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万華鏡から覗く打ち上げ花火

あたりに漂う空気は重くおどろおどろしく、身体に突き刺すように痛い。

先ほどまでの陰湿な重さとは違い、極度の緊張感が張り詰めているようだ。


 その中で女----妲己は手に持った扇子で口元を隠しながら不敵な笑みで響たちに言葉を投げかけた。


 「ふむ、なぜここに単なる人の子がいると思えば成程、そこな二人。何やら面白い運命を持っておるな。」


 目線の先にいるのは響とリコリス。

 当の二人は言葉の表しているのが自分たちだとわかり、警戒レベルを上げて身構える。


 「どーいう意味だそりゃ?一人で疑問に思って一人で納得してんじゃねーよ。」


 「なんだ、気づかんのか?存外鈍い童よなぁ。ここは妾の張った結界の中。本来我が血族しかここに入ることはできん。主らが入ってこれたのはその奇怪な称号のおかげ問い言っておるのだ。」


 称号で、二人がともに持っているのは一つ、《リミットブレイカー》である。やはりこの称号は特別なものであったらしい。その効果はレアアイテムのドロップだけではなかったようだ。

 名からしてそれは強さの証明。当人の力を認めさせる証としては持って来いということだろう。


 響も納得はしたようで手を打ちなるほどといった風に緊張感のかけらもなくうなずいている。

 だがそれで、すべての疑問が解決されたわけもない。運よく、敵対するであろうそれは話の通じる相手。ゆえにまだ切っ先を交えていない今のうちに聞き出せることは聞き出すのが得策ということで、響は妲己相手に問いかける。


 「聞きたいことがある・・・・・・。」


 「ほぅ?なんだ、もうしてみぃ。弱者の望みをかなえるのも強者の務めよ。」


 「ッチ。むかつく女だ。デフォルトで人を見下してやがる。・・・まぁいい、今は取り合えず情報だ。まず一つ。なんでてめぇは生きてる。その二、てめぇの目的はなんだ?三つ、てめぇの戦った天の使いの情報をよこせや。」


 にらみつけるように口に出す響。本来人にものを聞く態度でもないのだが、聞かれた当人の妲己は気に留めることもなく優雅に答えた。


 「威勢のいいことよのぅ。まず一つ目だが、簡単じゃよ。そも、あの時死んでなかっただけのこと。さしもの妾も、瀕死の渋滞ではあったがこうして石となることで死ぬことはなかっただけ。まぁ回復にかなりの長い時間をかけてしまったがの。」


 つまりそれは自身の死を偽装し、長い年月の間天の目を欺いてきたことになる。おそらく名前が残っていなかったのは、隠れるのに名が残っていては不利だったからだろう。

 だとすれば、その隠行スキルは目を見張るものがある。


 「さて、次だったが、確か目的がどうこう言っていたな。とりあえずは完全に復活すること。とはいえ肉体はもうないからのう。しかし、やっと器として優秀な代に当たったわ。あと数年もすれば器として完璧になるだろうな。そのころになれば童も十全に力を取り戻す。最近はどうやら陰気が強くてな、回復が異様に早いのよ。」


