被害者はどこにでもいる
「ま、予想通りの状態だな。そもそも公に指名手配されてたら昨日の時点でおっ捕まってるわけだし当たり前なんだが。」
一定数の人通りがある路地を歩きながら、響はそうさも知ってましたともと言うように言葉をこぼしていた。まぁ実際予期していたその通りだから何ら間違えはないのだが。
しかし、わかってはいたとしても、いざこうやって目で見て耳で聞いて実際に確かめるまでは一抹の不安というものは拭えぬものであり、章太郎たちもこれまでの時間が無駄なものだったとは微塵も思ってはいない。だが響に対し白い目を向けるのは、その手に持った、時折口に運ばれるそれにあった。
「なぁ、なんでお前は白昼堂々とチュロスなんか食ってんだよ・・・。」
「ん?腹が減ってたから。むしろそれ以外に理由があんのか?それなら是非とも教えてもらいたいもんだな。」
「いやそうじゃなくてなんでそんな呑気に楽しんでんだって聞いてんだよ。」
「あのなぁ、そんな気ぃ張ってたら余計目立つだろうが。こういうのはある程度自然体でかつ注意力を水面下でうまーくはりめぐらせるぐらいが丁度いいんだよ。ほら見てみろ、今どっからどう見ても始めてきたこの街を楽しんでる観光客に見えるだろ?まるで警戒されることも変に勘ぐられることもない。それに比べてお前らなんざ見てられんぞ全く。それじゃあまるで疑ってくださいっていってるようなもんだが?俺がいてようやくお前らも観光客かな?って感じだが、いなくなったら即職質もんだぞこれ。」
言う通り、響以外の面子は皆どこか体や表情に力が入っており、側から見れば違和感を感じ得ない様子であることは間違いなかった。お陰か妙に目立ってしまっており、流石に警察に似た様な組織が動くほどではないがそれでも周囲の人たちからは懐疑的な目で見られるこの状況は、情報収集を目的としている今だとよろしくないと言うほかなかった。
まぁそんなことを言ってもそうなってる当の本人たちが鏡でも凝視しない限り気づかないだろうししょうがないとは思うが。
「そ、そんなに怪しいか?」
「あぁ、CV石田◯ぐらいは怪しいね。ったく、ただでさえデフォで怪しさマックスのメンヘラ処女がいるってのにそれ以上になってどうするよ。なんなのドMなのお前ら。」
「ま、待って。い、いま聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど、誰がメンヘラよ。」
「どこをどう見てもお前しかいないと思うが?」
「わ、私のどこをどう見たらそうなるのよ!」
「ヘソにまでピアス開けてる奴が何言ってんだか。寝言は寝てから言うのが世の常だぜよく覚えておけバーロー。」
「!?な、なんでそれを!?」
「えー、ここに女子がいまーす。」
「ウチらこの前お風呂一緒でしたー。」
「「アンダースターン?」」
「うっわ、こいつら合わさると腹立たしさが倍増するな・・・。」
「側から見てるぶんには面白いのですが・・・、自分がとなるとそれは嫌ですね。」
「おま、さりげにこいつもひでぇ。」
今にでも殴りかかりたくなる様な憎たらしい顔で煽る2人と、さらっと怖い発言をするアリスを若干引きつった顔で戦慄する男子2人。
明らかにさっきよりも悪目立ちしているのだが、果たしてわかってやっているのだろうかと不思議に思える。いやまぁどうせそんなこと考えもせずに面白がっているだけなのだろうが、ついでに往来の邪魔になっていることも加味していただきたい。
「ほ、ほんと最悪・・・。一番知られたくない相手に知られた。」
「あ、あぁ。確かに・・・。」
「!それはもしやそう言った意味で?」
「いやそう言ったってなんだよ主語がねーじゃねーかおい。つうか耳のピアスの量でなんとなく察してはいたけどそれ隠してたんかい。」
「な、なにそれほんと最悪・・・。」
そう言いながら無意識にか耳を手で隠す様な素振りを見せるソフィア。別にもう教会勤でもなんでもないので修道着でもなんでもない一般服だしもちろんベールなんかも被ってはいないが、特にそれで髪を切ったわけでもなくその白い長髪によって耳は隠れており、別に隠す意味などないが気になったのだろう。
