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光は落ちて舞台に篝火は激しく映える。


 燃ゆる、延焼する、焦燥に焦がれる。


 広まう熱量は星々の核底をしてなお上回る異常性。上がる側から空気は灼け爛れ、降り出した火の粉が更に被害を拡大させてゆく。


 その中心、赤白(せきびゃく)揺らめく大焦熱の業火の中、武火猛火を払いのけ現れる影が一つ。外装を脱ぎ捨て薄手一枚、周囲の炎を気に留める様子もなく、ゆっくりと歩き出てくる。気づけばそこは昼下がりの静かな湖畔などではなく、白い墓標が並ぶ碧い丘也。


 「『無益の忌火(ウリエル)』」


 右腕を横に伸ばし、その力の源である者の名を紡ぐ。

 それに呼応して現界するは一振りの大剣。白妙の刃は白金を越す輝きを放ち、幾何学的に走る真紅の継ぎ目からは絶えず炎が吹き出していた。


 「な、なんだ貴様その姿は!!」


 「ん?まさかお前らわからねぇとは言わないよなぁ。元同胞の力だぞ?」


 「炎の・・・!?では先程の言葉は名を模したわけではなく名の通りだと。一体どうやってその力を得たのです!?」


 「(まさかこの仕組みを知らないのか?それともこいつら程度には教えていないだけか。まぁどちらにせよマイナスにはならないから問題はないな。前者ならって程度だし。)そう言われてハイそうですかっていうとでも?そんな莫迦がどこにいる?」


 「・・・いや、手段が何であれ、ただの人間に扱える代物ではありません。所詮は振り回されて終わるのが関の山です。」


 否今ここに佇むは只の人間にあらず。不倶戴天をその身に宿した人の皮を被った怪物なりや。

 故に、その判断は愚かな慢心でしかなく、戦場において痴態と呼ぶべき愚行。相手に隙を見せるなど殺してくれと訴えかけるも同じ。


 「『赤紅のかこ火箱(ウリエル)』」


 名とともに顕現するは炎の鳥籠。それが一柱を捉え、獄中に百億万度の焦熱を沸き立たせた。

 数秒ののちに解放されたが、そのまま前のめりに倒れ込むラドゥリエルの身体は、さて消し炭とまでは行かないまでも部分部分炭化して今に崩れても不自然ではなかった。


 「ん?火力をミスったか。遺灰の一粒も残さず燃やすつもりだったんだがな。いいか、これで目安は取れた。次は残さねぇ。」


 「ラドゥリエル!!(まさか、制御できているというのですか!?まだ不慣れではあるが扱いきれていないというわけではない様子。人の子と甘く見ていればこちらがやられてもおかしくはないようですね・・・。)皆、臨戦態勢を整えてください。あれは最早人ではない。」


 「承知しました。しかし、不意をつかれたとはいえ我々は天の使いである者。いくら並外れた力を持っていたとて、どちらがより優れているかを全力を持って教授してやろう。」


 「申し訳ございませんアナフィエル様。不覚をとりました。ですが、すでに幾ばくかは回復していますので執行に問題はありません。」


 すでに満身創痍気味のラドゥリエルが立ち上がり、ほかの天使たちも出し惜しみなく臨戦態勢に入る所存。

 地を覆い天高く伸びる火の手にほだされ、肌を伝う水玉がポトリと地に堕ち、それを合図に火蓋が切って落とされる。

 黄金(こがね)の光弾を十数浮かび上がらせたゾフィエルが加速させ連なり穿つ。


 速度、音速を超えて重力を振り切るものに達したそれは響の肢体に風穴を開けまいとす。

 だがしかし、届き触れた直後、その体は泡沫の夢幻のように消え失せて、光弾全て遥か後方にて霧散する結果となった。


 「!?消えた!?」


 「背中がガラ空きだぜド三流!!」


 その声に気づく、奴は背後にいるのだと。まさか瞬間移動したかのように背後にて劔を振りかざす姿がそこに。いやよく見れば、その足がその周囲の火炎と同化しているのがわかる。

 

 これぞ『lost groly 』が身体に及ぼす影響。己の体を(ほむら)そのものとし、またあらゆる火を行き来する。例えそれが火の粉以下の極小な存在だろうが、恒星の表面積の数十倍の距離があろうとも関係などない。そこに火という存在さえあれば自由自在に行き来できる。


