久しぶりの
時刻は日の照らす昼下がり。
あれから1日半ほどかけてようやく二人は森を抜けて街道へ出ることに成功した。
距離にするとそこまでかかるほどではないが、やはり方向感覚の掴みずらい森の中だったため迷いずれていって本来の三倍近くの時間がかかってしまった。全く、三倍なのは機動力だけにしてほしいと、きっとどこかの赤い人も言っていることだろう。
さて、章太郎と一緒に行動しているソロモンだが、取り敢えずいくあてもこの後の予定も何一つないので、少なくとも教国までは同行するつもりのようだ。一人で行くのも危険であるし、そもそもお金ひいては食料飲み水の一つもない彼女が野垂れ死ぬのは目に見えている。
流石に章太郎はそれをわかっていて一人にするような外道でもないので二人仲良く歩きまわっていたわけだ。
本人は何一つ後悔はしてないしむしろ当然の行動だとは思っっているが、そのおかげで数の少ないレーションを分けなければならず二人揃って腹ペコ虫状態だった。
勿論森の中なのだから木のみやキノコはあるし、実際持ち前の幸運でそこそこな頻度で見つけたものの、しかしそれが食べれるものかわからず結局手をつけなかったのだ。
また、小鳥や小動物、魔物の類を狩って食すというてもあったが残念、二人とも鳥獣の捌き方なんて知るはずもなく、そもそも魔物に関してはエンカウントすらしなかったという始末(幸運が功を奏したのかそうでないのか最早わからない)。
とりあえずこの森を出て始めに思ったことはサバイバル技能の大切さと、迷子から脱却したら真っ先に覚えようという強い意志だった。
やっぱりダッ○ュや黄金伝○を見ている程度では何も変わりはしないようだ。改めてTOKI○や○ゐこのすごさが見に染みた瞬間である。
きっと極限まで至ったら安全性なんていざ知れずなりふり構わず口にしたのだろうが、なまじレーションという保険がある分、まだ食べるもの(レーション)はあるし、危険を冒してまで食べる必要はないなという結論になって腹を空かせたままになっていたのだからタチが悪い。
「ハーァ、やっと普通の道だ。もう道そのものが懐かしいな。」
「でもまだ二日ぐらいでしょ?懐かしむには早いんじゃない?」
1日半もの間共に過ごしたこともあってか二人はそこそこに打ち解けていた。
最初は話も続かず気まずい空気が漂っていたが、しだいに言葉も繋がるようになり、昼頃には気まずいだなんてものは消え去り楽しくというと変だが、まぁそんな感じに迷い歩いていたのだった
「そりゃあたしかにそんぐらいしか経ってないけど、迷ってたってのもあって体感的には久しぶりというかそれ以上に疲れたっていうか・・・。」
「わかるよ、その気持ち。でも章太郎の場合自業自得なんだからそんなこと言う資格ないと思うけど。」
「辛辣過ぎないか!?いやまぁ、そりゃそうだけれども!!」
随分と大きな声で抗議したせいか、ちょうど目の前を通り過ぎた馬車の御者がギョッとした目で二人の方に顔を向けていた。
それが過ぎ去った後、ソロモンは羞恥心から顔を少しばかり赤く染めて章太郎相手に非難の言葉を浴びせた。
「もう、章太郎のせいでおかしな人たちみたいにみられちゃったじゃない。」
「俺のせいかよ!?いや、俺のせいだな今のは。うん、すまん。」
いきなりの言葉につい否定から入ってしまったが、普通に今のは彼に非があるし、よってすぐに認めて謝罪の言葉を口にした。
きっとこれがどこかの誰かさんだったらこうはいかなかっただろう。どうせ難癖つけて屁理屈交じりに誰かになすりつけて逆に非難したりなんかしていただろうと、とても容易に想像がつく。
ともあれ、流石にずっと道中で立ち尽くしているだなんて頭のおかしな真似できるはずもなく、素直に西に向かって歩いて行った。
