死神の嫁
それから約一週間ほどのこと。
その間にもちょくちょくギルドでビヨンの報告を待っていた響たちだったがその全ての日同じ時間にあの謎の美少女の姿を視界に入れていた。
おそらく彼女はあれかないしあれ以前から、このギルドに毎日足を運んでいたのだろう。
ここまでくると流石の響たちもその存在に対して興味を持ち始め、とりあえずビヨンに聞いてみようと思うものの、来るまでないし来てから、例によってふざけ倒すために、毎度の如くついつい聞くのをわすれてしまうのであった。
というわけで今日もギルドに来て暇を持て余したアホどもの遊びを開催するかに思われたが、どうも今日は随分と早くギルドにビヨンが来ており、今日のババ抜き大会が開催されることはなくなったのである。
「お、早いな。まさか俺らより早く来るとは思わなかったわ。」
ギルド内のテーブルで、紅茶を口にしていた彼にそう言いながら近づいていく。
「今日は朝早くに仕事があってね。早起きは健康にも美容にもいいのだけれど、時間を持て余してしまうわね。次の仕事までまだ4時間以上も空いてるのよ。」
「それまた随分と変則的な日程ですわね。いっそのこと返って二度寝すればいいんないんですの?」
「嫌よ。せっかく早起きしたのにそんなことしたらお肌に悪いわ。」
オカマあるある、そこいらの女子より数段と女子力が高い。
「それに、ただ暇してるだけじゃないわ。ちゃんとお仕事中よ?」
そう言って読みかけの書籍を指差す。その横には文庫やら古書などが複数積まれていた。
「もしかして、私たちの以来のものですか?」
「ええ、そうよ。でもごめんなさいね。もう少し時間がかかりそうだわ。」
申し訳なさそうに、ビヨンがそう口にする。とはいえ、あんな抽象的な以来、時間がかかってあたりまえだし、なにも彼が謝るようなことではない。
謝るならあんな面倒くさい依頼をした響の方であってしかるべきだろう。
「いや、そんな気にしなくてもいいぞ。急いではいるけど最初っからそんな簡単に見つかるだなんて思ってなかったし。」
じゃぁなんでこうも頻繁にギルドでこの情報屋のことを待っていたんだと問いたくなるし、元を辿ればお前のせいだ。
「そう言ってくれると助かるわ。一応、まずは近い方が良さそうかと思ってこの首都周辺から探してはいたんだけれどね。」
「お、まじか。それは助かるわ。」
「それで、今どんな感じなんですの?」
「大まかには掴んだけれど後少しってところで止まってるのよ。情報屋としては不完全な情報なんて渡せないし、ごめんなさいね。」
「いえ、かなり無理なお願いをしたのはこちらですし、寧ろそこまでしていただいてありがたいです。」
頼んでいる側なのに妙に態度がでかい前者二人と違ってパイフェンは礼儀正しくへりくだっている。彼女にはずっとこのメンツの良心として頑張ってもらいたい。
「本当にパイフェンちゃんはいい子ねぇ。なんでそこの二人と一緒にいるのかがとても疑問よ。」
そんなビヨンの言葉に、周りで飲んでいた冒険者の数名が頷く。 やっぱり、周りから見ても彼女の出来た人間性はわかるらしい。
「おい、お前それどういう意味だよ。そこのアマはともかくこの響さんのどこがパイフェンと合わないってんだ。」
「本当ですわ。そこのヤロウは仕方ないとして、どうして私が?」
「あ?」
「は?」
はいはい、なんとなくこうなるには分かっていましたとも。本当に仲がいいことで。
「「仲良くねぇよ!!」ありませんわ!!」
ちょっと待て、なんでお前ら地の文に突っ込んでいるんだ。普通そんなのありえないし禁忌だぞ。常識外れはステータスと頭の中だけにしてくれ。
「そういうところとかを言ってるんだけれどね・・・。」
「あはは・・・でも、響さんもリコリスさんも、私にとってはかけがえのない一番大切な人ですから。きっと、何があっても私はお二人の隣を外れることはないと思いますよ。」
そう笑顔で言うパイフェン。
そんな直球の気持ちを聞いてか、二人とも照れてほおを掻いたり、目を泳がせたりしている。どうもこの二人、直球の好意とかその類に弱いらしい。
「そう・・・、なんだか余計なこと聞いちゃっったわね。何だかんだ貴方たちって、ちゃんと奥底では繋がって大切にしてるみたいだし、無粋だったわ。」
そう、ビヨンも柔らかく暖かい笑みで3人の方を見る。
それに一瞬キョトンとする3人だったが、すぐに元に戻り各々違った反応を見せる。
「ま、そりゃそうだわな。じゃなかったらここまで一緒にいやしないし、こんなやりとりだってしねぇよ。」
と、響がニヤッと笑いながら。
「・・・仲間、ですから当たり前ですわ。」
恥ずかしがるように含みを持ってパイフェンがそう言い。
「フフ、そうですね。」
そんな二人をみてパイフェンが微笑んで肯定する。
「やっぱりいいわね、貴方たち。そういうの好きよ、お姉さんは。」