 兎も角、まるで予想ができないとこらか奇襲を仕掛けられた天使達、まさに紙一重の差で免れたものの、神出鬼没に襲われる危険性が出てきたため当たらずに良かったでは終われない。


 「ハッ、流石にこんぐらいは躱すか。いやそうじゃなきゃ面白くねぇし全く拍子抜けもいいところだぜ。だが、後ろに引いただけとかやる気あるのかテメェら。」


 「・・・!!上ッ!至急四方に散りなさい!!」


 響の言葉によって自身の頭上に危機感を覚え、部下達にこの場を離れるように指示を下すアナフィエル。即座言葉通り蜘蛛の子を散らすが如く飛び退く残り四柱。だが一人、かの少年はそれを見てほくそ笑む。


 「『活火連火の熱刃(ウリエル)』まず一人だ。流石に思うように動けないみたいだな、死にかけのセミみたいだぜラドゥリエル。」


 その言の葉とともに、天から落ちるものが一つ。刃渡り20センチ前後のナイフが響の言葉通り、一人ワンテンポ遅れたラドゥリエルに襲いかかる。左肩に刃が突き刺さるとともに、上がる大炎火。七千五百万K、まさに人知を超えた高温が彼女の体を襲い、そしてその一切合切を燃えつくさんと世界を赤に染める。

 さすがともいうべきか、そんな莫迦げた温度に晒されようとも意識を保ち体も酷い火傷程度では済んでいた。


 あぁ、だが唯これだけのことに名前がつくはずもない。通常攻撃に名をつけるなど、わざわざこの男がそんなことをするわけもない。


 非条理にも降ってかかる第二陣。その襲撃と共に熱量は膨れ上がり先ほどまでの倍。上がる悲鳴は乾き素の心地よい美声は何処へやら。

 続く第三陣、第四陣と刺さるたび倍、また倍と増し、その都度悲鳴は繰り返される。ほかの四柱が手を貸そうにも近づけば即座にあれと同じものが複製されるだけなので迂闊に手出しができない。

 流石にここまでの高温を出して仕舞えばこの場すべてのものが仲良くメルトダウンして然るべきだが、だがここはfamiliarと同じく全力を出すための場。それが自身の発した熱量に負けてすべて終わりだなんて間抜けなことになるわけがない。つまるところ、ここではそういった法則は気にしなくていいのだ。


 閑話休題

 いくら天使といえど絶対熱に近くなった炎を耐えられる程の強度は持ち合わせておらず、やがて最後の方になれば最早彼女に意識のかけらもなく、身体中真っ黒に炭化仕切っていた。


 そうして総数十六、人類が作り出せる最高温度にまで達した炎は静かに鎮火していき、そこに残るものは灰欠片の一つすら存在し得ない。

 

 「まさか耐えないとは思わんかったわ。黒炭くらいにはと思ったが、弱すぎねぇか?」


 そのあまりにもな言い草に、なにを言ってだこいつっと耳を疑う天使一同と輝達。だが、共に道を同じくする三人は知っている。あいつらはこの程度じゃ死にはしないと。流石にダメージは食らおうが、だがそれも致命傷になるようなものではないと。不倶戴天の頂きとはそういうものだ。人知の域をとうに超え掲げる錦の御旗を世界に突き刺す姿を見、感じ、そして乗り越えてきたからこそ、この程度では遠く及ばない。

 決して天使という存在が弱いわけではない。寧ろ最上位と言ってた差し支えないもの。だが、比べられる相手が悪かった。そして対峙する相手が悪かった。いくら雀蜂が危険であろうと、そんなもの核爆には比べられないのだ。


 「ちょっと、待ってくださいまし。」


 「・・・何の用だ?こんな相手、さっさと燃やして優雅なアフタヌーンティーと洒落込みたいんだが?」


 『流石に相手が拍子抜けだったからって興味失せるの早くない?』


 「そうは言っても、オメェらだって見ただろあの肩透かし感。 あんなんで本当にたった三柱で妲己を沈めたんかねぇ。ま、あっちは中華系の仙人とか導士だろうからまた違うのかもしれんが。」


