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暗晦なる霊廟


 「着いたはいいがあれだな。やっぱこういうところって漢字表記じゃないと閉まらんわ。」



 柱にかかっている札を撫でながら響が感慨深そうにそう言った。彼の触っているそれにはこちらの世界の文字で大きく『金羅井神社』と記されていた。



 「今度響さんの世界の文字も教えてくれませんか?私気になります。」



 某古典部の美少女部長のようなことをいうパイフェンに、一瞬おっ!?となるものの、彼女がそのネタを知っているはずもなく、単なる偶然かと結論づけて返答した。



 「そうだな。教えれば他の人間は読めないから俺らないでの密書的な感じに使えるかもな。とりまこれ終わってから教えるわ。」


 「うっ、一度あなたのノート見ましたけれど、てんで理解できませんでしたのよね・・・。あの文字列複雑すぎやしませんか?」


 「まぁ、日本語は世界で一番難しい語源って言われたりもするからな。ゆーても発音ってか言葉としては同じなんだしそう難しくはないだろ。」


 『私それ苦労しそうなんだけど。』



 かつて響のノートを横から覗いて固まった過去のあるリコリスと、コミュニケーションツールが文字であるルールーはあまり色が良くないようだ。抗議とまではいかなくとも愚痴をこぼしている。



 「いや、ルールーに関しては別に常時使うわけじゃねぇんだから問題ないだろ?それより待ってなくて良かったのか?お前まだステ強化終わってないのについてきて。もし、妲己の時みたいに戦闘になったら危ないだなんてもんじゃないぞ?もしアレと同格だってんなら余裕の一つもない相手なんだから。最悪死ぬかもしんねぇぞ?」



 実を言うと響が述べた通り彼女はまだ強化の途中だ。パーティーに入ったのも最近で追いついてないと言うのもあるが、一番の問題は初期ステータスにあった。

 端的に言うと、彼女のステータスには特徴がなかったのだ。

 それは別に普遍的であると言ったような意味ではなく本当になんの突飛性もなくそれどころかまさに変わりなし。全てのステータスが同じ数値であり、まるでパッ○ールや○マナッツの種族値と同じように。


 それで、その問題のステータスがこちらだ。


 ルールー・メルト・ララバイ

 女 15歳

 Lv,4

 能力《花嫁》

 HP60/60

 MP60/60

 攻撃 6

 防御 6(+15)

 魔攻 6

 魔防 6(+10)

 俊敏 6

 《スキル》

 炎魔法Lv,1、水魔法Lv,1土魔法Lv,1、風魔法Lv,1、回復魔法Lv,1

 《称号》

 死神の嫁、求まれるもの、呼び寄せるもの、生き残るもの、失声、筆談者

 《装備》

 一般服、生糸の羽衣(防御+15、魔防+10)



 ステータス自体はこの世界の一般もしくはちょい低いぐらいなのだが、だと言ってももっとばらつきはある。それがこの少女はまるっきり同じも同じなのである。


 本人自身も戦闘の経験など無いに等しく、ステータスをあげようにも戦闘スタイルがまるで決まらないために上げれないのだ。一応、全ステータスを最低値までは上げたが、無論それだけでは戦闘に参加することはできない。