途中、何度か人や馬車とすれ違ったが、その度人がいる暖かさというか、安心感といったそういうものが湧き上がってきて、やはり人間己一人だけというのがどれだけ応えるかを見に染みて体感したのであった。
驚くことでもないかもしれないが、想像していたよりは人通りがあり、かつ迷っていた森とは反対側には広大な農耕地が広がっており、稲耕作や定植、離れたところでは畜産の類も行われていた。
その光景を横目にして章太郎はかつて家族旅行で訪れた北海道内陸部のことを思い出していた。
あの頃車内から見た光景と今見える光景がよく似ているのだ。
いったことがある人には伝わるかもしれないが、小樽や富良野あたりの風景を思い浮かべて貰えば大体そんな感じだ。わからない人は是非ストリー○ビューで確認してほしい。
流石にあそこまで広大ではないが、それでもなかなかの敷地面積だ。ここが比較的教国付近であるので、そこまでの距離ではないが、もしこの広野の端から来たとするなら、歩きつめても一週間はかかるだろう。さらに隣接している湿地帯を含めればどれだけかかることか。
だが、先ほども言った通り、ここは教国付近であるため人通りもそこそこあり、点々として家屋なんかも立っている。
二人が歩き始めてから三十分ほどした頃には建物も増え出してついにお店、なぜこんなところにあるのかわからないが団子屋が一件暖簾をかけていた。
ずっと空腹状態だった二人からすれば入らない理由なんてあるはずもなく、駆け足で向かい早速店のおばあちゃんを奥から呼んで注文をする。
「おばちゃん、御手洗とこし餡、蓬にきな粉三つづつ!」
「はいな、そっちのお嬢ちゃんはどうするんだい?」
「えっと、食べたことないからわかんない・・・。同じものでいいや。」
団子初体験のソロモンはとりあえず章太郎と同じものにしたようだ。まぁ、変なもの頼んで失敗するより全然賢い選択だろう。
それからして10分程経った頃にはすべての注文が揃い、早速口いっぱいに頬張る二人。ちなみにソロモンは御手洗が気に入ったようだ。甘ジョッパイものが好みなのだろうか?
いくらお腹が減っていようと、流石にこの量の団子を食べきるのには時間がかかるし、だったら無理せずゆっくりと味わうのがいいだろう。サービスの熱い茶をすすりながら、今までの疲れを癒すようにのんびりと少しばかり甘い食事を楽しんでいた。
故に、彼ら、特に彼女は増すれていたのかもしれない、自分がどういう状況でここにいるのかを。
「見つけたぞ、小娘。」
気がつけばその目の前には、黒づくめの男たちがそびえ立っていた。その数、約10人ほど。全員が黒の外套に身を包み、顔には舞踏会なんかでつけるような派手なマスクをしてその素顔を覆っていた。
明らかに普通の人間ではない。しかも先ほどぼ言葉からして用があるのはソロモン。
まさか男の章太郎や店のおばあちゃんを小娘だなんて呼ぶはずもないし、そもそもおばあちゃんは店の奥で只今絶賛お昼寝中だ。開店中に昼寝とはと思うものの、むしろ巻き込まなくてよかったかもしれない。
そして、みつけたということはソロモンを追いかけるか探していたということ。少なくともいい話ではなさそうだ。
「少年、悪いことは言わん。今すぐ立ち去れ。事情のわからないであろう一般人を殺すなどというマネはせん。」
黒づくめの一人が前に出て、章太郎に忠告する。
なるほど、たしかにここで命を大事にするなら彼のいう通りにすべきだろう。
いくら章太郎が異世界からの勇者で、超ド級のチート能力を持っていたとしても、明らかに普通でないこの男たち全員を相手取るだなんてことはできはしなくて当たり前。けれど、今立ち去れば関係ないお前は殺さないということは、ソロモンは殺すということ。