 「つまりあちらの方が上だということです?」


 「ま、道教の神仏も仏教と同じく元が規模がおかしいですよ奥さんで有名なインドだからな。概念的にめんどくさいのも沢山いるし。仙人なんざ霞しか食ってねぇくせにんな力どっから湧くんかねぇ。」


 封神演義に準ずれば妲己に真正面から挑んだのは仙人とその弟子達。こっちで聞いた話によると人間の介入はなかったとのことなので元は仙人どものみで処理したことになる。大方太公望がいるのは確かだろうから、後は哪吒や楊戩と言ったところか。


 「つか何の用だよ一体。話逸れてる間も攻撃防いでるの俺なんだが?」


 『そもそも話逸らしたの貴方でしょ・・・。』


 「ん、細かいこと気にしてるとハゲるぞ。」


 『細かくはないし禿げない。』


 こう長ったらしく会話を続けている間も、御都合主義的に相手が待ってくれる日曜朝やゴールデンタイムでも、ターン制のRPGでもないため、天使からの攻撃は続いている。

 しかし、遠距離攻撃のことごとくを焼き尽くし、その熱によって肉弾戦に持ち込ませない。完全防壁と言って差し支えない芸当。もちろんそれだけの身技コントロールが難しくあまり長い時間使えるものでもないし、防御だけに専念させねばいけないという欠陥もある。


 「えぇい!!小賢しく立てこもりおって。さっさと出てきて戦ったらどうなんだ!!」


 「いや、お前ら人が話してんのに容赦なく襲ってくるじゃん。」


 「お前も同じことするタイプだろうが!!」


 「よくわかったな。俺はたとえ変身アバン中だろうが説教パートだろうが何だろうが容赦なく顔面ボンバーできる男だ。」


 「なら文句を言うな!!」


 天使相手にもこの様子とはやはり筋金入りのバカなのだろう。まぁ話してる内容も内容の大うつけなので間違ってはいないか。


 兎も角、ゾフィエルの言う通りこのまま防ぐだけでは何も進展しないのでそろそろ攻撃に出なければならない。とはいえリコリスの話を聞かなければいけないのでそれまでまた少々待ってってもらうことになるが。


 「で?話って?相手さんも痺れ切らしてるみたいだしそろそろ真面目に聞くわ。」


 「最初っから真面目に聞けばいいだけではなくて?ま、それでアイツらがイラつくんでしたらいくらでもやってもらって構いませんが。」


 「おいおい、まさかそれが用ってわけじゃねぇよな?だったらいっそ面白いからいいけど。」


 「まさか。簡単な話ですわ。貴方ばかりズルい。私達にもやらせなさいと、そう言うわけですわ。お判り?」


 「あー、そりゃそうだよな。ありゃあ俺らの獲物だもんなぁ。」


 提示されたその言葉、聞き届けると同時にニヤリと不敵な笑みを浮かべそう言い放つ響。なるほど道理。特にリコリスからすればあれは憂さ晴らしにはもってこいの相手だ。まず自分だけの獲物である以上そんな相手を一人独占しているのはいけないと反省して、ならどうするかの話を始める。


 「リコリスは・・・一人でできるよな?」


 「当たり前ですわ。誰にものを言ってますの?」


 「良し、ならパイフェン、すまんがルールーについていてくれ。まぁ問題ないと思うが保険としてな。」


 「わかりました。つまりこちらは二対二の形になればいいんですね?」


 「exactry。ルールーも変なとこで緊張とかすんなよ?あと過度の慢心は禁物だ。いくら相手が格下でも警戒は怠るなよ。」


 『大丈夫、私はもう強いし、三人と胸を張って肩を並べられるから。』


 「上出来だ。張る胸はどこにも見当たらねぇのが残念なところだけど。」


 『あとで抉る。』


 「おー、できるもんならやってみな。」


 軽口を叩きつつ、それぞれ誰を当てがうかを決める。響が早速ラドゥリエルを焼滅させたお陰で、都合よく相手とこちらの数が丁度あった。四体四の混戦状態というのもそれはそれで趣はあって良いものだが、しかしせっかくなのでここは一人一柱づつのタイマン形式の方が燃えるし面白い。


