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注文の多いお客さん

 

 また二日間の道のりを乗り心地の悪い馬車に揺られながら帰路に着いた。途中から時折響が「ドナドナドーナードーナー」と口ずさんだりして、よくわからないけれど不吉な感じがするからやめろとリコリスに何度も言われていた。

響曰く、何か長時間運んだり運ばれたりするとつい歌いたくなるのだそうだ。きっと彼と一緒に長距離移動するものは、売られゆく子牛の気持ちが味わえるだろう。ごめんこうむりたいが。


 まあ無事に二日間が過ぎ、いつも泊まっている宿屋へと夜遅くにたどり着いた一行は、相当な時間馬車に乗っていた疲労からか、そのまますぐに寝てしまいつぎの丸一日も休息に当てて寝惚けていた。


 というわけで、本格的に動き出したのは帰ってきたその翌々日。それも太陽が空高く登りきった頃で、遅めの朝食というかもはや昼食を済ませて、紹介に預かった大工に会うために、記された住所へと向かっていた。



 「人の金で家を建てるだなんて、考えても見れば私達、相当クズな真似してますのね。」


 「クッソ今更だなそれ。べつに何もやましいことはしてないんだし、好意はしっかりと受け取っておこうぜ。」


 「最初にそのやましいことをしようとしていたくせによくいいますわね。いつものことですけれど。」



 もうこの男の棚上げ話には慣れたもので、はいはいと戯言を聞き流すリコリス。

勿論パイフェンはその様子をにこやかに見守っているだけである。



 「で、あとどれくらいなんですの?」


 「もうちょいじゃね?勘と憶測だけで来てっからようわからん。」


 「!?嘘ですわよね!?」


 「嘘だぞ。」


 「なんでそんないらない嘘つくんですの!?」


 「面白いから。」


 「貴方本当にいい性格してますわねぇ!?」


 あぁ、響の棚上げ話もそうだが、いい加減に話す癖と何かにつけてボケる癖はもう少し抑えてほしい。話が進まないのはもちろんのことなれど、リコリスのストレスがマッハで溜まって行くのだ。きっとそんなことを言っても満面の笑みで「ヤ☆ダ。」と言ってくるだろうが。うん、想像しただけでも憎たらしい。



 「つうかお前住所くらい覚えとけよ。覚えてりゃ今どこらへんとかわかんだろうが。」


 「道案内するの貴方ですわよね?私が覚えている必要ないじゃありませんの。」


 「そういう問題じゃねぇよ。パイフェンは覚えてるよな?」


 「一応は。」


 「!?」



 うっそだろお前、裏切られた!!みたいな顔の上に、謎のマークを浮かべるリコリス。

その様子がよほどおかしかったのか、響は声を上げて爆笑し、パイフェンをクスッと小さく笑っていた。



 「なんなんですの、二人して笑い者にして。」



 バカにされたのが余程悔しかったのかヘソを曲げむすっとしたままそっぽを向いてしまう。



 「おいおい、こんなことで拗ねんなよちっちぇなぁ。ほれ、飴ちゃんやるから機嫌直しや。」


 「絶対バカにしてますわよねぇ!?」



 なぜかポケットに入っていた飴玉をニヤニヤと憎たらしい笑顔で渡そうとしてくる響。あの顔はきっと何か企んでいるに違いない。

 余談だが大阪のおばちゃんはパンチを当てた髪の中から飴玉を出してくるらしいぞ。


 「お前、人のせっかくの好意を無下にしやがって・・・・。うまいんだぞ、くさやキムチ黒糖プリン味。」


 「どこが美味しそうですの!?っていうかなんなんですわその正気の沙汰とは到底思えないゲテモノは!?」



 そんなものを飴にするなという話だし、そもそもなんなんだその商品自体。くさやキムチ黒糖プリンって聞いただけでもまずいのはわかるのに、どうなっているのかがわからない。単に全部乗っかっているだけなのか、それとも黒糖プリンの生地にキムチとくさやが刷り込まれているのか、ただ言えることは想像しただけでも顔をしかめたくなるということだけだ。



