青天の白翼
「今頃あいつら忍び込んでる最中なんかね。」
「もし見つかったらやっぱり騒ぎになるんでしょうか?」
「そうね。確かあそこは法王庁クラスの警戒が施されているはだからそうそう入り込める場所じゃなかったはずよ。一体どうやってやるものやら。」
翌日、法王庁に呼び出しを食らった薫子達を除く3パーティーが毎度同じくあの食堂に集まって今頃ユークリッド大聖堂に潜り込んでいるであろう響たちについて花を咲かせていた。元々静香たちがお世話になっているだけの教会だったというのにいつのまにか皆入り浸るようになっているのだが、そう毎日集まることもないだろう。どれだけ暇なのかという話だしこの時間使ってレベル上げでもすればいいものを。
「・・・そういえば辿ちゃんはどうしたの?姿が見当たらないけど。」
「ん、マジだなおい。どこ言ったんだ?」
「・・・・・・さぁ?」
先ほどか気になっていた、と辺りを見回して姿を確認できないその少女の名前を口にする双葉。それを聞いて瑞季を筆頭に数名が「あ、ほんとだいない。」と今更ながらに気づく。流石にパーティーメンバーは気付いてはいたが反応したのが納生だからか、あまりに非常な答えが返ってきた。
「さぁって同じパーティーメンバーなのでしょう?気づかなかったのですか?」
「ううん、そういうわけではないけど朝からいなくって。どこに行ったのかわからないの。」
「・・・ついて行った?」
「だな。」
ほかのみんなも首を縦に振りその結論に賛同を示している。このタイミングでいなくなるというのだから十中八九それでまず間違いはないだろう。
「まじかよ・・・。大丈夫なのか?急いで連れ戻しに行った方がいいんじゃねぇの?」
「いや、俺たちが行ったところで何もできまいし、足手まといになるだけだ。そうなればいっそ霧村たちに丸投げしてしまった方がいい。あいつらが見殺しにする真似はしないだろうからな。おそらくだが。」
「政宮さんと霧村くん息があってたし、玄助君のいう通り大丈夫だとは思うよ。」
玄助や京子のいう通り追いかける必要はないだろうと思われる。これが薫子や静香なんかだともしかしたら見捨てられたかもしれないが、辿であればそんな心配もいらないはずだ。
とは言ってもそれはそれでどうなったのか気になるのが人間というもの。
「そういや結局聖堂の伝承って詳しいことは聞いてなかったよな?」
「ですね。確か神さまに堕とされた天使がいるとしか。もっと詳しくわかれば霧村君たちの目的もわかるのですが。」
「そうですね・・・。ではこの教会の人に聞いてみましょうか。」
「おぉ、冴えてるな鈴城。ならさっさと聞きに行こうぜ!!」
冴えてるというほどでもないだろうに、というツッコミはしないでおこう。
ともあれいうが早いが、一同は席を立って教会内へとくりだし、一番近くの部屋で書籍の整理をしていた一人の若いシスターにくだんの話について詳細を聞くことに。しかし返ってきた答えはどうにも色の悪いそれであった。
「え?ユークリッド大聖堂の逸話?あぁ、ありましたねそんなもの。」
「それってどんな話なんですか?」
「ごめんなさい、覚えていないんですよ。なにぶん随分と突飛押しのない話でしたしまともに聞いてなかったというか。」
「突飛押しのない話?」
「えぇ、神の子らである天使様方が我らが神その人に反乱するなどまずありえない話です。不届き千万という方々もいらっしゃいますよ。」
なるほど、たしかにここまで神威が行き届きすぎておかしくなっているこの世界でそんな神の顔に泥を塗るような存在がいるとおかしな話になってしまうのか。それ一つしかなかった特例なのか、はたまた隠蔽で塗りたくられた虚言の類なのやもしれぬ。
「?堕天使とかいないんですか?えっと・・・ルシファーとか?」
「ルシファーは魔王に使える悪魔の一柱ですよ?それが堕ちたとはいえ天使とは、まさかそちらの世界の世界ではそうなのですか?嘆かわしいことです。」
「い、いるのかルシファー。いやそれよりもそしたらその話を知ってるような人っていますか?」
どうやら輝たちでもルシファーぐらいは知っているようだ。まぁゲームなんかでも有名だし流石にと言った感じだが逆に知ってるといえばそれくらいだろうか。流石にバラキエルやシェムハザと言ったグリゴリの面々なんかは名前すら聞いたこともないだろう。
「・・・これはもともと変わり者で有名だったマザー・グレイスが語っていた話でして彼女に懐いていたシスターソフィアなら。」
「やはり彼女ですか。それでは彼女を呼んでもらってもよろしいでしょうか?」
「ごめんなさい、彼女今日は非番でして出かけているのです。」
「どこに行ったかの心当たりなんかないんですか?」
「それなら多分・・・。」
♢
