日本人に欧州の建築知識を求めるのは間違っているだろう。
一行が寝床にしていた場所から教国首都までには、そこまでの道はなく、無事昼過ぎあたりには着くことができた。
正式名称クラベント教国。その首都ラベンスは国境線に被る稀有な位置にあり、首都への関門はそのまま国へのものとなっている。
また、北のアルファード側には関門がなく、他方を海で囲まれているために、正式な入国の際には基本的に首都への入らなくてはならないのだ。
無論港があるにはあるが貨物専用なので基本的にそこから(行商人以外の)人を入れるということもない。
「よーし、それじゃぁまずはどうやってあの中に入るかだ。ぶっちゃけ俺と深山達は問題ないだろうけど、リコリス達やソロモンはまずいしな。」
「そうか?普通に入れば問題ないんじゃ・・・?」
「教国の時点でリコリスがアウトの可能性大。下手すりゃルールーもやばいし、パイフェンは微妙なところだが、ソロモンに関しては手配がかかってる可能性がある。」
異眼の魔女という名前、一般周知出ないにしろ、宗教国家であるここの関所役員は知っていておかしくない。ルールーに関しては能力が能力なので入れてくれないだなんてこともある。ちなみに、常日頃は響達が一定の殺気を出して魔物を寄せ付けないようにしているために相殺され難なく外を歩けるようにはなっている。じゃなかったらここまでくるのに数倍は時間がかかっていた筈だ。
「そうか、確かに手配の可能性はあるよな。でもそうならどうするんだよ?」
「まぁ待て。ふむ・・・お、閃いた!!」
「通報しますわ。」
「んだとテメェ。そういやいつもそんなことのたまいやがってたなぁオイ。考えもしないクズのくせしていいご身分じゃねぇか。」
「その思考回路が腐りきってるゴミ虫に言われたくはありませんわねぇ。」
「ちょっと話しかけないでくんない?リコリスが移る。」
「はぁあ???」
こめかみ額頰合わせて五つ以上の青筋を浮かばせ口角を上げる。その艶やかな口は破顔を表しているもののその上にある彼女の目は何一つとして笑ってはいなかった。
そもそも青筋立ててる時点でという話でもあるがな。
その様子を見て響、何を血迷ったのかさらに煽りを入れて切れる様を目にしようとしたのである。性根が腐っていると言われても仕方がなかろう所業だ。
見かねてルールーが仲裁に入り、話を先に進ませる。
『そんなのは後にして。それより策っていうのはなんなの?』
「ん、殴って眠らせてその間に入る。」
「「「「「「「「『おい!!』」」」」」」」
そのあまりにも野蛮で非道徳的な発言にパイフェンを除いた一同の声が重なる。声を出さなかったとは言えパイフェンも苦笑いを浮かべており決して賛成しているわけではない。
「ジョークだよジョーク、トレビアンジョーク。」
「なんだよトレビアンジョークって!?」
「『上手い』ジョーク?」
「上手いこと言ったつもりか!?」
「トレビアンだけに?」
「そのドヤ顔やめろ!!」
あまり大きな声で騒ぐと聞こえてしまうため小声でのやりとりだが、そのせいで随分とひょうきんな様子となっている。小声で騒ぐという矛盾はなかなかシュールなものだ。
「まぁ、薬はあるし最悪眠らせりゃいいけど、リコリスお前催眠洗脳系の魔法使えねぇの?」
「ないことはないですが、まさか策ってそれですの?」
結局の他力本願に呆れ声を出すが、響はそれに対して肩をすくめ首を横に振り否定の意を持って返す。
「いんや、それも保険。」
「ならどうするの?」
「俺が先に入って転移で運ぶだけの簡単なお仕事だな。いや、簡単って言うなら洗脳させた方がはえぇか。やっぱそっちで。」
「それ確実にあなたが楽したいだけですわよねぇ・・・。はぁ、まぁいいですわ。さした手間でもありませんし。」
「おっけ話が早くて助かる。なら行くか。」
早速全員で役人の前に行き、呼び止めと同時にリコリスが眼帯を外す。特に突筆することもない、みなの想像通りの展開なので割愛させていただこう。
そうして門をくぐり抜けた先に広がるのは中世ヨーロッパ、ルネサンス時代のような建築物の群れだった。とは言えども、この都で『神は死んだ。』だの『我思うゆえに我あり(Cogito, ergo sum)』なんていう人物は乳飲み子含めてもいはしないだろうが。
「へー、なんかイタリア?だっけバチカンがあるの。そこに来たみたい。」
「確かにそうだな。まさしく宗教国家って感じだ。」
「お前らの目は節穴かよ。どう見てもイタリアの街並みじゃねーだろーが。どっちかってとフランス、いやオーストリアだろうよ。」
確かに、街並みはかの天才音楽家を生み出した内陸の小国と酷似している。間違ってもイタリアのような地中海側のものではない。地中海性気候と大陸性気候の建物の差くらいわかってほしいものだ。中学でやってきただろうに。
「それで、霧村達はこれからどうするんだ?」
「とりま飯だな。あとは宿探しもか。まぁ滞在期間も多分一週間ぐらいだしそれまで適当に待っといてくれや。」
「響さん、以前までの流れからして、療養期間も含めると倍近くは時間がかかると置いますよ。それに一週間で見つけられるかどうかも怪しいですし。」
「あー、そういやそこが抜けてたな。まぁ見つけるのはどうにかなるだろ。ビヨンにある程度の情報は集めてもらったし。」
『楽観しすぎじゃない?前回も結構時間かかったじゃん。』
彼女本人は途中からの参加であったが、ルールーの言う通り探し出してから崇徳院のもとにたどり着くまで二、三週間は費やしてはいた。最初だったということもあろうが傷を癒す時間も含めるとなると二週間というのはいささか短すぎな気もする。
「・・・そもそも、ここでの用とは一体なんなのですか?それくらい教えてくれてもいいと思うのですが。」
「んなもん・・・。」
「すいません。」
響が否定の言葉を口にするより早く、彼らに対して呼びかける声があった。
見ればそこにはひとりの少女が立っており、後ろにはこれまた四人の少女共々が存在している。基本その少女皆顔立ちは整っており、いささか落ち着いた物腰であると見受けられる。
して、もしかしたら知り合いかもしれないと頭を回すが、やはり響の記憶にない少女で、ここにいるみな同じ結論を出していた。
端的に言って誰一人として顔見知りではない得体のしれぬ女たちである。
ぶっちゃけ怪しいこの少女たちであったが、さらに彼らの警戒心を強めたのは次に発せられた耳を疑うこの言葉であった。
「もしかして、興英高校の方々ですか?」