込み上げてくるのはここ数日の出来事。記憶の彼女は何の変哲も無いただ普通の少女だった。そればかりか、彼女のおかげで寂しい思いをしなくて済んだ、そんな大切な友達で仲間だ。
少なくとも、彼女が殺されるほどのことをしたとも思えないし、差し出して自分だけ安全でいる理由なんて無い。
「断る。」
「何ぃ?」
「断るんだよおっさん。なぁソロモン。俺は異能持ちでな、それが『幸運』って能力なんだ。」
「え?」
突然の言葉に困惑するソロモン。ただ、困惑の理由はそれだけではないだろう。
「おかしいだろ?幸運なのに迷子になるとか、俺もずっとそう思ってたさ。」
黒ずくめも、動かないでいる。彼らも突然の話に困惑しているのだ。それでも律儀に待ってくれるのだから、彼らは存外悪い人間でもないのかもしれない。
「でも、今わかったわ。確かに俺の幸運は働いてたんだ。だって、迷わなければきっと一人のお前は死んでたんだろう?少なくとも今の俺からすれば、そんなの不幸中の不幸だ。」
「・・・章、太郎!!」
彼の言葉に、自然と涙をこぼすソロモン。彼は出会ってたかだか1日ちょっとの自分のために、そんな言葉を口にして、そして目の前の男たちに刃を向けようというのだ。未だ話してないことも多い、さほど信用に値しないであろう自分のために。
聞こう、こんな状況、恋に落ちない女がいるだろうか。いいやいない。少なくともここに一人、落ちた音のする女がいる!
「そうか、ならば容赦はせん。」
そう言ってまず前の数人が飛びかかってきた。対する章太郎はソロモンえおかばいながら応戦するも実力差が大きく出て、防戦一方傷が増えて流す血が地面に染みを増やすばかり。
故に章太郎で焦りを感じていた。ああやって勢いよく啖呵を切ったのはいいものの、ぶっちゃけ勝てないのはわかっていたのだが、まさかここまでとは。せめて彼女だけでもとは思うものの、この数だとこのザマではそれすら難しいだろう。
「(クッソ、勝てるわけねぇよなぁ。こんなところで死ぬのは嫌だけど、ソロモン差し出して生きてく方が何倍も胸糞悪いし、女の子守って死ねるなら、男冥利につきるってやつかな!!)」
この絶体絶命のピンチにアドレナリンが飽和したのかテンションが張っていく章太郎。勝ち目はない、ならせめて盛大に抵抗して被害を大きくして散って行こうじゃないかと、心の中で最期の覚悟を決めて特攻でのしようかと考え出す。
さて、ここで唐突だが彼の能力についてもう一度思い出しておこう。もちろんそれは『幸運』だ。『幸運』なのだ。そう、『幸いする運』なのだ。ならば、彼の運がこんなところで終わるようなものなのだろうか?
否、断じて否である!幸運なのならば、最大のピンチに、最高の巡り合わせがあるはずなのだ。そう、最高の。
「おいおい、何なですかあんたたち。道中で井戸端会議とか頭ん中までパーマかけたババァどもの集まりか?どかねぇなら蹴り飛ばしてでも進んでいくぞ、あ゛?」
突如乱入してくる男の声。妙に気だるげに、のくせして汚い言葉を吐いてまるでどこぞのヤンキー。この状態を意にもせず聞こえてくる、聞き覚えのある声。
その声に黒ずくめの攻撃が止み、皆の顔がその声の方へと向けられる
「ったく、どこの世界にも人の迷惑を考えない馬鹿どもはいるもんなのかね。マジで邪魔でしかねぇからさっさとしょうもなくくたばら・・・あれお前は・・・」
その顔が見えた時、章太郎は驚愕した。だってそれは死んだはずの男の顔。いやあいつらは生きているかもとは言っていたが、まさか。まさかこんなところで!?
「お、お前、霧村!?」
「お前は、確かフィーチャリング太郎ピンキーEX!!」
「いや誰だよ!?」
そう、世界一の阿呆だった。




