一番の被害者は彼かもしれない。
白銀の閃光がヒュドラの脇腹へと突き刺さり、その巨体を揺らす。
そのままヒュドラの体は湖の中に倒れていき、体積ゆえの水しぶきを盛大に上げるに至った。
突然の出来事に、当のヒュドラも驚いているが、一番驚いているのは先ほどまでそのヒュドラと戦っていた冒険者たちであろう。その証拠に、何が起きたかわからず全員呆けた顔をしている。
「おー、大丈夫かあんたたち。取り合えず、もう大丈夫だと思うから安心していいぞ。」
その四人にむかって、手を挙げてそう言いながら近づく者がいる。無論響だ。その後ろにはリコリスもいる。
その声に我に返った四人だったが、いきなり出てきた奇妙な二人組にさらに頭のなかがこんがらがって、困惑を余計に強めていた。
「あ、あんたたちは・・・・・・?」
冒険者の一人、パーティーのリーダーと思しき戦士の男が近づいてきた響たち二人に向かって、聞いてきた。
響はその言葉におっ、と反応し、なにやら少しキメ顔をかまして答えを出す。
「あぁ、俺らか?俺らは通りすがりのただの旅人だ。覚えておけ。」
指をさしながらそのセリフを吐く響を見て、みなポカーンとしている。ただ、唯一リコリスだけがいつものように額に手をあちぇてあきれたようにため息をついていた。
「・・・・・・なんなんですのそれ。皆さんわけもわからずポカーンてしてますわよ。」
「くっそ。やっぱ通じないネタはやるもんじゃないな。まるで俺が頭のおかしいかわいそうな奴みたいになってるじゃないか。」
「そんなの元からじゃないですん?」
「あ゛?喧嘩売ってんだったら買うぞ地雷女。」
「はぁ?何粋がってますの頭の中お花畑の癖に。」
何気ない会話、場面であったっというのになぜこうも安々と険悪な雰囲気に変えてしまうのだろうかこの二人は。まぁ、なかがいいとも見えなくはないが、いきなり現れて、変な自己紹介をされ、わけもわからないまま言い合いをはじめ、今にも殴りかかろうとしている二人を見ている冒険者一行にはたまったもんじゃないし、余計に混乱するだけである。
「あ、あのす、すいません・・・・・・」
「あ?・・・・・・わりぃ、そういや、お前らがいたことをすっかり忘れてたわ。」
勇気を出した、メイジ風の女性の言葉により、なんとか無駄すぎる言い争いをやめて、当人たちに向き直る二人。
しかし、自分たちから助けに来たというのに、その存在を秒で忘れるとはいったいどういった神経の構造をしているのだろうか?
「まぁ、そんなに警戒しなくても大丈夫だぞ。別に怪しいもんじゃあない。さっき言った通り、たまたま通りがかった旅人だよ。あのデカブツは俺らの仲間がどうにかしとくから安心していいぞ。」
「だ、大丈夫なのか・・・・・・?あんな化物相手に一人だなんて。し、しかも女性だぞ!」
リーダーであろう戦士の男が、今まさしく湖の中のヒュドラと戦闘中のパイフェンの方へと目線を向けてそう言葉をこぼす。
確かに、パイフェンのような華奢な少女が、強大強力な多股の水蛇に張り合うなど常人には想像もつかないのだろう。実際は張り合うどころか一方的に景気良く蹴り飛ばして、殴り飛ばして、大きな水飛沫を作り上げているのだが・・・・・・
「・・・・・・え?」
心配して見やれば目に飛び込んできたのは理解不能なありえない光景。それに声を上げて、疑問を示すしたのは盗賊職であろう、小柄な女冒険者だった。
「あぁ、アイツは確かに真正面から戦うとかなり厄介だけど、ちゃんと攻略方法をわかっていれば結構あっけないぞ。」
「そ、そうなのか?」
最後の一人得ある盾役と思しきガタイのいい男が少々疑ったように効いてくるものの、そこは流石というべきかなんというべきか、巧みな話術と屁理屈で丸め込んでいき、それは無駄に様になっていた。
「と、とりあえず助けてくれてありがとう。俺はこのパーティーでリーダーをしているライオットだ、よろしく。それで、ほかの三人が魔法使いのフィーレ、盗賊のマイナ。ガードナーのルーカスだ。」
