第二の空白。
ひと段落した響たちに襲いかかったのは後始末の山だった。
大魔術の一端によって吹き飛ばされた草原、跡形もなく消しとばされた山脈。
さらに八つ当たりによって生まれた地盤の亀裂。流石にそれを無視して帰ることもできず、直しにかからなければいけなかった。
言っておくがこれすべて響がやったのであり、他の3人は微塵も関係ない。なのでぶつくさ言いながら響一人で直していった。
えぐれた大地や山、走った亀裂には土魔法を使って補い、圧力をかけて形を整えた。流石に樹木その他緑はどうしようもなかったので、魔法のスペシャリストのリコリスに作り出してもらった。
話を聞くところによると植物系の魔法はつい最近できるようになったのだという。
おそらく誰かに、というか首都の方にもあの魔法による光は見えていたのだろうが、あの湿地での依頼をやっていたことになっている四人には完璧なアリバイがあった。
無論依頼の方も(アナザーが)きっちりこなしたので疑われることはまずないはずだ。
「そういえばルールーさんの部屋ってまだ作っていませんわよね?どうしますの?」
それから3日ほどして、場所はとあるカフェの一室。4人して昼食を取っていた最中の、とある話題の一つだ。
「あぁ、それか。それなら丁度昨日解決したから気にせんでいいぞ。」
「あら?そうなんですの?」
『うん、かなり悪どいやり口だったけど部屋は作って貰った。』
で、あの一件にて数年ぶりに言葉を出したルールーではあったものの、だからといってすぐに喋れるようになるわけでもなく、端的にいうと以前との代わりはなかった。
そうは言っても意思疎通が身振り手振りだけというのは非常に困るので、響がホワイトボードを作ってあげたのだ。紙だとゴミが大量に出るし、黒板もチョークの粉が出るのでホワイトボードに落ち着いたそうだ。
というわけで今は筆談という形でコミュニケーションを取っている。いずれは言葉のみでやっていきたいところではあるが、急がず、ゆっくりと進めていけばいい。
「悪どいって・・・・・・、また何をやらかしましたの?」
「やらかしたってなんだよやらかしたって。失礼極まりないやつだなオイ。あの爺さんに会いに言ったら『すまん!物資の配送や人員の関係で1カ月は無理だ!!一週間は伸びちまう。』なんて言うもんだから俺も『別にいけど残念だなぁ、ドワイフんとこの店は自分が言った期日すら守れずしかも詫びも何もない最低最悪の店だなんて、そんな噂が流れんのは。まぁ?、それなりの?詫びがあれば?そんな噂流れないかもしんないけどぉ?』って言ったらこれからいつでも無料で改装できる権利ってのを快く承諾してくれてなぁ。」
「あはは・・・。」
その悪魔的所業にリコリスは額に手を当てて空を仰ぎ見、パイフェンは苦笑いをしながら少し引いているようにも見えなくはない。
「いやぁ、爆アド爆アド。もともと一か月で終わるとは更々思っちゃいなかったけどまさかこんな風に事態が好転するとは思わなんだ。これも日頃の行いってやつかねぇ。」
「そう思ってるなそうなんでしょうね?」
「そう思ってるってか実際そうなだけなんだけどな?」
『いや、流石に私もそれはないと思う。』
「!?」
まさかまさか意外なところからの弾丸にまさしく鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてルールーの方を見る。まさか彼女がそんなことを言うだなんて思いもよらなかったのだろう。しかし、ルールーは少々毒舌が入っているのかもしれない。
「ほら、誰が見てもあなたは間違っても行いが良いだなんて言えるような人じゃないんですのよ。」
「うそ・・、だろ?この俺が、この『人類で最も一日一善が似合う響さん』と言われた俺が?」
「ほんとよくそうもまぁやすやすと嘘がつけますわね、あなた。」
呆れたようにジト目を向けるリコリス。彼女の言った通り、響のホラ吹き具合は類を見ないものがある。それは前世が狼少年だと言われても違和感が何一つないほどだ。
「・・・・・・とりあえずだ。そう言うことだから気に食わなかったり飽きたら自分の部屋程度だったら変えて良いぞ。流石に共有スペースは話し合いしてからだけど。」
「まぁ、別に私たちが損するわけじゃありませんし、むしろ良いことずくめなんです問題はないんですが。」
『何だかんだ二人って似た者同士な気がする。』
その文字を見て、二人「何言ってんだ、んなわけねぇだろ」みたいな顔で顔を歪ませる。そういうところが仲がいいと言われるのだと二人は理解しているのだろうか?いや、実は分かっていてやっている超仲良しこよしという線はなきにしもあらずかもしれない。
「全部の負担をドワイフさんが担ってくれてますからね。ちゃんとお礼をしないと。」
ここでも我らが良心はその良心たる所以を遺憾なく発揮していた。
それ故に日々彼女には多大なストレスがかさんでいることだろう。その胃に穴が開かないかとても心配である。体に気をつけてもらわないと、彼女がいなくなったらほんとにこの一行は終わる。ついでに国も大陸も下手すれば星も終わる。とっても責任重大な健康管理だ。
と、そうしてお昼も回ってきた頃、店内に突如珍妙な客が来店した。
そのオ(・)カ(・)マ(・)は真っ直ぐに響たちの元へと向かっていく。
その正体は言わずもがな。帝国に名高き(?)情報屋、ビヨンカカ・ルーナダウナーその人である。