 カラカラとさも愉快そうに笑う悪女。

 その物言い、自身の子孫を器としか見ないその思考、そのすべてが響にヘイトを貯めさせていった。額に青筋が浮かび始める。

 その様子をみて、おもしろいと顔をゆがませるように嗤いながら続ける妲己。


 「さて、三つ目じゃが・・・・・・ふむ、ただ教え続けるのも芸がない。そこな娘と交換と行こうか。なかなかに旨そうなにおいがする。」


 そういって妲己が指さしたのは響の隣。いまだハナコを抱き続けているリコリス。

 さて、その言葉に完全に堪忍袋の緒が切れた二人。まるでい殺さんばかりの眼力で睨みつけて言葉を吐く。


 「冗談じゃありませんわ!!私がはいそうですかとあなたに従うと思いまして?」


 「あぁ、リコリスの言う通りだ。寝言は寝て言えクソババア。しゃべんねぇなら叩きのめして聞き出すまでだ。」


 「あまり図に乗るなよクソガキ。」


 三人の殺気がぶつかり合う。


                 ♢


妲己の姿が縮み、成人女性のそれへと変わる。これが彼女の戦闘スタイルであろうが、まるで手加減してやるとでも言っている良いだった。

 「(マスター、アンクルをお外しください。相手は・・・・・・)」


 「(あぁ、わかってる。枷をつけて勝てるほど甘い相手じゃない。経験値とステータス上昇はもったいないが、背に腹は代えられない。死んだら元も子もないしな。)」


 アナザーに促されたように腕からアンクルを外してポケットに突っ込む。後、同じようにリコリスにも外すように声をかけ、戦闘態勢を立てる。


 「術式23~25、共に3項3つ重ねて展開後、リコリスにも同じものを。」


 「(承認。)」


 MPの消費を惜しむことなく今使用できるバフ魔法を自身とリコリスにかける。それだけ相手を警戒してるということ。さしもの響も歴史の悪党相手に手を抜くことはできないようだ。


 バフに使ったMPを回復するために回復薬を流し込み空になった瓶を放り投げる。


 瓶が地面に触れて割れる刹那、あたりに衝撃波が生まれ、響の姿が消える。

 否、その姿は妲己の懐へとあり、それは彼が超高速で移動したことであり、そのままいつの間にか抜刀していた長柄の刀で無造作に切りつけた。


 常人であればよけることも防ぐことも、そも認識できるかすら危うい一撃。致命傷となるべきその一閃であったがしかし、相手は悪業の化身が如きかの妲己。つまらないとでもいうように閉じた扇でそれを受け、響の鳩尾につま先で蹴りを入れる。それによる衝撃は先ほど響が起こしたそれよりはるかに大きく、対象の体の髄の芯まで震わせ、音速を優に超えるスピードで吹き飛ばす。


 飛ばされるままに響は地面へと落ちていき、大きなクレーターを形成。

 そこへ追い打ちをかけるように開いた扇子から幾重の衝撃波を放つ。

 衝撃波がたどり着く直前に響は横へと飛びのき難を得、低く構えたその体勢から刀を構えなおし一撃を放った。


 「神代の一線・桜花」


 放たれた一撃が真っ直ぐ妲己の元へと向かっていく。彼女はそれをまた得物の扇子で防ごうとするが、先ほどの一撃とは比べることもできないほどの威力と魔力が込められており、さすがの妲己であってもその一撃を扇子ごときでは防ぎきれない。


 響のはなったその一閃が妲己の左肩を貫く。しかしそのダメージは浅く、無傷とは言わないまでも血の一滴も滲むことはなかった。


 「ほぉ、妾にダメージを与えるとはどうやら口先だけじゃないようだの。これはなかなか・・・・・・」


 「あなたが相手しているのは彼一人だけじゃありませんわよ!!『悲しきメアリー』『怒れるジェリー』!!」


 彼女がセリフを言い終わるまでを待つことなく、いつの間にか妲己の背後へと回っていたリコリスが、二体の人形を向かわせた。獲物である裁ち鋏と出刃包丁がk妲己を襲う。そのスピードとパワーは以前とは比べられないほどに上がっており、第一撃はともに防がれるものの、鋏による第二撃は薄皮一枚であるが捉え、見事血を流させることに成功する。

 

 「まだまだいきますわよ!!」


 そこで終わるものかと追い打ちをかけるべく、左目の眼帯をはぎ取り、瞳の中の魔方陣を起動。

 行使された魔法は相手の背後にに現れ、幾重の紫電がほとばしり、肢体を貫く。

 さらに第二撃として青白い焔が彼女の全身に広がる。

 そこへ、風魔法を重ね掛けすることにより燃え盛る勢いは上がっていった。


 「チッ、こざかしい真似をしおって。」


 着物の袖を払い、己の体に張り付いた火を消しながら悪態をつく妲己。そのまま傷をつけた本人であるリコリスに反撃しようと、手のひらに黒い、魔力を圧縮した球体を作り出し、放とうとする。


