今日も私は。
今日も私は廃墟同然の住処を出て、ギルドへと向かう。
今日こそはクエストを受けないといけないと思いつつも、やっぱり怖くなって、不安になって逃げ出してしまうそんな毎日。
やっぱり今日も、今日こそはと思いつつ、でもどこかで、今日もどうせなんて思いがあって、少しづつ足取りは重くなっていった。
私があの村を出て、私の故郷がなくなってからもうすぐ六年ほど。あれから細々とやては来たけれど、苦渋の思いで切り売りして来た品物はついにそこをついて、もう明日の生活にすら困る始末。
はぁとため息をついて歩んでいく。
♢
私は、私が嫌いだ。周りの人を殺してしまう自分が。それでいて、自分だけはおめおめと生き延びてしまう私が。
なんで私だけ。いっそいっしょに殺されてしまえばどれだけ楽だったろう。死んでしまいたいと思っているのに、自分で自分を殺すことが怖くて、こうやって生き延びている自分が。結局死ぬ勇気なんてない自分が大嫌いだ。
私は、私の能力が嫌いだ。花嫁だなんてまるで嘘な最低で最悪な能力。
お母さんを、お父さんを、まだ小さかった弟のルートを。良くおやつをくれたお隣のサムおじさんも、不器用なお母さんの代わりに編み物を教えてくれた近所のアンナおばさんも、孫のように可愛がってくれた裏のキリコおばぁちゃんも。お調子者のケールも、しっかり者のジェニファーも、臆病なエイムも、喧嘩っ早いけど友達思いなキースも、ずっとずっと一緒だったナナも・・・。
みんなみんな、こんな悪魔みたいな能力のせいで死んでしまったのだ。
みんな何も悪いことはしていない。ただふつうに生きてただけなのに、ただそれだけなのに。
だから、もう誰も巻き込まず、誰も傷つけないように山や森で自給自足しようとも、寄ってきたモンスターによって生態系は崩れ落ち、最悪距離的に離れ、位置的に近い村や集落にも影響が出るため、強いモンスター除けの結界がある都市に行かなければならない。
まるであざ笑うかのように、私の周りからいろんな人を奪っていくこんな能力なんて、憎くて恨めしくて、大嫌いだ。
私は、この世界が、こんな私にした神様が、大嫌いだ。
私が何をしたっていうの?ただふつうに生きてただけなのに。何も特別なことも、何もあなたたちに恨まれるようなことも罰を受けるようなことのした覚えはない!!
わかってる。どうせ意味なんてなことは。きっとただの気まぐれでまぐれで、どうしようもないくらいの偶然だってことも。
それでも、憎まずにはいられない。恨まずには生きられない。あなたたちのせいで、みんな死んだんだ!あなたたちのせいで、私は今こんな思いをしているんだ!!あなたたちのせいであんな目にあって・・・!!
だから、私はこんな世界がこんな能力がこんな私が、滅んで欲しいほどに大嫌いなのだ。
♢
そうして立っているのは、見慣れたギルドの扉の前。見慣れてはいるが、慣れてはいないその白い仕切板に手を添えて、止まる。本音、ここには沢山の人がいるのできたくはないが、でも来ないとお金が稼げないからしょうがない。
意を決して扉を開き、中へと入っていく。今日もギルドの中は賑やかで賑わっている。
けれど、私が入ってくると、少しずつ静かになって生き、なんとも言えないその視線を私に向けてくる。
怖い。苦しくて、痛くて怖いよ。
人の視線が、人そのものが、私は怖くてたまらない。いつか殺してしまうんじゃないかという不安と、何かされるんじゃないかという恐怖がせめぎあってきて、押しつぶされそうになる。
それでも、吐きそうなのを堪えて足を進め、受付の前へと辿り着いた。
でも、まだ終わりじゃない。声の出せなくなった私はどうにかして職員の方から依頼をもらわなくちゃいけない。
昔はなんの問題もなかったのに、つい先日、また私が殺してしまったあの時から依頼を受けることさえもう怖くなってしまって足がすくむのだ。とてもお人好しな人達で、危険だとわかっていても誘ってくれたあのパーティー。これまで組んだパーティーのように下心じゃなく、ほっとけないからなんて優しい理由で声をかけてくれて、でも結局死んでしまった。
それからもう、人に話しかけられることすら無理になってしまって。
「なぁ、この依頼なんか良くねぇか?報酬もいいし割と近場だぜ?」
そんな言葉がして顔を少しあげてみると、カウンターで3人の男女が集まっていた。きっと依頼を選んでいる最中なのだろう。さっきの声は恐らく真ん中の黒髪の少年のものだと思われる。
