あらゆる始まりの場所
扉の前の空間も相当の広さを誇っていたが、その奥はさらに壮大な作りになっていた。ここは地下奥深くだというのに奥のステンドグラスからは光が差し込み明るい。来るまでの他の階は電球による光と白いタイル張りの壁によってある程度の光を持っていたがここにはそのようなものが見当たらないことがあのグラスたちの異質さをさらに引き立たせている。
その中にただ一人存在するのは有翼の女性。対の翼は力なく垂れ、両足手首には枷、またそこから伸びる鎖と同じものが首を回っており、天井と床に張り詰めて固定されている。さらに動きを封じるように何十もの劔が檻の役目を果たし、うち数本は両腕両足を貫き通し深々床に刺さっていた。だというのに血が垂れた形跡はなく、彼女がそう言った存在なのか、はたまた劔が特別な何かなのか、もしくはその両方か。何にせよ、この女性が今回の目的であることには変わりない。
「・・・騒がしいと久方ぶりに目を覚ませば、成る程。フフ、まさか本当に現れるとは。与太話と捨て置くモノでもなかったようですね。」
「・・・どうやらこっちの要件はわかってるみたいだな。最も、その状態じゃぁ戦うも何もなさそうだが。」
「何も死合いだけが全てではないでしょう。それに、わたしにはもう戦えるほどの力は残っていませんよ。」
「ま、そりゃそうだな。」
これまでの二人と違い平穏な邂逅がなされる。いや思えば崇徳院も穏やかではあったがおそらく響側の対応が大きく関係しているのだ。見た目戦えない相手に戦意が湧かなかったのやもしれぬ。
「!?何やあの話もしかしてほんまのことやったん?これあれやろ、話に出てきた天使やろ?」
「これとは失礼な女児ですね。我が炎にて消し炭になりますか?」
「!!(あかん、これやばいやつですわ。下手打とうもんならほんまに消し炭にされてまうわ。)」
何気ない一言から弩級の殺気を当てられ、いつもの水面に浮かぶ若葉のようなのらりくらりとした余裕はどこへやら、眼前燃え盛る火の海がごとき焦りようで漠々と心の臓が激しく振動していた。
が、その後すぐに放たれた殺気は収まり、彼女の雰囲気も静かなもののそれに変わる。
「フフフ、そう身構えなくても心配ありませんよ。この鎖がある限りわたしに炎熱を起こす力はありませんから。ですが、敬意や礼儀というものを学ぶべきです。」
「・・・やっぱその鎖扉にあったやつと同じか。火や熱に強いんじゃなくてそのものを封じるとか割とヤベー代物じゃねーかおい。」
リコリスの方法じゃダメだったのはそれが理由かあいやなるほどと、顎に手を持ってきて興味深そうに鎖を見つめる響。
一方リコリスの方も迷惑な鎖だと言わんばかりに頬を膨らませてブーブーとふてくされている。
「どうりでいくらやっても溶ける気配すらなかったんですのね。全く余計な時間と労力でしたわ。ともかく、そもそも貴女は何者なんですの?というかいつもこの時点で気付きますのに珍しいですわね。」
「判断材料が少な過ぎんだよ。ここ来るまでは堕天使、さっきの話を聞くに火関連だってのはわかるんだが、いかんせんそれだとヒット数が多すぎる。」
と、ここで話は目の前で繋がれている女の正体へと移っていく。だがあまりにも情報が少なくて、この手がお得意な響でもそこそこに苦戦している様子。
だったら色々上げて行くのが手っ取り早いんじゃないかと、辿が有名どころの名前を挙げてきた。
「ベリアルちゃうんの?その条件やと真っ先に思い浮かぶんやけど。」
「・・・ベリアル?」
パイフェンがそれはなんだと首をかしげる。なので前と同じく解説に入ろうと口を開ける辿だったが、続きを話すその前にそのご本人から否定の言葉をもらってしまうのだった。
「先に言っておきますが、違いますよ。」
「何や違うんか。ウチにはそれぐらいしか思い浮かばへんのやけど。」
「可能性としては充分にありえはするんだがな。ゴエティア曰くミカエルより上だと豪語してたし、バルトロマイの福音書の記述通りなら四大天使より先に作られてるわけだし、その地位で堕天したわけだ。あの情報量の少ない話にも合致する。ま、情報量がすくねぇから他にも当てはまる奴なんて両手じゃ足りんくらいにいるけどな。」
『他には?条件に合うやつ。』
そう聞かれるとさっきまで首をすくめて少々アメリカンな反応をしていたのとは一転してまじめに考え込みアレコレと模索し考察する響の姿がそこにはあった。