 「だーからてめぇは一対一じゃなくて二対一で戦ってるってことを忘れてんじゃねぇぞ!!『神代の一

百線・梅花』!」


 刹那、背後まで飛び上がった響が、天ノ尾羽張を言葉とともに横なぎに払いきる。

 一拍置いたのち、数多の斬撃が妲己の背中を襲い、空に鮮血が飛び散った。

 また、彼女が行使していた魔法も途中で襲われたことにより暴走し、爆発する結果をとった。


 「す、凄い・・・・・・」


 遠くその様子を見ていたパイフェンの口からこぼれたのは驚愕の言葉だった。今まで見たことのなかったレベルの戦闘。おおよそ人知のそれを超えた一瞬一種が心を揺さぶる。

 人にこんな動きができるのか。こんな威力を出すことが可能なのか。あの二人はあんなに強かったのかと。


 「取り合えず、何とかなりそうですわね。」


 「あたりまえだボケ。何とかなってもらわなきゃ困るわ。」


 着地し、並んで立った二人が互いに声を交わす。響は刀を肩に乗せ、リコリスは二体の人形を胸元あたりの位置に侍らせて。


 「ッチ、図に乗るなよ、小童共が。貴様らごときが妾に勝とうなどと、戯言にも度がある!!」


 妲己の魔力が上がり、しゅういいったいが吹き飛ばされる。そのまま天に向けて扇子を掲げ、それを開く。先ほどまでとは違い、そ子には文字が知るyされており、赤黒く、表されたそれは『絶』という一文字だった。


 「くたばれ、童。」


 その声とと喪に振り下ろされる凶器。

 刹那、起こった爆撃は一帯を覆いつくし、爆風とともにすべてを吹き飛ばしていく。無論それは二人も例外ではなく、それぞれ別方向へと飛んでいった。


 飛ばされながらも、何とか体制を立て直そうとした響であったがしかし、飛ばされていく彼をさきまわりしていた妲己のかかとからの一撃で地面へと叩きつけられる。猛攻はそれだけでは飽き足らず、叩きつけられ、無防備な響の腹に強烈な拳が叩き込まれた。


「・・・・・・カハッ!」


 その一撃の重さからたまらず吐血する響。おそらく内臓のいくつかが潰されたのだろう。尋常ではないほどの激痛が身体を襲っているのはまず間違いない。


 さらに妲己は振り下ろした拳を軸に回転し、その頭を強く蹴り飛ばした。

 その勢いのままに響の体は飛んでいき、岩柱を三つ四つ貫いていく。


 弾丸のように飛ばされた響が止まったそこは少女の腕の中。

 同じく吹き飛ばされていたリコリスがここまで駆けつけて、受け止めてくれたようだ。


 「ほら、しっかりしてくださいまし!!」


 「あぁ、わるいな。助かった・・・・・・。」

 

 受け止めてくれた彼女に感謝を言いながら額の血をぬぐい、回復薬を口にする響。かなり質のいいものを服用したおかげか、体内部へのダメージも取り除くことができたようだ。

 とは言ったものの、ほんの数秒でこの怪我。いつまでも薬でごまかしながら戦うことはできないだろう。


 「ったく。こっちから与えるダメージは微々たるものなのに対して、こっちが受けるダメージは致命傷かそれに近いもの。全くもって釣り合ってねぇよ。ほんと。」


 「それだけの実力差。いったいどうしますの?おそらく正攻法じゃ叩けませんわよ?」


 「そいつを考えたいところだが、それをお相手さんが待ってくれるといいんだがねっと。」

 

 そう、話している間にも、弾幕攻撃が二人を襲う。

 漫画などでは、会話の間敵が待ってくれることはよくあるが、これは本物の殺し合い。さらに敵さんは、そんなことをしてくれるほどお優しい相手でもない。


 時に交わしたり時に刀でいなしたりしながら防いではいるものの、攻撃が飛んでくる頻度は高く、思考をまとめることすらままならない。それどころか、徐々に防ぎきれなくなってきており、額や四肢に小さな赤い線が増えていく。


 「クッソ。容赦ねぇなあ全く。少しは油断の一つでもしてくれや。」


 悪態をつきながらその場から飛びのき、魔法で障壁を張り、少しの猶予を作る響。


 (MPはもったいないがしょうがねぇ。取り合えずどうするか考えねぇと。)


 障壁を張ったことにより弾幕が意味をなくしたことを悟った妲己は、今までrの範囲攻撃から一点集中攻撃に変えることにしたらしく天に手を掲げる。その手中には漆喰を固めたように黒く光る一振りの長槍が形成させ始める。


 「その貧弱な壁で防げるものなら防いでみよ小僧、『黒雲の槍』」


 禍々しいオーラを放つ凶槍が、彼女の手から放たれる。

 周囲に極大の衝撃をまき散らしながら響めがけてくるそれは、まさしく必滅の一撃。驚異的なのはその一撃の破壊力だけでなくスピード。音速を超えた速度で落下するそれは認識したその時にはすでに自身の眼前にある。


