ビヨンカカ・ルーナダウナー
とある貴族の屋敷の前。門前すぐ近くに、響たちの姿はあった。
「やっと着きましたわね。馬車で2日は流石に遠すぎませんこと?」
「あぁ、全くだよクソッタレ。身体中が痛くてたまったもんじゃねぇ。乗り心地最悪ってもんじゃねぇぞこれ。これならもっと高いやつにすりゃぁよかったよ!」
そう悪態をつきながら各々肩や腰などに手を伸ばしさすったり伸ばしたりしている。
先程リコリスが言った通り、ここは首都リイドから馬車で2日ほど離れた辺境の地で、一行の目的の場所である。
「馬車なんてこんなもんだぞお客さん。街中走らすならまだしも、外走らすならそりゃそうなるわ。」
と、馬車の御者が二人に呼びかける。こいつら、御者がいたのにあんな文句たれていたのか。図太いというかなんというか、その神経を疑うばかりだ。
「あーたしかに街中じゃ舗装整備されてっからな。でも馬車っつたらもっとこう優雅で快適な感じだって先入観があったからなぁ。こっちとしちゃあ牛車に乗ってるような気分だったわ。」
「牛車がなんかはわからねぇが、さっきから面白いこと言うなあんたたち。まるで今まで一度も馬車に乗ったことがなかったみたいじゃねぇか。」
なるほど、たしかに鋭い指摘だ。元の世界では馬車なんて今時使うこともないので響、というかこっちにきたクラスメイト全員乗ったことなんてないだろうし、ずっと家の中に隔離されてたリコリスは言わずもがな。パイフェンもあの村の付近から移動したことはないので無論だ。
「まぁな。どうも俺らの行動範囲ってのは歩いて行ける範囲だったらしくて、今思うと何だかんだこれが初めてなんだわ。」
「へぇ、珍しいこともあるもんだな。」
一応、嘘は言ってない。ただちょっとばかし歩く範囲が広くはあるが。
「で、夕方またここにくりゃあいいんだな?」
「はい、すいません無理を言ってしまって。」
「いいってことよ。その分弾んでもらってるからな。よかったら今後とも贔屓にしてくれや。サービスするぜ?」
「それじゃぁこれからもなんかあったら頼むとするよ。それじゃ、ありがとなおっさん。帰りもよろしく頼むぜ。」
「おうよ。」
そう言って、3人が乗ってきた馬車は、一旦その場を離れたのだった。
「ほんじゃま、一仕事するとしますか。」
そう言って、門の呼び鈴を鳴らす。
さて、それではそろそろ何で3人はこんなところにいるのかの説明することにしよう。
♢
時は遡り4日前。響達が初めて帝国ギルドに入り、その中でクッソくだらない争いを起こした後、あのオカマが登場したところから始まる。
「あら?何かしら。私の顔に何かついてる?」
現れたオカマな彼?はその長いブロンドの髪をたなびかせながらいかぶかしむようにほけている3人に聞いてきた。
「いえ、すいません。なんというかその初めてあなたのような・・、。」
「え?何なんですのこの変態。」
ちょ、おま。なんてことを言うんだこの地雷厨二メンヘラ女は。失礼通り越して殺されても文句言えないぞほんとに。
こいつにはそういう大事なところが完全に抜けてやがる。せめてもうちょっとオブラートに包め。なんでパイフェンがどうにか包もうとしてたものをわざわざ剥ぎ取ってくしゃくしゃに潰して投げつけるんだよお前は。
「お嬢ちゃん?あまり調子に乗りすぎてるとそのうち痛い目見るわよ?なんなら今すぐにでも見せて上げましょうか?」
その殺気たるや先程の二人にも勝るとも劣らないものであり、なんとあのリコリスが怯えている。だがしかし、このアホ娘は負けず嫌いであるからして、となればビビッていようとも言い返そうとするのもなんら不自然なことではなく。
「い、言いますわね!あなたm・・・ッグ!!」
またもや目の前の男?に罵詈雑言をあびせようとしたリコリスの口を、お前これ以上変なこと言うんじゃんねぇと言うように、響の手が覆っていた。
「いや、悪いな。こいつ世間知らずの箱入り娘だからあんたみたいなタイプの人間ってのを知らないんだ。俺からもよく言っとくからここは抑えてくれ。」
なんと、あの響がリコリスを煽ることもなく、ふつうに抑えてしかも彼女のために頭を下げているではないか。きっと何か打算的な企みがあるのだろうが、それでも穏便に話が進むのであればそれに越したことはない。
「・・・ま、そう言うことなら不問にしておいて上げましょ。」
「おぉ、そうしてくれると俺らも助かる。(いや、いいぞこのままうまく話を繋げていけば最高だ。このアホ娘が変なこといいだしたときは冷や汗かいたが、なんとかなったな。物語の中のオカマキャラってのは大概めっちゃ強いと相場が決まっている。こいつがそれに当てはまるとは限らないけれど、縁を作っておいて損はないからな。後ふつうに面白そうだし。)」
どうやらやっぱり打算ましましな響の謝罪によって彼?の気が収ったらしく、響の向かい側の席へと腰を下ろした。
「ん?ビヨンさんじゃないか?もしかして響たちに何か用なのか?」