「おう、こりゃご丁寧にどうもっと。わざわざすまねぇな。俺はしがない旅人の響さんだ。んでそこのイタイ恰好しているのがリコリスで、いまヒュドラをぼっこぼこにしてるのが万能美少女のパイフェンさんだ。まぁ、適当に覚えておいてくれ。」
「なんでそう何度も喧嘩を売ってくるんですの?なんなんですの?」
またひと悶着置きそうだったが、響はリコリスの抗議の声を華麗にスルー。まるでなにも聞こえてないぜ散った風な態度をとりながら、ライオットたちのパーティーに、いくつか質問をなげかけた。
四人が、こいつらなんかやべぇなと思ったことは言うまでもないだろう。というか誰だってそう思うし、ぶっちゃけ派手なことをしなくても目立つし、かなり印象に残る。
「それで、だ。一体全体、あんたたちはどうしてこんなところで、ヒュドラなんつう珍妙なもんと対峙してたんだ?そこんとこ詳しく教えてくれ。」
「あぁ、それなんだが・・・・・・」
響の言葉を受けてリーダーであるライオットが口をひらいて事の発端を話し始めた。
まぁ、簡単に要約するとこういうことらしい。
もともと、ここにはギルドに掲示されていたクエストのために来ていたらしい。
そのクエストというのが、この湖に住み着いている化けガニを退治するというもので、すぐそばで延びている無駄に大きな甲殻類がその依頼にあったものらしい。
こいつ自体もそこそこ強い方ではあるのだがその強さというもが、ご自慢の外骨格による防御だよりなもので、魔法使いのいて、ある程度バランスの取れたライオットのパーティーであれば、しっかり作戦を練って挑めば苦戦するほどでもなく倒すことには成功した。
だが、悲劇の始まりはここからだった。
目的の化けガニも倒したことだし、その巨体を引きずりながらさっさと帰ろうとしたその矢先、突如として湖の底からつんざめく咆哮と飛び交う大粒の水飛沫とともに、あの九股首の大蛇が姿をあらわしたのだ。
そこからはさぁ大変。出てきて敵意むき出し、しかも何やらお怒りの様子のヒュドラさん。取り合えず出てきてしまったものはしょうがないと、再び券を構えて対峙する、ライオットたちであったが、その巨体から繰り出される攻撃と、切っても切っても無限に生えてくる首と、その首のコンビネーションによって死の淵へと立たされていた。
逃げられないことはないのだろうが、このまま此奴を放っておいて通行人や周囲に被害が出る可能性があるし、最悪、自分たちを追いかけてきて大災害になる可能性がないこともない。
ゆえに死を覚悟で戦っていたのだが、ちょうどそこに響たちの助け舟が入ったという。
「(あ~、なるほどね。親友の蟹さんを殺されたから怒って襲ってきたってわけか。まぁ、自業自得と言えなくもないが頼まれたクエストをこなしただけなわけだからそれも酷な話だよなぁ。めんどくせぇもう何でもいいや。どうせもう終わるし。)」
響は考えることを放棄した。どっちに非があるのかとか考えるのもめんどくさいし、アホらしいにもほどがあると思ったのだ。そもそもなんでであろうと、することは変わりない。
「本当にあんたたちが来てくれて助かったよ。あのままだと一体どうなっていたことか・・・・・・。感謝してもしきれないってのはこういうことなんだな。」
ライオットのそも言葉にほかのメンバーも うんうんとうなずき、各々感謝の言葉を口にする。
その言葉を受けて、響はまるでやめてくれというように手をひらひらと振り、会話を続けた。
「気にするな気にするな。俺らだってヒュドラの素材なんて、貴重なもんが果てに入るんだ。それに・・・・・・。」
一度、言葉を止め、グッドの手を作り、その親指で後ろをさしながら言葉を続ける。無論、話すときは相手の顔を見てだ。
「もうそろそろ終わるだろうしな。」
直後、耳が痛くなるほどの断末魔が響き渡り、水面に巨体打ち付けられる高い音とともに、湖の水があたり一帯に降りしきる。
そちらをみれば倒れピクリとも動かない水蛇と、こちらに向かって優雅に歩いてくる銀髪の少女の姿があった。
「響さん。終わりましたよ?」