 『大丈夫、覚悟はできてるし、それにもう私だけ生き残るのも嫌だ。戦力にはならないかもしれないけどせめて一緒にはいたい。』


 「ん、そうか。ならもううるさいことはいわねぇよ。」



 返答を聞いて、覚悟が決まっているなら無粋な質問はしないと同伴を認めてあたりを見回す。



 「・・・・・・人が多いな。」


 「そうですわね。これじゃあ人目が多くて捜索もしづらいですわ。」



 響のつぶやきにリコリスがそう答えた。

 会話の通り、この神社には多くの観光客基参拝客が見え、賑わいがあり、そのおかげか4人は行動に移せずにいた。



 「そうですね、でしたら夜になるまで待ちましょうか?かなり時間はありますが。、それが一番現実的かと。」


 「そうだな。じゃぁ暇つぶしついでに観光がてら怪しいところをそれとなーく探しておくか。そしたら夜になってからも動きやすいだろ。」


 『了解』


 「よし、じゃぁとりあえずおみくじ引きに行こうぜ。なんせ俺は五年連続微凶を弾き続けた男だ。」


 「絶妙に運ないですわねぇ、あなた!?」



          ♢



 時刻は午後9時を回り、周囲に参拝客の姿は見えなくなった。

 ようやく先に進めると暇を持て余していた一行が、観光も終えて時間を潰していた暗がりから出てきた。



 「ようやく客どももいなくなったな。随分時間がかかったせいで腹減ったわ。焼肉食いてえな焼肉。やっぱ夜は焼肉っしょ。」


 「さっきご飯ふつうに食べてましたわよねぇ?まだ食べますの?」



 佐藤○郎のようなことを言っている響に対して、リコリスが呆れたようにツッコミを入れる。



 『でも、まだ神社内の人はいるよ?どうするの?』


 「まぁそりゃ神主や巫女さんは残ってるよな普通に考えて。・・・・・・暗いと読みにくいなそれ。あとで発光機能つけられたらつけとくか。」



 目を凝らしながらホワイトボードの文字を読見ながら答えて、さてそいつらをどうしたものかと顎に手を当てて感が出す。

 別に気にせずバレないように探索すると言う手もあるにはあるのだが、それだと時間もかかるし、気が散って見落としなんかも出てくるだろう。



 「寝静まるまで待つと言う手もありますがそうなりますとまた時間も持て余してしまいますし、体力的にも精神的にも厳しいかと。」


 「そうだよなぁ。いつ起きるかもわからんしリスキーすぎるよな。・・・ん?まてよ閃いた。」



 そういうと響は粉薬のようなものが詰まったガラス瓶を取り出して某国民的アニメの子守用ロボットを真似した声でそれを掲げる。



 「テッテレテッテッテー、『王城から拝借した睡眠薬』ー!」



 それは大量の回復薬、火薬とともに何か使えるんじゃないかと王城から拝借基パチってきたものである。他にも強酸の液体や猛毒などなど、使えそうなものは全てかっさらってきた。勿論全て片栗粉や絵の具を溶かした水を入れておくことも忘れない。



 「オーケー理解しましたわ。それをばら撒くんですのね。」


 「話が早いな。んなわけで頼むわ。俺風系苦手だし。」


 「クズの発想なんてお見通しですわ。はぁ、さっさと貸してくださいまし。」


 「は?戯言抜かしてる暇があったら手ェ動かせや。」


 「ものを頼む立場だったらもっとへりくだるべきじゃありませんこと?ふつうに考えればわかりますわよ?あぁ、成る程あなたの頭に詰まってるのは脳味噌じゃなくてカイメンなんでしたわね。それじゃぁ仕方ありませんわ。」


 「あ?・・・悪い俺頭ん中カイメンだから一回じゃ理解できねぇんだわ。もう一回一言一句トーン秒数に至るまでコンマのズレなく間違うことなく言ってくんねぇかなぁ。脳味噌こしらえてるリコリスさんならできんだろ?」


 「は?」


 「あ?」



 ・・・それから30分程して、ようやくその白い粉末は夜風に乗って境内に充満していった。


 よほど効力が強かったのか、ばらまいてから数分もしないうちに、起きている人の気配は感じ取れなくなった。


 一応の確認のために少し大きな音をだして数分待ってみたが誰かが外に出てくる様子もなく、全員が夢の中で仲良しこよししているとの結論を経て、四人は昼間では入れなかった宮中を重として散策していった。


 小一時間ほどの間続けてはいたのだが、なんの収穫もなく一同最奥の一室に集まっている。



 「なにも見つかりませんでしたね。どこか見落としがあったのでしょうか?」


 『そもそも情報自体がデマなんじゃない?実はここには特に黒いものはありませんとか。』



 ルールーの中では、この神社には何もないと言う可能性もそこそこあるらしい。他3人と違いビヨンに対する信頼度が未だ低いのだ。



 「いや、多分間違い無いぞ。なんかこう、呼ばれてるような気がするんだ。」


 「私もですわ。あの薬を撒いてから、時間的にはちょうど境内の人が全員寝たと思われるあたりからでしょうか?」


 「あぁ、俺もそうだ。多分いるぞこいつは、その荒御魂が。」



 先程からの妙な胸騒ぎというか、まるで引き寄せられるかのような感覚に襲われて、警戒を怠らない二人。その話を聞いて、自分は何も感じないけどと首をかしげるルールーとパイフェンであったが、ちょうどその時に変化はおとずれた。


 それは微かに聞こえだしたわらべ歌。男か女か、幼子年寄り、それがまるで誰かわからないような声でそれは聞こえてきた。



 通りゃんせ 通りゃんせ


 ここはどこの 細通じゃ


 天神さまの 細道じゃ


 ちっと通して 下しゃんせ


 御用のないもの 通しゃせぬ



 この子の七つの お祝いに


 お札を納めに まいります


 行きはよいよい 帰りはこわい


 こわいながらも


 通りゃんせ 通りゃんせ




 「とおりゃんせだと?ならあの荒御魂はやっぱり道真なのか?」



 その聞き覚えのある童譜に、その逸話を含めて荒御魂の候補であった天神(てんじん)の名前をこぼす響。

 もし本当に道真ならば、彼の見立て上は一番まともな部類であり、少し安堵感が出てくる。


 「気味悪いですわねこの歌。どっからきてますの?」


 やはりこの歌は異世界の住人でも背筋に来るようだ。見れば他二人も快くは思っていないようで肩を小さくすくめている。



 「おそらくはこの壁の向こう側からですね。どこかに隠し扉でもあるんでしょうか?」


 『これのこと?』



 パイフェンの言葉に、ルールーが指差すそこには一つのボロい扉があった。それは巧妙にかくされており、見つけられたのはとても運が良かったのだろうし、もしかするとそれは必然だったかもしれない。