「あら、本当ですわね。しかもこの程度でしたら何ら問題なくいけそうですわ。」
次に声をあげたのは、確かゴシックロリータ?って言われてたような黒いフリフリの服に身を包んだパッションピンクの髪の女の子。
まるでお人形さんのように人間離れした顔立ちで、それでいて艶やかさに溢れている。人間不審な私でもちょっと見とれてしまうほどだ。
そうして彼女の言葉に反応したのは、もう一人の少女で、こちらも負けず劣らずとても綺麗な人だ。透き通るような銀髪。一般人とは思えないほどのプロポーション。
一体どんなつながりのあるパーティーだと疑問に思ってしまう。
「でもこの依頼、4人じゃないと発注できないみたいですよ?」
「まじかよ、せっかくこんな美味しい依頼があんのにみすみす諦めるだなんてもったいないぜ。どっかに都合よくソロの冒険者はいないのかね?」
そう言ってキョロキョロと周りを見渡す真ん中の少年。
そうしてなんとそんな彼と目が合ってしまう。それだけでも吐き出しそうだが、話の内容的に、次に彼が取る行動が読めてしまう。恐らく、私に声をかけるのだろう。パーティーを組まないかと。
だから私は、踵を返し全速力で逃げ出した。声がかけられるのも怖いが、何よりもし何かの拍子で本当にパーティーを組んだら、彼らを殺してしまう。
けれど。
「甘いな。カバディカバディカバディ・・・」
カバディと連呼しながら左右に動き、手を大きく広げて行く手を阻む黒髪の少年の姿が目の前にあった。
え、な、何してるのこの人。
「うわ・・・、響さん、貴方何してますの。」
「何ってみりゃわかんだろ?カバディだよカバディ。ほれ、お前らも一緒にカバディカバディカバディ・・・。」
「やりませんわよ!?ふつうにしてくださいな!ほら、彼女の引いてますわ!!」
「全く、注文の多いアマだなぁ。しゃーねー、やめてやるか。」
ヒビキと呼ばれたその人はそう言って先程までの奇怪な行動をやめてふつう戻る。
なんだろう、よく言えば個性的。悪く言うなら変人?ピンクの人もイメージとちょっと違うっぽいし。
「失礼。いきなり逃げるもんだからついカバディで対応してしまった。悪かったな驚かせちまって。ちょいと要件があるんだがいいか?あ、俺は霧村響な。」
「全く、どうしてこうもまともにできないんですの貴方は。一緒にいるこっちの身にもなってくださいまし。リコリス・メルセデスですわ。お見知り置きをってところですわね。」
「まぁまぁ、リコリスさんお陰で声かけられたのでよかったじゃないですか。あ、私はフー・パイフェンです。よろしくおねがいしますね。」
そう3人ともに自己紹介をする。何故だろう、どうしてかわからないが、話しかけられても他の人ほど恐怖も吐き気も浮かび上がってこなかった。先ほどの妙なやりとりのおかげだろうか。
丁寧に紹介されたのだから、それを返すのが礼儀なのだろうけれど、言葉を出せない私では、そんな礼すら返せない。
「んでな、さっきの話聞こえてたか?」
こくこくと目線をそらしながら縦に首を振って頷く。
「おう、それなら話が早い。今俺らはパーティーメンバーをちょうど一人探しててな、よかったらはいらねぇか?」
そう聞いてくるヒビキと言う少年。お金が欲しい私としては嬉しい話。だけれども、それを私は肯定することはできない。なぜならそんなことをすればこの3人を殺してしまう。私はソロで動かなきゃいけないのだ。
だから私は、力強く首を横に振って否定の意を示す。
「いや、そんなこと言わずにさ。俺らを助けると思って。」
だが、彼は引こうとはしなかった。むしろ、さらに強く言い寄ってくる。
だから私は、もう一度首を振ったのだが、しかしまさかその顔を彼の両手で挟まれてしまった。 触れられたことにより、吐き気が一気に押し寄せてくるが、どうにか押さえ込めて飲み込む。
すると彼はそのまま私の首を強引に縦に震わせて離すと、満足したように何度か頷き、嬉々としてこう言い放った。
「そうかそうか。引き受けてくれるか。こいつは有難い。それじゃぁ早速カウンターにレッツゴーだ!!」
「・・・・・・っ!!」
してやられた。なんて強引な人なのだろう。こんなの、屁理屈じゃないか。
そう抗議しようにも声が出るはずもなく、私の気持ちとは裏腹に、受付へと連行されてしまうのであった。