 「しまっ・・・・!!」


 とっさの出来事にをひねらせて避けようとする響だったが、時すでに遅く避けきることはできなかった。とはいえ、運がよかったのか、はたまた障壁により一瞬であろうと到達が遅れたのだろうか、直撃は免れたようで、肩からの腕一本を使いものにならなくする程度で済んだようだ。

 

 「痛ッ!!なんだよさっきの槍。どんだけ馬鹿げた性能してやがる・・・・・・!!」


 まだつぶれていないほうの手で手持ちの中から最上級の回復薬を取り出し、己の口に流し込む。

 さすがに一番いいものなだけあって、壊れかけていた腕の傷もみるみるうちに消えていく。あくまでも表面上は。


 傷の引いた腕を動かし、手を握り開きして感覚を確かめる響だったが、どうやら動かすたびに痛みが走り、動きもだいぶ鈍くなっているようだ。


 (クソッ!!まともに動かねぇ・・・・・!!たった一撃でこれか・・・・・・まずいな、あまりにも実力差がありすぎる。)


 決して響たち二人が弱いのではない。何せ二人のステータスは、その上げ方はどうであれすでに人の持てる範疇を優に越しており、最強種族と名高い竜種程度赤子を倒すより簡単に仕留められるのだ。

 ただ、ただあまりにも敵が強すぎる。

 完全に次元が違うのだ。一撃が大地を割く。その速度に地形が変わる。魔力の膨大さゆえに存在するだけで、周囲の生き物は立つことすらままならない。


 まさしく不倶戴天の名を関するにふさわしい。世界をてきに回してなお強者として君臨するものの強さ。生半可なことでは傷つきはしない。


 (・・・・・・冗談じゃねぇ。これで今だ回復の身とか寝言は寝て言え馬鹿野郎め。全盛期とかどんだけバケモンなんだよ!!)


 そう、妲己はこれでも全盛期ではないのだ。過去の落日の傷を癒している途中であり、さらには数千年というブランクすらも抱えているのだ。


 きっと生きて帰るだけならばたやすいだろう。

 妲己の話からして今の彼女は自身が張った結界の中でしか形を保って入れないのだから、この結界内から脱出すればいいだけの話。

 とは言えそれも相当の難易度だろうが、今ここで彼女を倒すよりは遥かに容易いだろう。先も言った通り二人とて人外の境界に足を踏み込んだ者。全力で逃げに転ずれば、無事帰還は出来よう。


 だが、それでは意味がない。逃げるだけではいけない。ここで倒すと、あの女はここでたたくと決めたのだ。でなければなんの問題の解決にもならない。

 確かに一旦引いて、修行なりなんなりをこなしてから再戦をするというのも手だ。しかし、今の彼女に匹敵するにはおそらくながら相当の月日がいることになるだろう。

 それすなわち、妲己に対しても回復の時間を与えるということ。その回復スピードまではわからないものの、下手をすれば今よりももっと悪い状況になるかもしれない。回復スピードよりも二人の成長スピードが上回る可能性だってあるが、そんな不確定要素を抱えて飛び出るほど響は愚かではない。

 

 つまり、叩くなら今。逃げはよほどのことがない限りそのまま敗北に直結するということだ。


 (クソッタレ、天の使いってのはこんなバケモンをたった六人で片づけたのかよ・・・・・・!!明らかに今のままじゃいけない・・・・・・!!)


 その通り。このままではいけないのである。彼らの目的は妲己ごときの妥当ではなく、神殺しをなすこと。本来こんなところでグダグダと立ち止まっているべきではないのだ。


 響は自身の非力さを痛感する。奢っていた。人知を超えたステータスを手に入れ、神代の一振りを手に入れ、このまま簡単に神様殺してそのまま帰ってめでたしめでたしの大団円と行くと思っていた。

 だが、この様はなんだ。神ごときかその部下にすら負けた存在に殺されかけている。

 おのずと得物を握る力が強くなり、それが彼の焦りを窺わせる。

 

 (もっと強くならなきゃならねぇ・・・・・・。だけど、今は目の前のこいつだ。こいつを倒さなきゃ何も始まらねぇ。)


 そう緊張のひもを結び直し、再び相手を見据えた。

 相手は細かい傷こそあるものの、動行に深刻な疎外をもたらすような深手は何一つあらず、今の一撃をしのいだ響に多少の驚愕の色を浮かべるものの、先ほどまでとあいも変わらず優雅にたたずんでいる。

