昔話
昔々、東にとてもとても栄えた一つの大国があったそうです。
その名は世界各地で恐れられるほどのものであり、事実戦でこの国に勝てた国家は何一つとしてありませんでした。
他国の民衆からは恐れられ、その行動一つ一つにおいてみな、緊張するほどのものであったほど。
まさしくその名を天下布武を世に知らしめていたそんな時代、とある田舎むらに一人の女性が現れたのででした。
それはまさしく容姿端麗、眉目秀麗。絶世の美女といってもなんら遜色ないものであり、歩けば男女問わずその視線を奪われていました。
さて、自身の国にそれほどの女がいるのです。時の皇帝がそれを放っておくはずもなく、その女を己が目の前に呼び出させました。一目見て、即決。なんと今まで自身の正室であった女をその場で打ち首にし、そのままその女を新しい正室にしたというからおどろきです。
皇帝はたいそうその女をかわいがったらしく、彼女のために今までの三倍はあろうという御殿を作り、豪華絢爛の装飾で飾られ梅の花が咲き誇る庭園を用意。彼女の願いは全て聞き入れ、望むものは何でも揃え与えたといいいます。
そのために使われた資金は莫大なもので、わずか一月で一年分の国家予算を食い散らかしたそうです。無論財政難となるのは必然で、国民にきつい税が課せられたのは言うまでもないでしょう。
また、最初は女の願いは些細でかわいらしいものでありましたが、時がたつにつれてだんだんとその要求はエスカレートしていき、狂気じみたものへと変わっていくのです。
しかしながら、国王はたとえそれがどんな無理難題であろうと、人道反した望みであろうと叶え、次第に国王本人すらもおかしくなっていきました。まるで彼女の狂気が国王を染めあげていくように。
つまり大国は順調に壊れていったのです。
有名な話をいくつかしましょう。
一つ
ある時、その女がは思いついたようにこういいました。人の死ぬところが見てみたいと。もちろん皇帝は女の願いをかなえます。最初は捉えていた罪人などを利用していたのですが次第に何の罪もない一般人が処刑されるようになっていきました。
それは一度や二度ではなく幾度も繰り返し行われ、果てには朝の日課として毎日一人づつ処刑されていたほどでした。
二つ
人死に見飽きた女は酒を飲みながら言いました。ただ殺すだけでなく、醜態や憎悪にまみれた殺しを肴にしようと。
すでに、幾人もの死を見届けていた皇帝は狂人と化しており、快く、いえ嬉々として聞き入れ、なんと二週間で殺し合わせるための施設や催しのすべてを用意させたといいます。
まず作られたのが人と人を殺し合わせる闘技場。
しかも殺し合わせるのは他人同士ではなく肉親や親友恋人、恩師など、殺し合いなど到底出来ないようなもの。それらの人皆の顔を隠し、殺し合わせ、相手が息絶えたところでその顔をあらわにさせるという、非道極まるものでした。
その催しで会場の床は真っ赤に染まり歩けば裾が赤く染まるほどあったといいます。
次に作られたのは日夜行荒れる命をベットにしたギャンブルじみたデスゲーム。
命がけの遊戯大会では、みな疑心暗鬼に陥っていきます。裏切り、略奪、仲間割れ。仲間と呼べるものはそこになく、互いに罵り合い、むらみ、憎しい会いました。人の黒い部分がすべてさらけ出されたのです。それを肴に笑って酒を飲む女と皇帝はまさしく狂人いえ、凶人といっても過言ではないでしょう。
また、彼女が求めたものは娯楽や見世物だけではありませんでした。
特にその食事に関しては人間なものではなく、胃の弱いものが聞けば吐き出すかもしれないほど。
最初に並んだのは殺された罪人の肉。それがいつしか生娘の生肉。酒は血で割って飲まれ、
つまみとして眼球が並べられることも。人皮膚を乾燥させあぶったものや生の睾丸なんてものもあったそうです。
そしてことの果てに女は乳飲み子の生き胆を所望しました。
これにより、国中から赤子が消えていき、拒む親はその場で殺され、ついには献上用の子を作るために何百人もの民が家畜のように使われたのです。
これですらまだほんの一部分だというから空恐ろしいことこの上ありません。
そんな狂気にこたえるように王宮は日を増すごとに豪華絢爛になっていき、同時に血の匂いも増していきます。
