蛇も大きければ鳴くんです。
場所は帝国のとある森の道すがら。
四日かけてここまで来た響一行は首都までの旅路を歩んでいた。
「しっかし拍子抜けもいいところだったなぁ。国境の関門があそこまで雑とは。俺のいた世界だとどこの国もそこいらへんはうるさいぞ?こっちの世界じゃ難民とか不法入国とかないのか?」
「国境も間所も、領土をはっきりとさせるためだけのものです。資源や土地に規制はあれど人にそういった制限はありませんね。基本的に皆自由に行き来しています。軍隊でもやってこない限り通させないといったことはないですよ。」
二人が話しているのは帝国に入るときに通った間所のこと。
そこで元居た世界と同じとまではいかないものの、「ステータスを見せろ!!」的なテンプレ展開な身分証明の一つぐらいはあるもんだと思っていた響だったが、暇そうにあくびをしながら頬杖をついて監視している役人?の前を通るという拍子抜けたもので、それを思い出しての会話である。
さて、パイフェンが仲間に加わってから、こちらの世界の常識に疎い響の解説役が彼女の立ち位置となった。
リコリスもこちらの世界の住人なのではあるのだが、人生の大半を家の中で人形とともに過ごしていたので、響と一緒になってパイフェンの解説にへぇ~ボタンをおすような様である。
「ということは、貴方の世界ではそう言うのは厳しかったんですの?」
「まぁな。といっても俺のいた日本は周りを海で囲まれた島国だったし、俺自身国外に行ったことないからそこまで詳しくは知らんがな。テレビの特番とかネットのニュース記事で見た程度だし。」
「テレビやネットがなんだかはわかりませんがおおむねわかりましたわ。随分とめんどくさいところなんですのね。」
「まぁここよりも文明がすすんでるからな。色々と気にしなきゃいけないものがあんだよ。こっちじゃ魔法があるからいくら厳しく取り締まっても無駄だろうけど、俺の世界じゃ表向き存在しないから何か事起こすにもブツがひつようだし、そうなると検査やらなんやらで未然に防げるからな。」
人を殺すにもテロやらを起こすにしても、元の世界では、銃や刃物、毒物といった凶器の類は必要となるし、形のあるそれらであれば探せば見つけられるが、魔法のあるこちらでは、どこでも好きな時に何もないところから魔法を出せるし、刀剣の類も一般普及しているせいで、検査だけで防ごうとするのは無駄な労力といっていいだろう。
「魔法がない世界というのはあまりイメージが付きませんね。しかもそれで文明レベルが高いというのも驚きです。」
「まぁ、その代わりに科学を発展させまくってるんだよ。ないならないなりに足掻いてるってわけ。まぁ、ほんとに魔法がないかどうかはわからんけどさ。」
「?」
「さっきも言った通り、表向きはないってことにはなってるが、俺達一般人が知らないところでは存在してるかもしれないってことだよ。日本も昔は陰陽師が大活躍していた時代もあったわけだし、すっかり科学の発達した今の世界でも超常現象やオカルトの話題が絶えないんだ。魔法があったって何らおかしくはないだろうよ。」
「はぁ・・・・・・でもなぜ隠す必要が?科学と合わせてつかえばいいと思うのですが?」
「俗にいう神秘の秘匿や奇跡の秘匿ってやつじゃね?知らんけど。ほれ、どっちも確実に民衆を惑わすような代物だし宗教的にも政治的にも隠しておいた方が治めるには都合がいいんだよ多分。」
まぁ、俺が勝手にそう思ってるだけだけどな、と肩をすくめながら付け足し、もうこの話は終わりとでも言うように手を振って足を速める響と、それを追いかける少女二人。
それから幾分か歩いたものの、歩けど歩けど横は木々の塊で変わり映えのない景色。
人道だからだろうかモンスタの一匹も出るわけでもなく、本格的に暇だなーと思っていたちょうどその時、
「クゥアァァァァァァァァァァ!!!」
辺り一帯に響き渡る甲高い嘯き。
その音に鳥たちはいっせいに飛び立ち、抜け落ちた羽がひらひらと舞っている。
「おいおい、いったい何の騒ぎですか?そこいらのモンスターが出すようなでかさじゃないぞ。」
「この大きさとなると、竜や巨人といった巨大種で間違いないと思いますね。サーチを頼めますか?」
「あいよ。アナザー頼む。」
(承認。・・・・・・ここから少し、森に入ったところにある湖に複数の反応があります。一つある大きな反応が声の主で、他はそれの戦闘中の冒険者かと。さらに詳しい情報を探りますか?}
「いや、いい。デカブツは発見したがどうやら何人かの冒険者がそいつと戦闘中らしいな。場所は微妙に離れているらしい。」
二人に、アナザーからの情報を伝えて反応を待つ響。
ちなみに三人そろって、特に何もないような顔をしている。
さっきの咆哮でさえも、こいつらにとってはうるさいなぁ程度にしか思っていないのである。いまさら図体がでかいだけで焦るような玉じゃないのだ。
「どうしますの?助けに向かいます?」
「どうすっかなぁ。別にどっちでもいいんだが。」
「随分と冷めた対応ですのね。私の時はもっとあれでしたのに。」
「あれってなんだよあれって。まぁ、あんときゃ、状況が状況だったし、半分くらい俺の私情が入ってたからな。」
苦笑いしながら返す響の顔を見ながら、やっぱり何か隠しているなと思いつつも、いう気がないのであればそれでいいいと判断をくだした。