もちろんここにくるのに何も考えないでくるわけもないので、すでにいくつかの目星をつけてある。あとはあって話してみた感じでその中から一番合うものを選べばいいだけなのだが、どうやらそのどれでもなかったようで、結局振り出しに戻って考える羽目に。
「待て、うん・・・堕天、炎・・・やっぱどこかずれてるのか?例えばこっちだと本来堕天してない天使がいるとか・・・ん?いや待て、そういやあいつは・・、条件に当てはまりはするな。まだ流石に確定はできねぇけど・・・。」
だが、どうやら心当たりが出たらしい。出てくる声はなにかをひねり出すものではなく、早口に確認と照らし合わせて行く復唱のもの。またその都度表情は納得したものになって行く。
「あら、わかりましたの?」
「わかったつーか何つーかなぁ。見落としに気がついたというかなんちゅーか・・・。すっかり切り捨ててた可能性が再浮上しとる。」
「それが一番可能性が高いのですか?考えるに連れて納得している様子でしたし・・・」
「そーゆうこったな。それにここに来てこいつ見てそう思ったんならきっとそうなんだろうよ。・・・これで行くか。考察結果1、俺らの目の前にいる拘束された元天使は神の炎、ウリエルである。」
まるで理科の実験レポートの記載のように推測結果を披露する。出された名前は数多くの人々が耳にしたことが一度はあるような熾天使の名前。当然、そんな高位の存在がなぜ堕とされ拘束までされているのかと思うものが多いだろう。実際同じ世界の辿が異論を唱えてきた。
「それはおかしゅうないの?ウリエルは最上位の熾天使やで?しかもミカエル、ラファエル、ガブリエルと並ぶ四大天使のはずさかい、堕天もしとらんトップさんが何でこないなところにいはりますの?まさかヤコブに負けたことが原因なんていいはりませんよな?」
「んなわけねぇだろ、してるんだよ、堕天。そもそも熾天使ウリエルはカトリックだと天使じゃなくて聖人扱いだ。745年の公会議で神の光たるウリエルはラグエル含めるその他天使たちとともにザカリアス教皇から堕天認定を受けている。のちにその疑惑は晴れたんだがそれでも天使として扱われずに聖人という扱いだ。」
「会議での認定というと何かやらかしたのでしょうか?それとももっと複雑な事情が?」
「ありゃ良かったんだけどな。理由としては当時の民衆内で天使信仰が熱狂しててな、それを危険視した教会が沈静化のために行ったっていうくっだらねぇ理由だよ。ま、そもそも論としてこれ俺らの世界の話だから当てはまってるかなんてわかりゃしねぇが。」
まぁよくもキリシタンでもないのにそこまで詳細に覚えているなと感心を通り越してドン引きしてしまうな。いや普通はゲームとかで名前は知ってるけどぐらいが普通だし、辿レベルでも充分トリビ◯ものだがそれをさらに上回るお前は一体何者だと突っ込みをいれたくなる。
「同郷の少女の反応を見るに、相当な知識量のようですね。頭の回転も速いと見えますし、そちらの方が私としても会話が進みやすくて喜ばしいことです。」
「・・・同郷って言葉はどうやって出てきた?少なくとも俺らの話の中にそんな話題は何一つとして出ていなかったはずだが?」
彼女が付け加えた一言を目ざとく拾い上げ問いただす。ここに来てからそれに関するような言葉は何一つ出ていない。だというのに辿が同じ世界の住人と分かったのは不自然かつ気がかりだ。何か特別なオーラのようなものでも見えるのか、はたまたすべての行動言動は筒抜けなのか。もし後者であれば、ほかの現役天使や神々にも知られていて何らおかしくない非常に危険かつ不味い状況だということだ。
だが、その答えとして返ってきたのは予想の斜め上を行くもっと特殊なものだった。
「フフフ、気になりますか?先程私は炎を封じられたと言いましたが、それは生み出し操る能力だけです。私は他にもできることはありましてね、火を通してさえいればこの世界どこにあろうと見て聞くことができるのです。残念ながら受信のみで何かを送ると言ったことはできませんが、貴方の疑問にはこれで十分でしょうか?」
「火を通すって制限があるとはいえ範囲無しの千里眼かよ・・・。そのくせその炎を通すってのもあってないようなもんじゃねぇか。電気が登場したとはいえ火は生活の基本だ、ほぼ世界中のどこにでもある。見えない場所なんざそれこそ土の中や海底の奥深くぐらいなもんやん。・・・いや、こんなこと話しててもしょうがねぇな。まず今はさっきの答えもらわねぇと。」
