古典的なやりとりであるもののしかし前衛的すぎて時代が追いつかない会話
「はい、というわけでお金がありません。」
金がない。某日宿屋のロビーに一同を呼び寄せた響が第一声として放った言葉は、そのようなものだった。
いきなり結論を離されたとて、それは当事者達でしか理解可能なことであり、約半数の者達の首は綺麗に右斜め三十度へと曲がっている。
ちなみにその分けはあの日外出組か留守番だったかで大体区別がつく。
「はぁ、いきなりなんなんですの、突然なんの前置きもなしにそんなこと言い出して。そもそも、前にあなた当面ある程度遊んで暮らせるぐらいはあるっていってましたわよね。」
「それはもう今は昔竹取の翁というものありけるんよ。名をばさぬきの造となむいいけるわ。」
「いや、 その言葉何一つとして全く意味がわからないのですが・・・。」
「えー、ワカンねぇーのかよ頭弱ぇなぁ。マジで野山にまじりて竹を取りつつよろずのことに使いけりだぞ。」
なぜか日本文学の金字塔ともいうべきかの竹取物語の冒頭抜粋で返す響に対し、そもそも元ネタもわからないリコリスは そう返すしかない。まぁそれが一言二言で終わればいいのだが、調子に乗った彼がそんな短いスパンで辞めるはずもなく、と言ったところか。
「その竹の中に、もと光る竹なむ一すぢありけるぅし、。あやしがりて、寄りて見るに、つつの中光たるんや。」
そして、響一人がボケ始めれば、勿論彼女も意気揚々と乗ってくるわけで、また辿からすれば古典文学は得意中の大得意な筈であり、またそれに響も悪ノリしていくという悪循環の坩堝にハマる悲惨な状態になってしまった。
また、先程も言及した通りメインのツッコミであるリコリスは、巫山戯ているのは重々重ねてわかっているが、それが一体どう言ったものかは知り得ないリコリスはつっこむ、という行動に出ることができない。
さてというわけで、こんな時はこの話題について行ける同郷かつ残りのツッコミ要員二人の出番である。
「あー!、もうなんなんだよその竹取物語の押収は!?お前らそれどう考えても意思疎通取れてないだろ!?というかそもそもその会話の一切に意味ないだろそれ!?」
「「その山、見るに、さらに登るべきやうなし。その山のそばひらをめぐれば、世の中になき花の木ども立てり。金、銀、瑠璃色の水、山より流れいでたり。それには、色々の玉の橋わたせり。そのあたりに照り輝く木ども立てり。その中に、この取りて持ちてまうで来たりしはいとわろかりしかども、のたまひしに違はましかばと、この花を折りてまうで来たるなり?」」
先陣を切って二人の到底理解できないボケに怒濤の指摘を入れる章太郎。本当は疲れるし馬鹿馬鹿しいのでやりたくはないのだが、でも放っておくとボケが渋滞しすぎて手に負えなくなり、余計厄介なことになるので声を荒げる他なかったのだ。
しかしそんな彼の心境など知る由もない二人は、これまた見事にまるで双方その到底理解不能なやり取りで寸分違わず息を揃えて一言一句被せて返してきた。しかも憎たらしい下卑た笑みまでついてくるのだからつっこむ方の二人は大きく感情を逆なでされてムキになる。
「意思疎通できてる!?というかなぜ蓬莱山の描写を暗記してるんだよお前らは!?いやまぁたしかに義務教育の範囲ではあるしおかしくはないかもだが、仮に覚えていたとして、たとえそれにしたってこうもまぁスラスラと声を揃えてまですぐには出てきやしねぇからな?!」
顔を見合わせる馬鹿二人。
「火鼠の皮衣、この国に無きものなり?」
「音には聞けども、未だ見ぬ物なり?」
「世にある物ならば、この国にも持てまうで来なまし。」
「「いえーい」」
「いぇい、じゃねーから!!いい加減竹取物語物語から離れろや!!あとせめてやるなら最後まで通せ!」
ちなみに今の説はは火鼠の皮衣、なよ竹のかぐや姫が求婚してきた五人の貴族の一人である左大臣阿部に貸した難題の一つである火鼠の毛皮で編まれた布地の部分だ。火鼠とは中国の幻獣である。不尽木(南方の火山の炎の中になる、決して燃え尽きることのないとされる木のこと。)の中に住んでいるとされ、その他諸説あるが総じて火の中に済むと記されている。その体重は猛虎に匹敵し、細くきめ細やかなその体毛は半メートルにも及ぶ。
火の中にいるときは紅、外では真白と体毛の色が変わり、火の外で水に掛かれば死んでしまう。
要は、現実にない代物なわけで、かぐや姫には左大臣阿部と契りを交わす気ははなから無かったのだ。
とと、話が脱線してしまった。さて喉を枯らすような怒号とともに蓮太郎の停止が入ったが、一回言われたぐらいでやめるわけもなく、また常に相手の予想斜め上を行くことに関しては他の追付いを許さない響によって収束は42.195キロの彼方まで走り去ってしまう。