3人の反応を見て、ビヨンが笑顔でそう口にする。
だが待て、いい話に水を差すようで悪いのだがこれだけは言わせてもらおう。お前のどこがお姉さんだと。それを言うならオネエさんだろうがと。
あたりに優しく暖かな雰囲気が流れ、周りの連中も少し和やかになっているその時、そっと遠慮がちに、ギルドの扉が開いた。
暖かな雰囲気のせいで普段より静かになっており、よって普段ならさして気にしないと言うか、気づかないその変化に大くの人たちが注目を向けた。
さて、その変化を起こしたのはあの謎の美少女であり、ちょうど彼女が来る時間となっていたのである。
となると先程までの空気はどこへやら。例によって彼女の登場とともに、暗く嫌な雰囲気が漂い始めた。
いつもと同じその光景だが、今日違うことがあるとすればそれは、ビヨンがその場にいると言うことであろうか。
「(そういや、まだ来てなかったな。ビヨンがいたからもう来たもんだと思っていたが。しっかし嫌な空気だよ。別にここにいるやつらに悪意も害意もないのはわかっちゃいるんだがなぁ・・・。)」
もうなんどか、この状況を体験している響はとあることに気づいていた。
なにかと言うと、この少女に対する皆の反応についてで、その嫌な雰囲気を作っているのは決して彼女に対する悪意やその類ではなく、どちらかと言うとどう接していいのかわからない戸惑いや困惑といったものであるということ。
しかし、それと言うのはまたタチが悪く、一見してみると皆であの少女を叩いて見えるため、当の少女もそう感じ取ってしまい、しかし実を見ればそんなことは一切ないためその目を向ける冒険者達にも悪気はないために収まらず、よって空気は一層重く陰気なものになる。もういっそ単なる悪意の方が良いのではないのかと思えてしまうのだ。
そして今日もその少女はおろおろとカウンタまで行き、何度も喋りかけようとするも葛藤。ギルドの職員が出て来ると踵を返して帰っていくと言う、そんないつもの一連の動作をしてきえていく。
「(怖がっている・・・のか?)」
何度かその様子を見ていた響だったが、いつもの定位置からだと表情ははっきりと確認できなかった。しかし、今日はビヨンがいた席であり、今まで見えなかったその表情も視認できたのである。
そうして目に映ったのはいい職員に対して恐れを抱いたその顔で、帰るときも怯えるように青ざめた顔色で、帰ると言うよりはきっと逃げるの方が近いだろう。
「なぁ、ビヨン。」
「・・・あの子についてかしら?悪いけど、個人情報だし、かなりデリケートな部分も含むからタダにはできないし、少しお高く付くわよ。」
「かまわねぇ。むしろそうしてくれ。別に金払ったところであいつに対するものでもねぇし本人のしらねぇところで探るのは買わんねぇが、それでも、何も代償がないってのは、違う。」
いつものふざけたような雰囲気ではなく、真剣で強く、さながらあの、かつてのパイフェンの扱いを目の当たりにしたときのような、そんな面持ちで響はビヨンに金貨を渡す。
そのビヨンは、一瞬目を伏せて頷くような仕草をすると目の色を変えて話し出す。
「少し、いえ、違うわね。かなり重い話になるから、心して聞いてちょうだい。あの子はね、特別なのよ。悪い方に。リコリスちゃん、貴方がアレだったのって、二つ持ちだからよね?」
「!そ、そうですわね。」
いきなり話を振られたか、はたまた嫌な思い出に触れられたからか、一瞬いいよどむリコリス。
「でも、能力そのものはなにも言われなかったし、避難されることはないでしょう?」
「そうですけれど・・・。まさか。」
「多分貴女の想像通りよ。彼女も能力持ちでね。それ自体はとても喜ばしいことよ。でも・・・。」
「・・・成る程、そう言うことか。」
「私も何となくですが理解しました。」
二人が順番に、なにかを察したようにそうこぼした。
「察しが良くて助かるわ。最悪だったのよ。その能力自体が。彼女の能力は『花嫁』。名前だけ聞けば可愛らしいのだけれど、中身は凶悪そのものよ。モンスターを呼び寄せちゃうの、なにもしなくても。しかも強いモンスター程強く惹かれるらしいわ。」
「・・・それは!」
能力に何かしらの問題があると踏んでいた3人であったが、その内容の残酷さに、息を飲んでしまう。
もしこれがゲームなんかであれば、何、レベル上げに重宝されるあたり能力だっただろう。だがしかし、現実でそんな能力を持っているだなんて、最悪以外の何者でもない。
「その能力のせいでね、彼女が生まれ育った村はモンスターに滅ぼされたわ。まだ幼い彼女の目の前で、両親が、兄弟が、ご近所さんが親友が殺されて。見るも無残にね。」
それは、何て酷いのだろう。幼子の前でその拠り所であるものが、愛を捧ぐ存在が、何より大切な人たちが殺されて、食われて言ったのだ。自分のせいで。