「まぁ、別段急ぎの予定があるわけでもないし、声の主の正体も気にならんこともないから、様子見くらいはいってみるか。助ける云々は確認してからでもいいだろ。後先考えず助けて変なこと起こしても困るし。それでいいか?」
「問題ありませんわ。」
「異論はありません。」
二人が問いに対して肯定を示したので、響はアナザーにその場所までの案内をさせながら森の中に入っていった。
♢
響たち一行が、戦場となっているであろう湖の近くまで来ると、そこには男女4人のパーティー思しき一団と、それに囲まれている巨大モンスターの姿があった。
大きさとしては十メートル前後といったところ。水蛇のよう見た目をしているがその首は9つに分かれており、その口から瘴気のようなものを漂わせている。
「まじか!!ヒュドラパイセンじゃないか!!あの、物語の序盤でボス的な立ち位置ででてきたり、噛ませ敵の切り札ででてくるあのヒュドラパイセンじゃないですか!!」
その模様を見て第一声を上げたのは興奮したように目を輝かせながら少し早口になってあのモンスターについて語りだす響だった。
「あのモンスターのことをご存じなのですか?あんなモンスターは初めて見るのですが?」
「なんだ、こっちじゃあんま認知されてないのか?もしやみんな猛毒でお陀仏になったり、普通に食われたりして情報を広める奴がいない的なあれか?まぁいいや。あいつは、ヒュドラ。俺たちの世界ではギリシャ神話のヘラクレスの英雄譚に出てきた怪物で、彼の第二の試練の標的だな。姿かたちは見たまんまあれ。その身体は強力な毒素を持っていて、そいつが寝た後を通っただけで死ぬぐらいだ。しかもあの一つ一つの首が強力な再生能力を持っていてしかも二本に増えるというおまけつき。ヘラクレスは傷口を焼きつぶすことによって攻略したが、真ん中の一本は不死身の首でな、切った瞬間に上から岩落として下敷きに敷いて倒したはずだ。」
神話の伝承をまんまに伝える響。二人もその話には興味深そうにい聞き入っている。
「見たところ毒はそこまでつよくなさそうだな。別段汚染されてるって感じでもなさそうだ・・・・・・おい、蟹さん死んでんじゃねーか。」
響の目に雨入ってきたのは冒険者パーティーのうしろで、仰向けになりながら泡を吹いている一匹の巨大な甲殻類だった。
これはヒュドラの伝承に出てくる親友の蟹で、彼(?)を助けようとヘラクレスに攻撃しようとしてぺしゃんこに踏みつぶされて瞬殺されたかわいそうなお友達だ。
「なんで微妙に神話に忠実なんだよ・・・・・・。まぁとりあえずアイツ倒しておくか。売ったら金になり壮大、せっかくのヒュドラパイセンだしな。」
「それはいいですけど、どうやって倒しますの?再生するんですのよね?そのヘラ何とかみたいに焼くんですの?」
「そこだよなぁ。創作物だと大体超火力で跡形もなく消し飛ばすのがセオリーなんだが、この状況じゃぁ出来ないし。」
「確かに、冒険者の方々を巻き込んでしまう可能性もありますもんね。」
「いや、ぶっちゃけそこはいいし、巻き込まなくても全然できる。」
サラッととんでもないことを言いながらパイフェンの言葉を否定して、少し考えだし、数秒もしないうちに頭の上に電球を浮かばせる響。
「ひらめいた。」
「通報しますわ。」
「なぜに!?」
「だって、あなたの考えることって大体ろくなことがないんですもの。鬼畜の所業そのものですわ。」
今までの言動から、どうせ今回も非人道的なやり方をするんだろうと攻めるリコリス。
だが、どうやら今回は違うらしく、誠にい遺憾であるとでもいうような表情で、響はその作戦を口にする。
「心外にもほどがあるわ。・・・・・・別にとっぴおしもないことをしようってわけじゃねぇよ。ちょいとひねってかんがえるだけだ。首が復活するなら別にそっち狙わないで胴体攻撃すればいいんじゃねってはなしだよ。どうゆう体の構造してんのかはわからんけど、心臓だって体の方にあるだろうし、復活する元の体がなきゃ、再生もしないだろうってな。」
「・・・・・・あなたにしてはえらくまともな作戦ですわね。」
「お前マジで俺をなんだと思ってんだよ。」
明らかに頭おかしいやつ発言してくるリコリスに対して、青筋を額に浮かべ名が少し食い気味になって返す響。
なんだか、最近の彼女は遠慮というものがまるでないように思える。それだけ、打ち解けてきたといえば聞こえがいいが、なめてかかっているようにさえも思える。
「お、落ち着いてください。とりあえず今はあのヒュドラをかたずけてしまいましょう。喧嘩はそのあとにやってください。」
このままではらちが明かないと思ったのか、二人の間に割って入って、どうどうとなだめ、今もたまに迷惑極まりない咆哮を上げるデカブツに対して指をさす。
取り合えず互いに舌打ちをしながら熱を下げてデカブツの方へと向き直る。
なんというか、パイフェンはこの先随分と苦労しそうだ。
「そうだな、とりあえずあの公害クソ蛇を黙らせるのが先だな。うるさいったらありゃしねぇ。」
「口悪。」
リコリスのつぶやきに怒りマークをふやす響であったものの、何とかこらえてパイフェンに対して声をかける。
「よし、パイフェン。取り合えず一人でやってみろ。今のお前なら問題ないだろうし、どれだけ強くなったか実感するにはもってこいだ。もちろん危なくなったら手は貸してやるから心配すんな。あ、ただ下手に派手な技や威力の高いのは使わないでくれよ。」
「はい、任せてください。」
白銀の戦士が、疾く出陣する。