「しゃーねーなぁ、それじゃぁ次は方丈記で行くか。果てには朱雀門・・・。」
「そうじゃねーよ!?誰も使う題材に文句言ってるわけじゃねーわ!!そもそも古代文学で意思疎通を図るなって言ってんだよ!適当に抜粋してるから特殊なお前ら以外通じねーんだよ!!」
即座に現代語訳できる人間なら、ごくごく少数だが偏差値のお高い方々ならできるだろう。ただ、その現代語訳が全く意味をなさない、本人達の気分とノリとそれっぽい概念プラスアイコンタクトによって紡がれる言の葉のその全て、例えそのごく一説においても常人にも狂人にも理解不能であること間違いない。勿論蓮太郎にも章太郎にだって無理だ。
「You don't look festive, ma'am, what's the matter?asked Laurie, following her into a corner of the parlor・・・。」
「海外文学だったらいいとかの話じゃねぇぇぇぇええええ!!いやそれが何かはしらないが、兎にも角にもふつうに話せって言ってんだよ!!」
「なんだお前若草物語知らんのか。実は中学卒業してないんだなかわいそうに。」
「若草物語はわかるさ!ただそれを原文で覚えてる日本の高校生がどこにいるってんだ!?」
「ここにいるぞ。まぁ俺を抜くにしても日本中探せば100とかいるだろ。もっと多いかもしれんがゼロってことはないと思うなぁ。」
「揚げ足をとるなぁぁぁぁああああ!!」
魂の叫び、ここにこだまする。体感フルマラソンを走り切ったぐらいの疲労が押し寄せて、蓮太郎はぜーぜーと息を切らしていた。
「まぁいいやもうめんどくさくなってきたし。とりあえず簡潔に説明すると、必要不可欠なものが発生→予想以上にふっかけられた→手持ちじゃ足りません。アンダースタン?」
自分で初めておいて周りに散々周りに被害を振りまいた挙句、結局途中で飽きてやめるとは迷惑千万。
これでは声を荒げていた二人のヘイトは急速に溜まる一方だ。だが、これ以上何かこの件に対して口を開けばおそらくきっとさらに心身ともに疲れることは目に見えてわかるのでここはぐっと堪えて無理矢理話を響が進めたものに切り替える。
また、そちらの話に関しても話の概要を全く知らない者にはなんのこっちゃと言ったような変に簡略化されていたから困り者。しかもそれがあまりに抽象的すぎて余計理解に苦しむのは言わずもがな。
流石にあの場にいた者はわかる内容ではあるが。
「まぁ、一緒にいた俺らはわかるけど・・・。」
「いや、その必要不可欠なものの説明が欲しいんですの。別にその後は大体予想つきますし。で、なんなんですの?」
「得物。」
「まぁ・・・でしたらしょうがありませんわね。」
私欲で買ったものなら嫌味とともに説教でも食わせてやろうと思っていたリコリスだったが、生殺与奪に関わる武器であるならばしょうがない。それに関して文句を言うほど愚かではない。
『ちなみに二飛んで片方金貨七千枚。合計一万と四千枚』
「「「「「「高っ!」」」」」」
「まぁ元手が八千枚くらいあって昨日大急ぎで集めてきて四千枚。残り二千枚だからもうちょいだ。ほんとはもっと余裕あるがそれで生活費がなくなったら困るからな。」
「いやどうやったら半日でそこまで集まるんだよ・・・。」
「とりあえずは適当にレア素材とか持ってるやーつを深山ひっつれて乱獲してうっ捌いた。」
「完全にアイテムとして扱われてたよな俺・・・。知ってるか?男のプライドって割と脆いんだぞ。」
先日のことを思い出して死んだ目、合わない焦点でどこか遠くを見つめる章太郎。個人としては大変不本意な使われ方だったのだろう。しかもお相手のモンスターは秒と待たずに惨死体に変わっては新しいものへとなっていくため、精神的にもきた様子。スプラッタの耐久動画を見せられた気分、というのがおそらく一番近しいと思う。
「あー、ほらでもそれが一番効率が良いかもね。霧村君なら移動とか考えなくて済むし。」
「いや一番効率いいのは強盗だろ。」
「やっちゃダメだからね!?」
「だからやってないんですが。お前ら俺をなんだと思ってんだ。全く。」
むしろお前だからこそ心配してるんだとその場にいたほとんどの者が心の声を重ねて呆れた目を向けている。そもそも瞳が出した問いに対してそう答える時点で普通じゃないと気づいたほうがいい。だが実際に悪どい手を使うことなく集めたのだから文句なんて言えやしないが。
「でも、それで四千枚も集まるなら儲けものじゃないか。今日もやれば直ぐに集まるんじゃね?」