「探したわよあなたたち。何で終わってないときはそっちから来て、終わったら見つからないのよ。あ、マスターコーヒー一つ。」
「あいよ。」
白髪をオールバックにした、いかにもなダンディーなマスターが突如来客した珍妙な客に動ずることなくコーヒーカップを差し出す。ハードボイルドマスターは動じない。これで一つ物語が書けそうではある。面白そうだなぁそれ。
「終わったってことはあれか、見つかったのか?」
「えぇ、そうよ。」
肯定したビヨンに、皆に視線が集まる。その瞳には先程までのふざけた光などなく、真剣そのもの。
もちろん、一緒に行動していく上で隠したてることもなく、むしろ知らなければいけないことなので、ルールーには一通りの身の丈話や妲己のこと、またその他諸々を話してある。最初は驚いていた彼女ではあったが、自分にこんな能力をつけた神様に一発入れたいということでなぜか意気込んでいた。
ちなみに、自分と同じく能力関連で悲惨な目にあったリコリスには親近感が湧くのか一番懐いている。本人も彼女を可愛がっており、たまにゴスロリ服を着せてみたりなど、まぁ割と仲がいい。
「(いやはぇなあ。俺の予想だともう2、3週間かかってもおかしくないとは思っていたんだが、おそるべしビヨンカカ・ルーナダウナー。某オル○の変態不老不死貴族よろしく、オカマってのは有能な奴しかいないのかねぇ。ま、時としちゃぁ男に目が眩んで無能になったりもするがな。)」
と言ってもこの男?に関しては接していても男に飢えている様子なんかひとつもなく、そう言う理由でオカマになったわけでもなさそうだ。某貴族の方もそうだが、彼も十分正体不明である。
「ありがとうございます。わざわざ探してまで頂いて。」
「いいのよそんなこと。私的にも早く伝えたかったしね?というわけで進めるわよ。最初っから話すと長いけどいいかしら?」
「構わないぞ。」
肯定の言葉で返す響。その返答によってことの詳細が語られ出す。
「そう、なら初めっからね。まず、あなたたちの条件通り名前の残っていない人物?について調べてみたわ。するとね、運がいいことに随分と早く見つかったわ。しかもこの首都付近に伝わるものっていうんだから本当についていたわ。」
へー、とはなしに相槌を打っている4人。話を聞くときには、相槌なりなんなりはしておこう。これ重要。それだけで相手からの印象が全然変わる。
「名前が残ってないってよりも、伏せられてるって言った方が正しかったわね。伝えでは名前を呼ぶことさえもが禁忌とされていたわ。それで時が経ってその名前を覚えてる人が居なくなってしまったってところね。もちろん文献にも残ってはいなかったわ。」
「名前を呼んではいけないあの人ってか。そいつヴォルデ○ートなんじゃねぇの?」
なるほど、たしかに名前をしっかりとは出せない。色んな意味で消されることはまず間違い無いだろう。
「そのヴォル何某が誰かは知らないけど、多分違うと思うわ。なにせそれが・・・これは後に話した方がいいわね。とりあえず、その伝承については簡単にわかったのだけれど、問題はその後だったのよ。それの本拠地っていうか封じられているっていうか、そんなところを探してはいたんだけれど、これがなかなか見つからなくてね。」
「不思議な話ですわね。普通話さえわかればそこもわかりそうなものですのに。」
「それが連中、誰もそれを覚えていないらしいのよ。長い歴史の中でうやむやになっちゃたみたい。それで色々な文献や古文書調べてようやく見つけたわ。」
ゴクリと息を飲むような音が聞こえたような気がするほどに、四人とも緊張感を張り詰めている。
「それで、一体そこはどこなんですか?」
「以前、言ったわよね。この近くに観光名所になるくらいの神社があるって。どうやらそこの御神体になっているらしいわ。」
「・・・・・・現人神、いや伏せられた名前や反応から察するに荒御魂ってところか。多分そいつ死んでるだろうし。」
「あら、随分と詳しいのねあなた。」
「まぁ、日本人だし最近陰陽道の作品ってのはメジャーだからな。」
「「「??????」」」
響の話に全くついていけず、3人が揃って首を傾げている。たしかに専門的な言葉が多くて難しかったかもしれない。それを察した響が補足説明に入る。
「現人神ってのは『この世に人の姿で現れた神』または『人ながらにして神になった存在』のことで、今回は後者の意だな。んで、荒御魂っていうのは『神々の荒ぶった側面』で、要は災害をもたらす時の神ってことだな。この神には仏、死んだものの魂含まれてる。対義で和御魂ってのもあるが今回は関係ねぇから省くぞ。」
「『「へー」』」
多分、ちゃんと理解できたのはパイフェンぐらいだろう。他二人はきっとそこまで詳しくはわかってない。
「しかし、祀られた霊魂かつ伏せられているとなると選択肢は限られてくるな・・・。」
「あら、何か当てがあるのかしら?」
「まぁ、候補がいくつかあるって感じだ。とりあえず見に行ってみないとなんとも言えないし、明日明後日のうちに行ってみるとするわ。ありがとな。」
そうお礼を告げた響に、ビヨンが一枚の羊紙を渡す。開くとそこにはその神社までの道のりが描かれていた。
「そう、なら地図を渡しておくわよ。気をつけて行ってらっしゃいね。それと引き続き新しい情報は掴んでおくわ。」
「ほんと助かるぜ。お前に足向けて眠れねぇぐらいだよ。」
そうして彼らがその神社にたどり着いたのは、翌々日のことだった。




