団子パーリィー!
「な・・・。」
今目の前で起こった出来事に目を見開き言葉をなくす章太郎。その背後にいたソロモンも同じく信じられないものを見たような顔をしていた。
だというのに当の本人は最初こそドヤ顔をかましていたものの、すぐに何もなかったかのように獲物を一払いして鞘にしまい格納する。
「さてと、それじゃあ茶にでもするか。ん?どうした深山?んな素っ頓狂な顔して。」
「い、いやお前これ・・・!?」
「ん?あぁ、そりゃそうか。周りに死体ある状況でもの食う気にはなれんよな。片付けなきゃいけないが・・・どうすっかなぁ。」
と、あたりに散らばっている屍たちを見回して頭を捻らす唸る響。きっと章太郎が聞きたかったのはそれじゃなかっただろうが、たしかに死体処理というのも大事なことだ。匂いも出てくるだろうし何より飯が不味くなる。
『焼いて炭にするか埋めるとか?』
「おぉ、なるほどそれだ。」
いうが早いが早速男たちの死体を一箇所に集めて、魔法で一気に焼却する。そうして残った骨と灰をこれまた魔法で開けた穴に埋めて塞ぐ。
狙ったつもりはないのに火葬の手順みたいになってしまったが、男たちも放って置かれるよりはマシだろうからよしとしよう。
「よーし、これでオーケー。ほら、深山もそこの嬢ちゃんもなにポカーンとしてんだよ。さっさと座れっての。」
そう言っている響はすでに腰掛けているし、ほかの3人も同じく、赤い長椅子に腰を下ろしていた。行動が早い四人だったが、襲われていた等の二人は整理がついていないし、そもそも章太郎が聞きたかったのは一体あの一瞬で何が起きたのか、それと一体どうしたらあんな芸当ができるのかだ。
「い、いや、霧村お前、さき何したんだ?」
「何って、切っただけだけど。それ以上でもそれ以下でもねぇな。」
「そ、そうじゃなくて何があったらそんなに強くなったんだよ!?」
「ん、日頃のレベルアップ(飲食)と鍛錬。それといくつかガチモンの修羅場くぐり抜けたからだなぁ。」
「はぁ!?いやそういうふざけ入らなくてだな。」
「いやー、巫山戯てねぇんだよなこれが。ま、詳しいことは長くなるしそのうちでいいだろ。あれだ、俺含めこいつらめっちゃ強いって認識してくれりゃあそれでいいや。」
そう言ってリコリスたちの方に親指を向ける。
章太郎も、納得こそはしていないもののおいおい話してくれるのなら無理に聞くのもどうかだし、助けてもらった身でそれはないだろうと思ったのだ。
「そ、そうだな・・・よ、よしソロモンもとりあえずもう一度座ろうぜ。」
「う、うん。」
「(ソロモンねぇ。まーた曰くありげな名前してるけど、何があったのやら・・・。)」
章太郎が呼んだ少女の名前に興味を示す響。72の悪魔を従えた王と同じ名前を冠しているのだ。聞く人が聞けば666の数字レベルで気になることだろう。
ましてや先程襲われていた事実を鑑みるに実に興味深い人物である。
だが、そこいら辺を聞くのはとりあえず食べながらにするとして、今はまず注文をしようと中にいるおばあちゃんを大きめの声で呼ぶことにした。
一二分少々して来たおばあちゃんだったが、どうやら先程の騒ぎには全く気づいていないようだった。もしかしたらこの中で1番の大物はこのおばあちゃんなのかもしれない。
「ばあちゃん、磯部とつぶあん、鶯と桜2本づつ。それと梅昆布茶も。」
「えーと、どれがいいんですの?初めて食べるのでどれがなんだかよくわかりませんわ。」
「すいません、私も初めてで・・・。」
『私も。』
「ったくしゃーねぇなぁ。まず甘いのと甘くないのに分かれててな・・・。」
団子初体験の3人のために一つ一つに対して説明していく響。
全部説明し終わったもののずんだとか鶯とかよくわかっていなかったのでめんどくさいしとりあえず全種類いちえ串づつ頼んで3人で分けて各自気に入ったものを追加注文するという流れになった。
自分たちが金を払うわけではないからこそできる荒技だろう。それを見て払う側の章太郎は顔を引きつっていた。いくら王国側から資金をもらっているとはいえ無限に湯水のように湧いて出てくるわけでもない。流石にこの店では足りるだろうが、この後の生活が心配だった。
「まぁ初対面ばっかだし自己紹介ぐらいしとくべきだろうな。俺もそこの彼女のことは知らんし。」
運ばれて来た団子を頬張りながら軽い自己紹介を提案する。特に皆異論もないので名前だけの簡単なものを済ませただけなので、大した時間もかからなかった。
「(パニエンスラ・・・半島だったけか?ってことは魔術師の方じゃなくてソロモン海の方が由来ってかそんな感じで指輪云々は関係ないのか?)」
ほかの皆は特に気にした様子もなかったが、響は一人だけソロモンの名前から色々と関係あることを模索していた。
前からも言っている通り、この世界と響たちが元来た世界はなにかと似たり寄ったりなことが多い。
そうすると、同名の別人とわかっていても偉人伝説と同じなにかを持っているんじゃないかと邪推してしまう。
だが、その気持ちはラストネームを聞いて若干薄れつつあった。
しかし響の安堵はすぐに裏切られることになる。
「で、パニエン・・・呼びにくいな、ソロモンはなんであの黒づくめの野郎どもに襲われてたんだ?」
「おい、霧村そういうのは・・・。」
「いーや、聞くね。というか助けてもらってでも理由は話せませんだなんて虫の良すぎる話だろ。それにこっちとしても関わったなら聞いておく義務はある。特に今回は聞いておいたほうがいいタイプの話だろうからな。死ぬほど嫌だってんならしょうがないがな。」