 「とりあえず、この守りとくのを合図として始めようじゃねぇか。クソッタレな天使様とのランデブーだ。めいいっぱい楽しまねぇとな。」


 「あらそれはあの世への片道切符の手渡し会の間違いじゃなくて?」


 「違いねぇ。」


 炎壁の守りが解かれる。それとともに四つの影が飛び出し、目的の懐に肉薄。そのまま繰り出された一撃がそれぞれ肉体にのめり込む。


 「ほらあっち行こうぜ天使様。」


 「あら、貴女ですの。頑張ってくださいましね。秒殺だなんてつまらなくて不貞腐れてしまいますわ。」


 「行きましょう。手加減は、しませんよ?」


 『私の初白星の犠牲だから。』


 そのまま一、一、二の三方向に分裂。その先が如何程苛烈激烈奇想天外な戦場になるのか、とも各個人の戦果の合図が切って落とされることになる。


           ♢


 「このくらいでいいですわね。向こうにもこっちにも影響はなさそうですわ。」


 吹き飛ばされたザドキエルがようやく止まったすぐ近くに優雅に降り立ち周りを確認しながらそう口にするリコリス。


 「バラバラにされましたか・・・。おそらくあの男の相手をしているのはアナフィエル様。早く向かわなければ・・・。」


 「『悲しき(メアリー)』『みなし(アンリエッタ)』。」


 「!?」


 呼びかけに応じて動き出した人形(ひとがた)二つがその手に持った凶器を振るい命じられたままに肉を抉り出そうとする。

 一人自身の上官の心配だけをしていたザドキエルは隙だらけの良いまとだったが、それでも薄皮一枚で避けれるあたりはさすがと言ったところか。


 「随分と舐めてた真似してくれましたわねぇ。私を無視するだなんて良いご身分ですこと。」


 「先に貴女の相手をしなくてはなりませんか。時間が惜しいですが仕方ありませんね。」


 「余裕ですわねぇ。貴女が私に勝てるとでも?」


 先程から下に見られてイライラが頂点に達しそうなリコリスが、荒く左目の眼帯を剥ぎ取り青筋浮かべた笑みで挑発をかます。

 安い挑発とはいえ格下だと思い込んでいる相手からそんな態度を取られれば血は上の方へと流れていくもの。今度は感情を多く表面に出して煽り返す。


 「フン、先程の少年は何やら得体の知れない力を持っていましたが、それがなければ私たちが遅れを取る通りはあらず。先程の言葉をそのまま返しましょう。(あなた)如きが天使(わたし)に勝てるとでも?」


 「ンフフ、フフ、アハハハハハハハ!!」


 突如なにかが切れたように声を大にして嗤いだすリコリス。余程愉快と捉え受けたのか、その笑い声はなかなか耳から消えない。


 「えぇ、えぇ、なんて滑稽なんでしょう!!知らないかも知れませんが、私は彼と一番長くいますのよ。そもそも、妲己も崇徳上皇も、私やパイフェンさんがいなければ響さんは今ここにいませんわ。いくら止めを刺したのが彼だとしても、もらえるのが彼だけだなんておかしな話じゃありませんに。」


 「ま、まさか・・・」



 「ま、流石に彼の様にぶっつけ本番で自身の手足のように使いこなすだなんて芸当はできませんが、慣らせば問題ありませんわ。」


 いつのまにか彼女の肩程数十センチのところに浮遊している二つの人形。さらに三つ、新しいものが現れ仲良く輪になって回り始める。


 「『Contract completion that’s “Lost familiar”ーーー』


 上がる閃光。告げた彼女の足元から吹き上がったそれにより姿は隠れ、廻る人型は一層早く。

 無感情動くそぶりすらなかった顔は口が見事な弧を描きケタケタと固まった石膏粘土が触れ合う音、縫い物からは綿が擦れる音が鳴り出し不気味極まりなかった。


 「(この感じ・・・見た目や種は違いますが、本質はあの少年が行ったものと同じ。いったい、彼女らは・・・!?)」


 やがて前後にも動き出した人形たち。まるでなにかが乗り移ったかの様に自由自在に飛び回り、その一つが一瞬ザドキエルの目の前にきて視界が遮られる。

 それが去った時には先程の光は消え去り、そこには先程の少女が佇んでいる。


 いつものサイドロールを解いておろし、シルクハットの代わりの黒のヴェールを頭上に起き、その顔は隠れていた。一枚の布の様なものを背を通して腕に纏い、一目で心奪われそうな程な蠱惑的な笑みでザドキエルを見下ろしている少女。