取り敢えずそんな芸当ができるのは目の前にいる彼女だけで、多分そんな暇なことをするのもここに繋がえれている彼女だけだろうと一抹の不安を一蹴して、まず最優先であることを聞きに行く。小道に逸れまくってなにが最優先だと思うかもしれないが、気にしないでいただきたい。
「それでしたら想像通り正解です。改めて、我が名はウリエル。罪過の炎を操り、終結の炎をこの身に宿す、かつて熾天使の座に付していたものです。」
どうやら見事読み通り正解を導き出せたようだ。
とは言えどもそれが目的ではないしむしろここからが本番なのでようやっとといった感じだが。
「・・・それで、何しにきたん?ただ存在の証明に来ただけやあらへんのやろ?」
「黙って見てればわかりますわ。さっきからうるさいですわよ?」
「なんや随分と棘のある言い方やな。ウチんことがそない気に食わんか?」
理由はわからないがきつい言葉で窘めたリコリスのせいで二人の間に険悪な空気と鋭利な目線が交わる。おそらく辿というボケが増えことによるストレッサー
の倍増が原因だろう。まぁ気持ちはわかる。
ただし、今この状況でキャットファイトなんてされても困るし、確実に辿が一方的にボコられるだけだろうから溜息吐きつつ響が止めに入った。彼が仲裁役というのは非常に珍しい。
「はぁ、やめーや阿保。やるなら終わってからにしてくれ。それにリコリス、大人気ねぇぞ。」
「・・・そうですわね。私としたことがみっともない。」
「ウチ悪くないと思うんやけど・・・。」
それを言うとまた同じような事になるぞ、と危惧したが特にそういった事にもならずに話を進ませることができた。きっと大人気ないと言われたのを気にしてるのだろう。言われた相手が相手だし尚更か。
「まずあんたに聞きたいことがある。崇徳院の話だとここにくりゃ幾許かのことはわかるって聞いた。話す気があるならこっちの質問に答えてほしい。」
「フフ、いいでしょう。 私が知り得る範囲でならば答えて差し上げます。あの翁から聞いたというのであれば、その資格は十分でしょう。」
どうやらこの熾天使様は随分と友好的なようで、このままいけば血を流す事なく終わるかもしれない。そうすれば章太郎とソロモンの要件もはやくに終わるかもしれない。
「まず一つ、お前はどうしてここにいる?さっきの話は少なくとも俺の世界での話だ。この世界のお前はどうしてこんなところで幽閉されている?」
まず最初の質疑はそこ。これがウリエルだと分かったとて、ここにいる理由まではわからない。響が知っている史実通りなら話は早いが、同じ系統であろう妲己の身の上はいささかズレが生じていた。崇徳院に関してはそこは聞かなかったし、詳しくは調べていないので定かではないが、彼女も同等である可能性は高いだろう。何せ地下につながれているだなんて、まずそこから話が違うじゃないか。
「・・・簡単に言って仕舞えば愚妹が私を蹴落としたかったのです。でっち上げの罪を報告し、自身にとって目障りな数柱を堕天に導きました。」
幾許かの刹那を置いて、ゆっくりと口を開くかの熾天使。思い出す、ための時間ではなく噛みしめるため。腹わたの中から込み上げてくる熱い熱量を鎮めるため。
「それで神・・・確かここは多神世界だったな、主神は真に受けて受諾したと。だとしたら随分と頭ん中溶け出した阿呆と刃交えることになるんだが。」
「いえ、もちろん気づいていましたよ。おそらくその中に私がいなければ受付はしなかったでしょう。ですが、あの男は私の存在が怖かったのです。」
「と、言いますと?」
「私の持つ終結の炎。それが彼にとって相当な不安材料でした。それを処理できる格好の機会と捉えたのでしょう、まさかあのような少年まで連れてくるとは。」
『少年って、話に出てきた英雄の魂の一つ?』
そういえばそんな登場人物もいたなとルールーが思い出したように書き表す。で、あるとするならば当然己らの敵だと詳しいことを知らない辿以外の目が鋭く光った。
「えぇ、彼にだけは我が終結の炎が効きませんでした。おそらく何かしらの謂れを持っていたのか、とても私とは相性が悪かった。」