あまり他人の深いところに干渉しない響ではあったが、どうしてもソロモンという名前が気がかりで、もっともなことを言って情報を聞き出そうとする。
もしかしたら妲己や崇徳院のような存在に関わることかもしれなかったからだ。
「うん、わかった。章太郎もごめんなさい。本当は目を覚ましたあの時に言うべきことだったのに・・・。」
「いや、それはいいんだが・・・本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫。ううん、不安はあるけどそれでも言わなきゃいけないことだと思うから。」
覚悟を決めたとしても、やはり怖いものは怖いようだ。握る拳は震えているし、声も裏返りそうになるのを抑えている。
「ま、そこまで気にすんな。ぶっちゃけ俺らその手の重い話には耐性があるっていうか今更そんなもんでどうこう思いやしねぇよ。そりゃあなんかの仇とか俺らと直接因縁持ってるならまだしもこのメンツじゃぁそこんとこも大丈夫だろうし、深山も命かけて庇った女の子相手に今更冷たい目で見ないだろうしな。」
彼女の様子に見兼ねて珍しく響が言葉をかける。
言葉通り彼の連れ3人はそれぞれ悲劇たる過去を抱えているのだから、その手の話についてはそこいらの一般ピーポーと比べても理解があるだろうし、実は変なところで繋がりがあって〜的なことも避けられたり隔離されていた彼女らには無縁の話だろう。
無論響も章太郎もこっちの人間じゃないから問題ないし、性格的にも方向性は違えど二人とも悪く思うことはない。
「あ、ありがとう・・・。」
お礼を述べたのちに、大きく一度深呼吸を挟んでおぼかしく彼女はその身の上を語り出した。
♢
彼女、ソロモン・パニエンスラが生まれたのは教国の北にある小国アルファード共和国の片田舎の農村だった。
魔術国家として栄えているアルファードはその敷地の多くが山岳地帯であり、首都ミラ以外は山に囲まれた農村ばかりの格差の激しい国である。まぁ、逆にそう言った山奥は魔術師たちの工房として適しているために、魔術国家と呼ばれるようになったのだが。
ともあれ、そんな地に生まれた彼女の母はこれまた息を飲むような美人であったが、その心を射止めた相手の姿は見当たらなかった。
やがて成長して12年の時が過ぎ、彼女もある程度ものの分別がつくようになったころ、母親から父の存在について初めて打ち明けられたのである。
それは彼女の父はアルファードの国王、現魔術王であり、ソロモンはその妾であるの子だという驚愕の真実。
いや、妾というのは語弊がある。実のところ今の正室が後妻側室であり母が正室となる定めだったのだ。
平民の生まれであるソロモンの母は、とある劇的な出会いの元、現魔術王と恋仲に落ちた。もちろん彼は彼女を嫁にとったのだがしかし、彼の周りの人物は平民の血が王室に入ることを嫌い、後妻として現王妃をあてがわせ、策略の元今のような状況へと追いやったのだという。
無論王も抵抗をしてはいたものの、このままでは彼女もその腹の子も不幸を見るだけだと誰にも見つからないように古い友人が家を構える村へと送ったのだそうだ。
元々体の弱かったソロモンの母には王室での視線や悪意のうねりは良くないもので、それも考慮してのことだったそうな。
もちろん彼が女性として愛しているのはソロモンの母ただ一人のみではあるが、室内の人間を納得させ愛するものに危害が加わらぬようにする他になかった。
その話をし終えた母は、ソロモンに渡すものがあると言って包みを差し出してきた。その中に入っていたのは銀でできた七つの指輪で、これはこの村へ来る直前彼女の父が母とソロモンのためにと渡したものだそうだ。
これには相当強い力が込められていて魔除け御守りの代わりにといった意図があったという。
その話を聞いたソロモンは、母の話し方やその時の表情、内容から二人の間に確かな愛があり、自身もその中にいることを深く感じたという。
それからは特別なことが起きることもなく時は過ぎて行ったが、去年突如体調を崩してしまった母がその人生を終えてしまったのだ。
最後の言葉は「できることならもう一度あの人に会いたかった。」だったと聞くと言葉も出てこない。
さて、これでは追われていた理由にはならない。本番はここからだ。
さて、ここで登場してくるのがソロモンの父の古い友人。幼い頃からよく面倒を見てくれた彼は、彼女の母が喪に伏したことを伝えなくてはいけないと、首都に向かって一人旅立ったのである。しかし、半年が過ぎてもまだ帰って来ず村人全員が心配していたある曇天の日だった。見慣れない馬車が突如村の入り口に停車し、中から異様な黒服に身を包んだ男たちが出てきた。
その姿を見た瞬間、『彼らは私を殺そうとしている。』そんな直感がソロモンの脳内に走り、その二秒後には村を抜け逃げ出していたという。
さて、これは後からわかったことなのだが、黒づくめを送り込んだのは王妃で、目的はソロモン自身ではなく彼女の持つ十の指輪。そして首都に向かった友人は王に会う前に王妃の私兵に捕まり、拷問ののち秘密裏に処理されたそうだ。
あとは、その時持っていた小銭と着の身着のままでここまで逃亡を続けて、見つかった瞬間とっさに入ってあの森で走り疲れあそこで眠っていたのが簡単ではあるがことの一抹であった。