 「おまっ、なんてこというんだ!そんなの作ったひとに失礼だろ!?頑張って考え出して作ったんだぞ!?」



 「まぁ、たしかにそうですけれども・・・。」


 「謝れ!」

  響の異様なまでの剣幕に飲まれたリコリスは、まぁべつにこのふざけた男に謝るわけでもないし、このままだと面倒なことこの上ないので、渋々謝罪の言葉を述べようとーーーー



 「・・・わかりましたわよ。誤れば・・・」


 「俺に謝れ!!」


 「製作者貴方ですの!?あぁ、考えても見ればそんなもの作るおかしな思考回路している人間なんて、貴方ぐらいしかいませんものねぇ!?」



  あぁ、これは納得だ。響が作ったというのならば異質で怪異で奇々怪界な摩訶不思議なブツが出来上がってもおかしくない。


 「なんだ?お前この俺の素敵センスをバカにしよるんか?お?」


 「たしかにある意味素敵センスでわありますわね。」


 「そんな服着てるお前には言われたくないわ〜」


 「こっぱずかしいノート持ち歩いている貴方にも言われたくありませんわ。」


 「あ?」


 「は?」



 もうダメだこいつら。あと何回このやり取り見なきゃいけないのだろうか?そろそろコメントすることもなくなってきたぞ。

 


 「あ、あのお二人とも・・・一応目的地に到着したのですが・・・。」


 「「あ゛?あぁ。」」



  そういうところの息だけはぴったりな二人は、やはりなんだかんだ

                 ♢


 ともあれ、目的地に着いたとあっては、時間と体力の無駄にしかならない痴話喧嘩を止めるしかなく、ようやく静かになって目的の建物の中に入っていった。



 「たのもー。」


 「いや、それ完全に違いますわよね。」



 リコリスの言う通り、どちらかといえば道場破りだとか、遠征試合だとかその類のものだろう。某マサ○人もよく使っていた。で、一回目負けるのはよくあることだったと記憶している。・



 「大工に道場破りとは、おかしなこともあるもんだなぁ。」


 そう大きな声がして、店の奥からガテン系の爺さんが出てきた。色黒く筋肉質で髭を生やし、その顔にはいくつもの皺が刻まれている。そして頭は寂しい。まさしく不毛地帯。


 「なんだ?このハゲ散らかしたおっさんは?斎○さんの親戚か何かか?」


 「誰がハゲ散らかしたジジイだコラァ!!お前初対面の相手に対して失礼極まりないぞ!!」


 「悪い悪い。散らかってすらいなかったな。斎○さんってより○峠のほうがあってっか。」


 「テメェ悪気なんざ一つも感じてねぇだろうがおい!!じゃなかったらそんなことは岩ねぇよ!!」


 「あ?バレちった?」


 「せめて少しは否定しろやおいよぉ!!」



 今日も響は平常運転。初対面だろうがなんであろうが、取り敢えず煽ってからかっていく所存。そこに痺れぬ憧れぬ。良い子のみんなは絶対にこんな奴にはなっちゃ行けないぞ。できることなら悪い子もせめてこんなのにはならないでほしい。



 「あぁもう。話が進まないからやめてくださいまし!!さっさと本題に入りますわよ!」


 「しゃーねぇなぁ。弄りがいのあるオッサンだったのに。」


 「オメェまじでいい加減にしろやゴラァァ!!」



 あぁ、これはきっと響による被害者がまた一人増えるのだろう。互いに名前の知らない状況下からこれとは、その才能に恐怖せざるおえない。



 「客に向かって随分な態度じゃないか。この店は一体どうなってるんだ?」


 「テメェは人としてどうなってんだよ・・・。つーか客だぁ?ガキどもが何のようだよ。」


 「大工にようなんだから家建てるに決まってんだろうが。ほれ、紹介状。」


 そう言ってから預かったそれを差し出す。

 手紙を受け取った爺さんは封を開けてさっと流し読みし、しかめっ面をしながら顔を上げた。


 「・・・はぁ、お前らコーンの旦那とどう言った関係だよ。」


 「どうって恩人?つか客前でため息とかいいご身分だなおい。」



 まぁ、事実としてはそうなのだが、こいつがやろうとしていたことを考えると、そう呼ぶのははばかれる気分だ。やったことはプラスなのに、考えがマイナなせいで、どうにもこうにもたちが悪い。いっそ全部マイナスな方がすがすがしくて楽なのに。

 ちなみに後半の部分は華麗にスルーされた。付き合っていられなかったらしい。そのせいで、響の顔が某顔文字のごとくなっていたのだが、そんなことは気にしない。



 「クッソ。何でこんな失礼極まりないガキどものために建てなきゃならんのだ。」


 そう悪態をついて、さらにその顔をしかめる爺さん。だが、それでも仕事人。仕事は仕事だとしっかり割り切って話を進めた。



 「で、希望の物件はどうする?うちは不動産業もかねてやってるから融通はかなりきくぞ。」


 「場所は首都内だったらそこまで気にしねぇかな。それよりも広さと中身だな。せめてそこそこの庭が欲しい。」



 商談となってはまじめに話さねばならないと、巫山戯るのをやめて希望を述べる響。しかし、いつか帰る予定だと言うのにそこまで立派な家にする必要はあるのだろうか?