「(終結の炎・・・ラグナロクの炎か?いやそれを十字、ユダヤ教のウリエルが持ってるのはおかしいと思うが、そもそもラグナロクは神々の黄昏であって人の英雄はいないはず、少なくとも俺は知らん。ちゅーか炎じゃなかろうが乗り越えたやつなら誰でもいいやん。だとすれば他の終末論の何かか。エジプトは終わりと再生の物語だから関係なし、ギリシャの大戦もそこで武勲を挙げたヘラクレスなんかも、それが特異性になるほどの逸話じゃねぇはずだ。まぁ、宗教的な大きさから考えてもインドだな。だとすると9割9部あいつで間違いない。)インドの大英雄、ヴィシュヌ第十、最後のアヴァターラにして終末の英雄。やがてくるカリ=ユガにて世界を救うことが約束された予言の者、カルキだな。」
ヴィシュヌの10番目にして最後のアヴァターラ。白い駿馬に乗った英雄、もしくは白馬の頭部を持った巨人として描かれれ、永遠、時間そして汚物を破壊するものを意味する名はカルキ。黙示録の四騎士と酷似した特徴を持つ彼は、遠い未来で世界の終わりを救済し、平穏をもたらすとされる大いなる預言者である。
「待てや響はん。カルキは未だ現れてない英雄やで?なんでそないな奴がすでに存在しとるん?しかも死んだ扱いて。」
「元々がヴィシュヌのアヴァターラだぞ。生まれてなくとも天界で待機とかしててもおかしかねぇだろ。それに死んでんのも生まれる前なのもこの世にいないこと自体は変わりない。」
もう少し言葉を選んで具体的に言えないのか。いやまぁ言わんとしてること自体はわかるのだが、頭の悪い人がどうにかこうにか説明しているように聞こえるぞ。ニュアンスだけで会話が成り立つなんてのは何年も連れ添った中ぐらいじゃなきゃ無理だろう。何せこの世にはツー◯ー錠なんてものはないんだから。・・・魔法があるんだし存在してもおかしくないんじゃね、と一瞬思ったのは内緒の話ということで。
閑話休題。どうやらカルキという名前はウリエルの方も記憶にあるらしく、目星としてもつけていたようだ。
「恐らくそれで間違いはないでしょう。名乗らずただ一言も言葉を発しなかったので確信は持てませんが聞き及んでいた背格好と極めて酷似していました。性質から考えてもそれで良いかと。」
「まるで最終兵器みたいな扱われ方だな。いや間違ってはねぇけども。(そんなバケモンもいるのか・・・十中八九いつかはやり合う時は来るだろうが、今のままで勝てるか不安なところだな。)」
実際最後の蔦であるし、勝利が確約されているのだからその認識で間違いはないはずだ。それとか一番重要なのは、それが神の側に立っているのであれば必ず衝突する時が訪れるということだ。相手の性質上、響からすれば相性最悪のどぎつい相手になることは間違いないので相当上回る気でいなければ殺されてもなんら不思議ではないだろう。
「敗北したものはその場で処理されましたが、私の場合、下手に扱うと炎が暴走する恐れがあったため、自然消滅させるために、この場にこうして置かれているのです。」
それは運が良かったと取るべきかはたまた残酷と取るべきか。人の身には理解できない年月の話だ。我々ではその判断は難しい、当人のみ知り得ることだろう。
取り敢えず、いつまでも一つのことに時間をかけてもいられないので、ここいらで切り上げて次の話に進めることにしたようだ。今度の質問はこの世界と元いた世界の違い、についてである。
「と、次は二つ目だ。ずっと気になっていたんだが、この世界はどうして俺らの世界に似ている?似ているとは言わずとも、同名の存在があまりにも多すぎる。だってのに全く同じってわけでもねぇ。どういうことだ?」
「まず根本が違いますね。貴方方の世界がこの世界に寄せて創られているのです。何せ、貴方方、いえ他の無数に存在するありとあらゆる世界群はこの世界にて敗走、又は離反した神々が創り出したモノ。基礎が同じでも不思議ではありません。」
「!?待て、つまりこの世界がすべての基本世界であり最初の世界なのか。そうか、それならあの定義の答えが覆んじゃねぇか。」
非常に異常に驚きを隠せない響。たしかにそれなりに大きな話ではあったが、ここまで驚くほどか。それに最後の言葉もきになるところではあるので、リコリスが問いかけた。
「?なんの話ですの?」
「あー、鶏が先か卵が先かって問題を知ってるか?」
『ごめん、わかんない。』
「確か、卵は鶏が産まなければできないきませんが、その鶏卵から孵るので、一体どちらが先にできたかという問題でしたよね?」