 「でかした。開けてさっさと入っちまうぞ!」



 そう言うな否や、響はその戸に手をかけて開け、そそくさと先へといってしまう。ホラゲ実況とかよく見る彼からすると心が躍るような展開だろう。

 慌てて3人もテンションの高い彼の後を追って入って行くが、中はとてもの歴史が立ったのかかなりボロボロで、空気も十全に淀んでいた。風が前から吹き込んでくるので、おそらく外とつながっているのだろう。


 そしてその中を突き進んで行くにつれて、耳を触る歌に変化が現れ、まるであともう少しでつくというようであって。


 通りゃんせ 通りゃんせ


 かごめかごめ


 ここはどこの 細通じゃ


 籠の中の鳥は


 天神さまの 細道じゃ


 いついつ出やる


 ちっと通して 下しゃんせ


 


 御用のないもの 通しゃせぬ


 夜明けの晩に


 この子の七つの お祝いに


 鶴と亀が滑った


 お札を納めに まいります


 後ろの正面だあれ


 行きはよいよい 帰りはこわい


 


 こわいながらも


 


 通りゃんせ 通りゃんせ


 


 通りゃんせ 通りゃんせ


 かごめかごめ


 トントン お寺の 道成寺


 ここはどこの 細通じゃ


 籠の中の鳥は


 釣鐘つりがね下ろいて 身を隠し


 天神さまの 細道じゃ


 いついつ出やる


 安珍清姫 じゃに化けて


 ちっと通して 下しゃんせ


 七重ななよに巻かれて


 御用のないもの 通しゃせぬ



 夜明けの晩に


 ひとまわり ひとまわり


 この子の七つの お祝いに


 鶴と亀が滑った


 トントン お寺の 道成寺


 お札を納めに まいります


 後ろの正面だあれ


 六十二段のきざはし


 行きはよいよい 帰りはこわい


 上がり詰めたら仁王におうさん


 こわいながらも


 左は唐銅からかね


 通りゃんせ 通りゃんせ


 手水鉢ちょうずばち 手水鉢


 その歌は進むにつれて一つ二つと増えていき、歌声も三つ四つと次第に数を増していく。


 「かごめかごめに道明寺の手毬唄。どれもこれも曰く付きの遊び歌ばっかか。いよいよらしくなってきたじゃねぇか。」


 「・・・空気が変わりましたね。重々しいと言うかねっとりと嫌な感じがします。」


 「多分最初のとおりゃんせで呼び込まれたんだろうな。元々人身御供の為の唄だし、異界の門を開ける役割もあるってなんかで読んだことがある。あっちからおよびとは随分と面白いことしてくれんじゃねぇか。」


 そう言って歩くスピードをあげてどんどんと腐敗した木製の通路を奥へ奥へと進んで行く。


 未だわらべ歌終わらず、増して行くばかり。そのせいで一層気味の悪さに拍車がかかっている。

 そうして相応の時間の末たどり着いた奥地。一寸先は闇といわんばかりの靉靆たるその様。だが、一筋、わずかながらも周りより明るさの篭る空間があり、漏れる夜風のさざめきがいたずらに頰を撫でる。


 「ここが最奥ですか・・・。」


 「随分と歩きましたが、この神社ってそこまでの奥行きなかったですわよね?」


 「だーから言ったでしょうが。異界に招かれたって。さしずめ彼岸ないしは此岸とを結ぶ空間に建てられた霊廟の中って感じだったんじゃねぇか?少なくとも命あるものがいる場所じゃぁねえのは確かだな。」


 そう、響が言った通り、ここは彼岸と此岸の境界に建てられた霊廟(みたまや)。一行を呼び込んだものが己がために建てた大結界の中。

 すでにここは彼らのいた金羅井神社ではないのだ。


 そして、これ以上の探索となればもうこの外しかなく、なれば足を止める理由も、踵を返す意味もない。


 「行くぞ、敵対するかどうなるかはまだわからねぇが準備と覚悟は相応にしておけ。消え損ないの亡霊の相手をしに行こうじゃねぇか。」


 響の最終確認に、皆首を縦に振り肯定を表して遺憾無く赴く。

 そうして出されたその右足がひんやりと肌を刺す外気に触れ、ためらうことなくそのままに踏み込んで行った。


 空気は重く、しかし澄んでおり。

 気配は軽くおどろおどろしく。

 溢れる悪意は人を喰わんと蠢いて。


 人を恨み、世を怨んで天命憎たらし。


 さぁ、進め。臆することなく踏み込むがいい。目の前にあるはまさしく世界の敵であるなれば、蛮勇振り絞り、挑まねばならぬ。


 聞るは高貴さを漂わす老夫の声色。


 「・・・月夜の来客よ。如何様であろうと、図が高いぞ。朕を誰と心得る。」


 少年よ、不倶戴天の頂に挑めーーーー

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