 「それと露天風呂、。風呂は必ず露天をつけてくれ。」


 「露天ということは庭につけるのですか?でもなぜ?」


 「そりゃ俺が普通の湯船だとすぐのぼせるからだ。お前らもなんか希望あるか?家全体もそうだし自室の方も。」



 もっと風情のある理由かと思ったら、随分と恰好のわるい理由だった。いちなみにこの男自宅の浴槽に10分つかるだけでのぼせる。扉ないし窓を開ければ大丈夫らしいが、きっとこの男にサウナは一生無理だろう。

 要望を聞かれた直後、リコリスが正樹に声を上げる。

 実は彼女、家を買うと聞いたその時から、どんな家にするか考えていて、馬車の中や寝る前なんかに、アイディアを書き溜めるだなんてかわいい真似をするくらいに、たのしみにしていたのだ。



 「そうですわね。部屋にあの子達を飾るものが欲しいですわね。それと・・・。」


 「ゴシック調だろわーてるって。でも自室だけにしろよ?つーか家具とかはやめろよ?まぁベットとかならまだしも。あとシャンデリア系の照明器具やら壁紙みたいな感じな。」


 「それでしたら・・・。」



 そう言って書き溜めていた髪を取り出し、新しい髪に自分の注文を書き直すリコリス。たしかに口頭で説明するよりも早いし性格なので、その方がいいだろう。



 「ほれ、パイフェンも。全然遠慮しなくていいからな。」


 「はい、それでは・・・。」



 そう言って彼女も響から渡された紙に希望を書いていく。彼女の性格敵意あまり希望を出さない風に思われたが、最初にああいわれてしまっては遠慮もしずらいようで色々と書いていく、それでもほかの二人よりも少なくてかつ小さいものだが。



 「そんだけデケェとなるとかなり時間がかかるぞ。・・・いや待て。確か一個丁度よさげな物件があったな。そこをリフォームって形なら一ヶ月ぐらいでどうにかなるがどうする?」


 「おう、全然それでいいぞ。早いならそれに越したことはねぇからな。んじゃ、これ希望表だからよろしく頼むわ。」



  そう言って自分のも含めた三枚の紙をオッサンに渡す。

 ちなみに響はすでにこの世界の文字をかけるようになっている。言葉の発音はほとんど元の世界と変わらなかったのだが、どうやら書く文字はそうもいかなく、元の世界とかけ離れていた。だが、音は同じなので覚えるのにそこまでの苦はなく、しかもアナザー先生にご教授すれば良いのですんなりと覚えられた。


 「はいはい、それじゃぁこいつでって・・・おい!!待て待て待て!お前らどんだけ注文が多いんだよ!?こんなん一ヶ月じゃ無理だぞ!!しかも畳なんざ日出国から取り寄せなきゃならねんだぞ!?」


 紙をチラッと見て、その要求の量に驚愕。しかも割とめんどくさいものばかりで爺さんが声を荒げるのも必然だろう。


 「おいおい、一ヶ月でできるって言ったのはあんただぞ?それを後から内容見て無理だっていうのはなぁ?」


 「そうですわねぇ。結局、ここの店はその程度、というわけですわねぇ。がっかりですわ。」


 こんな時だけ異様に息のあったふたりが、学会したよとでも言うように顔を合わせて棟梁の爺さん非難する。

 とんでもなく安い挑発ではあるが、爺さんの職人魂というかプライドに引っかかったらしく、投げやりにかつキレ気味に声を荒げた。



 「上等じゃねぇか!!このダニアン・ドワイフをなめてもらっちゃ困るぜ馬鹿野郎!!いいさ、一ヶ月で済ませてやラァ!!」


 「よっしゃ交渉成立だな。あとでやっぱ無理って言っても聞かねぇかんな!無駄だかんな!つーわけで頑張ってくれや爺さん。」


  そういって止まっている宿屋や自分たちの名前が書いてある紙を渡す。


 きっとこれからこの店は空前の修羅場を迎えるだろうが、下の人たちは是非を乗せた響とリコリスを恨んで欲しい。

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