たしかに髪で隠れているとは言え、ただそれだけだから風の合間で見え隠れもするし、それで皆耳の付属物については周知のことだったが、流石に臍のそれは女子数名ぐらいしか知らなかったことなのでそっちを隠すべきなんじゃないかと思う。曇り一つなく透き通った白絹がごとききめ細やかな羽二重肌に金属の不純物が遠ているのはもったいなく感じてしまう。といっても本人の趣味趣向なので口を挟むことはできないし、響も別にピアス自体は否定していないが、彼女の容姿性格からしてあまりにもなので、ネタにせざるおえないといった風だ。本人も本気で嫌がってるわけでもなさそうだし。
「そ、それでどうして霧村君に知られるのが嫌だったのですか?やはり恋愛・・・。」
「ち、違う、知られたら絶対にそれでいじられ続けられると思ったから。」
「心外だな。弄ってるんじゃなくて弄んでんだよ。」
いや変わってないんだが。字も同じだし意味も変わりはしないし、読み方しか違っている場所がないぞそれだと。
「あ、成る程。言われてみればそうでしたね。・・・つまらない。」
「思春期かお前。いやその自分主義なところ嫌いじゃねーがよ。」
「・・・ここにはヤベェやつしかいねぇのかよ胃が痛いんだが。」
「せやなぁ、でもお陰で見てて飽きわせんとちゃいますか?ずっとお通夜みたいなテンションでいるのもそれはそれで嫌やろ?」
「一理ないこともないが、少なくとも変なやつ筆頭のあんたがこっち目線で語るのやめてくんねぇかなぁ!!」
取り敢えず、連太郎と章太郎、2人の太郎の胃腸が危険な集団であるのは間違いない様だった。
こうしてひとしきり公道のど真ん中で騒ぐこと30分弱、ようやく落ち着いてやっとこさことの本題である事に本腰を入れて乗り出す気になった様だ。いつもながらそれまでが長すぎる。
「そ、それでこれからどこ行くの?」
「ん?お前情報収集に行くんだぞ。そうなりゃ行くところなんか決まってろうよ。なぁ。」
「ま、まあたしかにそこは同感するわ。情報収集って言ったらあそこだよな。」
「だな。」
そう言って頷く男子一同と辿。どうやら彼らにはそこが共通認識でわかっているらしい。まぁこればっかりは男の子なら誰だって思いつく事だろう。
「?どこでしょうか?」
「「「「もちろん酒場だ」」に決まってんだろ」やな」
と、景気良く息巻いたはいいものの結局大した情報は得られず、よくよく考えれば城内の構造なんてこんな下町一角の酒場に屯う奴らが知っているはずもなかったのである。せめて城付近の店にすればワンチャンあったかもしれぬ。
と、当てが外れたところでお次はギルドに行ってみたはいいもののさした情報は得られず、響たちの方のアレもめぼしいものは見つかりはしなかった。まぁ元々そちらに関しては図書館あたりが最有力ソースだと踏んでいたので問題はないのだが。
「・・・・・・・・・・・・・・・ッ!!」
当てが外れてさてどうしたものかと、取り敢えずあたりをぶらぶらと歩いていたところ、何やらとある店から大きく張り上げた声が聞こえてきた。
何事だとみればそこは一軒の商店で、中で客ともめている様子。時折聞き取りはできないが言い争っている声が確認できる。
それを耳にしてはて何が起こった?と顔を見合わせて数秒固まった六人だったが、すぐに好奇心丸出しで店の扉に手をかけて中に入っていくのであった。
♢
その店は、外見から察するに武器商売の店舗かと思われたが、しかし其の実蓋を開けて入ってみれば薬品や生活雑貨、見立て通り武器やその他諸々に至るまでが種類乱雑に取り扱われている万雑貨店であった。色々なものが取り扱っているせいか若干ばかり薄暗いが、かと言って怪しげという雰囲気でもない。
だが、店内で揉め事?が起きているせいか他に客の姿はなく、その原因たる店員と客と思しき女性のみが確認できた。隣にある今にも動き出しそうな甲冑とか知らない。
「いや、だからそんなガラクタいらないから。お客さんもみんな逃げちゃったし迷惑だから帰ってくれないかなぁ。」
「ガラクタとは!?どこも壊れてないですし、先程説明した通り動きます!!だというのに何故入荷を拒否するのですか!!」
「その用途があまりにもだからだよ!!だいたい君が作ってくるものはどうしてそうあっても困る様な無駄なものばかりなんだ!!もっとまともなもの作ってこれないのかね!!」
