部活の朝練は人が集まらない。
「?」
朝方、本来であれば鳥の囀りしか聞こえないであろうこの時間に、聞る事のあるはずもない摩訶不思議な異音が耳に触り彼女、清水アリスは目を覚ました。元来恵まれた家に生まれ育った彼女は起きたことのない朝焼け風景にあくびを漏らす。
さて横を見れば自身のパーティーメンバー、そして昨日リーダーの章太郎が迷子がてら連れてきたソロモンという少女も体を起こしていた。
「おはようございます、皆さん。皆さんもこの音に?」
「おはよう。一体何が起きてるのかはわからないけれど、はっきり言ってまだ眠いし迷惑だ。」
「おはよ。まじこの時間帯からなんだってんだよ全く。」
章太郎、十勝が挨拶混じりに不満を零し目をこすっている。
その間にも先程からの不可解な音は止まず聞こえてくるのだが時折人の話し声のようなものも微かに聞き取れ、恐らくは誰かしら数人によってもたらされている騒音だと結論づけられた。
「誰かいるの?しかもこんな時間から?」
「そうみたいだな。こんな朝っぱらから何をやっているのか、私たちのことも考えてくれよ。」
いおりのその要求はあまりにもなものだろう、この音の主だってこんなところに人が寝ているとは思うまい。まぁ、それが見ず知らずの誰かないし知り得ない者であればの話だが。
「ん?章太郎、霧村達見なかったか?」
「いや・・・ほんとだいない。どこ行ったんだあいつら。ソロモンは何か知ってるか?」
「ううん。見てないけど・・・。」
ふむ、ならば考えられるのはいくつかあるがその多くがこの騒音の元は響達ではないかということ。何かと戦ってるのかはたまた単に騒いでいるだけなのかはわからないが、まぁそれは見に行けばわかることだろう。
そうと決まれば早速行動に移すほかあるまい。そそくさと歩き出し、音のする
方に二、三分ほど歩き続ければ、その正体がようやく判明される。
そこで繰り広げられていたのは、人外達のぶつかり合い。すでに周囲の草木は砕け散りそこだけ更地不毛地帯と化し、またその黄土色の大地も所々抉り凹んでクレーターは一つや二つでは飽き足らず。
「ッチ、術式12、随時連鎖展開。」
「(承認。)」
瞬間、紅蓮の煌きが地走るように起き上がり進んでいく。迫る火柱はしかし爆風により消し飛び、それは蹴り一つによるものでかき消された焔から見える肢体はパイフェンのもの。
そのまま彼女はそれを放ってきた響に肉薄、地を手のひらではね、回転を加えたかかと落としを食らわせるが、響もそれを握る長大太刀で受け止める。
それに合わせ約十数に渡る打ち合わせ。払う一線の刀身に手を置き跳ね上がり、こめかみへと回し蹴りをまるで携帯を肩で持つように挟み込み、動きを止めた足を掴んでそのまま投げ飛ばす。
中で受け身を取り、着地とともに蹴り出しひねりを加えて足を回した。
流石にここまで瞬間的に戻ってくるとは思わなかった響。なんとか左腕を盾にする余裕はできたが、しかしそんなもので防げるはずもなく、骨が砕ける音とともにその左腕はひしゃげ変色していた。
痛みに顔をしかめ、よってできた隙。それを彼女が見逃すはずもなく、その拳が鳩尾ヘとめり込み、四肢は派手に吹き飛ばされる。
が、彼もやられっぱなしでいるわけなく、飛ばされる際に自分の獲物を投げつけ、パイフェンの右太腿を貫通させた。
早急に刺さった刃物を抜き放り投げるものの、すでに着地しもどってきた響は手に持ったナイフ(市販品)を持って懐へと潜り込んでいる。
彼女も大人しく切り刻まれる気はないので、手首に手刀を合わせてはたき落とそうとするが、そこで忘れてはいけないのがもう一人の存在。この二人がこうして交えているのだから彼女がいないわけもない。
瞬間大地に魔法陣が形成され、灼熱の業火が吹き上げる。それを瞬時に反応し飛びのくが、各々所々の皮膚が焼け爛れており、かつその背後に小さな人影が一つづつ。確認するまでもなくそれは人形であり、持つ刃が襲いかかる。
響は鋏の付け根部分にあえて腕を突っ込み切断されることを抑えると体をうまく捻らせてその人形を遠くへ蹴り飛ばす。
少しの余裕ができた今のうちに回復薬を口に流し込み腕を直すと、今度はピアノ線(市販品)を取り出して残っている木々に巻きつける。
そうして張り巡らされたピアノ線を足場に頭上へと登っていく響。
そこで待ち構えていたのは魔法によって航空権を得たリコリスであり、ドヤ顔をかましていた彼女の土手っ腹を蹴りつけ、勢いよく地面に叩きつける。
そのまま手に持ったナイフを投げつけ、両手ともにピアノ線を握り、先に重りのついたそれを放つ。