さて、そんな圧政、いや狂政を続けていては民が黙っているはずもなく、何度も革命ののろしは上がったものの、みな女の姿をひとたび見ればその狂気に飲まれ、女の扱う妖術になすすべなく倒れていくのでした。実は、強力な妖術使いであった女。その妖術で皇帝にとりいったという歴史学者もいます。
地獄絵図のような光景が続くこと5年。その狂った時代にみかね、ついに天から使いが現れたのでした。
現界したのは6人。その戦いは熾烈を極め、三日三晩にも及んだといいます。
その戦いは、使いの一人の刀が、女の心臓を貫いたことによって終止符が打たれました。
その一撃は確かに致命傷となり、同時にその大国の終わりを告げていたことは明白です。
しかしさすがは傾国の悪女。悪運強く命かながら、自身の子を抱きかかえ隣国の辺境の村外れへの逃亡に成功。自身は息を引き取るものの、子は村人に拾われることになりました。
さて、大国内では傾国の悪女として不倶戴天の存在でありましたが、他国では違っていました。なにせ、おそれ慄いてきた大国を崩壊にまで導いたのです。やっていことはどうであれ、他国では英雄のそれといっと同じ扱いをしていたこともあり、女がたどり着いた隣国も運よくそうであったため子供も殺されることもなかったのでした。
つまりその血筋は途絶えてないということであり何百、何千年もたった今も続いているということであり、その末代がこの私、フー・パイフェンなのです。
♢
いくら英雄とは言えども大国を滅ぼした悪女。その当時の国々ではどうであれ、その当時のすべての国が滅んだいまとなっては忌むべき存在であり、一般的にはみな嫌悪感を抱いています。
無論それは末代の私たちもおなじですが、しかし受け継いだ妖力を恐れてか、誰もが積極的な排除を行うことはしませんでした。ですが、その視線が恐怖と侮蔑のそれであることは火を見るより明らか。
故の無関心。そこにいないものとして、こちらにもかかわってくるなという具合です。もちろん生きていくうえで、買い物や仕事は必要であるものの、そのやり取りにすら言葉の一つもないそれは到底コミュニケーションと呼べるものではありませんでした。どうして私の代まで続いたのかが甚だ疑問でした。
こんな辺境の村だったからよかったものの、もし王都に私たち一族の存在が知られていれば村ごと根絶させられていたのは間違いないでしょう。なにせ一度神から排除対象されたものの末柄、あの狂信者どもが生かしておくはずもありません。それをかくまったはるか昔の村人の子孫も同類とみなされるのは必然といえるでしょう。
ゆえに彼らは無干渉を貫くのです。さわがなければ、王都の連中にばれることもありませんから。
別に今更先祖を恨む気もありませんし、誰ともつながりのない生活が寂しいわけでもありません。別に私が何を裏で言われようとかまいませんし、どんな寂しい人生でも生きていく覚悟はできています。
それでもとてもやさしかった母様と、こんな世の中でもそんな母様を選んでくれたとお様が悪とされるこの世界が、たまらなく憎くて、許せないのです。
♢
空もすっかり黒く染まり、今日の仕事をおえた私は、村のはずれの自宅で少し今日昨日の出来事を思い出していました。
「しかし、変わった人たちでしたね・・・」
そう言葉が漏れる。頭に浮かぶのはあの二人組。ゴスロリ一色の眼帯の少女と、少し、いやかなりかわった感性を持った黒髪の少年。
見ていれば、渡会がどのような扱いを受けているか借るであろうに、それがどうしたと声をかけて、あまつさえガイドを頼むのですから、驚くほかありませんでした。
正直に言いますと、とてもうれしかったのです。あんなふうに他人と一緒にいることだなんて、今の今までありませんでしたから。
親以外の誰かと会話が成立したことも、誰かから頼りにされたことも、誰かに笑いかけられたことも、誰かにものをもらったことも。
きっとこの先そんなことは二度と起こりえないでしょう。
だから、それをくれた二人に迷惑はかけられないし、彼らに侮蔑の視線がむけられることがあってはならない。
幸い彼らは明後日にはここを発つらしいので、明日が過ぎればその心配もなくなるでしょう。もっと言ってしまえば、明日の分のお金を返してそのまま彼らの前から消えればいいのっでしょうが、どうしても、どうしても初めて触れたあの心地よさをもう少し味わいたいと心がわがままを言うのです。
いつまでもじっとしていてはいけないと、一人でいるには広い家の中で、夕餉の支度をし始めます。
心地よい明日を少し待ち遠しく感じながら。




