ってはいましたが、まさかへんな幻覚でも見えてるんじゃありませんこと?」
「い、いつもそうやって馬鹿にして。ねぇ、どこが馬子にも衣装だっていうのよ。」
「さぁ?別にぃ、誰とは言ってませんしぃ。あでもぉ、その自覚があるんならそうなんじゃぁないんですかぁ。」
憎ったらしい満面の笑みで煽る煽る。人の揚げ足をとることに関しては右に出る者がいない悪魔みたいな野郎はここに健在。さっきまでのちょっといい感じは何処へやら。まぁいつも通りといえばいつも通りだが。
だがお陰で二人の怒りメーターは急上昇。だが、今は優美なドレスに身を包んだ一女性としてここにいるため、イメージを壊さないようにグッと飛びかかるのを堪えて眉をヒクつかせながら言葉で相対する。
「客相手にそんな口叩いてまともに仕事できてるだなんて思いませんわね!」
「そ、そう。向いてないとかの話じゃないわ。客店療法に迷惑だわ。」
「おうお前ら俺のこと舐めクッサってんなおい。世間の世の字もしらねぇシラフでジャンキー決め込んでるラリキチコンビに心配されるほどあっぱらぱーにできてないんすわ俺。あ、そんな頭ん中じゃわかるわけねーよなゴメンねゴメンねー。」
口でこいつに挑むとこうなるので要注意。結局、煽り性能でこれに勝てる者などいやしないのだ。なので不動の心を持ってして受け流すのが吉。般若心経なんかを嗜むとない良い。
「・・・ッ!貴女も迷惑だとはっきり口にした方がいいですわよ!」
「迷惑だなんてそんな。寧ろとても有意義で大切な時間をいただけましたよ?」
「え?あ、貴女家族でも人質に取られてるの?それとも洗脳でもされたんじゃ・・・。」
「オイどういう意味だコラ。縊り殺すぞミソカスが。」
「やめろよ自業自得だろそりゃ。・・・まぁ横から耳に入ってきていたからわかるけど事実だよ不思議なことに。なんで普段からあんな風にできねぇんだよ・・・。」
「ほら見たことか。そもそもこの店に来てから俺はまともに働いてたぞ。さっきも迷惑千万な客は追っ払ったし寧ろ店にとってプラスなことしかしてねーんじゃねぇかこれ。」
「あれをそう捉えるかお前の頭は。確かに明らか迷惑客だったし帰ってもらってよかったんだろうけどありゃねぇだろありゃ。そもそもその過程で柱砕いてる奴が言うセリフか。」
「あー、ほらあれだあれ。必要な犠牲って奴だ。寧ろあれだけの被害で追っ払えたんだから儲けもんだろ。」
それを言うのは店側であって決してお前ではない。
後から来た女性陣も事の顛末は知らないが、話の流れ的に大方何があったのかは察したらしい。この場合大切なのは何をしでかしたかではなく、やらかしたというその事実だけだ。
「はぁ、全く成長しませんわね貴方と言う人は。いつもいつも周りに迷惑ばかりかけて・・・。」
「うるせぇ仕事の邪魔だからとっとと失せろカス。」
この後の展開はご想像にお任せする。何か足すとするならルールー曰く『まるで成長していない。』だそうで。
ともかく、あの害悪ババアが置いてったしなが思ったより良いもので、なんとお陰でこの一晩で目標金額に達してしまった。これを受けて響が「これも日頃の行いだな!」と発言したことによってまた一悶着あったとかなかったとか。