 

 まるで、お前ごときとるに足らんといったように。


 「驚いたな。あの一撃を受けて生きていようとは。いや、受け切ったと言っては虚となるか。」


 さもおかしそうに笑いながら、先の一撃を生き延びた響を称賛する妲己。そこにあるのは敬意の念ではなく嘲笑のそれだろう。まさしく相手を不快にさせる言葉だった。


 「てめぇに褒めてなんかもらいたくもねぇーよクソッタレっ。そもそも思ってもないこと口にするんじゃねぇ。」


 その悪態とともに刀を振るい相手に向かって斬撃をとばす響。無論ただの斬撃に彼女を傷つける力などなく、扇子の一払いで消滅してしまう。無論そんなことは響にもわかってはいる。そもこの一撃は殺傷のためのものではなく目くらましであり、次の一撃への布石。


 「消え・・・・・・上か!!」


 突如として自身の視界から消えた響に驚くものの、一瞬にしてその気配を察知し、自身の頭上にその姿を確認する妲己。

 だが、コンマ1秒遅かったらしく、響は今から放つ、その技の名を口にする。


 「『神代の万線ばんせん・桃花』」



 放たれた斬撃は数多に及ぶ。そのすべてが妲己の周りを球状に配置され、抜け出す一欠けらの隙もなく、包囲網と呼べるに相応しいものを作り上げた。


 「なんだ、この膜は?もしやこの程度で妾を封じた・・・・・・」


 「咲かせーーー天ノ尾羽張。」


 刹那、対象の周囲を浮遊していた斬撃のすべてが、一斉に牙をむき、妲己めがけて襲い掛かる。

 さて、それが一撃のみの斬撃ならば扇子や裾の払いでいなせただろう。それがいっぽうからの多数斬撃であれば躱すことも絶やすかっただろう。

 だがしかし、今襲い掛かってくるのは逃げ場のない包囲攻撃。

 避けようにも避ける場所などありはせず、得物や召し物でいなそうにも、数が多くさばききれない。


 当たらないなら、当たるようにするまでだ。


 そんな無茶苦茶な理論だが、確実にダメージを与え、有効打になりえた。

 何よりも自身の考えが通じたということに最大の意味がある。俺らはお前に通用するぞと。


 「く・・・・・・っ。人の子ごときがずに乗るなよっ・・・・・・!!」


 斬撃の嵐を払うため、気迫とともに魔力を爆発させて、周囲一帯のものを吹き飛ばす妲己。しかし、その死体を染める朱色は少なくなく、与えたダメージは確実にあると語っていた。


 「あら?あまりにも首元がお留守ですわよ?『仕留め包丁』」


 そう、声がする。その主は吹き飛ばされた場所からここまで追いつき、敵対する女の背後に立っている少女。妲己の首元へ、自身の従えている人形に刃をあてがわさせているリコリスのもの。


 即座に反応し、首を前へと反らしてその凶器から逃れようとするものの完全に躱すことはできず、その横なぎによって鮮血が宙へと舞い散った。


 「先度からうっとうしい小娘だ・・・・・・!!」


 切られた首筋を抑えながら、忌々しそうに言葉をこぼす妲己。その目線の先は日々位と合流し先ほどと同じくたたずむ少女。自身の首をやったリコリスに向けられていた。


 「ナイスだリコリス。しっかしお前背後に立つの好きな。」


 「あら?敵の死角に入るのは戦術としては定石ですわよ。それにしても随分と酷いやられようですわね。」


 「うっせ。んなこと俺が一番わかってるわ。取り合えず、こいつが終わったら修行の十や二十はしなきゃだめだな。ステータスも全然足りやしねぇ。」


 いつものように軽口を言い合う二人。普段通りのそのやり取りからか気を落ち着かせてもいるようで、この一連の流れが一種のルーティンになっているようだ。


 ただ、一ヵ所に集まったのはまずかった。ばらけていれば攻撃は片方にのみ向かうが、これではいっしょくたんに標的になってしまう。

 無論、そんな好機を妲己が見過ごすはずもなく。


 「クハハハハ!よかろう。この妾にここまで傷を負わせたことはほめてやろう。見事だ。だがーーーー」


 先ほどの一撃と同じく、天に手をかざす妲己。


 「さりとてきさまらが勝ち得る道理なぞ無いと知れ。」


 しかし、形成されゆく漆黒のそれは一つなどではなく、周囲の空を埋め尽くすほど数多。さすがに先ほどのものと同じとはいかず、太さ長さは三分の一といった程度であるし、放たれる雰囲気もかなり小さくはなっているものの、その数は数えることすらあたわず。