それはまるで意思を持つかのように伸びていき、木々を経由して二人の首へと巻かれていく。
「曽根崎心中首吊り峠」
言葉とともに巻きついたピアノ線は締まり、糸そのものも限界まで張りしきり、リコリスパイフェン二つの躯が宙に垂れ下がる。
食い込んだピアノ線がまさしく首を絞め切らんとするその直前で拘束は溶け、二人の体は無造作に落ちていった。見れば首には閉めた後と相当の出血が確認できる。
「な、何やってんだあいつら!?」
ここまで呆気に取られただ見ているだけだった7人だったが、ようやく気をとりなおし目の前で起きているまぁ側から見れば殺し合いにしか見えないやりとりに驚愕混じってツッコミを入れる。
「え、パイフェンさんも混ざって何やってるの!?あの人はまともだと思ってたのに!」
「何ってあれはどう見ても殺し合いだろ!いやなんでそうなってるのかはわかんないけど!?」
「むしろそれが一番知りテェよ!!」
ここで切って落とされたかのようにわーきゃーわーきゃーと騒ぎ出す一同。これではどちらが近所迷惑かわかったもんじゃないが、概ね普通の反応ではある。
で、この状況への説明を欲している章太郎達へ、バンバンと板を叩くような音が向けられ、見ればそこにはルールーがボード持って立っていた。
『心配しなくてもあれはただの朝練だから。私はまだあれに混ざれないから見学だけど。』
「朝練ってどう見ても鍛錬の域超えてるように見えたんだが!?だってめちゃくちゃ大怪我してんじゃん!!」
『あれくらいじゃないと意味がないんだって。傷は薬飲めば治るしやるなら本気でやるらしいけど。』
「本気じゃねぇぞ、マジで殺す気ではあるけどな。」
章太郎達に説明を行なっていたルールーに、横から響の補足が入る。見ればすでに傷は癒えているため、ここで終了なのだろう。
「殺す気って・・・。」
「だってそれくらいじゃないと何年もかかってしまいますもの。そもそも辛くも痛くもない修行で得られるものなんてたかが知れてますわ。」
「それはそうですが・・・。」
続いてきたリコリスもすでに出血も痣もなく、言われてみればもっともなことを口にしていた。とはいえいささか度がすぎる気もするが、それはアリスもそう思ったようで抗議の言葉を入れる。
「大丈夫ですよ。もう何十回とやってきたので加減の仕方はお手の物です。実際に死ぬことはありませんよ。」
「もしかして毎朝これをやってるの?」
「えぇ、そうですね。長いと丸一日というときもありますが。」
パイフェンのセリフを聞いて皆絶句する。まさかこんなに激しい戦闘を日常の一コマとしてすましてるとは思いもせず、増してそれを1日など。
先ほどの試し合いで、自分たちでは想像もつかないほどの高みにいるとはわかったが、それも聞けば納得であるという顔だが、こんなものただの一握りと知ってどんな反応をするのか少し気になってしまう。
「そりゃ強い訳だよ・・・。こんなん毎日やってるんだったら。」
「んなもんお前努力もせずに強くなれる訳ないだろーが。といっても俺らは少し絡めて使ってるが・・・、やろうと思えば誰でもできる訳だしな。」
ただしそこに至るまでの発想は必要なので、普通の人間には縁遠い方法ではあろう。その上あの地獄が待っている訳だし。
「というか、皆早起きなんですのね?こんな時間から起きてるだなんて。」
いやお前らのせいで起こされたんだよと顔を引きつらせるが、言える空気ではなかった。唯一パイフェンがこちらに向け申し訳なさそうに頭を下げたので、彼女は気づいているのだろう。
「お前らどうすんだ?俺らは今からシャワー(魔法をうまく使った簡易的なもの)浴びに行くんだが・・・、ついでに浴びるか?」
「それは嬉しいですが・・・。」
突然の提案に戸惑うも皆スッキリしたいのは同じなので頷くが、実は響、汗を流す目的で言ったわけではない。もちろん当人達はその意味なのだが。
「まぁ、だよな。流石に清水もその頭でいるわけもねぇし。」
「!?」
さて、実はアリスには寝起き後に一つ重労働がある。というのも彼女毛量がそこそこにあるので寝癖が強く毎朝悪い言い方でボンバー状態なのだ。
もちろん同じパーティーの章太郎達には最初に説明してあるし見慣れてもいるのだが、何も知らない人にしかもそう言った指摘のされ方をされると羞恥心というのも湧き出てくるもので、その顔は瞬く間茹で上がったように紅に染まり。
「も、もう少し言い方あるんじゃないんですか、バカァ!!」
「!?テメェ人の善意をバカ呼ばわりってどういうことだ!?」」
その言葉が出てくるお前の方がどういうことだ。