「昔々、天界に□□□□という天使がいました。彼女は熾天使の座につき四大天使とも呼ばれたのですが、とても理不尽な冤罪にて創造主たる□□□□□様に堕落の烙印を押されてしまうのです。しかし断罪を象徴する彼女は天使達の中で最も強大な力を秘めており、ただ大人しくそれを聞き入れることはせずに争いました。最初こそ優勢一方でしたが、ほかの神々とかつて名を馳せ神々に見定められ死後天界の兵として招かれた英雄達によって鎮圧されたのです。そうして地に散った彼女はユークリッド大聖堂の地下墳墓にて収容されることになったのでした。おしまい。」
幽冥の帳にひらひらと燭台の光が揺れる。
確認できるのは二つの人影で、一人は十を超えて少しかと言った少女。もう一人は部屋の寝台に多めの毛布をかけて体を起こしている老婆。
窓から差し込む月明かりはしんしんと降り積もる牡丹雪によって都度明度を変えていく。
今宵は聖職者にとっては特別な生誕祭。いや、特別なのは何も彼女らだけではないだろうか。
「もう飽きたその話。一体何度目?」
老婆の御伽噺にいい加減聞き飽きたと言うように文句を垂れる少女。さて何度目かは定かではないが、孤児と言っていた彼女と年老いた老婆の関係を鑑みるに百や二百いっていようか。
「さぁ、でも面白い話だろう?私は好きなんだよこの話。」
「へんなの。修道女だったら逆に嫌いなんじゃないの?この話。」
「そうかもねぇ。でも私たちの住んでいるすぐ近くに天使様がいるだなんて、それってとても素敵なことじゃないかい?」
「でも、その天使様は堕天してるのよ?」
「あらあら。ソフィーったら痛いところをつくわねぇ。」
まるで悪戯好きの子供のような屈託のない顔で笑う老婆。その姿はとても楽しげで、彼女らからすれば大事なこの夜に少女とただ二人きり話しているこの時間を好いているのが感じ取れた。
少女の方も口では文句をついてばかりだがその声色は若干弾んでいる風にも取れ、まんざらでもないご様子。
「はぁ、大体結局それってただの言い伝えなんでしょう?」
「そうねぇ。でも・・・」
「でも?」
「きっと信じていた方があなたの人生は楽しくなるんじゃないかい?」
♢
場所は町外れの湖畔側。昼下がりの木漏れ日の中で、彼女、ソフィア・マルファスフィアは一人佇んでいた。特になにかをするわけでもなく、水辺付近の冷たい風と草木野花の香りを感じながら、ただひたすらに虚空を見つめている。
静謐さに包まれていたそこだったが、しかし突如誰かを呼ぶような声と数人の足音、そしてその気配によってみだされてしまう。
「あ、いたいた。おーい!」
「あ、あなたたちは・・・。な、何か?」
聞こえた方を見やれば何度か見たような顔が向かってくる。もともと人の顔を覚えるのが苦手な彼女からすればよほど記憶に残るような変人とかでない限り、二、三回程度の顔合わせではまずうろ覚えだ。
この場に来たのは輝達のパーティーだけ。ほかの二つは大勢での行動となると周囲の迷惑になるからと教会で待機中だったりする。
「実は昨日言ってた話を詳しく聞きたくてさ。ほかのシスターさんに聞いたら君が詳しいって言うから。」
「そう・・・。でも話すことなんて何もないわよ。そんな気にもならないし。」
早速輝が頼んでみるものの、返答は否定も色一色でまさしくにべもない言葉だった。とりつく島もなく返されさらには心底警戒した目を向けてくる彼女に輝はたじろいでしまい言葉が続かなくなる。
仕方なく、こういうのはあまり気にしないであろう天音が聞きに行く。きっとこんなこと彼女の前で言ったらひどくどやされること間違いなしだ。
「そこをなんとかできませんか?だいぶ勝手を言っているのはわかってはいるのですが・・・。」
「・・・あのへんな男達が何してるのかが気になるの?どうせ何もありはしないわよ・・・。」
「で、でも何をしに行ったのかはわかるかもしれないし、そういう意味でも知っておいて損はないかなって。」
「・・・いやだ。さっさと帰りなさいよ。」
このままでは永遠のいたちごっこで日が暮れてしまう。だがここまできてしまった手前、何もせずただ帰るだけというのも考えものだと、さてどうするか頭を捻らせていたその時だった。
不意に何の前触れもなく空の一点が白く光り輝き出し徐々にその強さを上げていく。そこにいる全員がその眩しさに目を細めしかし何事か時になる好奇心からそこに目を離せないでいた。
やがてその輝きは最高潮に達し直後、一刹那の間世界が暗転。それに驚き瞼を下ろしていた一同がゆっくりと開けていくとそこには純白に輝く大翼を背に携えた秀麗眉目な女性たち。その姿はまさしく神々しいという言葉が当てはまり、人ならざるもの。
一目でわかる、それは天使。神の子であり曰く御使。輝や薫子達をこの世界に送り込んできたであろう神々の僕にして響達の怨敵の一つ。
地上にいるはずのないであろう神話の存在が、目の前の底に現れているのだ。
「神勅により貴方達異界の勇者に洗礼を授けに降り立ちました。」
「よくぞ来てくれた勇者達よ、貴殿らに神の祝福を授けん。とく感謝の意を忘れるな。」