「あぁ、その通りだ。この問題は2010年に生物学的には鶏が先で結論が出ているユダヤや十字教なんかの創世記でも鶏が先だな。だけど数学、ヒンドゥー教、進化論の観点からすると卵が先なんだ。これは神話に置き換えて考えられることもあって、神が作り出さなければ人は生まれず、人の信仰がなければ神が生まれることも存在し続けることができない。だけどさっきの話が本当なら神が先になる。しかもまどろっこしいことなしで他所から来た外来って方法だ。変な考察よりよほど筋が通ってる。」
「言われてみればそうやな。じゃぁこっちの世界ではどうなんやっちゅうのは残っとるけど、別れた世界群の中だけでゆうたらがっちりしとる。でもそれやとビックバンから人類が生まれるまでの約138億年の間どうしとんのや。仮に猶予期間あるとしても流石に途中で消えてしまいますやないの。」
「む、確かに。・・・・・・いやなら創りゃあいいんだ。ダーウィンの進化論の世界、おそらくこれが軸だ。仮説だが創世の際に神が直接人を作り出したifの世界を創る。基本神話ってのは早期に人間作る理由がわかったわ。」
「なんやて!?それや何かあんさんは神話とは枝分かれした並行世界の話であるって言いたいんか!?そんな突飛押しもない。」
一瞬の閃きで導き出された答えに過去最大の驚愕をあげる辿。たしかに今までに聞いたこともない理論だし平時では考えつき様もない、当時のビックバンと同等の素っ頓狂な話だ。
だからこそここでは更に説明とその根拠が必要になるので、響はそこを重点的に話を進める。
「たしかに言ってることはとんでも理論だが、それなら多くの神話体系の中において同一視される神が出てくるのも頷ける。おそらく素の主神となった存在が作り出した子神の中には掛け持ちで司った奴がいたはずだ。」
『待って、それじゃぁ最初っから人がいない進化論?の世界はなんのためにあるの?その神話の世界だけで足りるんじゃない?』
「いいや、もしリベンジに燃えているのであれば到底足りないし、下手すりゃ神話の世界ってのは行き詰まる。より多くの信仰を集めるには、より多くの人間が必要だ。現に今じゃ七十億人の人口を叩き出してる。」
「行き詰まる、ですの?一体なぜ?」
「あー、一番いいのは・・・パイフェン、もし大きな問題に直面した時、神の存在が強い世界だとどう対処すると思う?」
「それは、やはり最後は神頼みでしょうか・・・?、!!自分たちでどうにかしないとという気にならない。だから、技術や文化の発展が進まない!」
言ってる間の何かに気づいた様子のパイフェン、みれば辿も目を見開いて電球を頭の上で光らせていることから同じく何かに気づいたようである。
「その通りだ。発展のない世界はやがて滅びる。そして最後に神頼みなんて最終手段が構えてりゃあ誰も死ぬ気で進むわけがない。何せ最後には神様がどうにかしてくれるんだからな。」
「でも、最初から神の手が関わってへん世界は違う。科学が進歩し、自力でどうにか乗り越えてきた人間は爆発的に増えた。勿論信仰なんてしてへんもんも仰山おるけど、それでも宗教家の数は億以上になる。その上で神話は一つのカルチャーとして確立しとる。それに、日本なら正月には皆参拝に行く、世界中でキリストの生誕を祝う。」
「そう、だから1番の狙いはそれなんだ。神話に終わりがあることや、現在まで続くものが少ないのは、つなぎとしての、そして信仰の対象として役目を終えた世界は間引きされてんじゃねぇかな。開祖が誕生する前後で消えたか吸収されたんだと思う。」
「?なぜわざわざ消す必要が?それにそちらの方が信仰心は強いんじゃありませんの?でしたらそちらからの方が一人からより多くを集めれるのではなくて?」
「そりゃ世界維持するのにだって相当なエネルギーが必要になるだろ。要は間引きと同じ原理だな。それにいくら一個人から取れる量が良くたって絶対数に違いがありすぎる。仮定として人口100万だとして一人当たり100取れる世界と一人当たり10程度で人口70億じゃぁどっちが多いかなんて明白だ。」
もちろん、その中で信仰心を持っているのは半分ほどだろうが、それでも30倍以上は差がある。また信仰心は個人によってその大きさは変わってくるだろうから更に差は開くだろう。
ともかく、何か世界の心理に近づいたかもしれないということだけは確かことだ。
「ヤベェ、結構話が脱線しちまったわ。話を戻そう、というか先に進もう。すまんな待てせて。」
「フフ、私も聞いていて楽しかったですよ。私もそちらの世界のことは深くまで知らなかったので良い時間でした。では次ですね。」
「あぁ、三つ目はどうしておれらは呼ばれたか。まさか本当に魔王を倒してほしくて呼んだわけじゃねぇだろ?」
