アナザーストーリー・主人公の出来損ない。
とある参道の中10ほどの男女の一行が進んでいた。
それはこちらの世界に呼ばれた2-Bのパーティーの内二つ、秀助たち5人と章太郎達6人だ。
パーティー単位で動けという指令のもと、皆各地にバラバラに散って言ったのだが、目的地が近ければこの二パーティーのように途中まで一緒にすることもある。むしろ基本的に皆そうしているし、安全性を考えるなら得策だろう。
ちなみに二パーティーとも、とある小国まで同じでそこから秀助たちが帝国へ、章太郎達が教国へといく予定となっている。とはいえそれまでに二月程かかりそうではあるが・・・。
もちろん、すでに目的地についているパーティーもいるし、礼を言うなら勇者筆頭の輝パーティーはすでに教国に到着していた。
「なんつうかあれなんだな。お前らって霧村のこと好きなんだな。あ、もちろん人としてっていうか友達としてっていうか、ともかくそんな感じで。」
そう言ったのは章太郎のパーティーのひとりのだ。彼は章太郎の幼馴染である不動連太郎。サッカー部に所属しており、運動神経は良い。頭もいいし人となりも問題ないのだが、完璧イケメンの輝のせいで目立たない存在だ。もっとも本人はそんなことを気にした様子もなく過ごしている。ただ一つ、自転車のスピードは輝すら及ばないほどのもので、5キロ内を車にママチャリで勝ったという、いっそ気持ち悪い記録の持ち主でもある。
「ん?そうか?」
「たしかに言われてみりゃ連太郎の言う通りだな。」
「そうですわね。どの話にも霧村君が出てきますもの。」
健吾の返しに続いて、青木十勝、清水アリスの二人が続ける。
青木十勝。別に名前からして北海道の出身というわけではない。一応陸上部所属だが、本人はあまり真面目なタイプじゃないので、きがむいたときにしか出ない。勉強の方もやる気が出ればかなり良いところまで行けるのだが、サボるせいで伸びない。スペックはいいのに本人の意思が足を引っ張っている。部活や勉強より、友人と遊んだりする方がいいからと投げやりにするタイプだ。ただ、ロのつく某有名ハンバーガーショップの熱狂的信者で、新商品が発売されるその時は友人そっちのけで買いに走るほどの情熱を持っている。それをもっと他のものに使えばいいと、友人家族が思っていることはあまりに普通なことだ。
一方清水アリスは上流階級のお嬢様で、章太郎のパーティーではあるもののよく響たちのやりとりを見て笑っている。曰く見ていて飽きないのだとか。流石お嬢様の考えていることはよくわからない。ついでに言っておくが、アリスという名前だからって別に金髪じゃないし、不思議な世界に行ったこともない。いやまぁ今その不思議な世界にいるんだけれども。
「まぁ、そこの女子二人は別もんだとして、たしかにこのメンバーなのにあいつがいないってのは初めてかもな。」
「あ、それはその・・・。」
健吾の言葉に、なんか気まずい感じになっちゃたというように言い澱むのは日輪瞳。母が有名な料理研究家で、本人もその辺の食事処よりも美味いものを作れるほどの才能の持ち主。特に包丁の扱いは母以上で、その繊細な包丁さばきは料理に詳しくなかろうと圧巻するほど。そのせいもあってか常にカバンの中には愛用の包丁が入っているくらいだ。
いやこえーよ。職質されたら一発アウトでしょあんた。
性格としてはいつも笑顔で明るいのだが、包丁忍ばせてると考えるとその笑顔が何か別なものに見えてくる。学校内の『笑顔で刺してきそうなランキング第2位』の持ち主でもある。
というかそんな局所的なランキング誰が作ったのか問いただしたいし、一位のやつが誰なのかものっそきになるところだ。
「まぁ、別にまだ死んだとは限らんからな。そんなに気にすることはない。」
今度返したのは秀助の方で、他の面々もうんうんと頷いている。側から見ると超ポジティブチームかはたまた現実逃避の極みに見えなくもない。
「でも、絶望的な状況で別れたんだろ?それじゃぁ・・・。」
と、若干暗めの声でそういったのは鷺沼いおり。言ってる途中で随分と気まずいことを言っていることの気がついたようだ。
「そうだよな。なんせドラゴンだろ?せめて俺の運を分けれたりしたらよかったんだが・・・。」
それは随分と効果がありそうだ。章太郎から運を分けてもらった暁には、宝くじで百万円ぐらいだったら当たりそうな気がする。
「あの時は場の状況や感情が先走って冷静な判断ができなかったが、今考えればあいつがあの程度で死ぬだなんてそれこそないだろうな。」
「「「「「「???」」」」」」
秀助の言葉に、章太郎パーティー6人全員が頭の上にクエスチョンマークを浮かべて首をかしげる。はてさて、それは一体全体どういった意味だろうか?