 「ウフフ、あらどうしましたの?この間に攻撃の一つでもしてくると思いましたが、魅了してしまったのでしたらごめんあそばせ?」


 「・・・!!世迷言を。」


 今相手している存在がやばい物だと認識してはいるが、それでも自身は天に使える最上の存在であるが故最後に笑うのは自身だと気を切り替えるザドキエルだったが、しかし我々は知っている。あれがいかなる存在かを。

 考えれば自然なことだ。妲己を殺ったのは響だけではない。あのジャイアントキリングを成功させたのはリコリスという存在があってこそ。だとすれば、彼女が授かっていないわけがないのだ。

 『Lost familiar』ーーーー。魂を取ることに特化し、対象を文字通り異次元の速さへと導く不倶戴天の力。


 響のそれと違うところはまず一つ、扱うのは盃でも刀でもなく元々彼女の得物であった人形たち。

 元々『Lost familiar』は名の通りなにかを使役する力。響は呼び出したそれを『盃』という形にし、枝刃も同じく一つ一つに憑かれている。

 彼女はそれを自身が使役する人形に憑依させ、より強化したものにしているのだ。相性だけでいえば、響よりも上と言って差し支えない。


 「威勢がいいのは天使ということに絶対の自信と誇りを持っているからかしら?でも残念、私は大半私怨でここにいますの。その下らない敬愛と慢心を悉く叩き潰して、悲観塗れの最高にいい表情で縊り殺して差し上げますわ。」


 恨み辛みの大瀑布か。日頃兼ねて寄りからの願望であったことがまさに今この場所で起ころうとしているのだ。期待に胸ふくらませて溢れてもいた仕方なかろう。憎い相手の悲痛が聞きたい。その悲壮で笑みがこぼれる。

 最低と蔑むか、それか軽蔑の目を向けるか。決して褒められる行いや感情ではないだろう。

 だがそれがどうした。誰も正義のために戦っているわけでも増して正義の味方でもなんでもない。私利私欲のため、己が欲望を満たすためにここにいるのだから。


 「・・・女狐め。」


 「あら、わかりますの?それともただ罵っただけかしら。前者でしたらお見事と褒めて差し上げますわ。」


 「・・・ハァ、しょうがありません。本来でしたらこの様な場所で出すものではないのですがそうも言ってられませんね。『セフィロトの樹』」


 低く大きく轟く地響きとともに、地盤を砕いて急速に伸びる樹木が一本生えてくる。盛り上がった土塊と舞い上がる土煙によってその全貌は把握しかねるが、木と呼ぶにしてはあまりに巨大で、空間が歪むほどの生命力が伝わってくる。


 ようやくその成長を止め、視界も晴れて全容が明らかになれば、そこには黄金色に輝く始まりの樹が森羅万象有象無象一切合切を包み込む包容力とともにあった。


 ザドキエルーーーー


 名の意味は『神の正義』。生命の樹の慈悲(ケセド)を守護する主天使の長。また、太陽系内の惑星で木星を司る天使でもある。


 地位としては上から4つ目なもののの、木星を司ることや、また生命の樹の守護天使であることからそれ以上のものを持っていてしかるべき存在。

 そしてその背後にあるのは間違いなくセフィロト。響たちの世界であればその一部分だろうが、こちらの世界だとさてどうやら。

 ただどちらにせよ、やばい代物に変わりはない。


 だが、それを見てどうか。当のリコリスは面白いとでもいう様に口の角度を変え、ではこちらもと自身の舞台の暗幕を開ける。


 「フフ、そうでなくては面白くありませんわ!!『人形劇団(doll Legion)・猟奇少女の花園(family of Grand Gignol )』」

 

 本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。

 ではでは皆様、今宵も魅惑の舞台が開演いたします。どうぞ最後まで夢のひと時をごゆっくりとお楽しみください。














 命の保証は致しかねますが。

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