というわけでようやく響たちが直接的に関わる話に入る。実際に聴いている理由というかあの王国の人々を何一つ信じていないが故、以前から勝手かつ理不尽に課せられたという使命とやらにも疑問を持っていた。おそらく何かしらほかの意図があったのだろうと踏んではいたのだがさて実際はいかほどなものか。
「いえ、そのまさかですよ。ただそれだけではありませんが。手段、と言った方がいいかもですね。」
「どういうことだ?」
「ヒントは、あなた達は今から見て未来の時間軸から来ている、ということでしょうか。それに先ほどの話も良い材料になると思いますよ。」
「はぁ!?待て待て待て、今未来の時間軸から来てるって言ったか!?ここのトップってのはそんなことまで出来んのかよ!?いや、原点の世界ってんならできてもおかしくねぇのか?だがそれなら未来の技術を?いやなら俺らみたいな学生なんかが呼ばれる謂れはねぇ。それに時間軸をいじれるんだったらこれから先の未来から持ってくれば良いし、俺らの更に百年後や二百年後でも良いわけだ。」
先ほどの辿に負けず劣らず声を荒げて真偽を疑う響。デジャヴっぽい反応を晒すものの、その後すぐに切り替えて頭を回す。
「俺らでなきゃダメな理由があったのか,それとも誰でも良かったのか・・・。それにさっきの話が関係してる・・・。魔王は倒してもらいたい。」
さて一体なんじゃろな。
「あぁ、そう来たか。まだ終わってねぇんだな。」
「答えが出たようですね。」
どうやら答えを見つけたようで、合わせてウリエルがその確認の言葉を送る。半ば呆れた様子で頭を抱えている様子を見るに、どうやら相当傍迷惑な理由が彼の頭では叩き出されたらしい。
「クソ迷惑極まりない話だがな。答え合わせを頼む。まず、魔王を倒して欲しいという話、ずっとおかしいと思っていた。」
『なんで?敵を倒すのに味方を欲しがるのは当然だと思うんだけど?』
「普通ならな。でも、そもそも手を借りるまでもないだろう?今の俺らだって赤子と同然の存在だぞ?天使や遣いががどれほどかは知らんが神格どもは今の俺らより上でもおかしかねぇ。少なくとも全盛期の妲己を殺せる程度にはつえぇんだ。呼ぶ意味がねぇ。」
成る程、と首を縦に降る一同。唯一辿だけは妲己や崇徳院の強さ、響たちの本気は知らないが、それでも神はヤバい存在だというのはわかるので、彼がいうのならそうなんだろうと納得している。
「大体魔王なんて誕生させなきゃなんの問題もないってのにい続けてるんだから何かしら利用価値があるんだ。」
「集団に対して共通敵を作ることによる団結ですか?」
「・・・それだけやない。人の敵は人が乗り越えるもの。試練としての一面も持っとる。でもそれやと矛盾するんや。それなら乗り越えなあかんのはこの世界の住人のはずやのにうちらを呼んだら意味がないとちゃいますか?聞いたところやと過去にも魔王と召喚された勇者ってのはいたようやし、この世界に乗り越えさせる気がないように思えるんやけど。」
「・・・最初は俺もそう思っていた。だからさっきの話が重要になる。信仰の収集と人類の繁栄だ。この世界群は俺らの世界と違って神話を軸として創られている。一度図書館を訪ねていくつか調べてみたが、俺の見た範囲では進化論に似た話はなかった。」
「だとすると、この世界は発展の見込みがないと?」
「だから今は天上の存在として隠居してんだろ。そうすることによって幾分かはマシになるし、こっちには魔法っていう用途多様原材にも手段にもなる便利パーソンが存在しやがるからな。どうあがいても俺らの世界の数十段は上を行く。」
『じゃぁ、足りないのは・・・信仰?』
「グッド。無くなれば消えるのかどうかはわからんが、なきゃいけないのは同じだろうよ。とはいえ何度も見てきてるがこの世界の信仰心ってのは度が行き過ぎてる。隠居してから何もしないままでこれってのは現実的じゃねぇ。何かしら定期的に起きていたと仮定するとまぁ俺らの状態がぴったり当てはまるわけだ。」
当てはまるわけだと言われてもそれがなんだか言ってもらわないと分かるわけがない。案の定全員首を傾げているので時間を与えて色々と考えさせることにしたようだ。自分で考えるの大事。めっちゃ大事。
色々と答えが飛び交う中、一番乗りしたのはパイフェンだった。先ほどからも感じ取れるが、どうやらこの完璧美少女頭に中身も相当優秀らしい。教養としても頭の柔らかさとしても良きものと呼べよう。