「なっ・・・、撤回なさい!!」
どうやら悪質なクレーマー客ではなく、めんどくさい業者の方だったらしい。この店に自分が作った商品を置いて欲しいのだろう。何を持ち込んだかは定かではないがハゲ店主の言葉曰く使い物にならないガラクタだそうな。おそらく卵割り器とかと似た類の何かだと思われる。
しかし女性の方もなかなか引き下がらない。よほどそのガラクタに自信があるのかはたまた単純に生活が厳しいのかその両方か。
緑色の長く、そして毛先一ミクロンまで手入れの行き届いた艷髪。理知的な印象を与えるキリッとした顔立ちに添えられた眼鏡。服装は何故か白衣を入っており、その下のベルトには試験管?のようなものが装備されている。まぁ見てくれは良いのだが、行動のせいかそれすらも滑稽に見えてくる始末であり、取り敢えず一同なんだこいつ、と心を一つにしたのは内緒の話。
「いや好奇心で入ったはいいがなんだこれ。芸人のネタ合わせかなんかか?状況的には素人の面白い人だけどよ・・、。」
「どないします?見なかったことにして立ち去るゆう手もありますけど。」
「でも、見てて面白いですよね。ここで帰るのは名残惜しいというか。」
「あー、わかるわ。なんか最後まで見たくなるわこれ。いや趣味悪いとは思うんだけどさ。」
「肴(チェロス、ポップコーン、コークetc)の準備は完璧だ。椅子持ってこい椅子。」
映画や喜劇舞台かなんかと勘違いしてはいないかこの男。まぁご丁寧にフッカフカの椅子やお菓子飲み物を用意して楽しむ気満々である。
流石に響ほど図々しくとまでは行かないまでも、皆この自体の行く末を見守りたいらしいのでおとなしく収まっていた。側から見れば丸々揃ってヤベー奴らの集団でしかないのが非常に笑いどころが高いと言える。
で、結局この後2人の言い争いは十分弱ほど続き、自分たちから首突っ込んできておいてそろそろ飽きてきたあたりで漸くひと段落。
結局最後までハゲ店主は折れず、話にならないと、いたく憤慨した様子で女性が踵を返したのである。悲しいかな要は完全に時間の無駄であったわけだ。
「全く、信じられません!!ただ断るだけならいざ知らず、人の作品をここまで酷くいうだなんて、親の顔が見てみたいものですよ全く!・・・ってあなたたちは?」
ここにきて漸く響たちに気づいた様子の女性。見れば店主の方も気づいたご様子だが、勝手に人の店でくつろぎ出して痴態と呼ぶべき状態を肴にしているような輩には関わり合いたくないようで、見て見ぬ振りを突き通すきらしい。まぁ、誰だってそうする。自分だってそうする。
「あー、ちょい待て。今大事なとこだから。ほいロイヤルストレートフラッシュ。」
「いやいやいやいやいや、おかしいだろ絶対!!もう10連続でロイヤルストレートフラッシュとかまずありえねぇだろ!!」
「確率だしそんなこともあんだろ。」
「ねぇよ!!声を大にして言えるわ!!ありえねぇよ!!天文学とかそんなレベルの話じゃないだろこれ!!いくら確率だからって現実味がねぇよ!」
「でも元に今この場で起こってるじゃねぇか。自分の目で見たものも信じられんのか。精神病のけらいがあるから病院行ったほうがいいぞ。」
「別にこの現象に疑問を抱いてるわけじゃねぇよ!!お前がイカサマしてるって言ってんだ!!」
「へぇ〜。それで?具体的にどこをどんな風にイカサマしてると?」
「そ、それは・・・。」
「ほう、言えないと。ならばそんな君にこの言葉を贈ろうじゃあないか。イカサマを見破れないやつにそれを言及する資格はない。」
「・・・それ微妙に認めてない?」
「だとしてもわかんなきゃ弾せないし、そもそも俺イカサマ禁止とかルールで言ってないしぃー。まずルールとか決めてないしぃー。」
「屁理屈か。」
小学校低学年クラスの非常にレベルの低い残念なやり取りをしながらワイワイやっているのを見ていると、いっそ一周回って微笑ましく見えてくるのだが、忘れてはいけないのはここが赤の他人の店のど真ん中だということ。しかも元々の目的をお差し置いてこれとか訳がわからない。
「いや、流石に何をやっているのですかあなたたちは。というかそのお菓子やトランプ、椅子はどこから?この店のもの・・・ではないですよね?」