「あー、たしかに考えてみれば響のことだからいつものごとくって感じで生きてそうね。」
恵の同意の言葉に、他のパーティーメンバー4人がうんうんと頷く。どうやらこの認識はメンツ内では共有のものらしい。
「元々あいつはわざとドラゴンにあって、わざと俺たちと別れたんじゃないかとは思っていたんだ。」
「なぜそんなことを?」
「さぁ、それはわからない。けれど、生きてる可能性はある、と別れてすぐそう結論づけた。この話は基本的に他言無用で頼む。あいつが俺たちにすら話を持ち出したがらなかったのは、きっとそれを誰かに知らされるとなにかまずいことになるだろうと考えたからだろう。流石に同じ境遇のクラスメイトを疑ったりすることもないだろうから、あの城っていうかこの世界の人を信用してなかったんじゃないかっと考えてる。」
まるで聞き及んでいたんじゃないかってぐらいに、誠に見事に当たっていた。勘が鋭いなんてモンじゃない、もはや超能力とかその類だよ。
「いやそれって俺らに言っていいことだったのか?」
「別に言いふらしたりだとかはしねーだろ?いんじゃね?つーか俺らもそんな話初めて聞いたぞ。」
「仕方があるまい。なにせ俺の考察の範疇に過ぎない話だったからな。もし、この話が正しかったとすればこの世界の人全員とは行かないまでも、あの城内の人間には気をつけた方がいいかもしれんな。」
「・・・う、うんそうかもしれないね。」
「流石秀助君。そこまで考えてただなんて。」
「必要以上に考えてしまうのは性分だからな。俺の悪い癖だ。」
幽香、ほのかとコメントを続けて最後に某窓際部署の警部殿みたいなことを言って修介が占める。たしかに、秀助には似合うかもしれないな、探偵役。某大学の准教授とかとも、雰囲気が似てるかもしれない。
「まぁ、それはわかったんだが、霧村は一体ナニモンなんだ?随分とお前らから信頼されてるようだし、話聞いてるとただモンじゃないようにしか聞こえないんだよ。」
「そうですね。教室でも面白い人では思ってましたが、もしかして何かあるんですか?」
章太郎、アリスが疑問を投げかける。たしかに、よくよく聞いていると、5人からの信用の暑さは少し以上なものがあるし、その根拠も、なにやらおかしな話にも聞こえる。
「まぁ、あいつは色々と面倒ごとというか厄介な案件に巻き込まれるからなぁ。卯月の件と言い篠山の件と言い。」
「そうね・・・。」
健吾の発言に、遠い目をして相槌を打つ恵。なにを思い出したのか、少しほおを赤らめている。
それは幽香も同じで、二人のクッソわかりやすい気持ちをわかっていても、その妙な感じにまたも6人は疑問符を浮かべた。
「なんだ?なにかっあったのか?」
「まぁ、色々とね。」
そうは返したものの、どうやら深くはかたらないつもりらしい。その返しはどうも何か含みのあるものだった。何か言いにくい案件であったのだろうか?