 「!!術式78、5つ重ねて展開!!」


 「(了承)」


 とっさに魔術障壁を5重に展開させる響。もうMPがどうのこうのなんていっている暇ではないということだ。


 「『黒雨の槍』」


 その名とともに、一斉に放たれる。

 宗寛ともいえるその景色はまっさしく黒き雨が降りしきるが如く。落ちた地面は見事にえぐれ、消えていく。

 響の障壁も、一つ二つ程度では砕けることはないが、落ち行くものは数多なりて、次第に罅を走らせ、外側の一枚から砕けていく。


 「っクソ!!アナザー、もう一度だ。5つ重ねて展開しろ!!」


 「(了解しました.)」

 

 張った障壁の三枚目が割れたところで、再度、張りなおすように名を出す響。

 

 さらにその障壁が崩れかかればまた張り直し、MPが減ればそれを回復薬を口に流し込むことで元に戻す。そうやってどうにかしのぎながら次の攻撃への作戦を練り始めた


 「(取り合えずこれを耐えきればかならず隙ができる。それまで何が何でも障壁を破らせちゃいけねぇ。最悪回復薬が底をつこうが仕方ない。おそらく勝機はそこにしかない。)」


 障壁が割れる。即座に新しいものを形成する。また割れる。作り直す。割れる。作り出し、回復薬を口にする。ただそれの繰り返し。


 「(ただ、隙ができるといっても一瞬。そこからさらに虚を突いて隙を大きくしなきゃならねぇ。大技はそのあとだ。)」


 繰り返すそれは悠久が如く。


 「(少なくともあの特殊魔法は使えねぇ。消費MPがばかにならないせいで重ねて使うこともできないし、もし仕留めそこなったらすっからかんでどうしようもなくなっちまう。そもそも詠唱が長すぎて作った隙が無駄になっちまうから困りもんだ。効率は多少下がるだろうが通常魔法でやるしかねぇな。しゃーねぇ、即席で大技考えねぇと。)」


 永久に続くかに思われた猛撃は次第に衰えていき、ついに終わりを告げる。

 

 周囲には猛撃の果てに砂煙が舞い上がり、あたり一寸先も見えない状況。


「響さん!!リコリスさん!!」


遠くで一人ついていけず見守っていたパイフェンがその惨状に悲鳴をあげる。

 対し妲己は姿は見こそ見えないものの、自身の攻撃で、二人がちりと消えたことを信じて疑わないようで、余裕しゃくしゃくの表情でたたずんでいた。


 「所詮は人の子。神敵たる妾とでは・・・・・・・!!!」


 その油断があだとなる。

 刹那、余裕を垂れていた彼女の顔に、光る何かが音速を超えて飛んでくる。

 それは異様に柄の長い特殊な刀。響の持つ天ノ尾羽張であった。

 

 (コヤツ、自身の得物を投げてきただとっ!!正気か!!い、いや、それよりもまさかあれを耐え抜いただとっ!!)


 とっさの出来事に驚愕をを隠せない妲己であったがそこはさすがというべき、しっかりと躱して、放たれた所を見やるが、明らかに顔に浮かぶは焦りと動揺。


「隙だらけだクソババア。術式1、2、3、72から83、91、92。134から177まで波状、さらにランダムに配置。展開。」


 「(承認。起動します。)」


  数多の魔方陣が幾何学模様を描くように展開されていく。大きく。美しく。瞬時に展開されるそれだが、さらにそこに合わさるように五つの球体が浮かび上がる。


 「全くですですわ。慢心のし過ぎは身を滅ぼしますわよ?」


 それは、響の攻撃に合わせてリコリスが発動した魔法の火種。合わせるための言葉など何一つとしてありはしなかったが、しっかりと思考を読み取って合わせてくるあたり、まさしく同じ荷を背負う二人の結びつきである。


 「 しまっ・・・・・・!!!!」


 「見移れ、『万華鏡』----」


 「『錦冠菊』、咲き乱れなさい----」


  あたりがまばゆい閃光に包まれる。

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