コーン家にて
さて、時は戻って4日後、とある貴族、コーン家の門前へと移り変わる。
とりあえず、呼び鈴は押したので使いのものが来るまで待機といったところか。
問題としては、アポも何もなくきたので、運悪く当主が不在だったり、話を聞くまでもなくそれこそ文字通り門前払いを食らうといったところだろう。
前者はもうどうしようもないが、後者であればまだどうにかなる。まぁ流石に要件も聞かず追っ払うなんて真似はしないと思うので、そこはことば巧みに納得させることでどうにか出来なくはない。ちなみに響は最悪武力を持って要件を聞かせるつもりらしい。もう完全無欠に強盗のやり口だし、いやそもそもよくよく考えたらモノを使って金を巻き上げにきたのだからあながち強盗でも間違っていないのかもしれない。
「おっせぇなぁ。何してんだよ全く。職務怠慢も甚だしいぜ。」
「いや、まだ呼び鈴鳴らしてから1分くらいしか経っていないんですが。少なくとも屋敷を出てからここに来るまでにもっとかかりますわよね?この館広いんですし。」
いつものように悪態から入る響を、常識的にたしなめるリコリス。
一方の勇逸の常識人たるパイフェンはなぜか妙に緊張した様子だった。
「?どうしたパイフェン。なんか緊張したような感じだけどさ。」
「はい、ちょと。やはり貴族の屋敷というのは緊張するといいますか。こう広くて高級感のあるところとは無縁でしたので・・・。」
「へぇ〜。そういうもんかねぇ。」
普通はそういうもんだぞ、普通は。確かにパイフェンはボロ屋に住んではいたが、そもそも市民が貴族の屋敷なんかに入るなんてことは滅多にないし、故に普通の人ならば緊張して当たり前なのだ。
というか、元の世界にだって、家賃やらがお高いマンションと呼んでいいのかすら怪しい高級マンションやら、金持ちの別荘やらVIPの家やらそういうところはいっぱいあるだろう。流石に入ったことはないにしてもその感性くらいはわかるだろうに。
「一応俺もちょいととある金持ちの友人の家に行ったことはあるけど、ぶっちゃけそんなび変わりはしなかったぞ。妙に黒かったり大理石だったり広かったりはしたけど。」
いや、あんのかい。詐欺師といい占い師といいこいつの交友範囲は一体どうなっているのだろうか?そのうち超能力者やら、毎日殺人事件に巻き込まれる探偵なんかが出てきてもおかしくないような気がする。いやまぁ出てきてもらっても困るのだが。
「へー。」
そしてここにもう一人、緊張感とは無縁の人物がいた。この娘も響とは違った意味で常識が欠けているのでなんのこっちゃという顔をしていても納得はできる。とはいえ、それくらい察したり想像できんのかという話ではあるが。
「ん、とと。どうやら無事出てきてくれたみたいだぜ。」
響からすればようやくの対応者が門を開けて出てきた。20代前半といったところのメイドさんである。
それからというもの、対応にきたメイドさんに事の経緯を話し、一旦確認と報告のために戻ったメイドさんをもう一度待つことになり、確認が取れ屋敷の中に通されて、当主との面会のためにさらに待たされること十数分。何だかんだで三十分以上の時間が過ぎていた。
ただ、待ち時間が長いだとか、もっと早くしろだとか、響が文句垂れると思っていたのだが、元々ある程度は時間がかかると覚悟していたようで、そういった類の言葉は出ず、大人しく待っていた。じゃぁさっきはなんで待てなかったんだよと声を大にして言いたいものだ。
そうして時間は過ぎてゆき、ようやく準備が整ったということで響たち3人は応接間の一つへと案内された。
そこに入ると既に二つに席が埋まっており、片方には少し太めの、しかし人当たりの良さそうな40代ほどの男性と、今度は対照的に痩せ型で、いかにも仕事が出来そうな20代後半から30代前半といったところの男がその横に腰をかけていた。
上手に座っているのが太めの男性なので、おそらくこちらの方が当主ないしはその代行と言ったところだろうか。
とりあえず、響たちも大ソファーに置くから響、リコリス、パイフェンの順番で座る。
「お初にお目にかかります。私は現コーン家の当主ビトン・コーン。こちらが秘書を務めているイスカス・スタラインです。」
「よろしくおねがいします。」
そういって礼儀正しく頭を下げる二人。
こうも懇切丁寧に迎えると、さしもの響も普段通りに行くというわけにも行かず、ある程度改まって返すことにした。
「これは丁寧にどうも。一応冒険者をしている霧村響と言います。で、こちらがパーティーメンバーのリコリス・メルセデスとフー・パイフェンです。」
べつに冒険者でもなんでもないのだが、そういった方が話が早いので適当にそういっておく。
いやしかし、この男が敬語というのはどうももむず痒い。いや、人を煽るのにあえて敬語を使うことはあるのだが、こう真剣な表情でというのはなれない。
「で、早速本題に入らせていただきたいのですが、こちらのネックレスは当家のもので間違いありませんか?」
そう違和感しかない敬語で話を進めながら、今回は丁重に包まれた件のネックレスを取り出してみせる響。
それを受け、おっさん二人はネックレスを鑑定。それが本物だとわかるとホッとしたようにため息をついて、礼を述べてきた。