「魔王を倒す勇者の英雄譚を意図的に作り出して信仰の糧にする、ということですか。」
「・・・なる、ウチらを呼び出したのはここの神格達。ウチらへの信仰はそのままそいつらのところに行くわけやな。でも別にウチらを呼ぶ必要あるんやないの?この世界の誰かに力あげるなりして作り上げれば良いんとちゃいます?」
「誰かを選べば妬みの元になるし俺も私もとすがる馬鹿が増える。人と子をなしても同じ。挙句それを語る偽物まででてきたら収集がめんどくさい。その点俺たちは外から連れてこられた元々特異な存在。それに力を与えたとしても自分たちは成れはしないと諦めがつく。何より干渉するのが外から来た俺らだからこそこっちの世界への影響が極小で済むってのがミソだな。」
最後にQ.E.Dと付け加えてしめる。随分ぶっ飛んだ話が多かったが、どうやら驚くことにそれで当たりらしい。
「フフフ、素晴らしい考察力、まるで見てきたかのようです。概ね正解とは言えますね。では補足として、信仰がなくなれば主神は人の総意というフィルターによってこの世界に干渉ができなくなります。そうなって仕舞えば彼はその力を持って一度滅ぼし作り直す必要が出てきます。」
「たったそれだけの理由ですの?なければ死んでしまうとかそういったことではなく?」
「わざわざ自分が不利になるような制約を自分に課すようなことはしませんからね。それに召喚して微量の力を与えるだけならさしたる労力ではありませんから。」
だとすれば呼び出されてただ戦っているだけでは到底太刀打ち一つできはしないという話になる。響のように何かしら他に持っていてやっと可能性、と言ったレベルの話になるのだろう。つまり、もっともっと強くならなくてはならない。
「いやまさかここまであれこれわかるとは思わなんだ。収穫が多いことはいいことだがな。」
そして、ようやくこれが最後にして一番重要な質問になる。これさえ聞けりゃあ十分と言えるほどに大切なものだ。
「最後に、一番重要なことを聞く。俺らはどうやったら帰れる?」
「今の現状では何があっても帰還は不可能ですね。がその力によってその道は閉ざされています。ですので奴を倒すこと、それだけの力があれば世界を渡ることなど造作もないはずです。」
結局はそこだ。神鏖を為さなければ無理だというわけだ。だが、そんなことははなっから予定の中に組み込まれている。今更やることなんて変わりはしないのだ。
「・・・んだよ、結局やることは変わんねぇのか。そっちの方がわかりやすくてありがてぇがな。」
「えぇ、そして奴に並ぶために世界の敵を探しなさい。すでに貴方方は私含め三人のそれと邂逅を果たしています。もちろんただ会うだけでは意味がありません。奪いなさい。あって力づくでその力を奪い取るのです。そうして残り10、13全ての力を持ってすれば同じ高みに届くはず。」
おそらく崇徳院と妲己のことを言っているのだろう。言っていることがたしかならば、あれクラスが後10もいることになって、Lost Familiarと同等の力が手に入るチャンスが後10回あるということになるのだ。ハイリスクハイリターン。だがやらなければ勝てはしない。つまり道は一つしかないのである。もちろん四人全員はやる気満々目をギラつかせている。ああ全く、実に実に頼もしい。
『まだまだ先が長い・・・。二、三年はかかるんじゃない?』
「はっはっは、上等だコラ。少なくとも帰る算段ついただけでマシだ。これで未だわかりませんとかだったら泣くぞ、すぐに泣くぞほーら泣くぞ。」
「駄々こねる子供ですの貴方は!?・・・こほん、一刻も早く帰りたいなら言っていいんですのよ。もっとペースを上げれば一年くらいには・・・。」
「それで失敗したら元も子もねぇだろうが。それに二、三年なら我慢くらいできるさ。」
いつもいがみ合ってるくせにこういう時だけは互いに優しい表情で気遣え会えるのだから不思議な関係だ。ぶっちゃけ日常的にそうあってくれと願うが、しかしそれはそれで何か物寂しい気もする。
「そうですの・・・。ならいいですわ。それで、要件も終わったようですし早速いただいて帰りましょうか。できるなら他の輩がどこにいるかも吐かせましょう。」
気をとりなおして何やら物騒なことを口走るリコリス。多分結構長い間一緒にいたせいで響のが写ってしまったのだろうか。それは全くもって嫌な話だ。このままだともっと伝染する恐れがある。響菌恐ろしや。