「お馬鹿さんですのあんさん。そないぎょーさん珍しいも持ってきはりましたら怪しまれること間違いなし、そもそも市場が潤って一個の価値が下がるやないですの。そないなこと生まれたての乳飲子でもわかりますえ?」
煽っているのか単純に侮辱しているのか。喋り方でそう聞こえにくいが、下手をすれば彼女、響よりも口が悪いのかもしれない。しかも心の底から見下してるような気がしなくもないので、怒りよりもただ単純に落ち込んでしまう。現に馬鹿にされた十勝はなんとも言えない顔で黙ってしまっていた。哀れなり。
「まぁ言う通り集まったのは大体1000弱程度だ。残りは各地の財宝伝説?的なのを巡回してきた合計だな。とは言うかあたりが一つしかなかったのが痛手だ。」
「あったのか一つでも。」
「しかもご丁寧に番人様までつけてな。それが理性も何にもないタイプじゃなくて知恵比べなのは良かったんだがな・・・。」
「何か不満でも?」
その言葉に、当時のことを思い出したのか響の顔が苦虫を噛み潰したようなものになる。
「あいつ出してくるのがただの知識問題なんだよつまんねーよ!!ふつうそこはなぞなぞ形式だろーが何が悲しくて何もせんでもわかる知識問題なんじゃボケ!!」
「問題が簡単すぎてキレるとかこれまた斬新だなおい。ふつう簡単な方が早く終わるしいいと思うが・・、その分問題数が多かったのか?」
「いや、3問目で飽きてむっ殺して一切合切掻っ攫ってきたから何問あったとか知らん。」
要は平常運転だ。問題がつまらないとかいうおかしなことで業腹なのも秒で飽きるのもザ、いつもの霧村響といった感じである。
「驚くほど予想通りの行動ですわね。でそれでも三千枚ほどしか集まらなかったと。」
「しょゆこと。まぁ後二千枚だしなんとかなるだろ。」
「日本円で二千万だろ?それをどうにかなるって・・・FXとかか?」
「この世界にゃまだ株の概念ねーよ多分。それにそもそもFXとか負けが確定してるゲーム誰がやるか。あれ儲かってる金持ちの資金源講座開設の手数料と謎指南本だかんな?」
基本的にFXとは勝ち負けがほぼ50パーセントの確立ゲーではあるが、そこに勝った場合は税金と手数料が、負けてなくてもそれに近ければロスカットで負けにされるやっても基本損が大きいゲームだ。そしてそれで成功している人のほとんどが元手がありかつ殆どの入手金額が響の言った通りのものなので一般人がやる者ではない。
例え勧められたとしても断るのが吉である。
「じゃぁカジノとかでしょうか?」
「無理。百パー出禁くらう。」
「あ、それは分かってんのな。」
「いやあれだかんな?問題起こしてとか言ってるわけじゃないかんな?勝ちすぎて目ぇつけられるってんだ。」
いや、きっとおそらくほぼ百パーセント目をつけられる前に迷惑行為で追い出されると宣言しよう。
絶対に問題を起こすということに関しては絶大な信頼を寄せられるが、そこをわざわざ抗議してもしょうがないのでその程で話を進めるしかない。
「・・・あー、イカサマか。」
「別にそりゃあ使わなきゃいい話だ。俺らの場合、たまの止まるタイミングは視認できるし、カードの配置だって計算できる、その他諸々あるがともかく、店側が儲かる前提の賭場でイカサマなしに勝ち続けることができたらおかしいだろ。まぁ相手がイカサマ使ってきてたらその実じゃないが。」
「はぁ・・・じゃぁ結局どうすんのさ。」
「そこで、だ。とりあえずお前らの修行を見てやる。その代わり手伝え。」
とてつもない上から目線だが、それも思えばいつもどおりだなーと考えつつ、それでも一類の望みを託して章太郎は抗議してみる。8割型流されるとは思うし、元々ここまでだいぶ世話になってなおかつ格上という言葉すら烏滸がましい響に修行を見てもらえるということもあり、はなからパーティー全員手伝う気でいたのだがそれでもその言い方に口を尖らせたいわけだ。
「スッゲェ上から目線で物言うなお前。いやいつものことなんだけどさ。もうちょっとどうにかなんねーの?そりゃね、俺らだってお前に修行つけてもらえるってのはすげぇ嬉しいんだぜ?それでその見返りとして手伝うのだって全然構わねーよ。けどさ、やっぱ・・・。」
「長い。簡潔に話せアホ助。」
「・・・やらせていただきますよえぇ!!やりますとも。これでいいんだろ!」
で、そう言った結果がこれである。文句言わずにちょっと我慢した方がマシだったかもしれない。アホ助呼ばわりされるは余計腹ただしいわで、やはり余計なことはしないに限るらしい。
「ならさっさと行くから騒いでないで支度してくれませんかねぇ全く。」
「アッハイもういいや言っても無駄だこれ。」
もうコレはそう言った人種なんだなと、諦めるのが一番楽だと悟るには、些か遅すぎたのかもしれなかった。