そんなの、小さな体でどう受け止めたのだろう。どれだけ堪えたと言うのだろう。
「生き残った彼女はね、そのショックから声を無くしたわ。無理もないわよね、まだ10になったばかりのことだそうだもの。でも、まだ終わりじゃないわ。生きてくためにはお金を稼がなくちゃいけないのだけれど、喋れない彼女を大都市のお店は雇ってくれないし、大都市以外はモンスター除けの結界がないからモンスターを呼ぶ彼女は生活ができない。しょうがないから冒険者になった彼女だったけれど、それも悪夢の始まりだったわ。」
「「「・・・」」」
それはそうだろう。都市をでてモンスターと戦い色々なものを探し出す冒険者が、次から次へとモンスターを呼び寄せてしまっては、死にに行くようなものだ。
「最初はね、比較的近場、しかもソロで採取系のクエストをこなしていたんだけれど、あの容姿でしょう?声をかけるパーティーはあったわ。最初の二、三回はどうにかなったらしいのだけど、それでもある時、そのパーティーは彼女を残して全滅したの。理由は言わなくてもわかるでしょう?でもまた声をかけるパーティーがいて全滅して、そんなことが何度か続いたらしいわ。そうしてつけられた名前が『死神の嫁』。」
3人ともずっと黙ってしまっている。想像よりもずっと重くて辛い過去だった。ここまで運命に嫌われた少女がいるのかと、顔が歪む。
「でね、次に彼女を入れたパーティーなんだけど、これがまたクズの集まりでね。彼女をモンスター集めのエサとしか考えていなかったの。郊外で彼女を縛り吊るして集まったモンスターを遠距離から倒したり、その他もっと卑劣なことをしていったわ。幸いなのは、『死神の嫁』なんて名前つけられて恐れ気味悪がられていたお陰で、性的なことされなかったことかしらね。いえ、寧ろ冒険者をやめて体をうって生きていく選択肢がなくった時点で不幸なのかもしれないわ。」
そんなことがあっていいのだろうか?そうやって生きていったほうが幸福と言えるのは、そんなふざけたことがあっていいのだろうか。趣味や趣向でその職につくならともかくとして、なくなくそうなってなおまだ幸福とは、それをよしとしていいはずがないだろう。
「もちろん、そのパーティーも最終的には全滅したわ。これが前いた国でのおはなし。それから彼女はとても運良くここにこれたのが約1カ月前。でね、ソロで細々やってる彼女にまた、声をかけるパーティーがあったの。もちろん彼女の能力もその異名も理解した上でよ?ほんとお人好しな人たちだったわ。」
だった。その言い方で、何が起きたのか察する。恐らくはほかのパーティーと同じ末路を辿ったのだろう。
「その時の彼女は少し嬉しそうだった。人間不振になっていた彼女だったけれど、それでもそのお人好し具合に甘えたかったんでしょうね。でもダメ。結局全滅しちゃって、そうして、彼女は余計に心を閉ざして人間不振にも拍車がかかったわ。」
「でも、そんなんじゃ生活なんてまともにできませんよね?そのお金はどうしていたんですか?」
暗く、パイフェンがそう疑問を投げかける。たしかに、そんな程度の稼ぎでは、到底生活なんてできはしないだろう。
「・・・聞いたところによると、潰れた村の中から、自分の家族や友人お隣近所の家の金目のものを集めて村長宅にあったアイテムボックスに詰めたらしいわ。幼いのに良くそこまで頭が回ったと思うし、そんな状況で今後の生活費まで考えられるなんて普通じゃ無理よ。それで、少しずつそれをお金に変えたりしているらしいの。」
もう、3人は言葉すら出なかった。自分の家族や友人の形見を、大切なその思い出を切り崩して、それでもなお運命に苦しまれて生きている。あの華奢な身体にそんな身の丈に合うはずのない重荷を乗せて生きている。そんなの、そんなのあまりにも・・・。
「何より残酷なのは、どれだけパーティーが前滅しようと、どれだけ周りが死体まみれになろうとかならず彼女だけ生きて帰ってことかし・・・。」
バンッ!!と机を強打する音が上がり、女子二人、ビヨン、そして周りの冒険者が驚きそちらを向く。その主は響で、形容できないほどの形相で、ビヨンのその言葉を遮った。
「・・・・・・ザッけんな!!」
あぁ、かつての自分と、ブロンドの彼女の姿が重なる。
「(自分だけが生き残る苦しみはいてぇほどわかるよ。それがどんだけつれぇか、残酷なことかこの体の芯に嫌ってほどに染み付いてんだ。)」
その感情はきっと怒りだけじゃない。それはきっと、彼女のためだけじゃない。
そんな姿を、自分が見ていられないのだ。それをよしとできないのだ。してしまったら、あの時の何もかもが無駄になってしまう。
きっと、きっと自分を二度と許せなくなる。
だから、だからこれは彼女のために、自分のために、そして彼女のために。
「・・・ほっとけるわけが、ねぇだろうが!!」
そのために彼は、今動くのだ。