とと、流石にウリエルの方からも抗議の声が出るかと思ったが、そんなことはなく神妙な面持ちで全く別の話題が振られてきた。雰囲気的に、どうやらこれで彼女も終わりのようだ。
「・・・あと一年、たったそれだけの間だけも私の体は持ちそうにありません。ですので、ここで貴方達に渡して幕閉じと考えました。おそらくその方が奴を殺す確率が高いでしょうから。」
「随分と太っ腹だな。できることなら残りの奴らが誰でどこにいるか教えてもらいたいもんだが。」
「それを見つけ明かすことも一環ですよ。ですが・・・流石に何もあてがないというのも。そうですね・・・アルファード共和国に一つ、日出国に二つあるとだけ。」
丁度いいと四人の口元がかすかに緩む。何せアルファード共和国にはつぎに章太郎の用事に付き合ってに行く予定だったのだから運がいいとはまさにこのこと。
取り敢えず、ここまで色々と教えてくれた相手なので代表してパイフェンが謝礼の言葉を述べる。
「ありがとうございます。それだけでもだいぶ早く動ける用になりました。ですが、本当にここまで多くの情報にその上何もしなくていいというのですか?」
「えぇ、必ず奴の首を跳ねることができると約束できるなら。無論天にいるその全てを焼き尽くすとそうここで宣言するなれば。」
無論、だろう。この四人に今更何を言っているのか。それを目的に動いて集まっている兵供だ。覚悟はすでにできている。
「何当たり前なこと言ってんだ。」
「元々それが私の目的で、彼との約束の一つですもの。」
「最後まで、私はたとえ何が起ころうとも二人と一緒にいるつもりです。」
『じゃなきゃこんなところに来ない。』
「問題はなさそうですね。私の憤怒は貴方方に預けて差し支え!?・・・フフフ、えぇ、えぇ、何と素晴らしいタイミングでしょう。まさか今この時に降りてくるとは!!フフフ、とても良いカモです。」
これなら大丈夫だろうと満足げにしている途中、まるで何かの気配を感じたかのようなそぶりの後、急におかしなテンションで独り言をつぶやくウリエルの姿がそこにはあった。側から見れば完全におかしな人だが、そもそもこんなところで縛られている時点で今更だった。
訝しむ五人だったが、妙にテンションの張っている彼女の導きの元、指示通りに並んで行く。
「ではこちらに、預けた後、私は消えるでしょうが、一つ座標を送ります。今、かつての同胞が、そこで貴方達二人の同郷の一行と接触をしています。消し炭にしなさい。私の力を試す良き相手です。相手が高々というところに若干の不満が残りますが、良いですね?」
その言葉の後に、の目の前に一枚の紙が落ちてくる。ひらひらと揺れるそれをキャッチした後確認してみるとそれはとある湖畔の側だった。
「ここか・・・アナザー、座標の登録、それとその近くで人のいない場所にすぐ飛べるようにしといてくれ。」
(承認、術式起動の準備を開始します。)
「・・・。」
久しぶりのアナザーの登場。何気に辿は初めて認識するが、同じく始めて様子を見るウリエルが興味深そうに目を細めている。
「?どうした?」
「いえ、何でもありません。(フフ、なるほどなるべくしてなったというのですね。貴方のお気に入りとは。これは期待できそうですよ◻︎◻︎◻︎◻︎。)おや、これは急いだ方がいいかもしれませんね。双方戦闘態勢に入っていますよ?」
「はぁ!?何やってだあいつら。相手にすらならねぇのがわかんねぇのか!?ちゅーか何があったし!!」
そこは行ってからのお楽しみだろう。いや別に知っても楽しくもなんともないが。
だが早く行かないと不味いことはたしかなので、手のかかる同級生のお守りのために感傷に浸る暇なくことを急ぐしかなかった。
「あー、たっく世話のかかる馬鹿どもだなぁオイ!すまん早速始めてくれないか。」
「フフ、では始めましょうか。さよなら、ですね。」
暖かい光が世界を包む。怒涛の熱量が、こみ上げる。
♢
それは忿怒を灯す紅の燈。成すは焔、示すは天上の赤き徒花。
秘されたる光景は栄華の極みなりて、故にその花炎が天を許すこと能わず。
その意の込められし言葉を紡いで、最後の締めを指鳴らしとともに行う。
降りしきるそれが一瞬視界から彼の姿を隠し、その刹那で世界風貌は一変する。
「 spread(覆い尽くせ)ーーーーlost groly(今はなき栄光よ)」
烽火連天、炎弛めく焔の海原。
今纏う赤白を払いのけ、天上の徒花は狂い咲く!