「いやはや、本当にありがとうございます。これは代々コーン家で婚約者に渡す特別な品物でして、私も亡き妻に送ったものなのですよ。」
そう言葉にしたのは当主のビトンの方。どうやら、随分と特別な代物らしい。
「亡き、とは・・・病気かなにかですか?」
響のその問いに答えたのはイスカスの方だった。
「はい、奥方様は元々体の弱いお方ではあったのですが、先々年の春過ぎに大病を患いお亡くなりになられまして・・・。」
「成る程、となるとなぜそのように大切なものが山賊たちの手なんかに?」
確かに、それは随分と妙な話ではあった。山賊に襲われた云々であるならば、既にこのおっさんたちもこの世にはいないだろうし、じゃなければ山賊、しかも王国の山賊が帝国の貴族の持ち物を保管してあったというのは摩訶不思議である。
「はい、それが半年ほど前この屋敷に盗賊の類が入り込んできまして・・・」
「それでその時に盗み出されたと。」
「えぇ、お恥ずかしながら。こんな首都から離れた辺鄙なところにある屋敷なんかに入って来るものは今まで誰一人としていなかったので警備なども対して雇っておらず・・・」
「成る程。おそらくそのあとそのネックレスを買い取った行商があの山賊に襲われてと言ったところですかね。」
「おそらくは。ですので足取りもつかめず大変困惑していたところでして。ネックレス自体の価値はもとより私にとってこれは妻の忘れ形見でもありますのでほかのどんな装飾品よりも価値が高いのです。ですので皆様方には感謝しても仕切れません。ぜひ我々の力及ぶ限りお礼をさせてください。」
「私たち使用人たちからもお礼申し上げます。」
そう言って再度二人揃ってこうべを垂れる。きっとビトンはその奥さんのことを何よりも愛していたのだろうし、きっとコーン夫人は屋敷の皆から慕われていたのだろう。二人の目から落ちる雫からもよくわかる。
さて、強盗紛いというかそのものというかそう言った類のことで金をふんだくろうと企んでいた響であったが、こうも泣きながらに感謝され、かつ先方から礼をと言われてしまっては毒気も抜かれてしまうもの。わざわざ変な怨恨を残す意味もないのでその行為に甘える?ことにした。
「(運が良かったというか、あれだな。いいことはするもんだな。これで資金の方も問題なく頂戴できるだろう。・・・いや、待てよ。これ別に金としてもらう意味ないんじゃね?普通に家建ててくれって言った方がよくね?大工やら不動産屋やら探さなくて済むし貴族ならコネぐらいあるだろうし、それでええやん。)」
なんで最後関西弁になたのかは謎だが、確かにそっちの方が合理的だ。それに金くれと頼むよりもまだ図々しさがない。
「それなら、ちょうど今、リイドの方に家を建てたいなと思っていまして。とはいえそれを行える財力もツテも無くて・・・。」
「なんだ、そんなことでしたらお任せください。知り合いに腕のいい大工がおりますし、それぐらいのお金なら全然出させていただきます。流石に時間はそれなりにかかってしまいますが、出来うる限り希望に沿ったお家をご用意させていただきます。」
あぁ、なんていい人なのだろうか。元々強盗目的で来たような人間にここまで親切にしてくれるとは。その人の良さからいつか騙されそうで心配になる。
「(いやぁ、まじで運がいいなおい。うん、あれだな。これも俺の日頃の行いがいいからだろうな。)」
なにを言っているんだこの男は。日頃の行いなんて比類ないほどにハッチャケているだろうが。本気でそう言っているのであれば、一度病院に行った方がいいだろう。
「それでは、その大工の住所と、私からの招待状を書いておきます。代金は全て私たちで払うので気にせずに思い通りの家を建ててください。」
そう言って、ビトンは席を立ち、その文書を書くために部屋を後にした。流石の響も、ここまでしてもらって一言もないのはいけないと思ったのか、残ったイスカスに礼を述べる。
「ありがとうございます。なんだか色々としていただいて。」
「いえ、それはこちらのセリフです。奥方様のネックレス。届けていただき、今一度お礼を申し上げます。我々一同心より感謝申し上げます。きっとこの恩は忘れはしません。」
三度深々と頭を下げる秘書の男。流石にここまでされると、あの響であってもちょっとすまなく思うようで。
「いや、ほんともういいですから。こちらとしても家を建てる資金絵を出していただいて、その上大工まで紹介してくださった時点で、もう十二分ですので。」
「ではせめて今晩はお泊りになって言ってください。誠心誠意おもてなしさせていただく所存です。」
「お気持ちは嬉しいですけれど、馬車を待たせておりますので、そのはなしはぜひまた今度。」
「そうですか。」
ぶっちゃけ響は思った。感謝が重いと。俺らお前らの中でどんだけ英雄扱いされとんねんと。
となると、ここまで皆に慕われている今は亡きコーン夫人が一体どのような人間だったのか、少し気になる響なのであった。
〜帰りの馬車内〜
「そういやお前らずっと静かだったけどどうしたんだ?」
「すいません、やはり緊張からか落ち着かなくて・・・。」
「あー、そういやそんなこと言ってたな。じゃぁリコリスは?」
「え、めんどくさそうなので全部響さんに押し付けてしまおうと思いましたの。悪気しかありませんわ。」
「よし、上等だ表出ろ。」