そう言ってオカマなそいつに声をかけたのはライオットだった。入って喧嘩が終わるまでは一緒だったのだが、その後、ギルドのみんなからお前らの連れてきたあの明らかにヤベー奴らはなんだと結構な時間尋問を受けていたのだ。さながら転入初日の転校生が如く。
「いや、逆逆。用があるのは俺らの方だ。ちゅーかお前らこの人と知り合いなのか?」
「知り合いも何も、冒険者の中では超有名人だぞ、ビヨンさんは。」
「やーね、そんなにおだてたって何も出ないわよ。」
「おだててなんかいないさ。情報屋って言ったらみんな一度は名前を聞いたことがあるぐらいだぞ?」
「そうなのか?パイフェン?」
「いえ、私はちょっと特殊でしたので・・・。」
「あー、そっか。悪いな。ちっと無神経だったわ。」
「いえ、気にしないでください。」
「・・・・・・」
元々冒険者だったパイフェンにそこんところを聞いてみたものの、背景が特殊な彼女にそんなことを聞くのは配慮がなかったと素直に謝る響と、それをあまり気にした様子もなく返すパイフェン。
そんな二人を眉間に皺を寄せて何か不満があるかのようにリコリスが見ていた。
で、彼女の様子に響も気がついたらしく声をかける。
「どうした?」
「・・・・・・、前から思ってたのですが、私とパイフェンさんの扱いの差がひどくありませんこと?」
「なんだお前、まさか妬いてんのか?可愛いやつだな。」
そん彼女の不満を聞いて、またもや煽るように響が面白おかしそうに言葉をかける。
「いや、あなたにそんな感情なんてこれっぽっちももちあわせてなんかいませんが、それでも流石にここまで扱いに差があると思うところがあると言いますか、なんか下に見られてる気がしてムカつくと言うか・・・。」
「あー、まぁいわんとしてることはわかるな。だからってそれを止めるきは全くないけどな。」
「はぁ・・・えぇ、どうせそんなことだろうと思いましたわ。」
ふざけて返されたのでまたくだらない言い争いが始まるかと思われたが、今回はとても真面目なトーンでの返しで、割と本気で不満に思っているようだ。きっと響の戯言にたいする呆れも入ってはいると思うが。
「ふふ、やっぱり面白いわね貴方達。遠目で色々と見ていたけれど、いい性格してるじゃない。」
「そうかい?そいつは光栄だね。気に入ってもらえたんなら情報屋としてちょいと頼まれて欲しいことがあるんだがいいか?もちろん相応の金は払うつもりだ。」
「あら、いいわよ。初めてだし、友好の意味も込めて結構お値段贔屓しちゃおうかしら。」
「おぉ、そいつは助かる。んじゃそう言うことでよろしくな、俺は霧村響。んで。」
「リコリス・メルセデスですわ。」
「フー・パイフェンと言います。挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。」
「あら、いいのよ私も名乗ってなかったんだもの。お互い様だわ。では改めて、私はビヨンカカ・ルーナダウナー。もっぱら情報関連で生計を立てている乙女よ。気軽にビヨンって呼んでちょうだいな。」
そうして、互いに握手を交わす響とビヨン。しっかりと友好の証を交わした後に、本題へと移るかに思われたが、少々違う話題が先に顔を出した。
「にしても珍しいわね。日出国の人がこんなところに来るだなんて。あそこもここと同じで自由国だから、わざわざ帝国になんかこないと思うんだけど?」
「(日出国?字面から察するにこっちの日本的な何かか?俺の名前からそう結論づけたなら、その可能性は高いな。だとするなら、ここは話に乗った方が怪しまれないだろうし得策だろう。)あぁ、そうなんだよ遥々極東の地からな。理由とかは話すと長くなるから遠慮させてくれ。」
「あらそう、残念ね。色々と興味深かったのに。」
本当に残念そうな顔をしながら、ビヨンはその話題を切り上げる。そしてそのまま今度はリコリスの方を向いて、少しばかり真剣な顔と口調で始める。
「それで、よ。貴女、随分興味深い名前をしていた気がしたのだけれど、私の勘違いじゃないわよね。該当する名前に心当たりがあるのだけれど、詳しく聞かせてもらえないかしら。」
リコリスの体がビクッと震える。
なるほど、それもそうか。仮にも情報屋と名乗っているのだから、ビヨンがリコリスの、異眼の魔女の名前を知らないはずはない。そして、悲劇一辺倒の過去を持つ彼女があまりそれについて語りたがらないのはいつだったかにもわかっていたことであり、そのことにより故郷の村と同じく、この首都の人々から拒絶される恐れというのは消して小さくないはずだ。
そんな彼女の様子を見て、同じ苦しみを知るパイフェンとしては放っておくこともできず、しかし特段なにかをしてやれるわけでもない。結果とった行動は彼女の手を握ることであり、でもそれだけでも彼女の心はほんの少し落ち着くことができた。
そして、普段リコリスをいじり倒して言い争っている響ではあるが、それでも仲間である彼女がそんな状態であることは許容できないらしく、頭をポンポンと軽く叩いて載せ、目の前のオカマに強めの口調で言い放った。
「その話をすんなら人のいないところに移動してからにしようや。うちの姫さまが泣きそうじゃねーか。」