「ったく、ちょっと待ってろって聞こえなかったのかよそれとも言葉がまともに理解できない系の可哀想なお友達ですかあなた。なら一回受精卵からやり直してこいや。」
「待てどこまで遡るんだそれ。なら何もないところとかまで戻りゃいいのになんで受精卵で止めた?」
「そらあれですわ。それよか前やと生まれてくる人間自体が違うもんになってしまいますからやないの?」
「・・・多分深い意味はないんじゃないでしょうか?霧村君がそんなことを考えて発言するとは思えないですし。」
「おい。いやまぁその通りだから言い返せんけども。というかその理由いいな。次から使わせてもらおう。」
「えー、そないならお金払ってぇな❤︎」
「まぁそれはリコリスが後で払うとして、・・・結局何の用?」
いや元々用があったのはお前の方だろうに。たしかにその下を知らなければ彼女の方から声をかけたので間違いはないのだろうが、そうじゃない。どこまでも自分勝手な響の言動に多方面から非難の目が向けられるが、生憎とそんなことを知るよしもない女性の方は特におかしなことを言っていないのに微妙な雰囲気になったことに困惑。ついでに店員の絶対に関わるまいという鋼の意思がより強固なものになったのはさておき。
「えっと、そうです!あなた方はここで何をしているのかと聞いているのです。というか先ほども同様のことを聞きましたよねぇ!?」
「そんな昔のことは知らんな。」
「数分もないくらいのつい今しがた言った言葉なのですが!?」
「俺が昔と言ったら俺の中では1秒前だろうが昔だし先日ゆうたら1億年と二千年前だろうが昨日の出来事なんだよ。」
流石にこのぶっ飛んだ理論には彼女以外もツッコまずにはいられない。とりあえずここは代表として章太郎が声を上げることになった。
「待て待て待て!世界はお前中心に回ってねぇからな!!なんだそのあらゆる暴君ですら目玉向くようなとんでも理論は!?」
「俺の人生は俺を中心に回ってんだから間違っちゃいねぇだろうよ。それに俺の中ではってちゃんとつけたんだが?話聞いてたか聞いてないならその顔の横についてるそれはただのメガネ置きなんだなそうなんだな可哀想に不便だろう?ってそれなら聞こえないか失敬失敬。」
「なぁ、殴っていいか?殴っていいかなぁこの男!?できれば全力のグーで一発叩き込みたいんだが!?」
「やめといたほうが良いのではないでしょうか?おそらくなんのダメージも通らないですよ。」
「そうだぞ章太郎、気持ちはわかるが落ち着け。多分殴ったらきくきかないどころかお前の手がひしゃげちまう!!」
「はっはっは、別に私は構わんよ。」
「・・・っていやいやいや、あっけにとられてる場合じゃありません!何も進んでいませんよこの話!!いい加減真面目に答えてください!!」
「っち、気付きやがったか。」
「確信犯!?なんなんですかこの男は!!」
「「「ほんとになぁ(ねぇ)!」」」
女性の叫びに同調する声が三つ。先程から同じく被害にあい堪忍袋の尾が切れそうな男子2人と少女のものである。
一方等の本人は「えー心外なんですけどー」みたいな顔しているのが非常に気に入らないが、だが流石にもうこれ以上は伸ばせられまい。やっと話が進むぜザマァ見ろ。
「しょうがねーなぁ。まぁぶっちゃけそろそろ飽きてきたし次行くか次。」
「こ、この男は・・・!ゴホン、それで三度言いますが、あなた方は何をしていたのですか!?」
「YA☆ZI☆U☆MA」
綺◯星ポーズから繰り出されるおふざけに満ちた四文字。
この四文字を聞き出すのにかかった文字数なんと約2000文字以上とかいう異常性。しかもそれを踏まえた上でやっとこさ帰ってきた答えがこの野次馬という始末である。その顔面には、ゴッドハン◯クラッシャーを食らわせてやりたい欲求を否応に起こさせる程憎ったらしい笑顔(煽り顔)。
先ほどもここの店員と言い争い不快な気分でいたところにこの仕打ち。まさに泣きっ面に蜂。いや泣きっ面にメガ◯ピアー。酷く気力も体力も無駄に無意味に使い果たした女性は、小さなその肩を大きく落とし乾いた笑いを浮かべて座り込む他なかった。
「・・・厄日・・・だわ。」