「あいつは俺たちの知らないところでも色々巻き込まれてたらしいからな。・・・一度、驚くほどに酷い時があったな。」
「あぁ、そういやあったなそんなこと。」
「あったっけ?私の記憶にはないけど・・・。」
「そりゃそうだ。確かありゃ中1だったかそんぐらいの時だったからな。おまえらがあいつと知り合う前の話だよ。」
「そっか私たちがおんなじクラスになったのって中二の時からだもんね。」
と、ほのかが納得したように頷く。響含めたこの6人、実を言うと中二から今に至るまでずっと同じクラスなのだ。さらに、男3人に関しては小1、いや幼稚園の頃からずっと一緒という、いっそ奇跡とよんで差し支えない程。もはや教師側が意図的にそうしてるんじゃないかという、そんな想像さえ浮かんでくるほどの話だ。
「それで?響になにがあったの?」
「鷺沼、お前さっきの話を聞いてなかったのか?俺らだって」あいつの身に起きてること全部わかってるわけじゃないんだぞ?」
「それはわかってるって。だから酷いってどういう状況かって聞いてるんだ。」
「そっちかよ。紛らわしいなぁ。」
「あの時響は一ヶ月程学校を休んだんだが、久しぶりに学校に来たあいつはひどくやつれていて、今にも道路や高台に身を投げ出しそうな、そんな雰囲気を出していたな。」
「あぁ、行きる気力を完全に無くしたって感じだったな。あんな響見んのは先にも後にもあれだけだったな。」
「信じられないですね。あの普段楽しく生きてる霧村君がそんな風になるだなんて。」
「今のあいつからじゃぁ想像もつかないだろうな。でもそれまでの響って今ほど人生を謳歌しようって感じの人間じゃぁなかったからなぁ。」
「そうなのか?あの話すと必ず突っ込まなきゃいけなくなることで有名な霧村が?」
「あぁ、昔はもっと普通だったぞ。」
健吾の回答に、そのときの響を知らない9人がヘェ〜と言った感じで驚いている。当たり前だ、今の五分に一回はリコリスと漫才混じりの言い争いをしている響からは想像もつかない。
「それが、とある日を境に急に生気が戻って今のあいつみたいになったのだ。前日までその異様に負の雰囲気を漂わせていたのにだ?」
「とある日?」
「あぁ、と言っても正確な日付までは覚えていないがな。」
その言葉に健吾もうんうんと頷いている。聴くと、それは響が学校に戻って来てから一ヶ月程経った頃だそうな。一体、その日ないし前日の夜になにがあったというのだろうか?
「それからもあいつはちょくちょくへんな事件に巻き込まれて言ったよな。ついでに俺らも。」
「そうだな。と言っても、迷子の妹を探してる女子高校生に出くわしたり、おばちゃんの形見探している男の子の手伝いをしたりと、そこまで突飛押しのないことでもないがな。」
とはいえ、そんなことにちょくちょくの頻度で出会っている響はやっぱり少し以上だ。いや、今まさにこの物語の主人公ではあるのだが、しかしそのときからまるで物語の主人公であったかのようで、それは秀助も感じていたらしく。
「一度、俺はあいつに言ったことがある。『まるでなにかの主人公みたいだな。』と。」
「そうだな。聞いてる限りだと主人公ってのは間違ってないかもな。」
「章太郎もそう思うか?実は俺もずっとそう思っていたんだ。」
「たしかにそーだよな。これじゃぁ二ノ宮より勇者やってそうだぜ。」
あれが勇者だとはとんでもない。最悪滅ぶぞ、この世界が。
「そういや昔そんなこと聞いてたな。んで、確か返しは『俺に主人公の資格はない。』だったけか?」
「 割と違うな。正しくは『俺に主人公の素質はあっても、器がないんだよ。器だけじゃなく、主人公としての補正もねぇ。どうあがいたって俺は主人公にはなれやしねぇんだ。結局良くて俺はなりそこないだよ。』、だ。」
「それってどういう意味?ていうかそれを一言一句覚えてるのね。」
瞳の問いに、秀助はわからないと首横に振り返す。
だが、なにかを思い出したかのようにでも、と続けーー
「そういえばあいつがサブカル好きになったのはあの頃だったな。無論その前からもちょくちょく見たりよんだりはしていたが・・・。もしかしたら、その主人公に憧憬を持っていたのかもしれないな・・・。」
どうも、話が随分と重くなってしまったらしく、皆そのあとは無言になってしまった。各々、思うところはあるのだろう。それを懐かしく思うもの、なにがあったのか考察しようとするもの、少し彼への見方を考え直すもの様々だが、誰ももう話をすることはなく、無言の中、重たい空気が澄んでいる。
しかし、そんな空気は関係ないと言わんばかりに道は長く続いていた。




